ヤクを吸って、忘れ草をふかす   作:Cross Alcanna

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どうも、Cross Alcannaです。

新たな小説を執筆させて頂きました。
多くの作品を投稿しておりますが、この作品が一番モチベがある為、仮に投稿する事になる際は、主にこの作品になるかと思います。

ですが、投稿頻度はかなり遅くなる可能性があります。ご理解の程、宜しくお願い致します。

では、どうぞ。



煙に巻く虚

 

 

「ふぅ……ようやく落ち着いてきたかな」

 

 

ホシノのアレコレが終わって、私は脱力しきった様にしてシャーレの椅子にもたれ掛かる。本当、ここまで脱力したのは何時ぶりだろうか。考えるだけで気が遠くなるばかり。

 

まさか、"色彩"の干渉も無しに"恐怖(テラー)"が発現するとは、思ってもみなかった。

 

地下生活者にはお灸を据えてあるからいいとして。何がトリガーになるか、いよいよ分からない。"色彩"の脅威が去って一安心と思った矢先に、あの出来事。警戒心を解くのは、暫く先になりそうな気がする。

 

 

「……ゲマトリアって、何人いるんだろう」

 

 

純粋な、疑問。

 

私は、ゲマトリアは4人(フランシスは除くとして)だけだとばかり思っていた。しかし、ゲマトリアを辞めた地下生活者がいた訳で。

 

……そうなると、だ。

 

私の知らないだけで、まだまだゲマトリアはいるのでは無いかと。そう思っても、割と不思議じゃあない。寧ろ、ある種当然の疑問でもあるだろう。

 

ゲマトリアは私達と相反する思考や目的の持ち主である事から、警戒を緩める訳にはいかない奴らばかり。ゲマトリアが解散したとはいえ、いつ生徒が危機に瀕するか分からない以上、敵対意識が抜ける事はないだろう。

 

 

「先生、ちょっといい?」

 

 

「エイミ?珍しいね、ここに来るなんて。どうしたの?」

 

 

などと思考に耽っていると、シャーレに珍しい来客。

 

エイミだった。

 

ミレニアムサイエンススクールの1年生でありながら、中々明晰な頭脳を持っているとかなんとか。噂は時折聞いている。真相は、今のところ分からずじまい。

 

特異現象捜査部に所属していて、部長のヒマリにまぁまぁ振り回されている……らしい。

 

お気の毒に、とは思うものの。

 

捜査部を辞めない辺り、本気で嫌がっている訳でもないのだろう。そうだったなら、良いんだけど。

 

 

「部長から、先生を呼んで欲しいって言われた」

 

 

「ヒマリが?……何だろう?」

 

 

ヒマリからの呼び出し。しかも、エイミを介してときた。となると、個人的な呼び出しではない気がする。

 

……分からない。

 

ただ、イタズラとかそういう用事ではなさそうなのは分かるんだけど。

 

そんな思考を繰り返しながら、エイミの後を追う。

 

そんなこんなで辿り着いたのが、ミレニアム。……いや、当たり前か。そんな独り言を脳内で反響させながら、進む。

 

……なるほど、そういう事だったか。

 

 

「先生、お待ちしておりました。エイミ、ありがとうございます」

 

 

「やぁ、ヒマリ。ここに連れて来たって事は……」

 

 

「はい、()()()()()()()()()()()です」

 

 

合点がいった。エイミを使いに出す事と、態々この部屋に呼び出す事。そこから導かれる答えは、最早2つもないだろう。

 

デカグラマトン。特異現象捜査部が追っているモノの1つ。

 

デカグラマトンそのものは既にいなくなっているものの、ビナーやホドといった機械達はまだ活動している。現に、実際に動いて被害をもたらしている所を目撃もしている訳で。

 

未だに解決の目処がたちそうにないデカグラマトン。最近では、"マルクト"の目覚めが近いという。他学園の問題もありながら、その中でも優先度の高い問題だ。

 

……私の忙しさに目眩がしそうだが、何も言うまい。

 

 

「ほんの一瞬ではありましたが、ビナーやケセドに近しい反応を検知しました。これは調査するしかないと思いましたので」

 

 

「私を呼んだ、と」

 

 

「えぇ」

 

 

あれから、私もセフィロトの樹について、空いてる時間に調べてみた。けど、連邦生徒会にそれらしい資料はなかった。

 

リンちゃんにも聞いてみたはものの、良い結果は得られなかった。

 

……連邦生徒会はデカグラマトンについて、何も感じなかったのだろうか。"超人"なんて言われていた連邦生徒会長が何も行動に移さなかったのには、若干の違和感を感じるところだ。

 

それ以上に、そこまで手が回らなかったと。そう言われてしまえば、返す言葉もないのだが。

 

 

「どこでその反応があったの?」

 

 

「ゲヘナ郊外、ですね」

 

 

ゲヘナ。自由と混沌を体現したようなあの場所に、あんな巨大兵器を置いておくだけの施設が、果たしてあっただろうか。

 

そんな思考を透かすようにして、言葉を続けるのはエイミ。

 

 

「部長に言われて調べたけど、一箇所だけ。それらしいのがあったんだ」

 

 

その言葉を発して、エイミは近くの機器を弄りだす。

 

カタカタと、そんな無機質な音だけがこの部屋を支配している。

 

 

「ここ。見えづらいけど、森の中に隠れてる」

 

 

音が止んだかと思えば、続くようにエイミがプロジェクターを指しながら説明する。

 

ゲヘナ地区の中でも、特に人の出入りが無い区域。大木や背丈の高い草が茂っていて、いかに人の手が加わっていないのかが窺える。

 

その中にある、苔むした建物。その外見は、他のゲヘナの建造物と比べてもどこか違和感を感じる。何かがおかしいとかではなく、シンプルに見た目の感じが違うだけ。

 

幾ら郊外の奥にあるとはいえ、誰も見つけていないという事実には、少しばかり驚かされる。新たな開拓地を求めてる温泉開発部辺りが目を付けていても、おかしくないと思うんだけど。

 

 

「調査を、とは言いましたが……今回はあくまで偵察に留めておくのが吉かと考えてます」

 

 

「…そうだね。何があるか、分かってない訳だし」

 

 

今までであれば、何となく分かる要素があった。だからこそ、(場所によっては)多少の無理が通った訳で。

 

はて今回はというと、殆ど手付かずの未開の地に近しい。氷海のゲブラと、状況は近いだろう。

 

それに、今回はゲヘナに近い場所での調査。氷海の時のように、周りを気にせず戦闘ができる状況でもないだろう。

 

ヒナやマコトに事前に相談していたならいざ知らず、今回はそうはいかない。言動には、割と最善の注意を払うべき様に思う。

 

恐らく、ヒマリもエイミも分かっているんだろう。

 

でなければ、ヒマリは偵察で済ませるなんて言わないだろうし、エイミももう少し進言している事だろう。

 

 

「いざとなったら、ヒナ達に事情を話して協力してもらおう。場所的にも、もしかしたらそうせざるを得ないかもしれないからね」

 

 

「……そうですね。いざとなった時は、お願いします」

 

 

「もちろん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「稼働した形跡もない……」

 

 

「敵性反応も…なさそう?」

 

 

件の施設に着いて、鬼が出るか蛇が出るか。いざ入ってみたはいいものの、驚く程に何も無い。

 

内装が無いとか、そういう事ではなく。

 

()()()()()()。それこそ、伽藍堂という言葉が適切に思える程に。デカグラマトンの機械らしき反応があって尚、壊された敵の跡であるとか、争ったであろう形跡だとか。

 

あって当然と思っていたアレコレが、無い。無駄な労力を割かずに済むという思考は何処へやら。私を支配するのは、不安の1つ感情のみ。

 

 

「部長、本当に反応とか無いの?」

 

 

──機械では、測定出来ないですね。デカグラマトンの事です、神秘を弄って潜んでいる可能性も……

 

 

ヒマリですら、探知出来ない何か。そんなモノがいるとすれば、果たして調査だけで終われるのだろうか。

 

仮に、ヒマリが言った仮説が事実だったとして。それは間接的に、()()()()()()()()()()()()()()()()敵を相手取る事を意味する。

 

それだけは。その可能性だけは。今の私達にとって、1番避けたい。

 

 

──っ……探知に反応が出ました。

 

 

小さな一声。周りに雑音が響いていたら聞こえなかった位の、本当に僅かな声量。

 

 

「部長、数は?」

 

 

──1()()()()

 

 

『……っ!?』

 

 

1つ。それが何を意味するのか。おおよそ分かってしまうのが、嫌なところだ。

 

空前の灯火の生命体か、強い個体か。是非とも、前者であって欲しいものだが。

 

 

「……?この匂いは…」

 

 

不意に、エイミが呟く。

 

何かと思って香ってみると、確かに匂いがする。……嗅いだ事があるような、妙に親しみのある匂いな気がするが。

 

その匂いを辿ってみれば、辿り着いたのは1つの部屋。施設の最奥とまではいかないにしろ、それなりには深い所だ。そんな場所でこの匂いがするのは、やはり違和感を感じる。

 

その違和感のナゾは、その部屋を一見してすぐに分かった。

 

 

「フゥ〜…………ア?何だテメェら」

 

 

口の悪い誰か。その誰かは、口以外が黒い装甲で覆われていて、カイザーPMC兵を彷彿とさせる。

 

そんな誰かが吸っていた、煙草。それが、違和感と匂いの正体だった。

 

 

「アぁ〜……いや、態々言おうとしなくていい。何となく分かった」

 

 

私が何かを言いあぐねていると感じたのか、私の思考を止めるようにして、その誰かは言った。

 

それでも尚、煙草を吸うのは止めないみたいだ。

 

……個人的には、生徒に受動喫煙をさせてしまう形になるから、止めて欲しいとは思う。

 

 

「先生とやらだろ?アンタ。ちまたで有名なよォ」

 

 

……この場合の"巷で有名"には、果たしてどう反応するべきなのだろうか。どの方向性で有名なのか、或いは耳に入っているのか。

 

それによっては、私が凹むのだが。

 

 

「……貴方は、誰なのかな」

 

 

「テメェに名乗る名はねェ。……と言いたいところだが、まぁいい。数奇な縁だ、教えてやるさ」

 

 

随分と、回りくどい言い回しだな、と。素直に、そう感じる。およそ、子どもの口振りでは無いとも感じる。

 

強いて言うなら……キサキやセイアに似ている。語彙に精通しているのだろうか。

 

そう思ったのも束の間。

 

 

「俺ァ…そうさな、放浪者……いや、名前にしちゃあ変か。ホロウでいい。()()()()()()()の、な」

 

 

「っ!?ゲマトリア……」

 

 

そう思わず口に出してしまう私は、悪くないと思いたい。

 

()()()()()()()()()()。黒服は確か、そう言っていた。プレナパテスとの激戦から、ゲマトリアだった彼らからの接触も無かった。……地下生活者は、置いておくとして。

 

ゲマトリアという集団は、既にいなくなっていると踏んでいた。だからこそ、私の中に焦りが生まれていた。

 

"ゲマトリアは何人いるのか"。それがいよいよ、予想出来ないところにまで来ている事を暗に示しているといっても過言では無い。

 

 

「…ン?あァ、そう警戒してくれるな。今日はドンパチしてぇ気分じゃあねぇからよ」

 

 

敵意は無い。そういうホロウ。

 

……本当に信じていいものなのか。

 

横で銃口をホロウに向けているエイミに、銃口を下ろさせるべきなのか。正直、決めあぐねている。

 

 

「生徒に対する危険には敏感……何ともアンタらしい」

 

 

「その口振り、先生をある程度知ってるって事?」

 

 

今まで沈黙を貫いていたエイミが、一言。冷たく言い放つ。私もここまでの鋭さは、聞いた事がなかった。

 

ただ、対面の彼はそれに屈するどころか、余裕綽々と言わんばかりの表情で、飄々と言葉を続ける。

 

 

「知ってるサ。それはもう……な?」

 

 

背筋が、震えた。妙に嫌な感覚に、襲われた。

 

ゲマトリアの情報網の大きさは、これでもかという程に痛感している。普通のルートでは知り得る為に相当の労力を要する事だって、ゲマトリアの連中はいつの間にか掴んでいる。

 

そんな事が、1度や2度では終わらなかったと、記憶している。

 

プレナパテスとシロコがこの世界に来た時だって、黒服の提言がなかったらどうなっていた事か。時間1秒が惜しい中であれだけ早くに解決に向けて乗り出せたのは、間違いなく黒服のお陰……でもある事だろう。

 

ゲマトリアに救われた、なんて考えたくない気持ちは山々だけど。

 

 

「心当たりがあるようだ。説明の手間が省けて結構」

 

 

「……どうして、こんな所に」

 

 

素朴な疑問を、投げる。

 

タバコをふかす彼(?)は、こんな寂れた廃施設に何を目的として訪れたのか。敵にしろ味方にしろ、その不可解な行動の動機を知りたくない、なんて事にはならなかった。

 

 

「正面切って聞いてくるかァ……相変わらずだナぁ」

 

 

「……相変わらず?」

 

 

妙に、引っかかる言い回し。

 

 

「……いンや、単純さ。キヴォトスはよォ、静かな場所がないからな。静かな場所で一服したかったダけさ」

 

 

そう答えながら、彼は灰を床に落とす。

 

捨てれば目立つであろうその灰は、何処と無く錆れた床に溶け込んでいるように感じた。

 

同時に、思った。

 

──()()、と。

 

 

「─そろそろ終いだ。なァに、またどっかで会う事だろうよ」

 

 

「!待て!!」

 

 

逃すまいと、手を伸ばす。その結果掴めたのは、空気という名の無。虚しく伸びた手が、宛もなく、行き場を探している様に見えて。

 

その場に、彼の姿はもう無かった。

 

残っていたのは、私とエイミと、微かな灰だけだった。

 

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