ヤクを吸って、忘れ草をふかす 作:Cross Alcanna
「…………来ましたか」
「ンぁ?随分早イな」
その言葉ノ真意がドンなものであルカは、最早聞くマデモないだロウ。
……コイツがどんナ原理でソレを把握していルのカについては、知る由もなさソうダが。
「どウスるよ?」
「出来れば退けたい所です。今ここまで来られると、今までの事が水の泡になってしまいます故」
……とはイえ、当の本人は外に出てイケる雰囲気は真っサらないようダガ。
…………いんヤ、単純な話カ。
「俺がいけバいいカ?」
「貴方様直々に、迎撃頂けるのですか?」
「つッても、マトモに動けナイだろ。だっタラ俺がいく他ネェだろうに」
分かってテ言っテるのか否か、割ト絶妙なラインだが。表情カら見るに、今回は本心カラの言葉なンだろうケド。
とはイエ、俺も久々の戦闘ダ。戦闘中に感覚を取リ戻す必要がアりそうだ。
「大変恐縮です。……撃退で問題ありませんので」
「ダナ。ここで変に消耗スる必要もねェだろうシな」
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「……ミカさん」
「…………うん」
あれから、翌日。
私達は、トラピスト聖学園地区の再調査に来ていた。今回は、ミネさんとサクラコさんに加えて、先生とミレニアムの方を連れて。
「『
…………それは、さて置き。
「……
「うん、この前よりずっと増えてるね」
前回より、明らかに増えている。気がする、とかではなく、明らかに。
前は、調査をしているオマケでいたくらいの遭遇率だった。"頑張れば割と避けて過ごせる"レベルだったのが、それが今では、避けては通れない程にまで人数が増えている。敢えて言うなら、"避ける方が億劫になるレベル"とでも言えば良いか。
「以前は、これよりも少なかったんですか?」
「はい。精々、今の3分の1くらいだったかと」
「……そこまで増えている、んですね」
神妙な面持ちを抱きながら、サクラコさんがそう呟く。
言葉は大それた音量でないのに、妙に私の不安を貫く勢いを備えていて。
「……気を付けて下さい」
静寂を破る、緊張を孕んだ声が一つ。
その主は、ヒマリだった。
「…有り得ない信号が、検知されました」
「……有り得ない…信号?」
全知と自ら名乗りを上げる事もあり、数知れない知識を備えている彼女が、有り得ないと断言する。それは、本来起こり得る筈のない事が起こっていると言っている様なもの。
それが、どれだけの影響を齎しかねないかは、痛い程理解している…つもりだ。
……とどのつまり、だ。
「具体的に、何かは分かる?」
──その必要ハ、無いト思うゼ?
『…ッ!?』
聞き覚えのある声。ただ、ここで聞くとは思っていなかった声の主。
「久しブりダな、先生?」
──ホロウ。
それが、彼の名だっただろうか。
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「元気にしテタか?随分滅入っタ顔してルじゃねェか」
「……おかげさまでね」
「オレのせいダって言いテぇのカ?冗談も程々にシてくレヨ」
……何で、ここにいる?ここを根城にでもしていたのか?それとも、アレを倒しにでもきたのか?
…いや、その線はないか。
「…………何故、ですか」
「あァ?」
ヒマリが、静かに口を開く。
とても重たそうに、唇を震わせながら。
「何故、あなたから…………」
──
──は?
…………え?
今の私は、一体どんな表情をしてるだろうか。
いや、有り得るものか。あの区域にしかいない筈のイェソド。その信号の発信元が、ホロウからときた。
そんな訳……と、一蹴したかった。
ヒマリの険しげな表情と、ホロウの怪しげな笑みが、その事実をおよそ確定事項へと変化させていく。
「そうイう事じゃネぇのか?全知とか言われテるそノ頭ナラ、分かるダろ?」
「そうだとして!何故、イェソドは生きているんです!?」
「アレと同盟組んでル訳じゃねェし、その辺ハ知らん。どうせ複製でモしてんだろ、知らんけド」
口調を荒げて言葉を紡ぐヒマリとは対照に、あっけらかんと言い放つホロウ。
……それにしても。アイツの口調、随分と片言だな。
確か最初に会ってからずっとあんな感じだった気がする。国外の人の片言具合……とは、また違う気がする。何だろうな……。
あ、アレだ。
イェソドを取り込んで、身体が機械に近くなっているのだろうか。
─瞬間。この空間の雰囲気が一変する。
「…マ、それはイい。こっかラ出ていカナいってンなら………」
──実力行使…だなァ?
その殺意に、私の脚は竦みきっていた。
──────────
「ゲマトリアって、ここまで戦闘力高いっけ……ッ!」
「それハ黒服とかゴルコンダとかノ話だロ?ベアトリーチェとかいるジャねぇか」
それはそうなのだが。
前線をミカとミネに貼ってもらいながらエイミとサクラコに援護を頼み、ヒマリとナギサには後方支援をお願いしている。
戦力としては申し分ない……、いや、なんなら過剰な程ではある………筈なのだが。
「6対1でここまデ苦戦スルってなぁ……その腕、鈍ってンじゃねェのか?」
「そっちがおかしいだけで……しょ!!」
普段そこまで顔色を変えないエイミも、この場では思いっきり顔を顰めている。
それに加えて、ここにいた例の生命体。極めつけには、ホロウ本人。それが同時に襲ってくるわけだ。戦っている当人たちの顔が苦しいものになるのは、至極当然ともいえるだろう。
……デカグラマトンの眷属、とは厳密には違うらしい。これはヒマリ談だが。
統率力や知能が高すぎる上、あの生命体とも連携を取る事から、デカグラマトンの眷属というよりは…ホロウの眷属といった方が近いらしい。
確かに、デカグラマトンの眷属たちは他生命と共闘しているイメージは無かったな。
「そラ、そっちバっかりに気をトられテ大丈夫か?」
「ッ!」
前線で攻撃を受け切ろうとしても、彼に翻弄されてしまうミネ。他の生徒が殲滅にあたっている中で、四方から来る攻撃を1人で捌ききるのは、無茶ともいえる。
……撤退すべきだろうか。生徒達も、かなり疲弊している。
戦局を分析しているナギサも、中々苦しい表情をしている。
……ここが退き時、かな。
「皆!ここは撤退するよ!無理はしないで!!」
「……退き時は見極めラレるんだな、随分と冷静ナこった」
相手に聞かれないよう、ヒマリとナギサには撤退の手助けをしてもらうよう伝える。
それが功を奏してか、激戦区から難なく離れる事に成功した。
……次は、本格的に戦力を増員しないといけなさそうだ。
──────────
「終わっタゾ」
「感謝します。おかげさまで、何とかなりそうです」
あれから少シ経ち、オレは教会ニ戻っテイた。
アイツらが去ッテいくノを見送っテから戻ったが、随分とアっけナい戦いダッタ。
「アンタの仮説通りダったな、アレ」
「やはり、我々には敵対しない存在なのでしょう」
「それナラ別にいいんダガな。ダガ、いつ敵対するカモ分からねぇ。慢心はデキねぇな」
違いありません、と。飄々とそう言うコイツは、今も変わらず輝きを放つ杯に神秘と恐怖を注いでいる。
それが何を齎すカなんて、俺にハ終ぞ分からネェ。……が、あまりイイ気はしなイな。
「……いつ頃終わリそうダ?」
「早くて1日半……でしょうか」
結構かカルんだな、とは言わなかった。
何とナく神秘と恐怖の流れガ見えてイるんだが、まァ疾い。かなり無理しテいるノガ分かる。だかラ、何も言うまい。
「…………結局ヨォ、何がしてェんだ?」
「……貴方様の、本能に聞くのが早いかと」
「本能ゥ?なァんでまたそんな遠回しな言い方ヲ……」
「……無いのでしょう?
……まァ、そうだが。
インや、厳密に言うト少し違ウんだガ。訂正スる必要もナイだろう。
「……フゥ」
「一服、ですか」
「最近は忙しかった……気がスるからナ」
「…………」
思い耽ってイル俺を背に、憐憫の目を向けているヤツがいた事は。
俺は終ぞ、知ることは無かった。