ヤクを吸って、忘れ草をふかす 作:Cross Alcanna
「………?」
護衛は要らなイと、ソウ言われたカら外をふらツイている。
そんな時に、俺のナカデある考えが過ギる。
──頭ん中に、靄がかかっている。
俺はどうして■の■■に■たのか。
そも■■、■■■う■■て■■てき■■か。
何度問うテも、返ってコナい。
「………………ふゥ」
息を漏ラす。自分の中ノ煮凝りを、すっと出スヨうにして。
しかし、だがシかし。
残るのは、
こうなってしまうと。
タバコを吸うのも気怠ク感じてくる。普段はあレだけふかしてイるのにも、関ワラず。
「なァんか、オカシイんだヨなァ」
虚無に問う。
私ハ、何なのか。自分の身体デありナがラ、何も分からナい。
最も近くテ、最も遠い。
強イて言い表スのナラば、これクラいか。
「……何か、大事ナ事ヲ忘れテる気が…すルンだよな」
直感は言う。"ソレを見落としてはいけない"と。
けれド。
俺ニは分からない。ソレが、何だッタかが。
俺にハ分かラナい。こんなに虚ろナ気分の正体が。
「……アンタなら…………」
──
────────────
「先生!!」
書類と格闘している最中、スマホから鳴った着信音。誰からかと見てみれば、それは意外な人物からだった。
何の気なしに、応答のボタンをタッチする。そして間もなく、かなり焦燥に満ちた声色が聞こえ始めた。
「ナ、ナギサ?どうしたの?」
「そ、そちらは変わりないですか!?」
そう言われたので、つい反射的に外を見やる。けれど、瞳に映る景色は平和一色だった。
「こっちは特に何もないけど…………ん?」
ふと、目線の中に映ったある地区の景色。ソレに違和感を覚え始めると、次の瞬間には焦りが私の中を支配していた。
「トリニティは大丈夫なの!?」
「いいえ。かなりの大混乱に陥っています」
電話越しに聞こえる、数々の悲鳴と思わしき声。その事実が、現在のトリニティの惨状を物語っていた。
無理もない。
──トリニティ周辺の空が、黒く染まっていた。
厳密に言うなら、トリニティとトラピスト聖学園跡地の周辺の空が、真っ暗になっている。
先日から昨日まで……なんなら今朝まで、あんな状態ではなかったはず。
……まさか。
「例の敵は!?」
「…トリニティ自治区に出現しています。正義実現委員会に撃退をしてもらっていますが……数が多くキリがないです」
恐れていた事が、起こってしまった。
あの時は、トラピスト聖学園跡地以外で出現した情報は無かった。昨日まで、そんな情報は耳にしていない。
油断した。
そうと分かれば、私の行動は1つしかない。
「今からそっちに向かうね!それまで耐えれる!?」
「努めます!……ですが……ッ!」
その一言で、大方理解した。次の瞬間には、身体が行動を始めていた。
「何とか耐えて!他の学園にも協力要請を出すから!」
「助かります……!」
その言葉を最後に、電話が切れる。
──行かねば。
──────────
「ナギサ!!」
「…!先生……!」
逼迫したトリニティに、希望の光が差す。
私が望んでいた声が、聞こえた。
「皆!アレの撃退を!!」
『了解!!』
一斉に、他学園の生徒が応戦を始める。
ある生徒はこの場で戦い、ある生徒は教会に行き、ある生徒は校舎の方へ。
彼女達が応戦に加わってから、敵を制圧する速度が上がった。あれだけ苦戦していた敵が、次々と薙ぎ倒れていく。
「先生、あの場所へ向かう必要があるかと」
私は、そう口にする。
ただ、この場を離れる訳にもいかない。十全に制圧できていない現状を見た上で、ここを後にして敵の本拠地に向かう事など、私には出来ない。
──そんな最中で。
「ナギサさん!先生!行って下さい!!」
この場にいたミネさんが、敵と戦いながらそう声を上げた。そのミネさんはと言うと、肩で息をしている程満身創痍。立つのもやっとではないかと思うくらいに、疲弊している。
前線に立って皆さんを守りながら、敵を薙ぎ払う。そんな彼女が、こんな長丁場の戦いの中で、一体どれだけの疲労を蓄積している事か。
「そんなに息も絶え絶えの状態で……!」
「だからこそです!!」
私の声に、更に大きな声量で言葉を返すミネさん。私の言葉を待つ事も無く、言葉は続いた。
「元凶を絶たなければ、これは終わらないでしょう!だからこそ、行って下さい!!」
……それは、そうだが。
理解は、している。けれど、理性がそれを許さない。
それを取るのは、彼女達を見捨てる事になるのだ。
横の先生も、きっと私と同じ表情を浮かべているのだろう。それだけは、分かってしまう。
「……行こう、ナギサ」
「…………先生?」
この場の沈黙を殺したのは、紛れもない先生だった。
「ミネ達を信じよう。誰かがあの場所に行かないと、間に合わなくなる」
「ですが!…………っ!」
その次を紡ごうとして、止める。
ふと視界の端に映った、先生の拳。それは、制御を忘れた指の力によって、紅を滲ませていた。
……先生も、同じ気持ちなのでしょう。
けれど。
時には、己の善性を殺さなければいけない。己の最たる信条も、時には捨てなければならない。
血の滲む先生の手からは、そんな悔恨の思いが伝わってきた。
「…………分かりました」
異を唱えたい気持ちを抑えながら、静かに答える。
それを聞いたであろうミネさんは、小さく頷いていた。
「さぁ、早く!」
その声を皮切りに、私達は駆けた。
──────────
「はぁ……はぁ……」
「もうすぐ…着くはず……!」
走った時間はそこまででもないのに、身体に募る疲労は桁違いだ。
横を走るナギサも、表情がどこか優れない。
着いてきてもらった他の生徒と、いつの間にか距離が空いてしまっている。
「見えてきました!」
先行していたミヤコから、そんな一言が聞こえた。
顔を上げ、前を見る。
「──え?」
見えた光景に、思わず声が漏れる。
横を見る。
ナギサも、同じような表情だった。
──……来タカ。
間違いであって欲しかった。
今遭遇したとして、勝てるかどうか分からなかったから。
「……ホロウ」
「…………」
……だが、少しの違和感。
前回相対した時は、もっと余裕がある様子だった。余裕のある雰囲気でこっちを揶揄いながら、そんな感じだったと思う。
そんな姿は見る影もなく。
纏っている雰囲気も、立ち姿も。かなり不安定な様に見える。敵でありながら、心配になる程に。
不気味で、儚げ。掴んでしまえば、バラバラと崩れてしまいそうな。そんな脆さを、目の前の彼は持っていた。
「…………ッ」
「これ以上は、厳しいですが。貴方様が少しでも正気を保てるよう、僅かではありますが……
そんな芸当が、出来るというのか。聞いた事もない。
「──フゥ。助かッた」
次第に彼は、活気を取り戻していく。覚束無かった佇まいも、いつの間にかなりを潜めている。代わりに伝わってくる、鋭利な殺意。
彼が纏う気も、私達に突きささんばかりの視線を浴びせる瞳も。そのどれもが、かつてない程に鋭い。
「──ナァ、先生とヤラ」
「…………何かな」
「──オレはヨ、機嫌が悪ィんダワ」
並々ならぬ怒気。まともにあてられている事もあり、気を緩めたら意識を手放してしまいそうだ。
「──お前らラ見テルと、嫌なモン思い出シソウなんダヨナ」
ポツリポツリと、重く、言葉が紡がれる。
噛み締めるように、強く訴えかけるように。
「──ダカラよ…………」
ゆっくりと、銃口を上げる。それは、確かに私を捉えている。
──ブッ殺しテやるヨ
何よりも静かで、何よりも重い宣戦布告が、この場に告げられた。