ヤクを吸って、忘れ草をふかす 作:Cross Alcanna
「……フゥ〜」
比較的穏やかな、広大な砂漠。キヴォトスでここまで広々とした、そして、音の少ない場所も中々に無い。目の前でビナーと戦う先生らさえいなければ、尚の事。
だが、止む無し。
キヴォトスでは、銃声やら爆破音やらが飛び交うのが平常運転。それらの音が無い方が、寧ろ異常とすら感じる者が大半な世界。
アニメやら漫画やらで見掛ける”平和な世界”と比べれば、いかにこの世界が狂っているかが、よォく分かる訳だ。
「…ケホッ。あァ……砂が入る感覚は、どうも変なものだ」
風の強い砂漠で煙草をふかすなら、当然こうはなる。分かってはいたが……イヤァ、ここまで不快な感覚だとは思わなんダ。
それに加え、それなりに騒がしい事もあり、凡そふかすのには快適じゃアない。
……しくったな。”好奇心は猫を殺す”とはどこかで聞いた話だが、正しく今の状態だナ。
我ながら、見通しが甘かったか。
「ビナー、ねェ」
面白い事に、倒しても倒しても死にきらない。そのタネとやらも、未だ分からずじまい。
ハッ、不思議なこった。
──見慣れない、方ですね?
「──ヘェ?」
聞く事もおよそ無いだろうと、そう腹を括っていた声の主。
何処ぞの神とやらに撃たれた、だとか聞いていたが。生きていたのカ。アレの襲撃に遭って無事でいるとは、何たる悪運の強さ。
だが、顔の形が原型を保てていない。まだ、万全ではない訳か。
……熱りも落ち着いたとはいえ、こんな無防備に外を彷徨くのはどうなんダ?また撃たれて、死ぬんじゃネェか?
「貴方のような人、私は見た事がありません。……何者なのです?」
「何者、ネェ。……アンタも分からないのか」
アンタでも分からないか。……いや、無理ないカ。
今の俺の格好は、人がモビルスーツか何かを装備したような見た目。それでいて口だけ出して、煙草をふかしている。
……うむ。こう考えると随分不審な格好だナ、俺。
とはいえ、黒服に不審がられる筋合いなんてない訳だが。
だって、黒いんだゼ?コイツ。黒褐色とかじゃあなく、文字通りの真っ黒。何なら、顔面に宇宙みてぇな光みたいなのもありやがる。
バカみてぇだと思うだロ?本当なんだな、コレが。
「というより、生きてたのか。てっきり、もう死んでたと思ってたンダがなァ?」
「死ぬと思いましたけどね。……それよりも」
「せっかちな奴ダな。ある程度なら、答えてやるサ」
本来なら、答えるつもりはなかった。が、何故かは知らないが、"まぁいいか"と思った。
……何でだろうな?
同情?共感?親近感?いや、違うな。
…イヤ。イイヤ。気にするだけ野暮か。
「何故、ゲマトリアを名乗っているのです?」
……ヲいおい。よりにもよってアンタがそれを聞いてくるのカイ?それはそれは大層想定外だ。
アンタ程の大人が、そこまで頭が回らないとはナ。
…インや、馬鹿にしてる訳じゃあないんだけどな。あれ程頭が切れる奴が、それ程難しくもない結論を導けないとは思わなんだ。
素直に、驚いている。こんな見てくれになってから、恐らく初めてだった様な気がするナ。
「俺が活動するのに、不自然じゃないからだナ。変な言い訳を考えるより、もとよりあったモンを活用する方が楽だしナ」
「……
おヨヨ、そこには気付くのな。
ま、突かれて痛い事でもないし、その疑問も想定内。初対面で突かれるとは思わなかっただけで、その質問が来るのも、時間の問題だと思ってたからナ。
特に、コイツは。
「無いな、全く」
「……であれば。貴方がどんな活動をしているかは存じ上げませんが、寧ろ悪手ではないので?」
「だろウナ」
コイツの言う事に、非合理は無い。至極真っ当に、正論。そこに疑いの余地はなく、俺だって理解している。認知だってしている。
しかし。しかし、だ。
ゲマトリアを名乗る理由に、たった1つだけ、欠かす事の出来ない要因があった。
「
「…………成程」
簡単な話さ。何も、難しい事じゃアない。
コイツらは、この
挙げればキリがない…………とはいかねぇが、この世界の住民から警戒されるにはおよそ十分過ぎる事をしてのけた。そんな怪しさ満点な肩書きの輩に警戒心を持たないヤツがいるだろうか?
──否。それは、即座に否定されるだろう。馬鹿でも解る問いだ。
それらから導き出される答えは、
何処から現れるかも分からない、ましてや何をしでかすかも分からない輩には、相応を警戒心を向けられて然るべき。それは、生物としての当然の本能でもある訳で。
俺がゲマトリアを被る理由。
要は、このゲス野郎共が積み上げた"手を出しづらい集団"という印象を利用しようとしたってこっタ。
実に簡潔で、実に合理的。子供とソレに執着している奴相手だからこそ成り立つ、大層変な
この点においては、このゲス野郎共には感謝しなくちゃあいけねぇ。
非常に、イケすかねぇガな。
──何を、してるのかな?
「…………んア?」
唐突に向けられる、冷ややかな敵意。やけにドスの効いた声。その声の主は、この世界では色々な方面で有名人だ。
俺だって知っている位には、ナ。
「小鳥遊 ホシノ、ねェ。初対面に銃口突き付けるとは、どんな教養を叩き込まれた事やら、なァ」
「怪しい輩に警戒するのは、ここじゃあ当然だと思うけど」
「ハッ!違いねェ!!」
正論。返す言葉もない程に、綺麗な正論。
それを叩きつけられて、思わず笑ってしまう。自分に銃口が向いている事も、忘れてしまうのではないかと思う位に。
小鳥遊 ホシノ。さっきまで
後の生徒は…………あァ、忘れちまったな。
かつて、黒服が膨大な神秘を持つコイツを利用しようと画策していた事もあった。近刻で言うなら、
いずれにせよ、何かと面倒事に巻き込まれがちという印象が、俺の中では強い奴。それでいて本人は強いときた。
タチが悪ィ。
「まァ、ゲマトリア相手にその警戒心は正解ダな。殊勝な事だ」
「ッ!まだいたのか……!」
「…………アァん?」
この反応を見るに。
コイツ、俺がゲマトリアだと知らなかったのか?先生とやらの警戒心からしてみれば、俺の事は生徒に周知させてると思ってたんだがな。
どんな意図で伝えてなかったのかは知らんが、ちと想定外。
……マ、だからといってどうする事もねェ訳だが。
「シロコちゃんからは、知ってるゲマトリアは仕留めたって聞いてたけど……まだ誰も知らないゲマトリアがいたなんてね」
「ほウ?その口振りからするに、ゴルコンダもマエストロも既にお亡くなりって感じか?」
「アンタに話す義理は……無いッ!!」
イヤに高鳴る、爆音。その音先は、俺に向けられた銃口から。
俺に向けて放たれた銃弾が、目にも止まらない速さで駆ける。それ以外の行き先を知らない、とでも言いたげな様子で。
それらは、全て。俺に被弾する。
俺の至る場所から吹き出る、紅い液体。
…………なんて、事はなく。
「危ねェ……俺以外のゲマトリアなら、今ので死んでたろうヨ」
「っ!あの至近距離を、どうやって……」
「さァな?その幼稚な頭で考えな?」
「…ッ、このッ!」
嗚呼。こんな安い挑発に引っ掛かるなんてな。だから、お前はまだ幼稚なんだヨ。
……なんて、そんな助言は喉の下に押し込んで。目の前で頑張って俺を殺そうとしてるヤツに向かって、そんな事を言うのは野暮ったいダロ?
"努力する子どもを笑うのは、大人として違うだろう"とは、誰かの言葉だ。そんな
等と抜かしているうちに、肩で息をし始める小鳥遊。対して俺は、ピンピンに直立。大して動いた訳でもねェしな、そらそうだ。
「諦めればどうよ?俺は別に、オメェをどうにかしたい訳じゃねェんだからよォ」
「…………胡散臭い」
「ひっでェこった。俺を何だと思ってんだ?」
…………何だと、思ってンだかな。ホント。