ヤクを吸って、忘れ草をふかす   作:Cross Alcanna

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白昼に沈む烏

 

「……ココは比較的、落ち着いてると思ったんだガなぁ」

 

 

某日。太陽が大方真上に昇ったであろう時刻。

 

俺が腰を下ろしていたのは、トリニティの近郊。近過ぎず、遠くもない様な、そんな場所。

 

果たして、近郊と呼んでいいものか。そんな疑問は、受け付けない。

 

(表面上)穏やかな体裁を(何とか)保っているトリニティ周辺であれば静かに煙草をふかせると思ったのだが、結果は見ての通り。

 

()()()()()()()()()。その一言に尽きる。

 

ゲヘナやミレニアムと比べると、争いや喧騒は少ないと思う。それでも、全く無い訳じゃアないし、まぁまぁウルセェ。

 

……そらそうか。そうでもなけりゃア、正義実現委員会とかいう、ゲヘナで言う風紀委員会みてぇなヤツらなんて要らねェしな。キヴォトスで平穏な場所を求める俺が、お門違いなのかもしれねェな。

 

天下のお嬢様学校ですらこの始末な事については、俺はあえて触れないでおくサ。突っ付くだけ野暮ってモンだろウ?

 

 

「ア、そういや。カタコンベはどの辺だったけナ?」

 

 

不意に、そんな些事が過ぎった。無責任な俺の頭の中の、本当に小さな区画の片隅に。それらしい記憶が、あった様な無かった様な。

 

イヤ、いい。すぐに思い出せねぇって事はヨ、大した事じゃなかったって訳だロ?だったら、ンな事に労力を割きたかネェ。俺の脳は疲れやすいんダ。今は休ませる時ってモンよ。

 

…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

”カタコンベ”。そして、それに関係する”アリウス”トリニティの中でも、特段上位の肩書きを持つヤツが知ってるワード。少なくとも、その辺の一生徒が知ってる様な言葉では無い。

 

それらが公になりかけていたのが、”エデン条約事件”だったカ。人によっちゃあ、記憶に新しい事件かもしれねぇナ。

 

ゲヘナとトリニティの、不可侵。それを取り決める為の条約。それを一般に、”エデン条約”と呼んだ。

 

それを取り決める会場が、一瞬にして火の海と化した。夥しい犠牲に及び、復興に相当の時間を要したとも聞く。

 

その事件の鍵となるのが、”アリウス”とかいう言葉。

 

何だそれは、というヤツに対してざっくばらんにまとめるなら。

 

 

──()()()()()()()()()()()()

 

 

トリニティには、幾つかの派閥がある。その中にかつて、”アリウス分派”とかだったか。そんな名前の派閥が()()()

 

俺も知らねぇが、多分派閥間紛争でもあったんだろう。

 

その末に、アリウス分派は追いやられた。それはもう、居場所を失う程の勢いで。

 

そんな中で、アリウス分派の残党が今の”アリウス地区”と呼ばれる場所にまで逃れるのに使われたとされる、地下迷宮の様な人工物。それが、”カタコンベ”って訳だ。

 

……つくづく、大人の真似事をしたものだと思うばかり。下らねェとまでは言わないにしろ、自分で自分の首を絞めていた事に、エデン条約事件に発展するまで分からなかった当事者達は、まだまだ青二才だとは思うが。

 

 

「……って、誰に語ってんだかナ」

 

 

等と、耽る。

 

歳のせいだろうか。大人になるとは、なんとまぁ夢も希望もない事か。

 

 

─Vanitas vanitatum, et omnia vanitas.

 

 

アリウス分校で教訓とされた、言葉(呪い)。その言葉に踊らされたアリウス生徒が、結果として地獄を呼んだ。

 

……ホント、言葉は恐ろしい。特定の羅列にするだけで、人を鼓舞する事も出来れば、人を殺す事も出来る。

 

ソレが弄られたであろうこの世界で、餓鬼がソレを振るう。怖いったらありゃシねぇ。下手したら、銃撃ちまくるよりずっとおぞましい話だ。

 

 

「道具と言葉は使いよう、ッテな」

 

 

誰に届かせるでもないそんな一言を、虚空に放つ。

 

何も無かったかの様に、辺りは時を駆けている。

 

これだから、トリニティは嫌いなんダ。俺らしくもない哀愁染みた事を、これでもかと考えさせられる。

 

 

「俺には、関係ネェはずなのにな」

 

 

ホント、狂ってるな。

 

 

「─何してるのかな〜?」

 

 

穏やかな、声。

 

俺は、その場から離れる。

 

勘は当たっていたらしく、俺が腰を下ろしていた場所には、抉れた地面が痛々しい姿で残っていた。

 

 

「聖園 ミカ、ねェ」

 

「せいか〜い!」

 

 

意気揚々と、何事も無かったかの様に話を続けるコイツは、聖園 ミカ。パテル分派……だったかナ?の長でありながら、"ティーパーティー"と呼ばれるトコロに所属している。

 

……なァんでそんなお嬢様が、こんなトコほっつき歩いてるンだか。自分に対する危機管理がなってネェんじゃねぇのか?

 

というのも、コイツ。件のエデン条約事件にて、一部騒動の共犯者でもあった。

 

それを受けて、周りから”魔女”だの”裏切り者”だの呼ばれる始末。果てには、物理的干渉を受けるとまできた。

 

最近は下火になったとは聞いたが、それでも何でここにいやがる。どうせ来るなら、正義実現委員会の誰かだろうに。

 

 

「何でこんなトコにいやがる?お前の側にいる堅物なダチが、黙ってネェだろう二」

 

「不審者に教える訳ないじゃんね☆」

 

 

それはごもっとも。珍しく、阿呆から正論が飛んできた。

 

……不審者、ねェ。

 

…………いんヤ、どうでもいい。それよりも先に、どうにかしねぇとイケねぇ事ができた。

 

 

「……ねぇ、何でナギちゃんの事知ってるのかな?」

 

 

らしくねぇ雰囲気出しやがって。

 

人ひとり、なんて表現が軽く思えるくらいの、圧。専ら、只の不審者に向けるソレじゃねェだろうに。その辺の大人なら、平気でチビりそうな気がするナ。

 

怖い怖い。

 

とはいえ、その疑念は真っ当か。

 

桐藤の事は他学園に知れ渡ってるとはいえ、聖園と仲が良いなどとは、精々トリニティの一部生徒くらいしか知らんだろう。

 

その証拠に、トリニティ以外でそんな噂を一度も耳にした事はない。それどころか、トリニティですらそんな噂が出回ったのは、エデン条約の時くらいだったっケか?

 

だとしても、そこまでピリつく理由には結びつかねェとは思うんだがな?大きな事件が起きてる訳でもあるまいしよォ。

 

 

「大人の情報網、ってヤツだ。お前が知る事になるのは、まだ先だろうヨ」

 

「……そういう事を聞いてる訳じゃ、ないんだけどね」

 

 

どうも、妙に引っかかる言い回しだ。聖園らしくない。いつの間にか、圧だって消えてやがる。……何だァ?こいつ。

 

 

「……な~んか、初めて会った気がしないなぁ…」

 

「はァ?何だ何だ、人を殴ろうとしたその次は、初めて会った気がしないだってェ?」

 

 

馬鹿言うんじゃねェ。たった今初対面だろうがよぉ?それも、さぞ衝撃的な。

 

コイツ、噂以上にクレイジーなんじゃねェか?ここまで話の通じる可笑しいヤツ、あんまし会った事…………

 

 

 

 

 

…………いんヤ、割とあったな。

 

 

「……何かムカついてきたから、とっ捕まえちゃうね☆」

 

「ハッ!とんだ傍迷惑だってェノ!!」

 

 

取り敢えず。

 

今は逃げる事に集中した方が、良さそうダナ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フゥ…………疲れたァ」

 

 

あれから幾つか時間は過ぎて。

 

俺は放棄されたであろう地区をぶらついていた。一応、あの奇天烈お転婆お嬢様を撒く事は出来たが、まぁ精神の磨り減ること。

 

少しの一服だけで、果たしてこの疲れが癒えるのかについては、少しばかり審議を要すると思うガ。

 

曇る景色に散らばる瓦礫の横で、それはそれは仄暗い煙を立てる。およそ身体に良くないであろう成分が、巡る。

 

……あァ、良い。この、俗世がどうでもよくなる様な感覚。

 

たまらない。あァ、良い。

 

 

「おや、ここにいたのですか」

 

「…………ンぁ?」

 

 

俺に語りかける声が、1つ。どうも、聞き慣れてない声だナ。

 

が、解る。

 

コイツぁ、きなくせぇ。その辺の汚い大人なんて、全くもって比にならない。

 

()()。ドス黒く穢れた、底の見えないだろう泥。あの(タチ)は、近くのヤツらを微睡ませて、ズルズルと沈める。

 

オレが知る限り、極上に値する位の野郎だ。コイツに比べた黒服なんて、さぞ可愛い事か。

 

 

「フム……もしや、先程まで此方にはいなかったでしょうか?」

 

「ア?ここに来たのは、今が初めてだガ?」

 

「…嗚呼!何たる失態を!どうか、御許しを!」

 

 

……おおぅ、何とも気味悪いな。

 

なんだァ?懇切丁寧な態度で接してくる、どうも宗教臭が抜けねぇ見てくれのソイツ。言動から姿から、ここまできな臭ぇのはそうそう出会えないナ。

 

…にしても、仰々しい。

 

格好だけ見れば、神官か教皇か。或いは、司祭か。

 

無名の司祭…………にしては、妙に生物らしさが目立つ。生々しい負の感情を感じずにはいられないソイツは、オレの知る無名の司祭とはかけ離れた印象だった。

 

 

「胡散臭いナ……ナニモンだ?」

 

「あぁ…どうかご安心下さい。私は、貴方様の味方にてございます」

 

 

信用できるかってノ。

 

吸殻ぶん投げたろか。

 

 

「貴方様に話とう事がございます。信用できないかもしれませぬが、どうか私の後についてきて頂ければと」

 

「万一、お前に騙された時のリスクがデカいと思うガ?」

 

「仰る通りです。が、そこにつきましては信じて頂く他、ありませぬ」

 

「…………」

 

 

……フム、そうきたか。

 

いや、いずれにせよ、その返答は妥当だな。

 

さて、どうしたものか。

 

俺の目線のコイツは、真っ黒。信用なんて、こっちからごめん被るくらいだが。

 

…………待てよ。逆についていくのも、アリなんじゃねぇか?

 

アイツの持ってる戦力が如何程かにもよるが、戦闘力に関してはこっちが上。こんな寂れた場所に、俺を仕留めきれるだけの戦力が備わってるようには感じねえ。気配だって、コイツ以外無い。

 

得られるモンは得ておくのが、得策にも思うがな。

 

仮に。万一にコイツがオレサイドの奴だったとして。この手の奴から得られる情報っていうのは、決まって重要だったりする。

 

…………リスクと対価。果たして、どっちをとるか。

 

 

「………………分かっタ。案内してくレ」

 

「!かしこまりました。では、こちらへ……」

 

 

さてさて、鬼が出るか蛇が出るか。

 

……予感が当たらなきゃ、良いんだがナ。

 

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