ヤクを吸って、忘れ草をふかす 作:Cross Alcanna
「…にしてモ、ホントに生気を感じねぇな」
「そうでしょう、そうでしょう。何せ、ここにいる生命は私と貴方様のみなのですから」
ホントかね。
コイツの一言一言全てが、疑わしい。こりゃあ、異世界の大悪党も顔を顰めるだろうヨ。
……とはいえ、その一言が嘘に思えない程、音が無い。強いてあるとするなら、ガラガラと瓦礫が崩れる音くらい。人の足音も話し声も、果てには銃声のひとつも聞こえやしない。
このキヴォトスで銃声が聞こえない場所なんてあったのかと、思わず驚いてしまう。
俺の知ってる世界観だと、”銃声がなれば非常事態”なんていう認識がおよそを占めていたような気がする。
ここはキヴォトスだというのに、まるで異世界に来たような感覚になる。不思議なこっタ。
「随分、古い建築ばっかだな」
ふと、考える。
辺りに転がるガラクタに目をやる。散らばっているのは、教会みたいな洋風建築の跡。それも、中世ヨーロッパに近しい建築。
近未来な世界観には、およそ合わないモノばかり。キヴォトスに存在していれば違和感しか感じないソレらが、一層不思議な感覚を呼び寄せる。
……いや、トリニティみてぇな学園がある以上、世界観に合わないって事はない…のか?それにしては、多過ぎる気もするんだが。
「トリニティ……とは、少し様が違うか?」
「えぇ、貴方様の仰る通りです。トリニティとは明確な違いがあるのですが、着いてからお話致しましょう」
後に説明するとの口約束。これに関しては、話そうが話さまいがどっちでもってヤツだ。知ったところで、精々豆知識程度だろうしナ。
……それにしても。
確かにこの地区には関わった事もないが、それにしたって見るも無惨な有様過ぎる。こんな状態になったんなら、何かしらのアクションや反応を、誰かが示してもおかしな話じゃアないんだがな。
大量の火薬を用いて粉塵爆発が行われたと言われても信じそうなこの始末で、音沙汰無くここまで成り果てたとは思い難い。
……まァ、オレが知覚する前に起きていた事だったなら、オレが知らねぇのも納得なんだが。
「着きました。さぁ、こちらへ……」
っト。いつの間にか着いてたみたいだな。
そこは、白い教会だった。それも、一際大きい。地理的にも恐らく、この地区ン中でも相当大きな場所なんだろうな。例えるなら、本部みてぇなそんな感じ。
パッと探してみた限りだと、他の気配は無いな。こんだけデケェ建物にすら気配がねぇンなら、アイツの言ってた事が真実味を帯びてきてるな。
そう考えると、コイツが危害を加えようとしてないような気がした。
……仮に、こう思わせるまでが作戦だったとしたなら。一周回って感心モノだが。
「ンで?何を話したい訳なんダ?」
これでしょうもない話だった場合よ。そん時は、普通にぶっ殺スだけだが。
コイツに限って、そんな事はしないハズ。
…………そう、思いたいんだガ。
「貴方様の疑問が、大きく関わっております。その事について、双方の為共有しておきたく」
「ナルホド」
要はアレか。知ってる事共有して、関係を構築てェってヤツか。
コッチが知ってる事はそんなにねェが……って事は、アッチが知ってる事をコッチに共有するってカ?それこそ、アッチにメリットねェと思うんだがナ?
……インや、コイツの事だ。
「まず、最初に聞いておきテェ。テメェは何なんだ?」
「私、ですか。最もな疑問ですな」
俺が疑問を投げると、打って変わって真剣な雰囲気を醸し出しやがる。さっきまでの態度が猫かぶりだったンじゃあねぇかと、思わせる。
だが、思考を深めようとしたその時。
ソイツは、あっけらかんと言葉を続けた。
「私はゼアロ。ゲマトリアに所属しております、しがない聖職者にて」
ゲマトリア、ときたか。
とはいえ、コイツの話は以前にも聞いた記憶はねぇ。ゲマトリアの人数が管理できない程に多い、なんて話は聞かない。
コイツの妄言か、はたまた俺の知らねぇ事実でもあるのか。
「テメェの話は、後にも先にも聞いた事なかったが?」
「そうなっていても仕方ありません。何せ、
知らない、か。
…………て事は、だ。
「黒服とかより前に、既にゲマトリアもテメェも存在してた訳か」
「左様でございます」
こりゃあ驚いた。ここ最近激しく動いてなかった表情筋が、珍しくしっかり動いてる様に感じる。
黒服がゲマトリアを名乗る前に、既にゲマトリアは存在していたのか。
黒服も確か、"自分がゲマトリアという組織を作った"とかいう旨の発言はしてない気がする。……イヤ、似たような発言はしてたっけか?あまりに記憶に古いモンは、どうも記憶から抜け落ちてる節がある。更年期か?
ンな事はいい。
仮に、その話が事実だとしたら。
先生が来てからゲマトリアに入って、何かやらかして、変な空間に幽閉されたのだとしたら。それは、どうも辻褄が合わない。
考えてもみろ。
どことも知らねぇ空間に放り込まれる程の何かをやらかしたんなら、少なくともあの
アノ小童がセンセイの目を掻い潜ってドンパチ出来るとは、到底思えん。
ソレから考察するに、アイツは黒服よりも前からゲマトリアにいた可能性が高い。
「……地下生活者。この名前に聞き覚えは?」
「あぁ、あの若造ですか。えぇ、知っております。私より後に所属した問題児ですとも」
確定だ。
どうやら、俺の仮説は正しいらしい。
……つか、他のゲマトリアからも問題児とか言われてンのか。妥当とは思うが、相当な餓鬼だったんだろうな。
「なァ、ゼアロ。お前、俺の事知ってんのか?」
「…その口振りから察するに、貴方様自身はご存知ないので?」
「ああ。見事にスッポ抜けてやがる」
それはそれはと、胡散臭い心配の言葉をボヤく。何から何までわざとらしく見えるのは、俺が悪い訳じゃないだろう。
それから、俺は自分の事を知る。
曰く、俺はゼアロによって、
その目的について聞いたが、なんでも、「これといった目的はございません」だとか。強いて言うなら、"崇高"の為だと言う。呼び出したからこうしろ、とかはないとも。
……フム、普通に傍迷惑だナ。人が人なら、ブチギレ案件だろうよ。
そして、俺をどうやって召喚したのか。
「貴方様を呼び出した際に使いました道具であれば、あちらにございます」
そう言われて見てみれば、まぁ簡素な造りの金色の杯。なんでも、神秘を代償に願いを叶える道具なのだとか。
……コイツが作ったのか?…何処ぞの司祭を彷彿とさせるな。
見てくれや所業をみれば、アイツらの末裔とかでも不思議ではないナ。だが、優先して聞く事でもあるまい。仮にそうだとして、だからなんだで終わる事。少なくとも、今の俺には関係ネェ話だ。
「…要は、『"崇高"の為に呼んだが、俺に何かしてほしい訳ではなく、互いに協力関係を築きたい』ってワケか」
「ご明察でございます!」
利点があるからいいものの、まぁまぁガメつい要求だな。コイツからの提案じゃなかったら、素直に殺してたトコロだ。
……まぁ、下手に干渉されるよりかはマシだろうな。この手のヤツが関わってくるとなると、面倒な事に巻き込まれかねん。その上、コイツが(表面上は)敵対しないっていう契約を結べる訳だ。
それも、この世界では契約はかなりの拘束力を持つわけで。契約という形で約束を交わす点においては、ある種の信頼がある。
ガメついとは言ったが、それなりの合理性はあるか。
「なァ。ここを俺の拠点として使うのは良いのか?」
「勿論ですとも。それに、ここは監視の目から放棄された場所でございますので、貴方様にお誂え向きだと思われます」
だいぶ魅力的だな。この教会を根城にするかはともかく、その辺の瓦礫の下に地下室でも作れば、かなり秘匿性の高い拠点ができそうだ。
活動する場所に少し困っていたのもあり、俺にとっては渡りに船な状況だ。
「……分かっタ。その話、乗ろう。契約の紙はあンか?」
「そのご英断、感謝致します。紙をお持ちします故、しばしお待ちを……」
そう言い、奴は奥に引っ込んでいく。
契約の紙、あるんかい。用意周到だな。インや、アイツの性格上、用意は欠かさないか。
見回す。ふと、目に入る。
金色の杯。願いを叶える、
オレを召喚するのに、アイツはアレを使ったと言った。
…………。
人ひとりが、一体どれくらいの価値かは知らないガ。命あるヤツを呼ぶのに、大した神秘を要さないなんて事が、あるだろうか。
この手のモノならば、割と膨大な代償が必要なハズ。人ひとり分の神秘で足りるなんて、そんなコスパの良いできた道具なんかじゃアないハズ。
現に、センセイの"大人のカード"とかいうヤツだって、アイツの■■を削って効果を発揮する。その代償は、生命を持つ者からすれば、相当の代償。
…………。
「おや?何か考え事でしたか?」
涼しい顔をしたゼアロが、契約書を持ちながらオレの顔を覗いている。
……イヤ、俺の考えてる事が分かってないのだから、何食わぬ顔が出来るのか。
「
「
そういう事か。
「……
「貴方様の考えていらっしゃる通りで、間違いはないと思いますとも」
…………想像より、ずっと。
──イカれた野郎だ。