ヤクを吸って、忘れ草をふかす 作:Cross Alcanna
ここ最近投稿していなかったのは、多忙と他趣味に時間を割く事が多かった事が理由です。
これからこうして不意に投稿する事も多くなると思われますが、気長にお待ち頂けると幸いです。
では、どうぞ。
書類と睨めっこしていたとある日、私は例の拠点に呼ばれていた。ここに呼ばれるという事は、
「今日も……デカグラマトン関係?」
「えぇ。先生にお願いしたい事がありまして」
そう言うヒマリの表情は、いつもよりピリついている様には感じられない。
……と、なると。少なくても、デカグラマトン本体が現れたとかではないんだろう。仮にそうだとしたら、もっと雰囲気が重くなっているはず。
「それで、何をやって欲しいの?」
「…………前回の事、覚えていますか?」
ヒマリが言った、前回の事。私の間違いじゃなければ、あのゲマトリアの事だろう。
あそこには本来、デカグラマトンの反応が僅かに検知されたから赴いた訳で。新たなゲマトリアと出会う事なんて想像だにしていなかったのもあり、ロクな調査も出来ずじまいだった。
そんな事を考えていると、ヒマリは言葉を続けた。
「前回は予想外の事態でもあったので、調査をする余裕はありませんでしたが……時間を置いた今回であれば、と思いまして」
要は、前回と同じ目的の調査。それを今回こそやってしまいたいという事だ。確かに、私も気になっていた事だった。
僅かに発信されていたあの信号は何だったのか。
デカグラマトンがいたであろうあの場所が、どうしてあれほどに静けさに満ちていたのか。
……彼は、一体何なのか。
考える程、疑問は尽きない。
彼の事も含めて、今回の調査は色々と判明する可能性がある訳で。
「そうなると……慎重に行く必要がありそうだね」
「えぇ。本当は先んじてゲヘナの権力者なりにアポを取れればと思っていたのですが……」
私ではどうも、と付け足し、やや渋い表情を浮かべている。
彼女が考えている権力者が誰を指すのか、それは読み解けないにしても。アポに関しては、私が何とかできるかもしれなさそうだ。
「その問題なら、私に任せて。アテがあるからさ」
「先生の交流は、相も変わらず広いですね。……分かりました、お願いしますね」
候補として、ヒナやマコトが挙げられる。……といっても、他の候補が思いつかないだけなのだが。
とにかく。
その2人であれば、(ちょっと婉曲な言い回しにはなるけど)ちゃんと伝えさえすれば、許可は取れそうだしね。マコトは……ちょっと分からないけど、ヒナは動機さえマトモであれば納得してくれるだろうし。
ヒマリによれば、調査自体は明日に行うみたい。私が許可を取る事を想定しての時間だとしたら、嬉しい気遣いだ。
そうと決まれば、さっさと許可を取ってこないと。この後もまだまだ書類と格闘しないといけないからね。
────────
「相変わらず、物音すら立ってないね」
あれから時間が経ち、翌日。
調査の目的地となるゲヘナの建造物に辿り着いた私達。歩を止めてすぐに声を上げたのは、エイミだった。
前回も目立った音は聞き取れなかったけれど、それは今回も同じだった。
こういう所だと、ヘルメット団辺りが拠点にしていても不思議じゃない。けれど、そんな痕跡もそれらしい物音も、五感で感じ取れる気配は無かった。
昨日、ヒナとマコトに調査の許可は取れたけれど、ここについてはあまり知らない様な素振りだったと記憶している。ヒナも、軽い巡回に済ませている程度で、ヘルメット団関係で騒ぎが起こった事は無かったと言っていた。
…………何となく残る、違和感。けれど、実際に目で見ている人だっている。Noで済ませるには、十分に思える根拠はある。が、果たしてNoで済ませていいのだろうか。
──先生、奥に行くまでに気になるモノがあれば逐一報告をお願いします。
「うん、分かった」
こういった場所には、つい"奥に何かがある"という先入観を強く持ちがちになる。
別に、それが悪いとは思わない。そういった意識は、時に思いもよらない成果をもたらす事にもなりうる。そういう面では、確かに重要でもある。
しかし、こういった調査の場合、思いのほか道中にも手掛かりがあったりするのも、また事実。最奥部ではないが行き止まり、といった場所で重要な研究や実験といった事が行われている、なんて事も少なくはない。
ヒマリとしては、恐らく後者の考え方なのだろう。もしかしたら、"どんな小さな手掛かりでも逃したくはない"というマインドから来るものかもしれない。その真意は、ヒマリのみぞ知る。
足早に中へ入るエイミに、私も着いて行く。
「……こんな所に、マトモに解読出来そうな手掛かりなんてあるとは思えないけど…」
──だとしても、です。可能性を摘んでおくに越した事はないですから。
エイミの言葉に、内心首を縦に振る私。
先日も見た光景だからデジャヴを感じるが、かなり崩れたりヒビ割れていたり、挙げ句にはそこらに苔まで繁茂している始末。長年人の手が加えられていないことが、素人目でも明らかだ。
苔をどうにか取った所で、錆びていたり汚れていて、何かが書いてあるのかも分からない。最早、古代の遺跡にいるような感覚だ。
「道中より、部屋の方が何かありそうだね」
とは言いつつも、道中にもしっかりと目を凝らす。
かなり技術が進んでいるキヴォトスなら、道中に隠し部屋に繋がる扉なんかがあってもおかしくない。エンジニア部の子らが出来る事を加味すると、デカグラマトンの関係者が出来ないなんて事は考えにくい。
……仮に隠し部屋があろうものなら、その隠蔽技術には頭が上がらないが。こんなに辺りに溶け込んだ技術、最早錯覚を利用した緻密な技術でもなければ実現困難だろう。
ヒマリの懸念は、ココなのかもしれない。実現困難な技術が、この様な場所に存在する。それは確かに、懸念すべき材料になりうる。
「先生、この部屋がこっち側の最奥部みたい」
等と考えている最中、気付けば行き止まりの部屋に辿り着いた。デカグラマトンが住処としていた割には、妙に研究室っぽい部屋だ。
アイン……だったかな。彼女らみたいな機械がいたならまだしも、あまり活動の痕跡が見えないのを見ると、そういう意図があったとは思えない。
ともかく、不思議な構造だ。
「書類とかそういう類いの物は、なさそうだね」
ある程度見たエイミが1つ、そう言った。
研究の為の機器……の残骸みたいなモノはいくらか見受けられるものの、紙であるとかタブレットの様なモノは見られない。
綺麗に情報端末などがない事を考えると、僅かに違和感は残る。が、施設自体がこれだけの有様である事を加味すれば、"時間の経過"や"誰かも分からない人物が持っていった"なんて事も可能性としては低くはない話だ。
要は何か。
ここに残ってる大きめな機械も、操作はおろか、電源すら入るかも怪しい。入れば入ったで良いのだが、それ以降にも幾つも壁がある。
操作できるのか。動力は正常に稼働するのか。ログなどは残っているのか。考えるだけで、頭が痛くなるばかり。
「……部長、これ以上手掛かりになりそうなモノはなさそう」
──そのよう、ですね。では、もう少し探ってから戻ってきて下さい。
「分かった」
────────────
「結局、それらしいモノは何もなかったね」
──流石に、こんな所に証拠は残さなかったみたいですね。
あれから少し探索を続けたが、最終的には空振りに終わった。あの部屋を探した後、戻る途中の部屋も少しずつ探索し直したりしたものの、そっちも結果振るわず。
本拠地に証拠は残さない、そんな意思が垣間見える位に何も分からなかった。正しく、立つ鳥跡を濁さずといった所か。
残っていた機械も、今の私達じゃあ使用はおろか、起動すら出来るかどうか。そのような機械は、私達に手掛かりをもたらす事はない。
「ヒマリ、他の目処がついてる場所とかはあるの?」
──いえ、それらしい場所はここだけです。まだ他にあるのかもしれませんが、見つけるに至っていませんね。
どうやらヒマリ曰く、ここ以外にアテは無い模様。とはいえ、未だ新たなデカグラマトンの目撃情報もないのが現状。
デカグラマトンが現れる場所ならまだしも、目撃情報もない、無限とも言える数の場所から手掛かりがありそうな場所を見つけるのは、困難を究める話だろう。いくらヒマリといえど、特定のビデオするのも一苦労なハズ。
……本人に言うと、変に対抗心を燃やしてきそうだから、口は閉じておくとして。
「…………ん?」
そんな思考が私の頭を巡っていた時。ふと辺りを見回していると、何やら違和感。
意識を起こしてみると、入口付近だった。
「?先生、どうしたの?」
そんなエイミの声に、私は答える。
私が指を指したのは、一見普通に見える壁。強いて言うなら、少し凸凹になっている事と、多少ボロボロになっている事が気になる程度。
ただ、この施設内を探索していた時以上に、私は違和感を感じている。最早それは、本能に近しい様にも思える。
そう私が言うと、違和感を感じた場所をエイミが軽く叩く。すると、表情が変わる。
「……!この奥、空洞になってるかも」
──こんな所に、隠し通路ですか。入口付近とは……盲点でした。
正直、偶然に近いだろう。
ヒマリが言うように、こんな所に隠し通路を作るとは思わない。作るならせめて、もっと入り組んだ道の途中や最奥の部屋とかだとばかり。
そんな先入観を嗤う様な配置。誰に向けてかも分からず、感心を覚える。
──行きましょう。恐らく、そこであれば何かある筈です。
ヒマリの一声で、私達はその壁を開く。最悪銃などでこじ開ける事も視野に入れないといけないかと思ったが、そんな事はなさそうだった。
出っ張ってる所を全て奥に押し込むと、勝手に開かれた。
……こんな時に思うのもアレだが、男心が擽られる。何だか、仲良くなれそうな気がした。
────────────
「……凄い数の資料」
隠し通路の先にあった部屋。そこには、沢山の資料があった。
それだけじゃない。この部屋からは、
眼下に広がる資料全てに目を通すだけでも、かなりの時間を使いそうだ。パッと見るだけでも、重要そうでは無いものからかなりの手掛かりになりそうなものまで、様々な情報が記載されているのが分かる。
──軽く目を通せそうなものだけ、ここで見ていく方が良いでしょうね。
「時間がかかりそうな資料は?持って帰る感じでいいの?」
──えぇ。ここに残しておいても、誰かに持ち出される可能性が考えられますから。
ヒマリの言う通りだ。ここが誰かが拠点としていたなら、こんな情報を野放しにしておくとは思えない。寧ろ、今この瞬間に残っているのだって、普通に奇跡に等しいとも言える。
ここの資料を持ち出した方が(私達としては)良い事には違いない。
……持ち主がいるとして、普通に窃盗行為ではあるのだが。この際だ、気にしてる暇もない。私達も、割と命がかかっているのだ。四の五の言うシーンではないだろう。
いわゆる、”コラテラル・ダメージ”というやつだ。
「…………ん?」
不意に感じる、ナニカ。それは、あまりにも言葉で表しづらい感情。今の私の辞書に、コレを言い表すだけの語彙は、無かった。
ソレは、ある資料に書かれていた、ある問い。ソレを見てから、妙な感覚が纏わりついて仕方ない。
デカグラマトンは、継承されるのか?
違和感は、ある。不思議な感覚が、現に今も私に纏わりついている。
でも、それが何なのか。どうして起きているのか。ソレは、何も明瞭にならない。ずっと、靄がかかっているような、むず痒さ。
「先生?どうしたの?」
「……あ、ううん。何でもないよ」
「…そう?」
「うん」
軽く返事をして、静かに頷く。
確証もない違和感は、まだ仕舞っておくべきだろう。それに、ヒマリやエイミが疑問に感じたら、2人で結論を出す事だろう。何も、素人が首を突っ込む事はないだろう。
そう思った私は、資料を集めた。
不穏な感覚を、仕舞いながら。