ヤクを吸って、忘れ草をふかす   作:Cross Alcanna

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真っ当な”異質”

 

「よォ」

 

「…………」

 

 

俺は今、所用でとある場所に来ていた。

 

普通の手段じゃあ来れないであろう、とある時空。どの時間軸にあるかも曖昧な、閉鎖的時空。まるで牢獄の様な、そんな場所。

 

そこにいるのは、オレも知ってるヤツだった。

 

 

「…何だ貴様は。この小生に、何用だと言う」

 

「なァんでこう、警戒心剥き出しなのかねェ。別に、取って食おうなんテ思っちゃあイナいっての」

 

 

地下生活者。

 

黒服らよりも前にゲマトリアだった奴。それでいて、ある種1番ゲマトリアらしくないヤツ。オレから見れば、コイツ程稚拙なヤツは中々みない。

 

 

「イヤ、ホントに大した事じゃあないからよォ。昔のゲマトリアについて聞きたかっただけダシな」

 

「……昔のゲマトリア、か」

 

 

オレの言葉に対し、ヤツは表情を曇らせる。

 

……別に、何も表情が曇る事もナイと思うんダが。これ聞きますよ〜、って言っただけだしなァ。

 

 

「ナンダ?曇ってるぞ?」

 

「……いや。ふと、思い出してな」

 

「思い出した?」

 

「…()()()だ」

 

 

……ビンゴ。

 

コイツなら知ってると思っていたが、やっぱりナ。あれはゲマトリアの中でも、随一のドス黒さを誇っている様に見えて仕方ない。それは間違いではなかったみたいダナ。

 

 

「聞いた事はあるが、そんなヤベェヤツなのカ?」

 

「そうだ。アレは、外道の中の外道。アレと小生らを同じにするなど、あってはならぬ」

 

 

それ程か。

 

アレは確かに、人と呼ぶにはあまりにも欠落し過ぎているとは思うが。だがしかし、ゲマトリアの他メンバーと同列として扱わない方が良い、ときたか。そこまでとは、オレも予想外だったナ。

 

 

「何が、そこまでオカシイんだ?」

 

「おかしいとも!あんな()()()()()()()ヤツなど、見た事もない!」

 

 

狂気に染まった、ねェ。

 

 

「小生らは少なからず、理性や知性が働くだろう。それもあり、緻密な作戦や理的な行動が出来る訳だろう?」

 

「違いねェな」

 

 

()()。そう前置きをして、ヤツは続ける。

 

 

「アレには、()()()()()。そう、皆無なのだ」

 

「皆無ダァ?」

 

 

皆無とまで言うか。

 

人は皆、行動に対して何らかの意図がある。「こう進める為にこうしていく必要がある」だとか、「こうする予定だったが、こうなってしまったから違うアプローチをしよう」だとか、そういった思考があるのが、自然の理。

 

よっぽどのアホでも、そんくらいは出来る。……程度については、言及しナイが。

 

それが、無い。それはツまり、()()()()()()()事を意味する。或いは、過程を考えていないか。

 

前者なら、まだいい。

 

仮に、アイツが後者側だった時が、割とヤバい。

 

──過程で何が起ころうとも、結果にさえ辿り着ければ問題ない

 

…………という事。それがいかに危険な思考回路かなんて、誰かから教えてもらわずとも、およそ分かる事だ。

 

勝てばいい、とはよく聞く話だが。

 

それは、あまりにも純粋な思考で、あまりにも危険な思考。

 

それハ何故か。

 

()()()()()()()()()()()()からだ。その者にとって過程など、あってないようなもの。……いいヤ、()()()()()()()()()()()()()()もの。

 

……成程、ネ。

 

 

「……そういうコトか、理解した」

 

「…………貴様も大概だな」

 

 

失礼なヤツだナ。これだから幼稚な脳ミソのヤツは……。

 

 

「ふと、思ったのだが」

 

「─あァん?」

 

()()()()()()()()?」

 

 

…………ヘェ。勘はいいのナ。てっきり、その辺も鈍いとばかり思っテいたんだが。

 

ン〜……インや、いいか。

 

 

「─ホロウ(■■)とデモ呼んでくれ」

 

「…………ンン?何を言ってるか聞き取れなかったが…?」

 

 

更年期かよコノヤロウ。

 

 

ホロウ(■■)だってノ」

 

「……ンンン?何故名前だけボヤけて聞こえる?何故だ?」

 

 

…………あァ?名前だけ聞き取れねェ?そんな事あるかってノ。未成熟な精神しといてオッサンみてぇナ事ホザくな。蹴飛ばすぞ?

 

 

「聞き取れないなら、これ以上は聞いても仕方ない。……貴様の用はそれだけか?」

 

「あァ。アレについての情報は、生憎お前しか持ってなさそうだったしナ」

 

「黒服共は…………そうか、アレの存在すら知らないのか」

 

 

それ程までに古株だったのか、アイツ。コイツの口振りからして、コイツよりは古株だと思ってはいたが。

 

……インや?まさか、アレの存在は秘匿されてるノか?その線の方が、何かしっくりくるナ。

 

 

「……調べても、良さそうダな」

 

 

小さく、ただ小さく。

 

そんな独り言が、零れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは…………」

 

「部長?何か分かったの?」

 

 

ある日。

 

私とエイミで、件の資料を読み進めていた。

 

()()()()()()()()()()()

 

そう。昨日、先生と散策したゲヘナの廃墟を調査した際に手に入れた、あの資料。膨大とは言えないものの、中々気が遠くなる程には多い数。

 

そろそろ、眼も疲弊してきているのが分かる。そんなしょうもない事を思っていた時に。

 

私の目に映った、1つの資料。その始まりは、こんな一文だった。

 

 

──デカグラマトンは、継承されるのか?

 

 

目からウロコ、だった。

 

デカグラマトンを継承しようだなんて。実際この著者が継承したいと考えていないにしろ、アレを継承できるのか等という問いが浮かぶ事自体に、私は驚きを感じざるを得ない。

 

それを見て、私はハッとする。

 

デカグラマトンの機械には、ヘイローがある。人型かつ神秘を保有するヒトをベースに造られたならまだしも、(恐らく)ただの機械にヘイローが宿るなんて話、私は聞いた事もなかった。カイザーの兵達や機械の市民が、いい例だと思う。

 

もし、仮に。ヘイロー一点でその疑問が浮かんだとしたら。

 

この資料をまとめた人の着眼点は、私をも凌駕する事でしょう。悔しい事に。

 

 

「デカグラマトンの……継承?」

 

「…………えぇ」

 

 

それと同時に、疑問が残る。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

あの資料に書いてある事を加味すると、あの資料があの場所にあったのは、かなり不思議だ。デカグラマトンの身内内で研究した内容のようには、およそ見えてこない。

 

継承と死は、表裏一体とも言える。そんな事を、ましてや機械間で取り決めるなんて、それはそれは大層非常識な話のように感じ取れて仕方ないのは、私だけではない筈。

 

私の中の疑念は、尽きる事を知らないようだ。

 

 

「デカグラマトン達にも上下関係とかありそうだしね」

 

「……それは、そうなんですが…………」

 

 

どうも、その一言で片付けてはいけないように思う。けれど、そう断言するだけの判断材料が、ない。この私の考えを決定打にすげ替えるだけの論拠は、無い。

 

私が、天才であるこの私が。こんな場面で、論拠も何も無いまま何かを語るなど、あってはならない。

 

だからこそ、このもどかしさは消える事を知らない。天才である事の誇りが、そのもどかしさを叩き折る事を、許してくれない。

 

 

「部長、こっちの資料もそれらしい事が書かれてる」

 

「……今行きますから、少し待って下さい」

 

 

──そんな誇りが、無ければ。

 

 

──或いは。

 

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