ヤクを吸って、忘れ草をふかす 作:Cross Alcanna
「─ンで?そろそろ始め時っテ訳か?」
「その通りでございます。他の者共が勘づく前に始めてしまうべきでしょう」
フム、真っ当な言い分だ。狂ってる(らしい)コイツから出た言葉としては、随分とスジが通ってヤがる。
何でもないそんな言葉が、どうにも不気味さを煽るよウに感じて、仕方ない。
「計画としては、ソコまで複雑ではナイな」
「えぇ。
「ダな。上手くいかなったら臨機応変に、ダナ?」
「左様でございます!」
うるっさ。急に叫ぶナってェの。
コイツ、こういうトコがあるからなぁ。普通に喋ってるかと思えば、急に大声に変わる。感情の起伏が声量に出てるダけだとは思うガ、にしても、だ。
その点にオイテ、コイツは
「ンで?一気にヤルか?」
「
「…………ヘェ?」
これが仮に、意図的だったとしタラ。
コイツ、筋金入りの外道ダな。……いンや、人の事を言える立場ジャねぇんダケドな。
「シテ、その心は?」
「貴方様の、臨機応変という言葉。それが、答えですとも」
…………外道だな。それも、アイツが言っていたよりも、ずっと。それでいて、冷静。「純粋に狂っている」という言葉が、まるで嘘に思えてクル。
何だか、オレの方が狂ってるんジャアないかと錯覚してシマう。
「ソウカ。いや、それだけ確認出来れバ十分だ。だとしたら、準備を進めナイとな」
「えぇ。粗方終わっているとはいえど、油断はなりませんから」
狂気を演じる。ヒトの中には、そんな奇特なヤツもいるんだとか。マァ、多様性とかいう
どうもコイツからは、そんな香りがして仕方ない。
狂人染みた言動の中にみれる、極めて冷静なソレラ。それが、どうにも俺を惑わセテくる。コイツとどう接するのが正解なのか、オレですら分からなくなる時がある。
そこまで計算ずくなのだとしたら、相当だ。
「そこまで手を回ソウとしてるんナラ、安心だ」
そう零し、俺は煙草をふかす。
身体に悪いとは分かっていても、止める気にはなれない。それだけの理由が、俺にはアル。どうしよもなく大事な、どうしようもなくくだらない理由が。
「……煙草、吸うのですね」
「…ン?あぁ……嫌だっタか?なら外で吸ってクルが」
「そこまでして頂かなくても大丈夫です。ただ、少し意外だったものでして」
「そうカァ?」
手癖で、オレはタバコを吸う。俺にとっては何気ない、いつもの事。そこらのヤツらが息をする事くらい、俺にとっては全くもって当たり前なソレ。それがどうにも、コイツには不思議に思えたのだとか。
別に不思議じゃアネェだろうに。
…………いや、オレの頭、メット被ってるんだった。イヤイヤ、だとしても、別に不思議な事ァねぇだろうに。頭がない訳じゃああるまいし。
「……失礼ながら。貴方様の今の雰囲気、酷く昏い様に見受けられます」
「…………フむぅ。そんなニカ?」
「えぇ。そこらの子供でも察せてしまうくらいには」
……マァジか。そこまで分かりやすい顔してたのか。オレとした事が、油断しきってたナ。
「……それを嗜むだけの特別な理由が、おありなのでしょうか?」
「………………アぁ……まァ。チョットばかしな」
酷く、言い淀むオレ。それについて切り込まれると、どうにも落ち着けずにいる。いつものような余裕な返答なんて出来る訳でも無く、かなり不安定な語気で返答する。
……ボンヤリと、覚えている。大切だったような何か。バカみたいに笑った何か。
忘れ去りたい、ナニカ。
…………あァ、頭が痛い。
あんなクソッタレな心情なんて、忘れ去るつもりだったのニ。あんなふざけ倒した現実なンて、捨て去るつもりだっタのに。
現実とは、かくシテ非常である。
「人の嗜好に、私は異を唱えるつもりなどありません。ましてや、貴方様の嗜好であれば、尚の事!」
「そうしてクレルのは、助かるな」
コイツの空気を読んだ配慮、今の今はありがたいと思う限り。勘繰る事なんて、忘れてしまいそうで。
「………………フゥ」
今日も。
──オカシく、なっチマいそうダ。
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「ふぅ……ようやく一段落…」
某日、この真っ白な部屋で私は、仕事に忙殺されている真っ最中。それがどうにか落ち着いて、羽を伸ばそうとしているのが、たった今の話。
生徒達の元へ会いに行く時間以外は、およそ書類と睨めっこの時間となる訳で。その内、文字ばかり見るせいでゲシュタルト崩壊とやらを起こしてしまいそうで、少し怖い。
……有給休暇って、あるんだろうか。使った事もないし説明もされてないから、今までは無いものだとばかり思っていたのだが。
生徒に対する先生の数が足りてなさすぎるのは、ある。だって、私1人しかいないのが現状だし。
今、冷静に考えてみれば。
とんでもないブラック体制ではないだろうか。おそらく、大体の人は首を縦に振ってくれる事だろう。訴えれば、勝てるんじゃなかろうか。
問題をあげるなら、何処に訴えればいいのかという事なのだが。
「先生」
今日の当番である空崎 ヒナが、思考の最中に私に声を掛けてくる。私の印が必要な書類があるのだろうか、或いは面倒事か。
……「マコトが〜」から始まらない事だけ、祈るばかり。彼女、ヒナへの対抗心が強いのか、凄く変で厄介な事をしでかす事がしばしばある訳で。
と思っていたが、手に書類は、1つも握られていなかった。……となると、何だろう。いよいよ分からない。
「トラピスト聖学園地区について、妙な報告があるの」
「…トラピスト……聖学園?」
初めて聞く学園だ。誰かからの説明で、その名前を聞く事はなかったように思う。
それを察したのか、ヒナが私にトラピスト聖学園について説明してくれた。
曰く、学園とは思えない程厳格な規則を敷いていて、自学園の運営及び他学園の支援等に力を注いでいたとの事。その事も相まって、トラピスト聖学園では様々な技術が発展していたとか何とか。
戦闘や戦術に特化した学部や手芸等に特化した学部、果てにはミレニアムのようなエンジニアリングについて見聞を深めている学部すらもあったのだとか。
……ただ、それが今では過去の産物になっている。それについては、私がトラピスト聖学園について知らなかった事にも繋がってくる。
何でも、私がキヴォトスに来る前に突如として、見るも無惨な有様になったのだとか。特に爆撃等もなかったにもかからわず、建物等がボロボロに朽ちていたり、人一人として気配すら感じられなくなったり、生徒が足を踏み入れると、少ししんどい等々。
今では、一部生徒間で心霊スポットの1つになっているとか、なっていないとか。
「そんな学園があったんだね…………それで、その学園がどうしたの?」
「……最近、妙な人影の目撃情報が増えてきてるみたい」
人影、かぁ。何とも、どう対処するか困るパターンのヤツだ。
単純に、不良生徒が増えているとかなら、幾らでも解決しようがある訳だけど。人影という曖昧な情報しかないとなれば、話は変わってくる。
対応は、その人影が何かによって大きく異なってくるだろう。不良生徒なら先述の通りでまだ何とか出来うるものの、それが未知の勢力とかだとしたら。慎重に対応を考える必要がある。
それは、
「ゲヘナでは、特に目撃情報とかはない?」
「そうね。聞ける範囲で聞いてはいるし、私も業務で見回りとかしているけれど、何もないわね」
「そっか、それなら何より」
安堵のため息が、1つ。
ミレニアムとか百鬼夜行とか、その他の学園でどうなってるかは分からないけど、取り敢えずゲヘナは問題ないようだ。他の生徒にも後々聞いてみるとして、対策はとっておく必要がありそうだ。
今でこそ、目に見えた被害が出ている訳ではないにしろ、いずれ起こりうる被害を抑える事は大事だろう。それこそ、私の仕事でもあるからね。
「……無理はしないでね、先生」
「……そうだね、気を付けるよ」
程々に、がんばろう