機械少女と青春を   作:バグキャラ

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便利屋とメイド

 キヴォトスのとある街の一角にて。建設されたビルや商業施設の端にひっそりと佇むようにそれはあった。周りの高層ビルやデパートによって日当たりが悪く思えるような事務所である。そんな場所に今4名の学生が住み込むような形で拠点を構えていた。

 

「………………」

 

「どうするのアルちゃん?もう今月の家賃を払えるだけのお金は残ってないよ?」

 

「…………人通りが良い立地を借りたつもりだったけど、そう上手くはいかないよね」

 

「え、えっと……私!アル様の為ならバイトでもなんでもして今月分の家賃を稼いできますので!」

 

 来客用の机を囲むような形で座る3人と中央奥に置かれた執務机に座るものが1人。

 

 “自由と混沌”を校風に掲げ、問題児揃いで悪名高く、いくつもの違法サークルを抱えるゲヘナ学園内で立ち上げられた部活の一つ、便利屋68の面々であった。

 

 “金を貰えばなんでもする”がモットーであり、“法律と規律に縛られないハードボイルドなアウトロー”をビジョンとして掲げている彼女たちだが、浮かべる表情はどこか重々しいものを感じる。

 

「これからどうする?ここを引き払う準備でもしとく?」

 

「……また長い野宿生活になりそうだね」

 

「……私、アル様の為にここの不動産会社を脅してきます!」

 

「それはやめた方がいいと思うよハルカちゃん?また変な噂が立って、それこそもう今度は事務所を借りれなくなっちゃうよ?」

 

 今月の家賃の為に物騒な計画を立てだす平社員(伊草ハルカ)とそれを止める室長(浅黄ムツキ)、それを尻目に課長(鬼方カヨコ)は再度社長(陸八魔アル)へと尋ねる。

 

「それで、どうする社長?最近は迷子になった猫探しとか公園のベンチの修理みたいな目的とは関係ないものばっかりだったし、それに依頼自体少ないよ」

 

 便利屋の面々からの問いかけに社長は無言を返すだけだった。

 

「……どうしたんだろう社長?」

 

「さぁ?またいつも見たいに変なこと考えてるんじゃない?」

 

「あ、アル様大丈夫ですか?体調が悪いのであればお休みになったほうが…………」

 

 あまりに無言が続くアルを見て、メンバーたちが思わず心配をかけて始める。しかし

 

…………ふっふっふっふ

 

「……アル様?」

 

「安心しなさいあなた達!」

 

「うわびっくりした、いきなりどうしたのさ社長?」

 

「つい先ほど依頼があったわ!それも大企業からの大口依頼よ!」

 

 長い間無言を貫いていた彼女は、そう唐突に声を張り上げる。

 

「それほんとアルちゃん?うちなんかに大企業から依頼なんて来るの?」

 

「社長と呼びなさいムツキ室長。それにうちなんかなんて聞き過ごせないわね、便利屋68は金さえ貰えばなんでもするアウトローよ」

 

「その金さえ貰えばなんでもするっていつも言ってるけど、結局その依頼料を踏み倒されてばっかじゃん」

 

「それで?どこからなんて依頼が来たの?」

 

「ちょって待ってなさい、確かメモに書いたのが………。カイザーコーポレーションという企業から、アビドス自治区の一角に拠点を構えているヘルメット団への襲撃、及び拠点の制圧よ。大企業からの依頼なんて、便利屋としても箔がつくというものだわ」

 

「「…………カイザーコーポレーション?」」

 

 依頼主の企業名を聞いて思わず顔をしかめるムツキとカヨコ。ハルカはよくわかっておらずにあたふたしている。2人はアルに聞こえないような声量でひそひそと話す。

 

「(どうする?カイザーって言ったらキヴォトスのあちこちで展開してる企業だよ、そんなところからうちに依頼がくるなんてきな臭すぎる)」

 

「(いいんじゃない?アルちゃんもああして乗り気だし、どちらに転ぼうと面白そうなことに変わりないよ♪)」

 

「そこ、何をひそひそ話してるの?」

 

「うんうん、なんでもないよアルちゃん♪」

 

「……それで、いつも通り前金は受け取ってない感じ?」

 

「当たり前よ、アウトローたるもの手付金に頼るようなことはしないわ」

 

「さすがはアル様です!」

 

 その堂々としたアルの返事に思わず苦笑いを浮かべるムツキとカヨコ、そして賞賛するハルカ

 

「……なら早めに動いた方が良さそうだね。大家はいつまでも待ってくれない訳だし、大口依頼ともなれば失敗なんてできないね」

 

「えぇ、カヨコ課長の言う通りです。ヘルメット団のアジトについては場所を教えられているので準備ができ次第向かうわよ」

 

「はーい」

 

「わ、わかりました!アル様のために頑張ります!」

 

 そうして4人はアビドスへと向かい、依頼通りアビドス高校への襲撃を行っていたヘルメット団を壊滅させると、その報酬金を用いて複数の傭兵を雇い、アビドス高校を襲撃する流れとなった。

 

 しかし……

 

 ~~~~⏰~~~~

 

 

「アルちゃんってば流石!ヘルメット団の襲撃の報酬で傭兵を雇ったのはいいけど、まさか私たちの昼食代まで使い切っちゃうなんてアウトローだね!」

 

「し、仕方ないじゃない!思ったよりも費用が掛かったんだから!」

 

「……しかもその襲撃先のアビドスの連中に奢って貰うなんてね」

 

「ぐぬぬぬぬ……」

 

「あ、アル様……」

 

 柴崎ラーメンにて580円のラーメンを4人で分けようとした便利屋の面々達を見たセリカと柴大将がサービスとして、一人前の値段で超特盛を提供して貰ったのだが、それがこれから襲撃するアビドスの生徒だと知り、思わず声を張り上げてしまう陸八魔アル。仁義を重んじる彼女にとって恩を仇で返すような行為にたじろいでしまうが、なんとか気迫を保った。

 

「私たちにラーメンを恵んでくれた方に関しては感謝しているわ、しかしこれはこれ、それはそれよ。私たちはキヴォトス屈指のアウトロー。依頼を請け負った以上、それを果たすまでよ」

 

「……まぁ社長がそう判断するのなら、私たちはそれに従うよ。でもどうする?間近で見ることが出来たから分かったけどあの子達、()()()

 

「それについては理解しているわ。廃校寸前のアビドスをたった5人で継続させているのよ、その辺の学生なんかと同じ括りにしないほうがいいわ」

 

「……それにアビドスの連中と一緒にいた大人。おそらく最近になってキヴォトスに来たっていうシャーレの先生だろうね」

 

「シャーレ?先生?誰それカヨコちゃん」

 

 ムツキが疑問の表情を浮かべながら尋ねる。

 

「連邦生徒会長が失踪してからシャーレの顧問に赴任したっていう大人。調べた限りではキヴォトスに来た直後に、各学園の生徒数名を率いて脱獄したワカモとその指揮する不良グループを撃退したんだって」

 

「あの七囚人のワカモを!?な、なかなかやるようね、その先生とやらは」

 

「うん、各学園の生徒達で急遽編成した混合部隊であのワカモを撃退するなんて軽々しくできるようなことじゃない。その部隊の生徒達もお互いに名前を知っている程度だったみたいだし、部隊としての練度はないと言って差し支えないと思う。それを指揮したとなると、先生って人物は相当なものだよ」

 

「そ、そうね!なかなかな人物なようね。でも安心しなさい、あれだけの金額をつぎ込んで雇った傭兵よ。それに私たちもその傭兵たちを援護する形で襲撃に参加するのだから!」

 

「(あれだけの金額って言ってたけど、傭兵を雇う相場と人数を考えたらそうでもない金額……てのは言わないほうがいいよね♪)」

 

「……演習の一つもやっていない状態の部隊でワカモを撃退するような人物だよ、そんじょそこらの指揮者とはわけが違うと思う。それにさっきの様子を見るにおそらくその人物……先生はアビドスに付いてると思った方がいい。これからアビドスを襲撃するとなると、まず間違いなくその先生と敵対することになる」

 

「………………そ、そうよね。で、でも私たちだって……」

 

「……即席の部隊でワカモを撃退させることが出来るような人物が、廃校寸前のアビドスを繋ぎ止めてるあの5人を指揮することになる。その練度は個人の実力はともかく、部隊として考えると桁違いだろうね。雇った傭兵たちを撃退するどころか私たちまで返り討ちになる可能性が非常に高い」

 

「…………」

 

「へぇー、カヨコちゃんがそこまでいうなんて珍しいね。どうするアルちゃん、傭兵を雇ったお金は無駄になっちゃうけど今回はやめとく?」

 

「まぁ……さっきまで言ったことはあくまで得られた情報による最悪の想定、どうするかは社長の判断に任せるよ。でもさっきまで言ったことは頭の隅に留めておいて」

 

「わ、私!アル様の為に特攻を仕掛けてきます!

 

「やめようねハルカちゃーん?」

 

「言い方は悪くなるけど、ハルカが特攻したところで普通に返り討ちにされるよ」

 

「そ、そんな!?」

 

「………………」

 

 カヨコが述べた想定で無言になり、必死に頭の中で思考を回すアル。そして導き出した結論は……

 

「……いえ、依頼は放棄しないわ。便利屋68は金さえ貰えばなんでもするのがモットーのアウトローよ、それに大企業からの依頼をこなせば箔が付くのだから蹴るなんて選択肢はないわ」

 

「ふーん、わかったよアルちゃん♪」

 

「まぁ……社長がそう判断するなそれに従うよ」

 

「さ、流石はアル様です!」

 

「……それでもカヨコ課長の言う通り懸念点はあるわ。そこで……」

 

 そうして少し間をおいてから自身が決断した判断を言う。

 

「追加戦力を雇うわ」

 

「「「…………え?」」」

 

 その言葉に思わず声が揃う便利屋の3人。

 

「……いやいやアルちゃん、追加戦力を雇うって言ったってもうそんなお金は残ってないよ?そもそも誰を雇うのさ?」

 

「さっきサービスして貰ったラーメン代で会社の資金は底をついてる」

 

 2人はそう述べ、ハルカはおろおろとしながらメンバーの顔色を窺っている。

 

「安心しなさい。私たちには()()()があるわ!」

 

()()()?そんなものあったっけカヨコちゃん?」

 

「……いや、そんなものなんて便利屋には……。まって、もしかしてその切り札って」

 

「これよ!」

 

 そういいながら自身の羽織っているコートから一枚の()()()()()を取り出して3人に見せつける。

 

「アル様、そのカードは一体?」

 

「それって確か………」

 

「この前の依頼で依頼主に報酬を踏み倒された時にもらったやつだよね、ハルカが脅すような形で奪い取ったようなものだけど」

 

「す、すみません!すみません!」

 

「謝る必要はないわハルカ。これを報酬として認めたのは私よ」

 

 そう言いながらカードを見回すアル。

 

「でもこれって結局なんだっけ?」

 

「……今、いろんなところで話題になっているとある企業のカードだよ。確か企業名は…………A()i()d() L()a()d()y()

 

A()i()d() L()a()d()y()ねぇ。確か人材を派遣してるところなんだっけ」

 

「うん、依頼によっていろいろ違うみたいだけど、家事とか事務作業みたいななんでもできるような人物を派遣する会社らしい」

 

「へえー」

 

 自身のスマホでそのカードについての情報を集めているカヨコ。

 

「そしてその依頼できる内容の一つが………………戦闘員としての人材派遣」

 

「へえー、アルちゃんはそれに頼るってこと?でもそこから人員を雇うお金なんて残ってないよ?」

 

「それに関してだけど、そのカード自体が紹介状になってるんだって。それに依頼料自体は結構お手頃みたいだね、戦闘員として依頼した場合の金額は載ってなかったけど」

 

「依頼料に関しては交渉するしかないわね。傭兵に払ったお金をいまさら返せなんて言えないし…………とりあえず連絡してみましょうか」

 

「でもどうやって連絡するのさ?見た感じただの真っ白なカードだよ?」

 

「ええと……、確かあの依頼人が言うには角を折ればいいと……ここかしらパキッ、わわっ!」

 

 ユウカと同様、唐突になった音に驚き、カードを地べたに落としていまう。

 

「あっ、アル様!私が拾いますので………………!?」

 

「「!!!」」

 

 落としたカードを拾おうとしたハルカだが、突如自身の愛銃を構える。その様子を見ていたムツキとカヨコも素早く後ろに飛ぶように地面を蹴ると、臨戦態勢へと入る。カードを落としたアルだけが反応できずにいた。

 

「…………え?え、え、どうしたのあなた達………え?えぇーーー!?」

 

 突如として戦闘態勢へと入った3人を見て、状況が把握できずにいたアルだが、視線の先を見て思わず声を張り上げる。そこにはメイド服を着た女性がカードの上に立っていたからだ。

 

「だっ、だだだ誰ー!?」

 

「アル様、私の後ろに!」

 

「こちらは人材派遣会社、Aid Ladyでございます。本日は当社へのご連絡、誠にありがとうございます」

 

「……カヨコちゃん、これって……」

 

「うん、これが多分、さっき言ってた企業だよ(立体映像……なんて解像度、まるで本当にそこにいるみたい)」

 

 2人の後ろで構えていたムツキとカヨコだが、その体勢を解く。

 

「ほらハルカちゃん、大丈夫みたいだからその銃を下げよっか?」

 

「うん、この人は映像みたいだから危険はないよ」

 

「そ、そうでしょうか?」

 

 アルとメイド服を着ていた人物の間に割り込むような形で体を差し込み背後へとかばうようにして立っていたハルカだか、2人からその言葉を聞いて銃を下ろす。

 

「本日はカードを用いてのご依頼ということですが、ご依頼主様はどなたでしょうか?」

 

 そう聞かれ、しりもちをついていたアルはメンバーに手を引かれて立ち上がり、答える。

 

「私よ。便利屋68の社長を務めているわ、陸八魔アルよ」

 

「かしこまりました。陸八魔アル様ですね。当社のご利用、まことにありがとうございます。ご依頼内容をお伺いしてもよろしいでしょうか」

 

「えぇ、私たちが依頼するのは戦闘要員としての人材の派遣よ」

 

「かしこまりました。当社は戦闘要員の派遣による依頼につきましては事前に一定額の依頼料の振込をお願いしております。それでもよろしいでしょうか?」

 

「(え、えええー!依頼料って前払いなの!?)そ、それに関して少し相談があるのだけどよろしいかしら?」

 

「はい、お伺いしましょう」

 

 そうしてアルはポーカーフェイスで乗り切りながら自分たちの状況と依頼目的を伝えた。

 

「はい。整理させていただくと、アビドス高校の襲撃要員として追加戦力人員を雇いたい。しかし事情があって既に傭兵を雇っているため、他の人員を雇うための依頼料を払うのが難しい。そして当社のカードを紹介状として知って連絡をしたが、つい先ほど申し上げた依頼料の前払いも払うことが困難であるため後払いにしてほしい。そしてその後払いの依頼料も払える保証がないと」

 

「え、えぇ。その通りよ。かなり無茶なことを言っている自覚はあるわ。それでも、どうかしら?雇わせてもらえないかしら。同じ依頼を受ける()()として、依頼料を踏み倒すなんて真似は()()()()()()と誓うわ」

 

「ふむ……少々お待ちください。社へと確認させていただきます」

 

「えぇ、お願いするわ」

 

 そう言うと彼女たちの周りに沈黙した時間が生まれる。

 

「(どう思うカヨコちゃん?うまくいくと思う?)」

 

「(さぁ、それはどうだろうね?でも自分たちの状況と社長本人の意志を()()()()()()()()のはなんとなく好感を得られたと思うよ)」

 

「(それは同感♪そもそもアルちゃんは嘘付くの下手だし、付いたところですぐにバレると思うけど)」

 

 メイドと交渉をしていたアルとその横に控えるハルカに聞こえないようにヒソヒソと話すムツキとカヨコ。アルはその表情こそキリリとしたものを浮かべているが、その内心は全くの逆であった。

 

「(ど、どうしようかしらー!?ちゃんと自分たちの状況が伝わったのは良かったけど、絶対舐められると思われても仕方ないわよね!?何よ依頼料の前払いが出来ず、後払いも払える保証がないなんて。絶対受けてもらえるはずないわ…………)」

 

「(流石はアル様です!突如現れたメイドさんに動じることなく私たちの要望を伝えるとは!)」

 

 便利屋の各々がその心情を胸に抱きながら、メイドからの返事を待った。そのメイドはというと、連絡を取っていた。

 

「(Butler(執事)()()への連絡をお願いします。当機では判断しえない状況が発生しました)」

 

『かしこまりました、専用の回線でお繋ぎしますのでお待ちください』

 

『…………はい、お待たせしました。どうされましたか?』

 

「(はい。現在当社のカードを使った依頼を受け付けておりましたが、要望された依頼内容とそれに関する提示された条件が当機では判断し得ないものと処理し、代表への判断を仰ぎました)」

 

『ふむ、会話のログを送ってもらえますか?』

 

「(かしこまりました)」

 

『…………なるほど、当社のサービスを利用したいが依頼料を前払い出来ないため、後払いにして欲しいと。しかしその依頼料を払える保証もないとは…………ふふっ、普通に捉えるのであればこちらに喧嘩を売っているようなものですね』

 

「(いかがされますか。カードを用いての依頼とはいえ、依頼の要望や提示された条件が許容水準を超えております。今回の依頼は拒否いたしますか?)」

 

『あぁ、まだ待ってください。確かに要望された依頼や提示された条件をみるとこちらに喧嘩を売っているのは確かですが、同じ依頼を受ける()()として、ですか……。ふむ、規模の差はあれ便利屋68という企業は、こちらと対等であろうとしているわけですね』

 

「(はい。あちらが依頼内容を伝える際、わずかながら声が震えておりましたが見事なポーカーフェイスでした)」

 

『ふふ……それに便利屋68の全員であるかどうかは分かりませんが、依頼主である陸八魔アルという人物は実に誠実な方のようです。このような交渉に関して、こちらに隠し事をすることなく全てを話したようですね。依頼料を払えないかもしれないという点まで話すのはどうかと思いますが、ここまで誠実に対応されたのであれば、こちらもそれに応じるのが道理と言うものです』

 

「(と、いうことは)」

 

『はい、その依頼ですが是非お受けして下さい。費用や依頼料につきましては当社(こちら)で負担するとしましょう』

 

「(かしこまりました)」

 

『ですが、いくつか条件があります。私たちもただ働きをするつもりはありませんので、その点につきましては、こちらが費用と依頼料を負担することを前提に条件を飲んでもらいましょう。ではまず一つ目ですが…………』

 

 

 

 メイドと陸八魔アルによって進められた交渉の場は未だ沈黙に包まれていた。まるでその場所は気温が下がったかのようなプレッシャーを纏っており、その場にいるもの達は1人を除いて皆、表情が重たい。

 

「(あれからどれだけ時間が経ったのかしら……。5分?いえ10分?それともそれ以上?どちらにせよ諦めたほうが良さそうね。相手にも迷惑でしょうし、何よりあんな条件を飲んでくれるはずがないわ)」

 

 チラリと目線をむければ、カードの上に目を瞑ったまま直立するメイドが視界に入る。そして意を決して声を掛けようとする。

 

「……あ、あのー。やっぱりさっきの話は無かったことに」

 

「お待たせいたしました」

 

「ひゃっ!!」

 

「「「(((今ひゃって言った?)))」」」

 

 さっきの依頼に関する話だが、やっぱり無かったことにしてほしいと言おうとしたのだが、突如としてメイドから声をかけられたことにより、思わず変な声を上げてしまう陸八魔アル。

 

「驚かせてしまい申し訳ございません。社との通信により、提示された内容に関しまして問い合わせておりましたが、つい先ほどその件に関する指示を仰せつかって参りました。さて、陸八魔アル様」

 

「(さっきは変な声が出ちゃった……)は、はい!」

 

「先程のご依頼の件ですが……ぜひ当社でお受けさせていただこうかと思います」

 

「え……ほ、本当!?」

 

「はい。また今回の費用やそれを含む依頼料になりますが、そちらに関しましても当社(こちら)で負担させていただきます」

 

「「「「……え?」」」」

 

 想像もしていなかったセリフに思わず声が揃う便利屋68の4人。

 

「ですが、それにつきましては今回の依頼内容にてそちらにいくつか了承してほしい事項がございますがよろしいでしょうか?」

 

 そういってメイドは依頼料を負担する代わりに飲んでほしい条件を述べていった。

 

 一つ目は襲撃に関することであり、あくまでも補助的なものとしての戦闘要員として参加することであり、すでに雇われた傭兵たちとは違った形になること。彼女自身が積極的に襲撃に参加するのではなく、襲撃する便利屋68や傭兵たちをサポートする動きになることである。

 

 二つ目は襲撃する傭兵たちが敗北、戦闘継続が不可能だと判断された場合、もしくは便利屋68が撤退を指示した時点で任務を終えたと判断し、今回の襲撃に関する契約が終了となること。たとえ戦闘中であっても彼女自身は戦闘には参加しなくなるということ。

 

 そして三つ目は、今回の依頼内容を第3者へと吹聴しないこと。今回の請け負った任務、また費用を含めた依頼料に関しては今回限りの特例であり、本来であれば請け負っていない為、それを前提とした依頼が増えると当社が不必要な経済的損失を受けるためである。

 

 条件を述べ終えたメイドは陸八魔アルへと確認する。

 

「いかがでしょうか?こちらの事項を了承して頂けるのであれば、費用、及びそれを含む依頼料を当社(こちら)で全額負担させていただきます」

 

「…………ちなみにそれを了承できないとなるとどうなるのかしら」

 

 アルが少し震えたような声でメイドへ問いかける。

 

「そのようでしたら、当社の規則通り一定額の依頼料を事前に支払っていただく形になります」

 

「そ、そう……」

 

 依頼自体は受けてくれるんだと頭の片隅でそう思いながら思考する。あまりに美味すぎる話だから。聞いたかぎりでは条件なんて気にする必要がないほどに依頼料を支払わなくていいというメリットがデカすぎるからだ。頭がパンクしそうな彼女を見たカヨコが口を挟む。

 

「ちょっと私から質問があるんだけどいいかな」

 

「はい、ご不明な点につきましてはお気軽にお尋ねください」

 

「それじゃそのお言葉に甘えて。どうしてこんな好条件を提示してくれるの?そっちにメリットがあるようには感じられないけれど……」

 

「その質問にお答えしなければこの依頼は取り下げられますか?」

 

「……私が気になったから聞いてるだけ。でもその可能性は高くなるかもね」

 

「かしこまりました。先ほど提示した条件の三つ目の事項に抵触する内容になりますが、よろしいでしょうか?」

 

「私は良いけど……社長はどう?」

 

「……え?え、えぇ。教えてくれるのであれば、是非知りたいわ」

 

「かしこまりました。貴方様方がメリットが大きいと感じられるほどに提示した条件についてですが、その理由にご依頼主である陸八魔アル様の誠実さが挙げられます。当社の代表を務めている者によると、陸八魔アル様自身がその置かれている状況を嘘偽りなく申し上げたことが気に入られておりました」

 

「え……わ、私?」

 

「はい。当社と致しましては、あなた方、そして私達は企業とそれを利用するお客様の関係でございます。本来であれば依頼料を支払われてこそ対等な関係となる取引ですが、先ほど陸八魔アル様はあくまでも便()()()6()8()という企業の()()として名乗られたこと。そしてご依頼される際に同じ企業としてと申され、依頼前から対等な関係を望まれていたことが大変お気に召しておりました」

 

「そ、そうですか……。えっと…その、あ、ありがとう…ございます?」

 

 メイドが告げた思わぬ理由に敬語で答えてしまう彼女(陸八魔アル)。それを見ていた残りの3人はどこか納得したような表情を浮かべていた。

 

「(さっすがはアルちゃん、アウトローに向いてない性格がこんなことになるなんてね♪)」

 

「(なるほど、それが理由ってことね。私達がなぜか社長についていきたくなるのはそれが理由なのかもね)」

 

「(流石はアル様です!)」

 

「当社と致しましても陸八魔アル様のような誠実であり、そして自ら対等な関係を望むものとの縁は是非、作らせていただきたいと考えております。以上がそちらへメリットの大きいと思われるまでの条件を提示した理由となります。さきほどの質問への回答はこちらでよろしいでしょうか?」

 

「うん、ありがと。十分納得できる内容だった」

 

「あ……は、はい」

 

 満足したような表情で返事をするカヨコと、顔を真っ赤に染めて弱弱しく返事をするアル。それをニヤニヤとみていたメンバーたちの視線に気づき、とっさに頬を叩いて気を取り直す彼女は改めてメイドへと応じる。

 

「えぇ、わかったわ。先ほどの条件、ぜひ飲ませていただくわ」

 

「ありがとうございます。では依頼内容、及び契約内容についてのご確認をお願いします。ご依頼主は便利屋68の社長、陸八魔アル様、依頼内容はアビドス高校の襲撃の補助、依頼期間は任務が終了と判断されるまで、もしくは先ほどの条件の二つ目を満たした場合となります。場所は現在待機中であるこの地点でよろしいでしょうか?」

 

「えぇ、それで構わないわ」

 

「かしこまりました。ご依頼主様からの了承も取れましたので、これよりそちらへ向かいますので少々お待ちください」

 

「「「「…………え?もしかしてあなたが来るんですか!?」」」」

 

 そう告げたメイドにまたもや息が揃う便利屋の面々だが、すでに立体映像は消えており、その問いに答えるものはいなかった。

 

 そして数分後、遠くのほうからのスカートのすそをつまみながら走ってくる先ほどのメイドが見え、思わず吹き出した便利屋たちであった。




補足となりますが、今回登場したメイドちゃんは前回とは別個体となっております
容姿等については次回補足します

登場するメイドさん達の名前ってあったほうがいい?

  • いる
  • いらない
  • そんなこといいからはよ続き書け
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