アビドス自治区、紫関ラーメンから少し離れた地点にて……。
「お待たせいたしました」
先程まで立体映像にて映っていたメイドが実際に目の前に立ち、見事なカーテシーを披露した。
「「(((本当に本人が来たんだ……))」」
便利屋68のメンバー4人がそう同じ感想を抱きながら、改めてその人物の全体像を見る。すらりとした体形で、
「改めまして本日は当社をご利用いただき、誠にありがとうございます。Aid Lady所属のものでございます。名称はございませんので、お気軽にメイドさんとでもお呼びください」
彼女のしぐさに見とれていた4人だが、挨拶をかけられたことで我に返る。
「い、いえ!礼をいうのはこっちの方よ。依頼を受けてくれたこと、感謝するわ」
「メイドさんって呼べばいいのかな。よろしくね♪」
「はい、こちらこそよろしくお願い致します。さきほど使われましたカードをいただけますか?」
「は、はい!こちらです!」
映像が切れた後のカードはハルカが拾っており、丁寧に両手で渡し、それを受け取ったメイドは服のポケットにしまう。
「ありがとうございます。早速ですが、本日ご依頼されましたアビドス高校の襲撃についての詳細をお聞きしてもよろしいでしょうか」
「勿論よ」
依頼をして、派遣されたメイドと合流した彼女たちは改めてアビドス高校襲撃に当たっての作戦を組み立てていく。
基本的なものとしては、雇った傭兵と伊草ハルカが前線を務めて、浅黄ムツキと鬼方カヨコがその後ろから援護する形で参戦。陸八魔アルは後方から狙撃するような形で支援するとのことだが状況によっては前進するとのこと。そこへ今回の依頼で加わったメイドさんは、ムツキやカヨコと同じポジションで戦場全体を俯瞰しつつ、こちら側の支援をしてほしいとのことだった。
「かしこまりました。指示系統に関しましては陸八魔アル様を基に統一させているのでしょうか」
「えぇ、そうよ。でも雇った傭兵たちはともかく、うちの社員たちはその都度自身の判断で自由に動けるようにはしてるわ。その点に関してはあなたにも自由に動けるように傭兵たちには連絡しておく。そのあたりは大丈夫かしら?」
「はい、問題ございません。負傷した傭兵や皆様方はどうされますか?問題無いようでしたらこちらで回収して参りますが」
「え、そんなことできるの?ならお願いしようかしら。……もしできるようであれば、傭兵たちが負傷する前に援護するようにお願いしたいのだけど……やっぱり条件的に難しいかしら」
「あくまでも援護という形であれば可能かと」
「だったらお願いするわ。ムツキ、カヨコ、彼女が動いたら援護をお願い」
「りょーかい♪」「了解」
「ハルカ、あなたには傭兵たちと同様、前線で動いてもらうから一番苦労を掛けると思うけどお願いね」
「は、はい!お任せください、アル様の為ならば!」
「頼りにしてるわ」
こうして、このような依頼になれている便利屋68によって計画が立てられていく。なにも知らないものが聞く分には、彼女たちがデパートにでも買い物に行く計画を立てているのだろうと思われるのだが、その話の中身がアビドス高校の襲撃というなんとも物騒なものはここキヴォトスならではだろう。
そして方針が固まった彼女たちは行動を開始する。
「さて、傭兵たちに連絡しなさい。アビドス高校へと殴りこむわよ!…………そういえばあなた銃は?」
「いえ、そのようなものは持っておりません」
「「「「持ってない!?」」」」
アビドス高校の対策委員会が会議室として利用する教室にて、在籍する5人の生徒とシャーレの先生が座っていた。先日、紫関ラーメンを食べて気が晴れたということで今後の方針に関する会議を進めていた。
「先日の戦闘で手に入れた戦略兵器の破片を分析中ですが……かなり怪しい結果になりそうです」
「んー?どういうことアヤネちゃん、怪しい結果って?」
「はい。先日のヘルメット団との戦闘で手に入れた戦略兵器の破片ですが、ここまで分析するのに時間が掛かるとなるとおそらく現在取引されていない型番の可能性があります」
「ん、取引されていない型番の兵器……なんでそんなものをヘルメット団が持っていたの?」
「いえ、あくまでその可能性ということですが……。
「何らかのルートって……。取引されてない型番の兵器なんかを手に入れられる場所と言ったらやっぱり……」
「はい、セリカちゃんの言う通り、
先生がアビドス高校の対策委員会の顧問に赴任してから、少しずつではあるがアビドスの設備が整いつつあった。その中で最も早く整えられたものの一つである索敵設備、及びドローンの観測によって何者かがここアビドス高校へと向かってきているのを検知したのであった。
「うへー、またヘルメット団が来たのかな?アヤネちゃん、場所と数は分かる?」
「は、はい!校舎から南に約5㎞の地点、数は……7…8…いえ、それ以上です!」
眼鏡型のディスプレイに送られてくるドローンの映像からそう判断する。
「ん、軽く見積もって約10人以上。人数では負けてるけど、こっちには先生がいる」
「うん、まかせて!」
そう言いながら自信満々に胸をたたく先生。教室にいる生徒達がみな、各々の迎撃準備を進めていく。抜いていたマガジンを差し込み、チャージングハンドルを引く。薬室に弾が込められたのを確認し、サイトのブレを修正する。
「ん、準備出来た。いつでも行ける」
「集団はアビドスの校舎に向けて未だ進行中です。身に付けている服装や武器からして、ヘルメット団ではなくおそらく日雇いの傭兵です」
「傭兵?ヘルメット団の残党ってわけでは無いんだ。ということは、誰かがその傭兵達を雇って校舎を襲撃に来てるってこと?」
「はい。ホシノ先輩の言う通り、その可能性が高いです。傭兵と思われる集団は車両にて進行中です。……そして、付随して進行している雇い主のような人物なのですが………え?この人たちは……」
ドローンの映像にて敵戦力を確認したアヤネだが、その人物を見て思わず声が止まる。
「どうしたのアヤネ、その人物の特徴は?」
セリカがそう問いかけ、アヤネが答えるのとアビドスの校舎に傭兵たちが到着したのは同じタイミングであった。
「無料でラーメンを特盛にしてあげたのに、この恩知らず!」
サポートのアヤネと指揮者の先生を除く対策委員会の4人と、傭兵十数名とメイドを雇った便利屋68が対峙したアビドス校舎のグラウンドにて、セリカのその一言が大きく響いた。
「そ、そういえばそうだったわー!」
「そういえばそうだったねー♪色々あってすっかり忘れちゃってたよ」
「依頼の件で少し時間が経っていたからね」
「すみません!すみません!」
「…………」
Aid Ladyとの交渉ですっかりそのことを忘れていた便利屋68のメンバーは、ムツキを除いて気まずそうな表情を浮かべる。忘れていた原因?のメイドさんに関しては、「私はその件につきましては関係ないですよ」と言わんばかりの表情で控えている。
「うへー、うちの可愛いセリカちゃんと柴大将の厚意を仇で返すねんて、これはちょっと痛い目を見てもらおうかなー(あれは……メイド?)」
「ん、うちのかわいいセリカが接客したっていうのにこれは酷い(なんでメイド?)」
「そうですよー、うちの可愛いセリカちゃんが柴大将にお願いして提供してもらったのにあんまりです(わぁーメイドさんですね☆
「ちょ、ちょっとみんな!恥ずかしいから“うち”のなんて呼び方やめて!そして便利屋68!私と大将の恩を仇で返すなんて、覚悟しなさい!」
「せ、セリカちゃん、ちょっと落ち着いて(メイド服というとミレニアムで噂されているエージェントでしょうか?)」
「そうだよセリカ。私たちも援護するからまずは冷静にね(あのメイド服の子はもしかして……)」
セリカの動かすドローンとシッテムの箱による戦闘補助プログラムによって先生の通信が聞こえてくるが、セリカはさらにヒートアップしていく。
「わかってるわよ!それよりもそこのあなた!百歩譲って傭兵は分かるけど、なんでメイドなんかがここにいるのよ!」
「「「「(((( そ れ は そ う ))))」」」」
対策委員会のみんなが思っていたことを代弁するセリカ。みんなが心の中で声を揃えながらそのメイドに目線を集める。
「私はAid Lady所属のものでございます、以後お見知りおきを。名称はございませんのでお気軽にメイドさんとお呼びください」
そういってセリカへと問いかけられたメイドは答え、カーテシーを披露する。思わずアビドスの5人と控えていた傭兵たちは「おぉー」と声を上げる。
「(やっぱり……)あ、あの!メイドさん!」
「おや、その声はシャーレの先生でしょうか?先日は当社をご利用いただきまして、誠にありがとうございます。申し訳ございませんが、ご依頼中の場合は関係者以外、お問い合わせや新たな依頼を受け付けておりません。ご了承ください」
「……そっか、それなら仕方ないね。この後にでも
なぜ便利屋68と共にこの場にいるのか聞こうとした先生だが、遮るようにしてそう答えられてしまう。
「……いや、そういうことを聞いてるんじゃなくて!」
「ん、セリカ。それはこいつらを締め上げてから聞けばいい」
「そうだよーセリカちゃん、まずはこいつらをとっ捕まえてからにしよっか。先生も何か知ってるみたいだし」
「シロコ先輩、ホシノ先輩……わかりました」
アビドスの面々が一区切りついたところで、便利屋68が口を開く。
「いやーごめんね、アビドスのみんな?これも仕事なんだ♪」
「……そういうことで」
「すみません!すみません!ラーメン美味しかったですごちそうさまでした!」
そう便利屋68が言いながら戦闘態勢へと入り、それに合わせるようにして傭兵たちも銃を構える。
「うぅぅ…………仕方ないわ!これもアウトローへの一歩よ、覚悟しなさいアビドス対策委員会!」
「では、皆さんこそ覚悟してくださいねー☆」
そうアルが言うと同時にノノミの構えたリトルマシンガンⅤが弾幕を張ったことで開戦を告げた。
少し離れた間合いから放たれた無数の弾丸を便利屋68と傭兵たちはその場から飛びのくようにして躱し、乗ってきた車両を遮蔽物として身を隠す。十数秒間続いた弾幕は扉やボンネットに無数の弾痕を残し、ノノミが銃撃を止めると同時に止んだ。ミニガンの銃身は白い煙を出しており、彼女の足元には多くの薬莢が散らばっていた。
真っ先に動いたのはハルカである。さきほどの銃撃を受けた車両の状態を見て、即座に遮蔽物から飛び出した。もう何度も先ほどの銃撃を受けられるほど、乗ってきた車両の耐久性は高くない為、真っ先に
姿勢を低くしながら、相手陣地に切り込むようにして素早く走っていくハルカは、彼女の持つブローアウェイの有効射程に入る瞬間に、目の前に現れた盾によって進路を遮られてしまう。突如として現れたそれにハルカは勢いを止められず、全身でぶつかるようにしながら盾を持つ人物と近接戦へと持ち込んだ。
「うへー、血気盛んだねー、おじさんびっくりしちゃったよ」
「ぐぅ……!(この人、
お互いの持つショットガンを鍔競りあうようにしながらぶつけあう2人。全身で盾にぶつかってしまいその衝撃で表情が重たいハルカと、ぶつかった際の盾からの衝撃を腕の関節で完全に殺して軽いセリフを吐くホシノ。
「まぁそんな気張らずにさ、こうやって力を抜いて…ねっ!」
「なっ……かはっ!?」
お互い一歩も譲らずに力比べのような状態に陥っていたが、ホシノが意図的に力を抜いたことでハルカの体勢が崩れ、その隙だらけの腹部目掛けてホシノの蹴りが突き刺さる。勢いよく飛ばされたハルカだが、宙に浮いた体が地面へとぶつかる前に手足を体の中心へと集めダメージを最小限にする。小さくバウンドをしたが、すぐさま地面に手を突き出して飛ばされた勢いを消し体勢を立て直す。
「へー、なかなかやるね(まさかあそこから受け身を取れるなんて。見た目に反して結構荒事になれてる感じかな)」
そのまま追撃に移ろうとするホシノだが、すぐさま片手に持つ盾で身を隠す。その直後に盾とその周りに無数の銃弾が撃ち込まれる。ハルカの周囲にいた数名の傭兵たちの銃口がホシノを捉えていた。そのままハルカを中心にホシノを覆いこむような形で陣形を組んでいく。
「(このままじゃ囲まれるな……)さすがは傭兵だね。この前のヘルメット団とは個人の実力も、集団としての練度も全然違うや。ちゃんとサポートしてよ先生?」
そういってホシノは盾とショットガン、Eye of Horusを構える。
ホシノ対ハルカと傭兵たちの構図が出来上がっていくと同時に、他の便利屋のメンバーと傭兵たちも行動を開始する。最初に動いたのはカヨコだ。サイレンサーを外したデモンズロアから放たれた轟音が、一瞬ではあるがシロコとセリカの意識をそらす。その隙を逃さずムツキがシロコたちの足元に地雷を飛ばして行動範囲を制限した。車両へと隠れていた傭兵たちも続々と出ていき、そのまま対策委員会を校舎へと押し込むように戦線を上げていく。
「ん、結構やる」
「ちょっと先生!あの時みたいにちゃんと指揮してよね!」
「こうなったら私が~……きゃっ!」
遮蔽物に隠れて銃身の冷却と弾倉の交換を終えたノノミが向かってくる傭兵たちを一掃しようと体を起こすが、アルの持つワインレッド・アドマイアーの狙撃によって牽制される形で防がれた。負けずとシロコとセリカの持つWHITE FANG 465とシンシアリティで応戦するが防戦一方であった。
「(いい調子よ!予想通り手ごわいけれど、カヨコが言っていたほど大したことないじゃない!)」
アルは内心でそう思いながら後方からの狙撃によって戦場全体を牽制し続けていた。しかし、本来であれば先生の指揮する対策委員会の面々に対して、ここまで奮戦するなどあり得ないことであった。シッテムの箱による戦場全体の構図と生徒達の位置の把握、高度な演算によって秒単位で予測される残弾数や移動距離によって、傭兵を含む便利屋68を撃退することなど造作もないことのはずであった。それを変えているのが、前線の後方にて目まぐるしく動いているメイドさんであった。
「ムツキ様、その位置より4歩ほどお下がりください。3秒後にグレネードが来ます」
「はーい♪わっ……ほんとにきたよ、ありがとねメイドさん♪」
「カヨコ様、前線で動かれている傭兵の方が被弾されました。回収しますので援護をお願いします」
「了解、細かい動きはそっちに合わせるよ」
「ありかとうございます。では煙幕をお願い致します」
そう指示を受けたカヨコは銃を持っている手とは逆の手でパーカーのポケットからスモークグレネードを取り出し、口で咥えるようにしてピンを抜く。そのまま被弾した傭兵の位置へと投げると遅れてメイドが力強く地面を蹴り、傭兵のもとへと走り出す。
「……!シロコ、セリカ!」
「ん!まずい、
「そうはさせないわよ!」
シロコの動かすドローンとセリカのグレネードによって傭兵の回収を防ごうとするが、カヨコの射撃とムツキの投げた鞄によって阻止される。直後に被弾した傭兵を包み込むようにして白い煙が現れ、その中に飛び込むようにしてメイドが入っていった。
「大丈夫でしょうか?」
「あ、あぁ……すまないな」
「いえ、お気になさらずに。一度後方へ離脱しますので、しっかりとおつかまり下さい」
そういってメイドは倒れた傭兵の膝裏と頭を支えるように手を入れて抱きかかえる。*1彼女の体重のほかに身に付けている銃器や防弾チョッキ、予備の弾薬に手榴弾などの重さを含めると約70㎏ほどの重さとなっているが、メイドは気にする様子もなく後方へと離脱した。
わずかに遅れる形でシロコのドローンから投擲された手榴弾と高速連射が、煙幕を晴らす勢いでそこに放たれるが既にその場に傭兵とメイドはおらず、気づけばそこからかなり離れた後方付近にいた。
「もー!またよ、さっきと同じじゃない!」
「ん……防げなかった」
「すごいですね~☆まるで魔法使いみたいです」
「(……
先生の指揮によって一人ずつ傭兵たちを無力化していった対策委員会の3人だが、その無力化させた傭兵たちをメイドによって素早く回収されて後方へと戻っていく様子に思わず愚痴を吐く。しかし、その様子を見ていた先生は疑問を浮かべる。
「(……そう、まただ。さっきも傭兵たちを回収しに来たときでさえ、こっちに攻撃するようなそぶりは見せなかった。戦闘が始まって以来、
先生は対策委員会のみんなを指揮を続けながら思考を進めていく。
「(見た感じ銃のようなものは持ってないようだけど、あの
対策委員会の子たちを指揮する中で得た情報をパズルのように組み合わせていく。シッテムの箱によって煙幕の中の彼女の動きを問題なく視認できていた先生は自身の脳内で答えを導き出す。
「(傭兵の子たちをその装備ごと難なく持ち上げるような力に、戦場全体をまるで俯瞰しているかのような観察力とその素早い判断力。まず間違いなく彼女が向こう側の軸になっている。彼女がいる以上、持久戦になるね……。こっちはアヤネを除いてたった4人、けど向こうは彼女の動きによって常に数的有利を取り続けている。アヤネのドローンで支援はしているけど、それでもみんなはいつか限界が来る。どこかで攻めないといずれ押し負けるのはこっち側……ホシノもいつまで持つかはわからない以上、こちら側から仕掛けないとまずいね)」
キヴォトスに来て以降、初めて敗北の文字が脳裏によぎるシャーレの先生。被弾した傭兵を後方へと下げたメイドは既に戦場へと戻っており、前線にいるほかの傭兵をサポートする動きをしていた。
「(でもなんで彼女は攻めてこないの?彼女の持つ能力なら間違いなくこちら側を倒せるだけの力を持っているはず……。なのにかたくなにこちらに攻めてこないということは……もしかして、攻めてこないのではなく、
「!わかった、先生」
パズルを組み合わせたことによって一つの仮説を導き出した先生はそれを実行するためにシロコへと指示を飛ばす。シロコは最も近くにいた傭兵に走り出した。先生はシロコに射撃による無力化ではなく、近接戦闘での制圧をするよう指示したのだ。
「……なっ!?」
お互い遮蔽物を用いながらの銃撃戦から格闘術による接近戦へと切り替わったとこにその傭兵は反応しきれず、持っていた銃を蹴りによって弾き飛ばされてしまう。銃を蹴った脚を地面へと戻すと同時に、もう片方の脚で上段蹴りを放つ。とっさに両腕で顔を覆うように防御するが、勢いの乗った蹴りによってその防御を体勢ごと崩される。蹴りを放った脚を体を回転させるように戻しながら地面へと戻すと、再度軸にしていた利き足で本命の3撃目を叩き込む。
「(これは入った………なっ!?」
体勢の崩した傭兵の顔に目掛けて本命の一撃を叩き込んだと思ったシロコだが、その背後から差し込まれた細い腕によって遮られたことで思わず驚愕の声が漏れる。腕を差し込んだ本人であるメイドは特に痛みを感じている様子もなく涼しい顔をしていた。
「やっぱり!シロコ、そのまま畳み掛けて!」
「……ん!わかった先生」
渾身の一撃を難なく防がれて僅かに動きを止めたシロコだが、先生から声を掛けられたことで気を取り直す。体の後ろに回していた銃を構えなおし、射撃と体術を混ぜ合わせた接近戦を仕掛ける。
「……少々手荒になります、お気を付けください」
「え、それってどういう…おわぁ!?」
シロコの蹴りを防いだメイドは逆の手で傭兵の襟をつかんだかと思うと、そのまま勢いよく後ろへと投げ飛ばした。宙を舞うように後方へと飛ばされる傭兵を確認しながらシロコの接近戦へと応じる。その一連の流れを見ていた先生は確信を得る。
「(傭兵の安全の確保を優先した……ちょっと雑だったけど。でもわかったことは、
「……ムツキ!彼女がまずい、助けに行くよ」
「おっけーカヨコちゃ……わわっ!?」
「セリカ、ノノミ!」
シロコとメイドが近接戦闘を始めたことを見ていたカヨコとムツキが援護に向かおうとするが、突如として放たれた弾幕によって妨害される。
「さっきはよくもやってくれたわね!」
「ここから先へは行かせませんよ~☆」
「2人とも!そのまま抑えてて!」
セリカとノノミがムツキとカヨコをメイドとの合流を防ぐ形で立ちふさがる。前線の指揮者を失った便利屋陣営はたちまち動きが鈍くなり、傭兵たちの負傷も増えていく。
「……これは、ちょっとまずいねカヨコちゃん」
「……うん、メイドさんと分断された途端に戦況が逆転した。社長も後ろのほうで頑張ってるみたいだけど、流石に厳しいね」
アルはハルカと傭兵たちによる包囲でホシノを追い込んでいたはずだが、その人数差をものともしないホシノの体力と技術によって押し返されていたのを見てそちらの援護に回っていた為、ノノミを牽制するものがいなくなり、結果として少しずつ押し返され始めていた。
「(とりあえず便利屋68達とメイドさんは分断した、これなら勝機がある!)シロコ、そのままメイドさんを抑え込んでて!セリカ、ノノミ、畳みかけるよ!アヤネも援護をお願い!」
「やっとこっちの番ね!」
「いきますよ、全弾発射~!」
シッテムの箱による補助と先生の指揮によって戦闘力が跳ね上がった対策委員会の面々によって前線にいた傭兵たちが次々とやられていく。メイドによって後方へと運ばれた傭兵たちも応戦するが、数秒と持たずに無力化されてしまう。結果としてメイドが便利屋68と完全に分断、孤立してしまう。ムツキとカヨコは後方、アルのもとへと後退しており指示を仰ぐ。
「ど、ど、どうしてこんなことに!?途中まで順調だったじゃない!」
「やっぱりカヨコちゃんの言う通りだったねー。どうするアルちゃん、このまま撤退する?」
「……メイドさんが孤立したままだけど、正直あそこまで助けに行くのは無謀すぎる」
「で、でも撤退の指示を出したらせっかく雇われてくれたメイドさんとの契約も終了しちゃうし……」
このまま戦闘を続けて部隊の全滅を待つか、早いうちに撤退を指示するかアルは判断しかねていた。どんどんと迫ってくる対策委員会を見ながら冷や汗を流し、そして……
突如校舎に設置されたチャイムが広く鳴り響いた。
「あっ、定時だ。撤収しよーぜー」
戦闘を継続していた者や倒れ伏した傭兵たちが起き上がり、ぞろぞろとボロボロになった車両に乗り込んで撤収作業を始める。
「……え?あ、あなたたち?なんで車両に乗り込んでるの?……もしかして帰るつもり?」
「?もしかしてって言われても定時になったしな。あれだけの金額で雇われたんだし、残業なんかするつもりはないぞ?」
おもわず傭兵たちへと問いかけたアルに対し、その1人がそう答える。
「あ、あれだけの金額って………」
「(あちゃー、やっぱりあの時に言っておくべきだったかな)」
「……社長、傭兵たちが帰るってことは……あ、来た」
カヨコがアルにそう言おうとすると同時にカヨコのスマホへと連絡が入る。
「もしもし、カヨコ様でしょうか。そちらに陸八魔アル様はおられますか?こちらは現在手が離せない状況でして、こうしてお電話になってしまうことについてはご容赦ください。簡潔に状況を教えていただけますでしょうか?」
メイドから届いた通話を取ったカヨコが問いかける。
「……こっちから見ると普通に戦ってるように見えるけど、どうやって連絡をとってるの?」
「企業秘密というものでございます、戦闘に支障がはございませんのでご安心を。それで、雇われた傭兵の方々は撤収作業をしているように見えますが事項2の戦闘継続が不可能になったと判断してよろしいでしょうか?」
「……どうする社長?」
「…………えぇ、そう判断してもらって構わないわ」
「かしこまりました。それでは依頼内容の期間である任務が終了と判断されるまで、もしくは先ほどの条件の二つ目を満たした場合の後者が該当したと判断させていただきます。本日のご依頼は終了いたしました。契約通り、費用を含む依頼料は当社で負担させていただきます。本日は当社をご利用いただき、誠にありがとうございました。機会がございましたら是非、当社へと御連絡下さいませ」
そういって通話が終わると同時に、彼女たちの足元に一枚の白いカードが突き刺さる。どうやってあそこから飛ばしたんだろうとカヨコは考えながら、そのカードを抜きとった。
「それじゃ、もうここにいる必要はないね。傭兵たちも既に撤収したみたいだし」
「そうだねー、ハルカちゃーん!今日はこの辺りで撤収するよ♪」
「は、はい!」
体のあちこちを傷だらけにし、傭兵たちが撤収したあとも戦闘を続けていたハルカだったが、ムツキに呼ばれて引き下がる。
「ありゃ、撤収しちゃったか。それにしてもなかなかしぶとい子だったねー、若いって素晴らしい」
そう言いながら構えていた盾とショットガンをしまうホシノ。
「くっ、このまま終わるわけにはいかないわ!対策委員会、覚えていなさい!」
「アハハ……アルちゃん、そのセリフなんだか三下っぽいよ♪それじゃあねーアビドスのみんな」
ボロボロの車両へと乗り込んだ便利屋68はそのままアビドス校舎から走り去っていく。彼女たちを雇ったメイドを残して………。
「さて……当社と致しましては既にあなた達と戦う理由はないのですが、まだ続けられますか?」
「あたりまえよ!一丁前に襲撃に関わっておいて、はいそうですかって逃がすわけないじゃない!そうですよね、シロコ先輩!」
「…………ん」
セリカにそう聞かれ、弱弱しく答えるシロコ。メイドと便利屋68を分断して以降、彼女を抑え続けていたシロコだったがその顔色は悪い。先生の指揮もあっていつも以上に実力を発揮できていたはずだったが、そのすべての攻撃をメイドによって軽く容易くいなされ続けていた。体術を仕掛ければ脚を払われて体勢を崩され、射撃を行おうとすれば素早く銃の先端をつかまれ、銃口を逸らされてしまう。まるで武道の達人に挑んでいる素人のような扱いを受けていたシロコは、大きい自信とそれ相応の実力を持っていたこともあって、珍しく弱気になっていた。
そうシロコとメイドが向かい合っていると、前線へと上がっていったノノミと1人集団で戦い続けたホシノが戻ってくる。そうしてごく自然に取り残されたメイドを囲む形で陣形が組まれる。
「さきほど申した通り、このまま続けるようであればお相手しますが、既に依頼は終了しているため自衛としてでの対処となります。その点はご了承ください」
「その軽口を今すぐ叩けないようにしてあげるわ!」
メイドからの忠告を受けたセリカが飛び掛かるようにしてメイドへと向かう。
「ん!まってセリ……」
だが次の瞬間、メイドの姿がブレた。
「「……え?」」
一部始終を見ていたシロコとノノミが状況に理解できずに声が重なる。背後から飛び掛かったはずのセリカが地に付していたからだ。
「……え?な、なんで……?」
セリカ本人も何が起こっているかがわからず、そう呟くだけだった。セリカがそう呟くと同時に、メイド目掛けて大型の盾が投げ込まれる。
「…………」
それを片手で軽く受け止めたが、その直後にさらなる衝撃がメイドを襲う。顔を向ければそこには盾に蹴りこむような姿勢でホシノの姿があった。ショットガンをメイドの顔へと突き付けるホシノと、その銃口を手で覆うようにして受け止めているメイドの構図が出来上がっていた。
「……お前、私の後輩に何をした?」
「あくまで自衛ですよ。怪我は負わせていませんのでご安心を」
そういってメイドはホシノを盾ごと振り払う。空中で身をひねりながら華麗に着地して盾と銃を構える。それにつられてシロコとノノミも銃を構える。一触即発の状況へと陥るが、その空気を換えるようにして先生が飛び込んできた。
「ちょ、ちょっとみんな!一旦ストーップ!」
「「「せ、せんせい?」」」
「みんな一旦落ち着いて!ほら、深呼吸して深呼吸!」
わずかに弛緩した空気のなかで、先生に言われて深呼吸をする対策委員会のメンバー。メイドの方へと振り返れば地に伏せたセリカを抱きかかえており、本人も何が起きているかが理解できていなかった。
「穏便に対応したつもりですが、お怪我はございませんか?」
「……え、あ、え?あ…は、はい」
「それはなによりです。シャーレの先生、この方をお渡ししても?」
「あ、わかった。ほらセリカ、大丈夫?おーい、セリカー?」
「…………はっ!」
「おっ気が付いた?それじゃ降ろすね、よいしょっと」
抱きかかえられたセリカを受け取った先生はセリカへと声を掛け、気が付いたとわかると地面へと起こすようにゆっくりと降ろした。
「えっと……メイドさんはもうこちらと争う気はないんだよね?」
「はい。当社と致しましても既に依頼が完了したとご依頼主様から了承して頂いておりますので、争う理由はございません」
「よし、それならよかった。………ホシノもそれでいいかな?セリカも怪我をしてないみたいだし」
「…………うへ~、先生がそう言うならわかったよ。メイドさんもごめんね?いきなり飛び掛かっちゃって」
「あっ、その……私もいきなり……す、すみません」
「はい、こちらこそ申し訳ございません。皆様にお怪我が無くてなによりでございます」
緊迫していた空気は完全になくなっており、穏やかなものへと変わっていた。それを確認した先生は改めてメイドへと問いかける。
「えっと、今なら聞いてもいいかな?メイドさんは便利屋の子たちに雇われていたってことでいいのかな」
「はい、そのように捉えていただいて大丈夫です」
「どんな依頼で雇われてたの?やっぱりアビドス高校の襲撃?」
「申し訳ございませんが他のお客様との契約内容ですので、お答えすることはできません」
「……そっか」
「はい、ですがアビドス高校の皆様へご迷惑をおかけしたことは事実ですので……」
そういってメイド服のポケットからカードを取り出し、セリカへと渡す。
「……え?えっわ、私?」
「はい、あなたにこのカードをお渡ししておきます。お困りごとがございましたら、是非ご連絡ください。Aid Ladyの信頼にかけて、アビドスの皆様を
そういって渡したのは白いカードに
「また、機会がございましたら是非当社へとご連絡くださいませ」
「うへ~、それはありがたいけど、うちもそんなに余裕が無くてね」
「アビドスの皆様でしたら割引にてお受けいたしますよ」
「まっ、覚えてたらねー」
「はい、当社のご利用を心よりお待ちしております。それではわたくしはこれで失礼致します」
メイドはそういうと振り返り、アビドスの校舎から離れていった。その背が見えなくなると、先生へと質問が殺到した。
「いやーおじさんびっくりしちゃったよ、最近のメイドさんはすごく強いんだね」
「いやーホシノ?それはあの子たちだけだと思うな……多分」
「ん、“たち”ってのはどういうこと?」
「それはねシロコ、あの子とそっくりな子があと4人いるんだって」
「よっ、4人もあんなのがいるの!?」
「ほら落ち着いてセリカ、あんなのってのは失礼だよ。それにもらったカードは無くさないようにね。まずは教室に戻ろっか?みんなも疲れてるでしょ?アヤネも待ってるから」
先生がそういってその場を締めくくられ、教室へと戻っていった。ただ一つ、セリカの貰ったカードに違和感を覚えながら。
この作品のお気に入り登録と評価、感想が何よりの励みとなります。どうかこれからも頑張って投稿していきますのでなにとぞよろしくお願いします。
登場するメイドさん達の名前ってあったほうがいい?
-
いる
-
いらない
-
そんなこといいからはよ続き書け