機械少女と青春を   作:バグキャラ

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普通のお嬢様とメイド

 ここキヴォトスでは、その広大な面積によって連邦生徒会の管理が行き届いていないエリアがいくつか存在するが、それとは別に管理がほぼ不可能と判断され、実質放棄されたようなエリアも存在する。ここもその1つであり治外法権がまかり通る闇市、通称ブラックマーケット。

 

 キヴォトスに存在するありとあらゆる品物が取り揃えられているが、闇市と言われるだけあって多くの企業や団体が違法行為を行い、違法な物品の取引や不認可の違法娯楽部が存在している。

 

 その広さは闇市という概念に囚われておらず、学園自治体数個分という圧倒的な広さを持っている。その広さを持つだけあってそこを主軸とした企業も多数所在しており、キヴォトスでは違法となる手段によって稼いだお金を預金することやそのお金を違法な兵器へと変えているブラックマーケット専用の金融機関、いわゆる闇銀行やブラックマーケットの治安を維持する専用の組織なども存在している。その一つである警備部隊マーケットガードはオートマタによって構成された部隊というだけではなく、ここブラックマーケットに流通している強力な武器や戦車、違法に改造された軍用ヘリをも兼ね備えた強力な部隊である。

 

 またブラックマーケットは多くの学園から退学した元生徒や追放された生徒が多く存在しており、そんな彼女たちによって構成された組織やグループも数多く既存している。そのようなこともあって、闇市と言われているブラックマーケットは常に活気があるような場所でもあった。

 

 そんな場所のとある通りにて1人の生徒と、それを抱きかかえるようにして走るメイドの姿があった。

 

「……おい、そっちにいったぞ!」

 

「あっちだ!絶対に逃がすな、追え!」

 

 無数の生徒に追われるような状況で。

 

「お前はそこの路地裏から周りこめ!こっちとそっちで挟み撃ちにする!」

 

「わかった!お前ら、一緒についてこい!」

 

 時間が経つにつれて彼女たちを追うものもどんどんと増えていき、瞬く間に数十人という団体が出来ていた。

 

「あわわ……ど、どうしてこんなことに……」

 

「…………」

 

 追われているであろう1人の生徒は顔を真っ青に染めているが、それを抱えているメイドは無表情のままであり大通りや路地裏を駆け回るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数時間前……

 

「本日は当社をご利用いただき、誠にありがとうございます。Aid Ladyの者でございます。先程ご連絡いただいた阿慈谷ヒフミ様でお間違いないでしょうか?」

 

「はっ、はい!そうです!今日はよろしくお願いします!」

 

「はい、本日はよろしくお願い致します。改めてご依頼された内容の確認をよろしいでしょうか?」

 

 ブラックマーケトの入り口にて、1人の生徒とメイドが向き合っていた。

 

ご依頼主は阿慈谷ヒフミ様、ご依頼内容はブラックマーケット内でのヒフミ様の護衛、期間はヒフミ様の予定を終えられてブラックマーケットを出られる、又は事前に頂いた料金分の仕事まで。場所はここブラックマーケットの入り口ということでよろしかったでしょうか?」

 

「はい、それで大丈夫です!えっと……こちらが今日の依頼料になります!」

 

 そういって彼女がメイドに向けていくらかの金銭が入った封筒を差し出す。

 

「ありがとうございます、確かに依頼料の方を受領いたしました。こちら領収書と新しいカードとなっております、ご確認ください」

 

 それを受け取ったヒフミは自身の背負っているバッグへと仕舞い、再度背中へと戻すとメイドの方を見る。自身より少しだけ高い身長と石像のように気高く、同性の彼女も見惚れてしまうような美しい顔。長く伸びた髪は頭の後ろでお団子のようにまとめられている。皺1つないメイド服を身に纏っており、服の上から浮いて見えた体のラインはまるでモデルのようである。主に忠誠を尽くすような佇まいをしており、その吸い込まれそうな瞳はヒフミを捉えていた。

 

 そんな彼女を見て思わず顔をそむけてしまったヒフミは、少し顔を赤らめて恥ずかしそうにし、そして急かすようにしてブラックマーケットの入り口へと向き直る。

 

「そ、それでは行きましょう!」

 

「かしこまりました」

 

 そうしてメイドを連れた彼女はブラックマーケットの敷地へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 ブラックマーケットの通りを歩くヒフミの後ろには、彼女の付き人のような形でメイドが歩いており、その光景は多くの視線を集めていた。それは通りに店を構えるものや、その店を利用するもの。彼女とすれ違うものや、路地裏でたむろしているものなど様々である。

 

 その状況はヒフミにとって非常に居心地が悪いことこの上なかった。メイドだけならまだしも、トリニティの制服を着た彼女もここブラックマーケットでは珍しい光景であり、その2人が揃っているとなれば視線を集めることなど必然的であった。そのため、視線を向けているものたちからは多種多様な想像をされており、お忍びでブラックマーケットへと訪れているどこかのお嬢様や、ブラックマーケットの治安組織であるマーケットガードとの繋がりがあると噂されているカイザーグループの重役のご令嬢など様々である。

 

 しかし、そのような状況でも特に気にするようなそぶりは見せず、ただ淡々とヒフミと出会ったときと同様に無表情のままで彼女の後ろを歩いていた。

 

 そして多くのものに視線を向けられながらも目的のものを手に入れたヒフミは、ブラックマーケットを出る途中に不良の2人組に絡まれる。

 

「おいおい、なんでこんなところにトリニティのお嬢様がいるんだよ?」

 

「さぁな。そんなことよりもお嬢ちゃんさ、うちら金に困ってるんだよね。ちょっと貸してくれない?」

 

「え…えっ?わ、私…ですか…?」

 

 いきなり話しかけられたことで戸惑うヒフミ。

 

「逆に誰がいるんだよ?ほら、ほんのちょっとでいいからさ」

 

「いい服着てるんだからさ、たんまりもってんだろ?」

 

「えっい、いや…私そんなお金持ってないです…」

 

「嘘つけって、さっきあそこで何か買い物してただろ?お前が金持ってることぐらい知ってるんだよ」

 

「ほら、ちょっとそこで跳ねてみろよ。痛い目みたくはないだろ?」

 

 じりじりと二人組に詰められるにつれて、彼女も後ずさりをしていく。そして後ろに控えていた者とぶつかったことでその存在を思い出す。

 

「そっ…そうだ!メイドさん、この状況をどうすれば…!」

 

「あん?なんだよ、メイドも一緒にいたのかよ」

 

「おいおいマジか、こいつは鴨がネギ背負ってきたようなもんだろ」

 

「……いや別にメイドはネギってわけでもなくないか?」

 

「どっちでもいいだろ、金持ってることには変わりないんだし。……そっちのメイドも痛い目見たくなければ、おとなしく金置いてったほうが身のためだぞ?」

 

「……いかがされますかヒフミ様。ご要望であれば排除致しますが?」

 

「えっ、えっと……できれば穏便に…」

 

「かしこまりました」

 

 メイドとぶつかったと同時に彼女の背中に隠れたヒフミに対してメイドが尋ねると、ヒフミがそう答える。

 

「…おい、さっきから何2人でコソコソしゃべっ………」

 

「あ?おい、どうしたん…………」

 

 その様子を見ていた不良の2人組が怪訝な様子で近づこうとし、うち1人が急に音を立てながら倒れる。突然の状況に理解できなかったもう1人が声を掛けようとして、その者も続けるようにして倒れる。

 

「…………えっ?」

 

 状況が理解できなかったのは、メイドの背中で隠れていたヒフミも同様である。

 

「えっと……メイドさん、さっき私は穏便にって……」

 

「はい。ヒフミ様の仰せのとおり、穏便に対応致しました。あの方たちは気を失っているだけですのでご安心を」

 

 先程までこちらに話しかけていた2人組がヘイローが消えて倒れているのを見て、思わず()()を想像してしまったヒフミ。だがメイドの言葉によって()()を否定され、息を吐きながら安堵する。

 

「そ…そうなんですね。それはよかっ……た?(いや、でも私さっきあの2人に恐喝されて)」

 

「ヒフミ様、続けるようで申し訳ございませんが、急いでこの場を離れたほうがよろしいかと」

 

「……えっ?」

 

「どうやら先程の様子を見られていた方たちが、こちらへと近づいてきているようです」

 

 メイドの言葉によってすぐさま辺りを見渡すと、先ほどの2人組と同じような者たちがこちらを囲むようにしてゆっくりと近づいてきていた。

 

「えっ…え、えと、えっと……どっどうすればメイドさん!?」

 

 言葉を詰まらせるようにしながら、メイド服を抱きしめるように掴みつつ、メイドへと問いかけるヒフミ。

 

「ふむ…ヒフミ様、背負われてる鞄を前にしていただけますでしょうか?」

 

「えっ……こ、こうですか?」

 

 メイドに言われるがままに自身の背負ったリュックを体の前の方へと持ってくる。

 

「はい、それで結構でございます。それでは少し失礼して…」

 

「え……えっ、わわっ!」

 

 メイドが突然しゃがんだかと思うと、いきなり自分の体が浮遊感を覚えて思わず目を閉じてしまう。しかし、その感覚も一瞬であり、目を開けると自身の顔のすぐ近くにメイドの顔があった。

 

「えっ……お、お姫様だっこ……ですか///」

 

「はい。少し動きますので、舌を嚙まれないようお気をつけください」

 

「え、それってどういう…………え、えーーー!?」

 

 メイドに抱きかかえられて忠告を受けたかと思うと次の瞬間、ヒフミの視界が青い空でいっぱいになっていた。

 

「うっ浮いてるー!?」

 

「いえ、浮いてはいませんよ。汎用フレームでは、せいぜい滑空程度が関の山です」

 

 自身の体が重力へと逆らったかと思うと、次の瞬間にはヒフミの全身に体重が戻ってくる感覚が訪れる。

 

「えっ……今はどんな状況なんでしょうか……?」

 

「はい。先程の方たちの包囲を抜けるためにヒフミ様の体を抱き上げた後に、近くの建物の屋上へと移動しました」

 

「お、屋上って……(たしかにさっきの場所の近くには建物はあったけど、どれも高かった気が……)」

 

 メイドから聞かされた状況に困惑の顔色を浮かべるヒフミ。いまだメイドに抱きかかえられた状況であり、建物から下を見下ろすことはできないが、自身に当たる風の強さと視界に入る他の建築物から、自分たちのいる建物の高さを把握しようとして……。

 

「先程ヒフミ様が仰いました通り穏便に対応してほしいとのことであれば、このままブラックマーケットの外を目指しますがいかがされますか?」

 

「え、えっと……はい、その方向でお願いします」

 

「かしこまりました。また、ブラックマーケットの外へと向かわれる途中に想定外の事態が発生した場合、ヒフミ様の安全確保のための対応によって事前に頂いた料金分の仕事が終了する可能性がございます」

 

「え……えぇ!?」

 

「その点につきましては、事前に考慮して頂きますようお願い致します」

 

 自身を抱えているメイドが言うには、ブラックマーケットからの脱出の途中で護衛が終了する場合があるといい、驚愕の声を上げるヒフミ。先程の包囲から抜け出したばかりだというのに冷や汗が止まらない彼女だが、そんなことを気にする様子を全く見せないメイド。

 

「では、これよりブラックマーケットの外へと向かいます。予定しているルートが状況によっては変更になる場合がございます。またそれに伴いまして、激しい動きを取る場合もございます。ヒフミ様にお怪我を負わせるような事態にはならないよう最大限の努力を務めますが、あらかじめご了承下さい。それでは参ります」

 

「えっ…いや、まだ心の準備があぁぁぁ!?」

 

 心の準備が出来てないからもう少しだけ待ってくれと言おうとしたヒフミだが、建物から飛び降りたときの勢いと風圧によってかき消されてしまう。そのまま地面へと着地してその場所に小さなクレーターを作ったメイドだが特に気にするような様子を見せずに、口から魂のようなモノが飛び出ているヒフミを抱きかかえたまま駆けだしたのであった。

 

 

 

 ヒフミを抱えたメイドは大した疲れを見せないまま、ブラックマーケットの大通りや路地裏を駆け抜けていた。ビルの上から飛び降りた際に気絶していたヒフミは既に目を覚ましており、これからどうするべきかと考えていた。

 

「(あれから(飛び降りて)からどのくらい経ったんだろ……私たちのことを追いかけてる人たちはなんでか知らないけど、びっくりするほど増えてるし、私を抱えているメイドさんは時々すごい動きをするし……さっき言っていた依頼が途中で終了する可能性もあるって言っていたし……ちょっと待って)」

 

 思考を続けていたヒフミが先ほどメイドが言っていたことを思い出し、彼女の思う最悪の展開を想像してしまう。思わず体がブルりと震えて、体の前にあるリュックを持っている手に力が入る。そして恐る恐るメイドへと尋ねた。

 

「あ、あのーメイドさん?さっき言っていたことなんですけど……」

 

「はい、いかがされましたか?」

 

「さっき言っていた途中で料金分の仕事が終了する可能性があるって言っていたことなんですけど……もしかして、あの後ろで追ってきている人たちの目の前で終了する可能性があるってことですか……?」

 

「ご安心ください、そのような状況でヒフミ様からお受けしたご依頼を終了することはございません。最低限ヒフミ様の安全が確保されたと判断するまで続けさせて頂きます。また、依頼料の追加につきましては常時受け付けております。そのようであれば、当社としましても自信をもってヒフミ様をブラックマーケットの外へと送り届けることが出来ますので、その辺りも含めて是非ご検討をお願いします」

 

「は、はい…。でも、もう今日のお小遣いはあのグッズで使い切っちゃって……」

 

「左様でございますか」

 

「はい……」

 

 いきなり放り出されることはないと聞くことが出来たが、それでも顔色は悪いヒフミ。このまま何事も起きなければブラックマーケットを出られると思っていたが、現実はそう甘くはない。

 

「……いたぞ、あそこだ!」

 

「その道を塞げ!ここで捕まえる!」

 

 メイドが進んでいた通りの奥で追いかけていた集団の一部が現れる。その人数と手に持った銃と鉄パイプで通路ごと覆うようにして立ちふさがり、後ろから追いかけてくる者たちと挟み撃ちの状況に陥る。

 

「メ、メイドさん!?挟まれちゃいましたよ!」

 

「ふむ……ヒフミ様、少し激しく動きますので、しっかりとおつかまり下さい」

 

「は…はい!」

 

 自身を抱きかかえているメイドの首元をリュックごと抱きつくようにして腕を回すヒフミ。それを確認したメイドは足を止めるどころか、更に加速していく。そして道を塞いでいるものたちとの距離がもう目の前だと感じた瞬間……ヒフミの視界が90度回転する。

 

「……え?」

 

「「「「「……は?」」」」」

 

 道を塞いでいたものたちも思わず口からそうこぼした。目の前を走ってくるメイドが突如視界から消えたかと思うと、そのまま通路脇の建物の外壁を走り出したからである。

 

「…え、えぇーー!?めっメイドさん、今壁を走って……!?」

 

「はい。先ほどの方々を相手にされますと事前に頂いた料金分の仕事が終了となりましたので、このような形で回避することに致しました」

 

「そ…そうなんですね……(いや、だからといって普通に壁を走るの……?)」

 

 自身の抱いた疑問を口に出すことはないヒフミだったが、それでも彼女の表情に浮かび上がったそれは非常に困惑したものだった。

 

「なっ…なんてやつだよ!」

 

「壁を走るなんて只者じゃねえぞ……だけどよ!」

 

「あぁ、そんなヤバそうなやつがついているんだ!あのトリニティの制服を着たガキは絶対大物だぜ!」

 

「仲間たちに連絡しろ、絶対にここから出すな!」

 

「「「おう!」」」

 

 現状、すでにヒフミとメイドを追う者たちは大きな集団になっていたが、先ほどの様子をみて確信を持つ。

 

「マーケットガード達に獲物をとられるわけにはいかねぇ!絶対捕まえるぞ!」

 

 そうして彼女たちを追うものは更に規模を拡大していくと同時に、ここブラックマーケットの歴史の中でも有数の大事件へと発展していくことになる。そして……

 

「……ヒフミ様、どうやら頂いた料金分の仕事はこれで終了となりそうです」

 

「ええっ……も、もうですか!?どうして……あっ、あれは!?」

 

 突如としてメイドがヒフミに話しかけ、その内容を聞いた彼女が理由を聞こうとして視界の端にとある武装した集団を捉える。

 

「止まれ!貴様たちがこの騒ぎを起こしている犯人か!大人しく投降しろ!」

 

「マーケットガード!?どうして私たちを!?」

 

「どうやら後ろの者どもから逃げているのを目撃した人達には、私たちがこの騒ぎの原因として見られていたようですね」

 

「そっそんな!?ただ不良の人たちから逃げていただけなのに………はっ!そ、そうだメイドさん!ここで私をいきなり降ろしたりなんてしませんよね!?」

 

「ご安心ください。先程申し上げました通り、ヒフミ様の安全が最低限確保されたと判断するまでは、そのようなことは致しません」

 

「そっ、そうですよね!お願いしますね!」

 

「はい。ですが、後ろの者たちから追われている状況で前方の武装した集団を、ヒフミ様の安全を確保しながら対応するというのは非常に難しいので多少手荒になりますが、よろしいでしょうか」

 

「うぅ……はい、お願いします!」

 

「かしこまりました。ではしっかりとおつかまり下さいませ」

 

 そういってメイドは武装集団へ向けて速度を上げた。

 

 

 

 

 

 騒ぎが起きているブラックマーケットの通りとは離れた別の場所にて、4人の生徒と1人の大人が歩いていた。

 

「以前のヘルメット団との戦闘にて手に入れた戦略兵器の破片の解析が終了しましたが……予想通りと言いますか、やはりここブラックマーケットから流れていた違法な兵器と一致しました」

 

「ん、となるとアビドス高校を襲撃していたヘルメット団たちはここから武器を手に入れていたってこと?」

 

「はい、そう考えるのが妥当なのですが……」

 

「それらを手に入れるためには莫大な資金が必要で、それをあのヘルメット団が用意出来ていたとは考えづらいってこと?」

 

「はい、セリカちゃんの言う通りです。その秘密を探るべく、皆さんには手掛かりを探してほしいと思います。先生もお手数ですが、協力して頂けたら……」

 

「勿論だよ!生徒のお願いだからね、なんでも力になるよ」

 

「うへ~、助かるよ~」

 

 アビドスの面々と先生はそう言いながらブラックマーケットの通りを進んでいると、突如オペレーターのアヤネが警告を発する。

 

「皆さん!何者かが皆さんのいる場所に向けてもの凄い速度で進行中です、気を付けてください!」

 

 アヤネがそういうと同時に全員が武器を構え、先生もシッテムの箱を手に持つ。そうして数秒後、全員が困惑の表情を浮かべた。彼女たちの目線の先に生徒を抱きかかえたメイドが走ってきたからである。

 

「うへ~、もしかしてあのメイドさんって……」

 

「ん、昨日見た人?」

 

「いや、ちょっと違うような……?」

 

「あのメイドさんとは別の方でしょうか?」

 

「………とりあえず、話だけでも聞いておく?」

 

 先生がそう話すと、みなが疑問を浮かべながらも頷いた。

 

 

 

「……おや、あちらの方々は。ヒフミ様、少し止まりますのでお気をつけください」

 

「はっ、はい!」

 

 ヒフミを抱えたまま、もの凄い速度で走っていたメイドは見たことのある顔を見つけるとその者の前で立ち止まる。そうして、オペレーターのアヤネを除くアビドスの4人と先生、ヒフミを抱きかかえたメイドという不思議な構図で対峙する。最初に口を開いたのは先生だ。

 

「えっと……メイドさんでいいのかな?」

 

「はい。その認識で大丈夫でございます、シャーレの先生、及びアビドス高校の皆様。先日は当社の者がご迷惑をおかけいたしました」

 

「やっぱり…!えっと、今ってどんな状況か教えてもらえる……聞こうとしたけど依頼中みたいだし、聞けない感じかな?」

 

「ふむ、少々お待ちください。ヒフミ様、よろしいでしょうか?」

 

「……えっ?」

 

「こちら、シャーレの先生と呼ばれている方でございます」

 

「え、えっと……あのシャーレの先生ですか?」

 

「はい」

 

 メイドに抱きかかえられたまま話が進み気まずいヒフミだったが、メイドに話かけられたことで我に返る。

 

「現時点では、さきほどの者たちの追跡を振り切っている状態でございます。そのため、契約内容であるヒフミ様の最低限の安全が確保できたと判断してよろしいでしょうか?」

 

「えっと…その、この人たちは大丈夫なんですか?」

 

「はい。以前私とは別の者が対応しており、問題ないとの報告を受けております。ヒフミ様に対して危害を加えられることはないかと」

 

「そ、そうなんですね」

 

「はい、一度降ろしますので足元にお気を付け下さい」

 

 そういって長い間ヒフミを抱きかかえていたメイドはヒフミを地面に降ろした。

 

「それでは本日の依頼は依頼内容の期間である、ヒフミ様の予定を終えられてブラックマーケットを出られる、又は事前に頂いた料金分の仕事まで、の後者を満たしたと判断させていただきます。よろしいでしょうか?」

 

「はっ、はい!それで大丈夫です。今日はありがとうございました!」

 

「かしこまりました。それでは本日のご依頼はこれで終了させていただきます。本日は当社をご利用いただきまして、誠にありがとうございました。また当社のサービスをご要望の場合はお気軽にご連絡くださいませ」

 

 そういってヒフミへと一礼したメイドは先生の方へと向き直る。

 

「お待たせ致しました」

 

「……おわった感じかな?」

 

「はい」

 

「それじゃあどんな状況か聞かせてもらっても……」

 

「そちらの件ですが私ではなく、ヒフミ様にお聞きしたほうがよろしいかと。お客様との契約内容をこちらから吹聴するようなことはできません。また私とヒフミ様との間で今回の事態の認識に齟齬が生じている場合もあるため、その方が確実であると判断します」

 

「そっか。ならあとでヒフミに聞こうかな?」

 

「はい、そのようにお願いします。ヒフミ様、大丈夫でしょうか?」

 

「は、はい……」

 

「よろしくお願い致します。また契約内容とはいえ、ヒフミ様をブラックマーケットの敷地の外へとお連れすることが出来なかったお詫びといたしまして、先ほどの者たちにつきましてはこちらで対応するとしましょう」

 

「えっ……い、いいんですか!?」

 

 依頼が終了してしまい、どこか不安に感じていたヒフミだが思わぬ提案によって表情を明るくする。この後に先ほど追ってきた人たちと遭遇してもメイドさんは一緒に逃げてくれないのだと思っていたこともあって、その心境の上り幅は大きかった。

 

「はい。それではアビドスの皆様も、当社へのご連絡を心よりお待ちしております」

 

 そういってメイドはカーテシーを披露すると、先ほど走ってきた道を逆走するようにして駆けだした。その場に残されたヒフミに対して、アビドスの4人と先生の視線が突き刺さる。

 

「……それじゃあ、説明。してもらってもいいかな?」

 

「は……はい……」

 

 そうして囲まれるような形でヒフミは今日起こった出来事を一から説明し始めた。

 

 

 

 

 先生含むアビドスの面々と立ち会った場所から少し離れた地点にて、別れたメイドはものすごい速度で走りながら通信をとっていた。

 

「(Butler(執事)()()()()()()の配備をお願いします)」

 

『かしこまりました、ビルにて待機中の機体に武装の輸送させます。輸送地点はブラックマーケットでよろしいでしょうか?』

 

「(はい、ご依頼されたお客様の脅威となりうる存在との対応に必要な可能性があります。代表にはそう連絡をお願いします)」

 

『かしこまりました。現在、待機中の機体に武装を輸送させています。先程送りました合流地点にてお待ちください』

 

 メイドは建物の外壁や路地裏、壁に付けられた室外機を足場に縦横無尽にブラックマーケットを駆けまわっていた。そしてその後ろを武装したオートマタや軍用車両が追いかけるように走っており、ブラックマーケットの上空には武装ヘリがメイドの位置を常に把握するような形で飛行していた。

 

 ヒフミ達を追っていたものたちが、再度彼女を追いかけることがないように注意を引きながら合流地点に向かう。この事態の元凶となった不良グループたちは、すでに彼女が走って向かう過程で全員が彼女の手によって無力化されており、通路脇に気を失った状態で転がっていた。

 

「絶対に逃がすな!マーケットガードの誇りにかけて絶対に捕まえろ!対象の負傷、建物への損害は気にするな!」

 

 指揮系統を務めているであろうオートマタから発せられた指示が部隊全体へと伝わり、メイド目掛けて攻撃が更に激化する。彼女の通った道を荒れ地へと変えながら追いかけていき、そしてブラックマーケットの中心から遠く離れた交差点にて囲む形で追い詰めた。その中心にメイドは立っており、彼女目掛けて多くの兵器の矛先が向けられていた。

 

「降伏しろ、もう逃げ場はないぞ」

 

「私を追うためだけに、ずいぶんと散らかされましたね」

 

「ふん、この程度の被害などここブラックマーケットでは日常茶飯事だ。おとなしく両手を上げろ、女性だからといってて手加減するつもりはないぞ?」

 

「いえ、ご心配なく。ちょうど今着いたとのことなので」

 

「……なに?」

 

 そうメイドが話し、疑問を浮かべた指揮官だったが、その直後にメイドの隣に腰ほどの高さをした白い長方形の立方体が落ちてきた。その状況に思わず武器を向ける部隊たちだが、指揮官が手を挙げたことで抑えられる。そんな様子を気にも留めずに脚で小突くようにして蹴ると中から一丁の銃が飛び出し、それを抜き取ったメイドが体の前に構える。銃の全体は白く塗装されており、黒のラインがデザインされている。

 

「さて…このまま何もせずに引かれるのであれば、こちらも引き下がりますが、いかかがされますか?」

 

「……()()戦力差を前に抵抗するつもりか?」

 

「いえ、こちらとしては()()()()の戦力差で戦うつもりかとお聞きしているのですが、交戦の意志があると捉えても?」

 

 メイドの周りには多くの兵器が存在しており、上空にも武装したヘリが彼女を捉えていた。その状況を認識できていないであろうはずもなく、再度指揮官が訪ねる。

 

「それはこちらのセリフだ。突如として銃を装備したのかと思えば、ただの小銃とはな……。いいだろう、付き合ってやろうではないか。せいぜい死なないよう気をつけるがいい、やれ」

 

 指揮官が攻撃を止めるために挙げていた手を下ろすと同時に、その場が爆炎で包まれる。多数の弾丸や砲弾、ミサイルを撃ち込まれた交差点は灰燼と化しており、その周りの建物も続けるようにして崩壊していく。

 

 粉塵が収まり、辺り一面が瓦礫の山とかしているのを見て指揮官は確信する。

 

「……あっけないものだったな。お前たち撤収する……なっ!?」

 

 振り返って部隊への帰還命令を指示しようとした指揮官のすぐ隣を白い光線が駆け抜け、彼の目の前にいた部隊と車両を消し飛ばした。思わぬ出来事に再度瓦礫の山へと振り返る。そこには傷ひとつなく、汚れ1つないメイド服に身に纏ったさきほどの人物が立っていた。

 

「……ばっ、馬鹿な!?あれだけの攻撃で……」

 

「先制攻撃を確認致しました。交戦の意志があると判断いたします。お覚悟を」

 

 指揮官が驚き、驚愕の声を上げると同時にメイドの姿がそう呟くと姿が消える。

 

「ど、どこへいった!?」

 

 突如として目の前から消えたメイドを慌てて探す指揮官。しかし探しても見当たらず、逃げたかと思った次の瞬間に彼の目の前に、上空を飛行していたはずの武装ヘリが胴体部に大きな穴をあけて墜落する。

 

「なっ!?」

 

 墜落と同時に爆発が起こり、目の前にいた指揮官はその衝撃で吹き飛ばされる。その勢いはすさまじく、体を数回リバウンドさせながら転がるようにして飛ばされていき、砲身がひしゃげて使い物にならないボロボロの戦車へとぶつかることで止まった。

 

「な…なにが、起こって……」

 

 目の前で起こっている自体が把握できずにいた指揮官はそう呟くだけであった。ブラックマーケットの治安を維持する部隊が玩具のように破壊されていく。粉塵の中から放たれる白い光線は、装備しているはずの防具や装甲の抵抗を許さずに消し炭へと変えていた。

 

 そうして数分後には、いたるところで火の手があがっており、残っているのは部隊の自慢であった強力な兵器たちの残骸とボロボロの戦車に背もたれている指揮官。そして自身に銃を突きつけるメイドだけであった。

 

「……化け物が…」

 

「失礼ですね、淑女(Lady)ですよ」

 

 そういって引き金を引き、背もたれていた戦車の残骸ごと指揮官を消し飛ばした。

 

「これで終わりですね。消火活動とあと片づけが終わりしだい、帰還すると致しましょう」

 

 手に持っていた銃を白い立方体へとしまうと、火の手が上がっている場所へと向かいだす。

 

「……ここも十分荒れましたが、あちらもずいぶんと派手にやっているようですね。ヒフミ様……謙虚で大人しい方だと思っておりましたが、銀行強盗とは。ヒトとは見かけによらないものですね」

 

 先ほどの機体専用の装備を持ってきていた者からの報告によれば、どうやら先ほどの先生とヒフミを含んだアビドスの面々は銀行強盗をしていたとのことだ。そしてそのリーダーを務めるものは先ほどご依頼を受けていた阿慈谷ヒフミだというだから驚きである。

 

「事前にご依頼料を全額払われていたので、今後ともお付き合いしたいと考えておりましたが考えを改める必要がありそうですね」

 

 金払いのいいお客様とは是非お付き合いしたいが、銀行強盗をするようなヤンチャな方とはご遠慮したい。そう思いながらメイドは消火活動へと勤しんだ。

 

 




 今回登場したメイドさんも前回とは別個体となっております。ユウカの依頼を受けた子がA、便利屋68の依頼を受けた子がB、今回登場したヒフミの依頼を受けた子がC、途中で装備を持ってきてくれた子がDという程度の認識で大丈夫です。

改めましてここまで読んで下さり、ありがとうございます。感想やお気に入り登録、評価や誤字報告が大変励みとなっておりますので、是非お願いします!

登場するメイドさん達の名前ってあったほうがいい?

  • いる
  • いらない
  • そんなこといいからはよ続き書け
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