機械少女と青春を   作:バグキャラ

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 本作とは変わった展開を書いておりましたので、多少時間が掛かりましたが投稿します。この話を読まれた方には、こんなの違うと思われる方もおられると思いますが、二次創作ですので大目に見ていただけたら幸いです。

 特に便利屋68の方は自分の完全な妄想ですので、どうかご容赦ください。また、前回の予定でヒナ委員長を登場させる予定でしたが、長くなりすぎたので次回の登場予定になります。


混沌とした戦場

「……もうすぐ終わりそうですね」

 

 紫関ラーメン跡地の近くに立つ建物のそばでメイドはそう呟いた。彼女の目の前に広がっている光景は、シャーレの先生が指揮する対策委員会の面々によってあとから合流した傭兵たち全員が倒れ、それらを雇った便利屋68の4人もかなり押されている状況だった。

 

 以前の対策委員会との戦闘では、彼女たちに雇われていたAid Ladyの者が部隊全体の補助を行っていただけあって善戦することが出来ていたが、それが居ないとなると結果は分かりきっていたことであった。

 

 

 

「……くっ…予想していたとは言えここまでとはね、アビドス…」

 

「流石に強いねー……今日はメイドさんもいないわけだし、せっかく雇った傭兵たちもすぐにやられちゃった」

 

「……白黒つけるべきとはいったけど、ここまで圧倒的だとね……」

 

「あ、アル様!私はまだ……!」

 

 彼女たちの呼び寄せた傭兵たちは全員倒れ、便利屋68の4人も満身創痍。所持している弾薬や爆弾等はまだ残っているが、ここまで来ると、続けたところで無意味だということは分かりきっていた。しかし、その目には浮かんでいるのは諦めたようなものではなく、最後まで喰らいつくソレだ。しかし、社長である陸八魔アルはどこか決意を秘めたような表情も浮かべていた。

 

「……どうしたのアルちゃん?そんな顔して」

 

「……いえ、ここまでしてやられるとは思ってもみなくてね。それなら、先に彼女たちに言わなきゃいけないことがあるのよ」

 

「……いきなりどうしたの社長?」

 

「あ、アル様?」

 

 自慢のコートもところどころ煤をかぶっており、髪の毛も一部が煤けている。その服装から見える肌にはいくつかの擦り傷も出来ており、戦闘前と比べると社長とは思えないほどの格好であった。しかし、彼女はそんなことに気にするような動作は見せずに立ち上がり、アビドスの方へと体を向ける。

 

 それを見たシロコ、セリカ、ノノミの3人が銃を構えるが、引き金を引かなかった。こちらへと向かったアルが片手に持つワインレッド・アドマイアーの銃口が下を向いていたからである。

 

「スー……ふぅ…………聞きなさいアビドス!」

 

 立ち上がったアルは息を整え、声を上げる。

 

「私たちはまだ戦いを諦めたわけではないわ!まだ銃も使えて、弾薬もたっぷりと残っている!勝ち目がないとしても、徹底的に抗うつもりよ!」

 

「「「「………………」」」」

 

 声を掛けられたアビドスの3人は何も返事はしなかったが、逆に引き金を引くことも無かった。それを見ながらアルは言葉を続ける。

 

「便利屋68は金を貰った以上はなんでもするのがモットーのアウトローよ!アビドスを襲撃するという依頼を請け負った以上は逃げるつもりはないわ!…………それでも、決着が付く前に言っておきたいことがあるから、今のうちに言っておくわ」

 

 彼女自身ハードボイルドでアウトローな存在に憧れており、彼女もそれを目指して彼女なりに日々努力していた。根本的な性格からは全く向いていなかったものの、幼馴染のムツキの協力や後から知り合ったカヨコやハルカとの出会いがあって彼女は便利屋68を設立し、その社長を務めていた。

 

 しかし、彼女が便利屋68の社長になっても、自身の抱いていた信念は変わることなかった。いくら自分の目指すハードボイルドでアウトローな人物とは似つかないものであっても彼女自身がそれを変えるようなことはせず、義理人情にも厚い人物であり、弱者や困難を抱えている者には迷わず手を差し伸べる度量を持った彼女は、最後まで悪役として貫き通そうとしているとはいえ、それを誤魔化すようなことはしたくなかった。

 

「今回の依頼とは無関係だったはずの紫関ラーメンとその大将には迷惑を掛けた。それに関しては私も誤魔化すような真似はしない。そんなのは私の目指すハードボイルドなアウトローじゃないわ。…………便利屋68の社長として、あなたたちアビドスに謝罪する。……すまなかったわ」

 

「……アルちゃん」

 

「……社長」

 

「……アル様」

 

 彼女は対策委員会に向けて頭を下げ、謝罪をした。

 

「勿論、あなた達に謝っても意味はないと知っているわ。この勝負の勝ち負けに関わらず、決着が付いたら直接大将へと謝罪しに行く。……それでも、あなた達にも謝っておくべきだと思ったわ。大将からは、あなた達がよくあの店を利用していると聞いていたからね」

 

 そういったアルは全てをやりきったような満足げな表情を浮かべている。そんな彼女の後ろに続くようにして3人が立ち上がる。その目には戦う前とは比較にもならないほどの闘志が宿っているように見えた。

 

「……私の言いたいことは言ったわ。あなた達は何かあるかしら?」

 

「いや、私は何もないよ社長。付いていくっていったのは私たちの方だし」

 

「か、格好よかったです!アル様!」

 

「そうそう♪さっきの言いたいことってのは、やっぱりあの時のメイドさんに褒められたから?」

 

「ちっ、違うわよ!」

 

 ムツキに指摘されて恥ずかしそうに否定するアルだが図星であった。彼女は対策委員会の面々と戦う中で、以前にメイドと話していたことを思い出していた。

 

 陸八魔アル様自身がその置かれている状況を()()()()()……

 

 その言葉が脳内で何度も響いていた彼女は、自身の抱いている感情や心境を()()()()()伝えたかった。そして、それをやりきったアルは満足げな表情で銃を構えなおす。

 

「さっ、待たせたわね。勝負を続けましょうか」

 

 彼女が銃を構えると同時に他の3人も銃を構える。先程言った通り、勝ち目があろうがなかろうが最後まで戦い続ける様子に、対策委員会の3人は非常に困惑した表情を浮かべながらも、降ろしかけていた銃を構えなおす。

 

 彼女たちのやった行いを許した訳ではない。大将の大切なお店は吹き飛び、大将自身も少なからず怪我を負っている。やるべきことは変わらず彼女たちの望み通り、最後まで戦って完膚なきまでに叩きのめす。

 

 ……そして、改めて彼女たちから話を聞こうと。そう対策委員会の4人は決意し、先生の指揮を待つ。先生もその意志を感じ取り、手に持ったシッテムの箱を構える。攻撃の指示を出す、その瞬間に……

 

「「「「「……なっ!」」」」」

 

 対策委員会と便利屋68が対峙するその間合いに突如として砲弾が降って落ちた。どちらかと言うと便利屋68側の方へと向かって落ちたそれは、着弾時の爆発と砂煙で確認ができない。続くようにして複数の砲弾が彼女達のいた場所に撃ち込まれていき、そのアスファルトに爆炎と亀裂を残していく。

 

「なっ、何が起こってるのよ!?」

 

「……ん、何処からか攻撃されている」

 

「はい!シロコ先輩の言う通り、この場所に向けて砲撃されています!この地点から3kmの距離に多数の擲弾兵を確認!これは、50㎜迫撃砲です!標的は私たちではなく便利屋の方みたいなのですが、先ほどの砲撃で発生した砂煙で確認が……」

 

「迫撃砲、ですか……?」

 

「50㎜迫撃砲といえば……」

 

「兵力の所属、確認できました!ゲヘナ学園の風紀委員会!一個中隊の規模です!なんでここアビドスに……」

 

 

 

 

「……目標地点に着弾、煙によって迫撃砲による効果を確認できません」

 

「かまわん。歩兵、第2小隊まで突入。あれだけ撃ち込んだんだ。沈黙までとはいかなくても、有効打にはなっているはずだ」

 

「……イオリ、あの方たちはどうします?どうやら便利屋と戦闘中のようでしたが……」

 

「ん?あぁ、向こうの生徒だったか。確か……なんだっけ……あびどす?」

 

「はい」

 

「そんなの、私たちの公務の執行を妨害する輩は全員敵だ」

 

「でしたら、まずはこちらの事情を説明するのが道理では?こちらも仕事とはいえ、あの方たちも先ほどの砲撃の効果範囲にいたのです。おとなしくしていてもらえるとは思いませんが……」

 

「必要か、それ?うちの厄介者を捕まえるための時間が惜しい。邪魔をするのであれば、問答無用で叩きのめすだけだ」

 

「…………」

 

 そう言いながら、小隊を率いて便利屋68がいたであろう場所へと向かってくるゲヘナ学園風紀委員の銀鏡イオリ。

 

 

「なっ、何!?ゲヘナの風紀委員会が便利屋たちを捕まえにきたってこと?冗談じゃないわよ、便利屋は私たちの獲物なのに!それに話だってまだ……」

 

「ですが、先程からの様子を見るに友好的とは思えませんね……」

 

「ん、私たちを狙っていたわけじゃないとしても、砲撃の効果範囲内には含まれていた」

 

「でも、ゲヘナの風紀委員会は、他校の公認武力集団や私たちと戦っていた便利屋のような部活とは性質が違います。一歩でも間違えれば、学園同士の政治的争いへとつながりかねません……」

 

「……それに、ホシノ先輩ともまだ連絡が付きません。普段ならこんなことはないはずなのに……」

 

 突如として現れた風紀委員会により、どうしていいか分からない対策委員会を見ていた先生が声を掛ける。

 

「……じゃあこのまま便利屋たちを風紀委員会に引き渡しちゃう?」

 

「そ、それは……まだ話どころか決着すらついていないのに……」

 

「で、でもそしたらゲヘナの風紀委員会と戦うことに……」

 

「…………ん、他に選択肢はない。風紀委員会を阻止する」

 

「……シロコ先輩の言う通りです。ゲヘナ学園の風紀委員会が私たちの自治区ですでに戦術的行動をしたということは、政治的紛争が起こるということ……。それに便利屋の方々が問題を起こしていたからといって、他学園の風紀委員会が私たちの許可もなく、こんな暴挙を敢行していい理由にはなりません」

 

「その通りよ!便利屋は私たちの獲物だし、なにより紫関ラーメンを壊したのと大将に怪我をさせたのを謝って貰わないといけないのよ!」

 

「……そういえば、その便利屋の人たちはどうなったのでしょう?」

 

「確かに……言われてみればそうですね。砂煙によって安否の確認が出来なかったものですから……」

 

 ノノミの一言によって、この事態の原因でもある便利屋たちの存在を思い出す。砲撃直後は確認が出来なかったが、時間がたった今ならと思い、その場にいた全員が顔を向けるが……

 

「……あれ、いない?」

 

「えっ?だってさっきまであそこで私たちと戦ってたはずじゃ……」

 

「一体どこに…………あっ!皆さん、あそこです!」

 

 自分たちと戦っていた便利屋が突如として姿を消しており、思わず辺りを見渡すが近くにはいなかった。が、オペレーターのアヤネがドローンによって捜索範囲を広げると、すぐに見つかった。

 

 

 

「おや、やっと気づかれましたか」

 

 そこは、対策委員会と便利屋68が戦う直前に現れたメイドが控えていた場所だった。彼女のすぐ隣には、体中のあちこちに煤と砂をつけた便利屋68の4人が立っており、こちらと視線が合うなり気まずそうな表情を浮かべる。

 

「さて……アビドスの皆様がこちらに気づかれましたが、いかがされますか?」

 

「えっと……そうね、どうしようかしら……」

 

「せっかくアルちゃんがカッコよく決めたところなのに、あいつらが割り込んできたからね」

 

「……でも、風紀委員のやつらの攻撃をかわしながらアビドスと戦うのは正直無謀すぎる」

 

「アル様の邪魔をしたやつらを……許さない許さない許さない!」

 

「ちょっ!落ち着きなさいハルカ!私は大丈夫だから!」

 

「そうだよハルカちゃん♪割り込んできた奴らをぶっ潰すにはまず落ち着かないと♪」

 

「む、ムツキまで!?」

 

 カヨコは、いつものようにハルカが暴走しかけ、アルがそれを抑えようとする光景を見ながら先程のことを思い出す。

 

 

 

対策委員会が便利屋68を発見する数分前……

 

「な、なにが起こったの!?」

 

「社長、ムツキ、ハルカ!早く隠れよう、やつらが来た!」

 

「やつらって?」

 

「うちの風紀の連中だよ!まさか、ここアビドスにまで追ってくるなんて……」

 

「え!?なんであいつらが!?しかもこんなタイミングで……」

 

「いや、おそらくこのタイミングだからこそ……、いやそんなことを考えている場合じゃない!まずはここから離れないとまた砲撃が飛んで……」

 

「!カヨコちゃん、後ろ!」

 

「まずっ……!?」

 

 ムツキと現状を把握しながら脱出を図ろうとするが、ムツキの掛け声によって後ろを振り返る。そこにはすでに打ち上げられた砲弾が確認でき、弧を描くような軌道でこちらへと向かってきていた。

 

 とっさに防御姿勢を取ろうとするが間に合わない。ムツキもそれを理解しており、共に驚愕の表情を受かべることしかできなかったが、突如として体が引っ張られる感覚を覚える。

 

「緊急時ですのでこのような形で失礼します。しっかりとおつかまり下さい」

 

「「……え?」」

 

 時間が圧縮されたような感覚でそこに視線を向ければ、自分よりも小さな手で腕を掴まれている状況だった。ムツキも同じ状況であり、小さな体をした少女の片腕に体が浮くほどの力で引っ張られながら爆炎の中を進んでいた。体が熱いという感覚を感じるよりも早いスピードで進む(カヨコ)とムツキは、身体のあちこちに煤をつけながら迫撃砲の範囲から脱出した。

 

 爆炎から抜け出した(カヨコ)とムツキを掴んだ少女は突如として停止すると、慣性の法則によって飛ばされそうになるが、2人の腕を掴んでいた小さな手で受け止められる。そのままゆっくりと地面へと降ろされると、肺が忘れていたかのように酸素を取り込みだし、思わずせき込んでしまう。目尻に涙を浮かべながらも顔を上げて声を掛けた。

 

「ゴホッ…ゴホッ……た、助かったよ……。ありがとう、メイドさん」

 

「ゴホッ……エホッ…、う…ん、さっきは本当にまずかった……」

 

「いえ、大事がなくて何よりでございます。どうぞ、お手を」

 

 メイドから差し伸べられた小さな手を掴み、地面から立ち上がる。ふと視線を向けると、目に涙を受かべた社長がこちらを見つめていた。

 

「あ、あなた達!無事でよかったわ!」

 

「はっ、はい!私なんかが先に助けられてしまってすみません!すみません!」

 

 彼女のそばにいたハルカも同様に涙を浮かべながら(カヨコ)とムツキを同時に抱き着く。

 

「私たちより先に助けられてたんだね……社長たちも無事でよかった」

 

 社長からの精一杯の抱擁に応えるように力を込めながら、抱き返す。安心した時間が流れようとしていたが、私たちを助けてくれたメイドから声を掛けられたことで止められた。

 

「なにやらお取込み中のようで申し訳ございませんが、まずは皆様、息を整えられたほうがよろしいかと」

 

 何事もなかったかのように話しかけられたことで思わず我に返る。社長たちも同様に顔を赤くしながらとっさに離れると、深呼吸をする。ムツキも珍しく顔を赤くしていたが、それもすぐに戻ったことで少しもったいなく感じた。少しして、全員が息を整えてから社長が口を開いた。

 

「改めて助けてくれたことに礼を言うわ」

 

「いえ、この程度のことはお気になさらずに。便利屋68の皆様にお怪我がなくて何よりでございます」

 

 メイドからそう返されたことで、みんなが自身の状態を確認する。対策委員会との戦闘直後ともあって体中に擦り傷をつけて、さきほどの砲撃による爆炎で煤だらけになっていた。それをお互い笑い合いながら指摘して、多少穏やかな時間が流れる。

 

「えっと、今ってどんな状況なのかしら?」

 

「はい。先程の砲撃によって便利屋68の皆様が狙われていた状況へと介入させていただき、私が控えていた建物のそばまで避難させていただかせた状況になります。すでに気絶されていた傭兵の方々は別の場所に避難させております。現在は砂煙によってアビドスの対策委員会の皆様や風紀委員会と呼ばれる方々はこちらを見失っている状況ですが、時期に発見されるかと」

 

「……どうする社長?今なら風紀のやつらに見つかってないみたいだし、逃げるチャンスだよ」

 

「……で、でもまだアビドスとの決着が……」

 

「今だからいえるけど、私たち結構ボロボロだよ?あの戦いも最後のほうなんてやけっぱちみたいなものだったし」

 

「い、いえ!私はまだ戦えます、アル様!」

 

「ハルカちゃんも無理しないの~。最初にアビドスを襲撃したときだって、なんで動けるのかってくらい傷だらけだったじゃん」

 

「そ、それでも……!」

 

「ふむ……」

 

 私たち(便利屋)を助けたメイドは何やら言いたげな表情でこちらを見つめていた。それを見た私は声を掛ける。

 

「……どうしたのメイドさん?何か言いたげな表情だけど……」

 

「いえ、便利屋68の皆様はまだアビドスの対策委員会の皆様と戦われる意志をお持ちのようで」

 

 私の質問にそう答えたメイドに社長が声をあげる。

 

「当たり前じゃない!私たちはまだ負けたわけではないわ!ハードボイルドなアウトローとして、逃げるような真似はしないわ!……でも、風紀委員会と戦うのはちょっと…………」

 

「へんなところでヘタレになるよね~アルちゃんは♪」

 

「い、いえ!流石アル様です!」

 

 意気揚々と答えるも最後の方には小声で弱音を吐く社長と、それを弄るムツキと褒めるハルカ。先程まで目尻についていた涙は嘘だったかのようであり、表情はとても明るいものであった。

 

 それを見ていたメイドは楽しそうな顔を浮かべていた。

 

「これはこれは……流石は便利屋68の皆様でございます。先程の陸八魔様の演説も大変見応えのあるものでしたが、他の皆様も同様ですね。やはり企業の社長が優れていると、その社員の方々も同じのようです。私も見習わなくてはなりませんね」

 

「……え、演説って……///」

 

「それに優れた社長だって。よかったねアルちゃん♪」

 

「いえ、アル様ならば当然かと!」

 

「……それで?メイドさん的にはどういうスタンスなの?」

 

「ふむ……。私としましては、順番待ちだったところを割り込まれたような状況ですので、気分はあまりよろしいものではありませんね」

 

「……そうなんだ」

 

「はい。ですので、よろしければ私がこの状況に介入させていただければと思いますが、いかがでしょうか?便利屋68の皆様とアビドスの対策委員会の方々とのお取込み中に割り込むような形にはなってしまいますので、皆様の不興を買うような行いになってしまいますが、どうでしょうか?」

 

「えっ!?えっと……そうね、具体的にはなにをするつもりなのかしら?」

 

「はい、まずは皆様との勝負に割り込まれた風紀委員会の方々にはお引き取り願おうかと」

 

「……できるのかしら?相手はあの風紀委員長はいないけれど、中隊規模よ」

 

「問題ございません。私のほうで確認した限りでは、あの程度はその辺りをうろつくチンピラのようなものです」

 

「ち、チンピラって……」

 

 メイドがそう答えておもわず絶句する社長。あの混沌としたゲヘナ学園の治安を維持する部隊をチンピラ扱いするのだから無理もないだろう。

 

「しかし、私も色々と規則に縛られる身ですので、介入としましてもアビドスの対策委員会の皆様からも了承を得なくていけませんが……どうやらまだこちらを見失っているようですね。砂煙はもう落ち着いているのですが……もしかして忘れられているのでは?」

 

「「「「…………え?」」」」

 

 思わずそう言われて視線を向けると、なにやら私たちのことを忘れて話し合っているアビドスの連中がいた。

 

 

 そして時刻は現在に戻り……

 

 

「では、アビドスの皆様が気づかれたようなので、私は行って参ります。便利屋68の皆様は先程の勝負の決着に備えて、少しでも体を休められた方がよろしいかと」

 

 そういってメイドは便利屋68のもとを離れて、アビドスの元へと向かっていった。

 

「……どうする社長?」

 

「そうね……まずは言われた通り、少し休みましょう」

 

「……そうだね」

 

 そういって便利屋68の4人は深くゆっくりと息を吐いた。

 

 

 

 

 アビドスの元へとついたメイドは先程の便利屋68とのやり取りを説明した。どこか言いたげな様子ではあったが、まずはメイドからの説明を聞いた。

 

「……ですので、ここは私に一任していただけたと」

 

「えっと……メイドさんはそれでいいの?」

 

「はい。私としても順番待ちの最中に割り込まれたようなものなので、対処のほうはお任せください。シャーレの先生としましても、対策委員会の皆様も学園同士の政治事に巻き込まれるのは心苦しいと思われますので、私が介入したほうが色々と楽かと」

 

 とりあえず向かってくる風紀委員会を排除しようと動き始めていた対策委員会の4人は、思いもよらぬ提案にお互い顔を見合わせる。そんな中シロコが口を開いた。

 

「……ん、相手は中隊規模。あなた1人じゃ無謀すぎる……それになんで私たちを助けるの?」

 

「いえ、ご心配なく。便利屋68の方々にも申し上げましたが、私にとってあの程度はチンピラとさほど変わりありません。それにあなた方を助けるような行いに関してですが、便利屋68の方々に用事があるのもそうですが、皆様には以前当社の者がご迷惑をおかけしたようなので」

 

「……それってこのカードのこと?」

 

 メイドから聞いた言葉にセリカが以前貰った、黒いラインの入った白いカードを制服のポケットから取り出した。それを見たメイドがセリカへと体を向ける。

 

「はい、そちらでございます。少しお借りしても?」

 

「えっ…え、えぇ…いいけれど」

 

 そういって手渡されたカードを受け取ったメイドはじっとセリカの顔を見る。

 

「あなたのお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

 

「えっ……黒見セリカ……だけど」

 

「黒見セリカ様ですね、ありがとうございます。こちらカードをお返しします」

 

「あっ、うん……このカードで結局なんなの?先生が持ってたカードとはちょっと違うみたいだけど」

 

「はい。そちらは当社を長い間ご利用していた頂いた方にお配りしている会員カードとなっております。()()()()()()()()のカードと思っていただけたらと」

 

「……いや、そもそも私は一回もあんたたちに依頼したことないんだけど」

 

「先日のお詫びとして、そちらのカードをお渡ししておりますのでお気になさらずに。黒見セリカ様専用と申し上げましたが、アビドスの代表としてお渡ししておりますので、対策委員会の皆様もこちらのカードはお気兼ねなくご利用下さい。さて……」

 

 シンプルなカードの説明が終わったメイドは風紀委員会が向かってる方向へと体を向ける。

 

「では、あちらの方々は私のほうで対処させていただきます。よろしいでしょうか?」

 

「ちょっ、ちょっと待って!せめて援護だけでも……」

 

「いえ、結構でございますシャーレの先生。あなたの権限であらゆる自治区における無制限の戦闘が許可されているとはいえ、シャーレという立場としても中立のほうがよろしいかと」

 

 先生からの申し出をそう言って断ったメイドは風紀委員のいる方へと歩き出した。

 

 

 

「……あちらから1人の人物が向かってくるようですね」

 

「ん?アビドスの連中じゃないのか?それにたった1人とか、こっちの一個中隊級の兵力が見えていないのか?」

 

「(メイド服を着ている……、もしかして噂に聞くミレニアムのエージェントでしょうか?)」

 

 チナツがそう思考しているときに風紀委員の前でその人物は立ち止まった。

 

「申し訳ございませんが、これより先はアビドスの方々と便利屋68の方々とでお取込みの最中でございます。どうかお引き取りを」

 

「……なんでメイドがいるかは知らないが、私たち風紀委員はその便利屋のやつらに用があるんだ。どけ、公務の邪魔をするなら排除するぞ」

 

 そういうと同時にイオリとその後ろにいた風紀委員が一斉に銃を構える。

 

「ふむ……。なるべく穏便に下がっていただきたかったのですが、仕方ありませんね……」

 

 そういってメイドはその場にしゃがんだかと思うと、アスファルトの亀裂に指を入れた。

 

「……なにをするつもりだ?」

 

「いえ。お引き取り願えないのであれば、このようにして排除しようかと」

 

「「「「「なっ……!?」」」」」

 

 突如として指を差し込んだかと思えば、そのまま辺りのアスファルトの舗装を裏返すように持ち上げた。風紀委員の視界の半分がそれに覆われたかと思った次の瞬間、目の前のアスファルトが砕け散り、風紀委員目掛けて飛来した。

 

「!……チナツ!」

 

 部隊の目の前にいたイオリは、隣にいたチナツの腕を引っ張るような形で地面へと伏せる。頭上すれすれを飛ぶ瓦礫を肌で感じながら恐る恐る体を起こすと、辺り一帯に散らばった瓦礫とうめき声をあげながら地面に横たわる風紀委員の姿が目に入った。

 

「なっ、何が起こった!?」

 

「おや、うまく避けられたのですね。その反射神経はとても素晴らしいですよ」

 

 声のする方向へ顔を向けると、片足で立って蹴りを放った直後の姿勢のメイドが目に映る。

 

「……まさかあの瓦礫を蹴り飛ばしたのか!」

 

「はい、その通りでございます。避けられるとは思っておりませんでしたので、こうして2()()も残られるのは驚きですね」

 

 メイドの言う通り、その場ですぐさま行動できるのは咄嗟に地面へと伏せたイオリとチナツの2人だけであった。他の風紀委員はヘイローを持つ者の特徴として頑丈な体をもっているが、瓦礫が頭部へとぶつかったものはそのまま意識を刈り取られ、それ以外の者はぶつかった場所を抑えながら地面へと横たわっている。後方にて待機していた小隊も少ながらず被害が出ており、それを確認したイオリは体を小刻みに震わせていた。

 

「よ…よくも」

 

「最初に警告しましたので、文句を言われる筋合いはありませんね。なによりそちらがアビドスの皆様と便利屋68の方々に攻撃を仕掛けていたので、こちらとしては正当防衛のつもりですよ。ここキヴォトスで反撃されることなど珍しいことではないでしょう?」

 

 そう言いながら先程と同じ位置で姿勢を戻して立っていた。

 

「続けて申し上げますが、あちらアビドスの方々の近くにシャーレの先生がおられるのは認知されておりますか?」

 

「えっ……シャーレの先生が!?どうしてアビドスに!?」

 

「そのセリフはアビドスの方々が言うべきものですね。さて、どうされますか?続けるようであればお相手しますよ」

 

「……イオリ、すぐに引きますよ!この戦闘、行ってはいけません!動けるものは負傷した者に手を貸しなさい!」

 

「な、なんでだチナツ?それにシャーレって……」

 

 チナツのその一言で、よろよろと立ち上がりながらも気絶した者、その場から動けない者へと肩を貸すように動き出す。その様子を見ていたメイドの隣に対策委員会の3人とシャーレの先生が立つ。

 

「…………」

 

「久しぶりだね、チナツ」

 

「……先生、このような形で再会するとは思いませんでした。先程の戦闘に参加していなかったとはいえ、先生がいる時点で私たちの勝ち目はないので後退するべきでしたね」

 

「おや、先程の出来事を戦闘と呼べるとは中々見どころがありますよ」

 

「………………」

 

「……メイドさん、その辺で」

 

「これは失礼しました。私は風紀委員会の皆様をお手伝いをするとしましょう」

 

 そういってメイドは負傷した風紀委員たちの方へと歩いて行った。続けてオペレーターのアヤネが口を開く。

 

「アビドス対策委員会の奥空アヤネです。所属をお願いします」

 

「そ、それは……」

 

 イオリが答えかねていると、突如として立体映像が現れて口を挟む。

 

「それは私から答えさせていただきます」

 

「通信……?」

 

「あ、アコちゃん?」

 

「アコ行政官?」

 

「こんにちは、アビドスの皆様。私はゲヘナ学園所属の行政官、アコと申します。今の状況について説明をさせていただかせてもよろしいでしょうか?」

 

「あ、アコちゃん!これは…その……」

 

「イオリ、反省文のテンプレートの場所はご存じですね?」

 

「……」

 

 突如として現れたアコという人物を前に、たじろぐイオリは顔色を重くする。

 

「……行政官ということは、風紀委員会のナンバー2……」

 

「実際は大したものではありませんよ。あくまで風紀委員長を補佐する秘書のような立ち位置です」

 

 そうやって映像として現れたゲヘナの行政官と対策委員会が話をしている中、メイドは負傷した風紀委員たちを待機していた部隊が持ってきた担架に積み上げるように載せていった。

 

「ふむ……いかんせん気絶されている方が多いですね。少しは手加減したつもりでしたが、まさかここまで貧弱だとは……。キヴォトスに住まわれている皆様は頑丈だとお聞きしていたのですが、検討違いでしたか?」

 

 そういいながら十数人を積み上げた担架を持ち上げると、そのまま後方に待機している風紀委員の元へと運んで行った。

 

「負傷された方をお渡ししても?」

 

「あ、あぁ……そこに置いてくれないか?(なんでメイドが……?しかも片手で持ってるし……)」

 

「かしこまりました」

 

 メイドはどさっと音を立てながら地面へと担架を下ろし、そのまま対策委員会の元へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 メイドがそこへ戻ると、ちょうど対策委員会と風紀委員会との交渉が決裂した状況であった。どうやら便利屋68のカヨコも対策委員会と合流していたようであり、暗雲とした空気が立ち込めていた。

 

「どうやら揉め事があったようですね」

 

「メイドさん……」

 

 声を掛けたことでその場にいた全員がメイドへと視線を向ける。そんな中アコがメイドへと話しかけた。

 

「……そういえば、どちら様でしょうか?」

 

「これはこれは、自己紹介が遅れてしまい申し訳ございません。人材派遣会社Aid Ladyの代表を務めているものでございます。名称はございませんので、お気軽にメイドさんとお呼びください」

 

「Aid Lady……ですか?確か最近になって話題に上がりつつある企業でしたか」

 

「ご存じのようで何よりでございます。私としましてもこの後に便利屋68の皆様と大事な商談を控えておりますので、風紀委員会の皆様にはお引き取り願いたいのですが?」

 

「おや、こちらの戦力差が目に入りませんか?」

 

 そういってアコが指示すると、どこからともなく足音が聞こえてくる。アヤネが驚いた様子で報告を入れてくる。

 

「12時の方向から、それに6時の方向……更に3時、9時の方向から兵力が集結しています!」

 

「……ん、増員」

 

「ま、まだこんな……!」

 

「これだけの数……、もしかしてゲヘナ学園の風紀委員すべてを連れてきたのですか!?」

 

「全員というわけではありませんが、大隊を連れてきたことは確かです。シャーレを相手にするのですから、これだけ用意するのは妥当かと。戦力が多すぎても困ることはないので……まぁ大は小を兼ねるといいますからね☆」

 

 あまりの戦力の差に絶望した表情を浮かべる対策委員会と便利屋68のカヨコであったが、メイドは特にこれといった様子もなく無表情のままであった。

 

「ふむ、やはり風紀委員会の皆様はお引き取り願えないと?」

 

「逆にお聞きしますが、どこに引く要素があると?」

 

 お互いに無表情のメイドと笑顔を浮かべるアコが視線を交差させていたが、それも数秒のことでありメイドが振り返って風紀委員会を除く者を視界に入れる。

 

「そうですか……かしこまりました。対策委員会の皆様、及びシャーレの先生とカヨコ様。申し訳ございませんが、風紀委員の方々にはお引き取り願えそうにありませんので、排除致しますがよろしいでしょうか?」

 

「い…いや無茶よ!こんな人数相手に勝てるわけが……」

 

「ご心配なさらず、黒見セリカ様。先程と同じような部隊が集まったところで変わりありません。ですが、このまま始めるのは皆様に危険が生じる場合がございますので……あなたたち」

 

 そういってメイドは指を鳴らす。するとメイドの後ろに突如として音もなく4人のメイドが現れた。

 

「皆様を安全な場所へ」

 

「「「「かしこまりました」」」」

 

 息の揃った返事とカーテシーによって肯定の意を表した4人のメイドが彼女たちの近くへ寄ると、そのまま全員を抱きかかえた。

 

 長い髪をそのまま垂らしたメイドは先生とカヨコを、後ろで髪をシンプルにまとめたメイドはシロコを、長い髪をお団子にしてまとめているメイドはノノミを、そして代表を補佐をしていたポニーテールのメイドはセリカを抱きかかえ、装備している武器の重量を気にするような様子は見せずにそのまま立ち上がる。

 

「ちょっ!?いきなり何っ!?」

 

「いえ、すこし派手になりますので皆様にはこの場から離れていてもらおうかと思いまして」

 

「……一体どこからそのメイドたちが現れたのか気になりますが、この包囲網を抜けられるとでも?」

 

「いえ、あなたたち程度のものが妨害などできるはずもありませんよ。では行ってください」

 

 アコからの問いに、メイドはそう軽く答えながら指示する。それと同時に全員を抱えたメイドは砂煙を立てたと同時に姿が消える。

 

「なっ!?一体どこに!?」

 

「では始めさせてもらいましょうか」

 

「…………1人勇敢に立ち向かう姿勢はとても素晴らしいと思いますが、この数を相手にできるとでも?先程の力技が通用すると思っているのであれば大間違いですよ」

 

「あの程度も避けられない者たちが、一度見ただけで回避できるとは思いませんが?」

 

「その余裕な表情がいつまで持つでしょうか。全員、攻撃を開始してください」

 

 大通りの中心に立つメイドを囲むようにして待機していた風紀委員の部隊が一斉に銃を構える。そして引き金を引こうとして……

 

「あぁ、先程言われたことについて少し訂正しますが、何も馬鹿正直にあなた達を相手にするつもりはありませんよ。面倒ですのでまとめて排除します」

 

 そういってメイドは再度指を鳴らす。すると、直後に大通りを形成していたビル群が音を崩れながら包囲していた風紀委員の部隊目掛けて倒壊し始めた。

 

「「「「「……な!?」」」」」

 

「すでに人が利用していないので好都合でしたね。……さて、何人残るでしょうか?」

 

 メイドがそういった直後にビルが地面へと激突し、大きな衝撃と砂煙を発生させた。




 作品を読んでいただいたかたはある程度察している方もいると思われますが、基本的に代表の子はご依頼者以外は、口調は変わりませんが、辛口になっています。自分の性癖ですね。

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登場するメイドさん達の名前ってあったほうがいい?

  • いる
  • いらない
  • そんなこといいからはよ続き書け
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