とあるビルの一室で向き合う2人にも、その轟音は聞き届いていた。
「……おや、何かあったようですね」
「…………お前の仕業か?」
「いえ、私は関係ないですよ。とは言っても、あなたには信じてはもらえないでしょうが」
「当たり前だ。そんな提案をするやつのことなんか信用するか」
「単純かつ合理的……。あなた達アビドスにも利のあるものだと思っていたのですが」
「……何度も言うが私はお前の提案を飲むつもりはない」
そういって彼女は振り返り、その部屋を出ていった。
「……いいえ、あなたは必ず受け入れますよ」
その部屋で1人になった黒い服を着た人物は薄く笑いながら、彼女が出ていったドアを眺めていた。
「…………しかし、この箱庭にも不可解な者がいるものですね。招かれたシャーレの先生とは違う、全くもって異質な存在…………外から流れてきたのか、はたまた元からキヴォトスに存在していたのか。一度お会いしてみたいものです」
そう言いながらその人物は視線をドアから、窓の外から見える巻き上がった砂埃の方へと向けた。
紫関ラーメン跡地から少し離れた場所に立つビルの屋上に彼女たちは集まっていた。屋上から見える風貌は、大通りに沿う形で建設されていたビルが凄まじい音を立てながら倒れていき、定期的にアビドスに発生する砂嵐にも負けないレベルで砂埃が舞い上がっていた。
「…………これは……」
「ちょっ…な、なにが起きてるの!?」
「……ん、あのメイド1人で大丈夫とは言っていたけど、まさかビルを倒壊させるなんて」
「……ちょっとこれはやりすぎかと」
「そ、そうですよ!いくら風紀委員会がアビドスの自治区で戦術行為を行ったからといって、ここまでする必要はないです!」
代表の指示によって突如現れたメイド達に抱きかかえらて運ばれた対策委員会の3人とシャーレの先生、そしてアコからの説明中に割り込んだカヨコはビルの屋上でそう述べた。ふとカヨコが隣のビルの屋上に視線を向けると、彼女たちを運んだ直後に姿を消したメイドの1人が、カヨコを除く便利屋68の3人を移動させていたのが見えた。
「(……私たちを運んだ時もそうだけど、普通にビルの屋上まで飛び上がってるし……)」
取り残された便利屋の3人を心配していたカヨコはその様子にホッと息をつきつつ、改めて屋上から事態の全貌を把握する。つい先程まで彼女たちがいたであろう大通りは、すでにビルの倒壊によって発生した瓦礫によって埋もれており、同時に発生した砂煙によって安否を確かめることはできない。
「(……多分あのメイドさんは無事なんだろうけど、まさかここまでやるなんてね)」
少し横に視線を向けると、あまりの事態の大きさによってまだ理解が及んでいないセリカが彼女たちを運んでくれたメイド達に食いかかっていた。
「ちょっ……ちょっとあんたたち!なにもここまでする必要なかったじゃない!それに、勝手に私たちの自治区でビルを倒壊させるなんて、なんてことしてくれんのよ!」
「いえ、ご心配なく黒見セリカ様。さきほど倒壊させたビルはすでに利用されておらず、売りに出されていた状態だったため、当社が買い取っております。またビルやその周辺は無人の状態だったため、風紀委員会と呼ばれる方々を除き民間人に怪我人はおりません」
「えっ、そうなの?…………いや、そもそも私たちの自治区で勝手に倒壊させるなんて聞いてないわよ!」
「それにつきましてもご安心を。事態の収束後に私どもで瓦礫の撤去、及び破損した大通りの補修作業を行う予定です」
「いやいや、せめてこんなことする前に私たちに一言くらいあってもいいじゃない!」
この騒ぎの跡片付けは自分たちでするというメイドに少しは落ち着いたものの、それでも食い下がるセリカにメイドは淡々と言葉を続ける。
「なにぶん急いでおりましたので、その点につきましたはご容赦を。そして、先程から対策委員会の皆様はなにか勘違いをされておりますが、ここはすでに
「「「「……え?」」」」
その思わぬ一言に絶句する対策委員会の4人。あまりにも大きな衝撃の一言で、隣で聞いていた便利屋68のカヨコも絶句し、その場にはビルの倒壊音を除いて無音となった。
そして数秒後、たどたどしい口調でメイドへと尋ね返した。
「……どっ、どういうこと?ここはアビドス自治区のハズよ?だって私たちアビドス高校も廃校してないし、それに借金だってちゃんと利息を……」
先程の勢いとは打って変わって弱弱しく答えるセリカと、それに同意するように頷くシロコとノノミ。しかし、ドローンを介したオペレーターのアヤネは難しい表情で何かを呟いていた。
「……ここはすでにアビドス自治区ではない?……いえ、そんなはずは在りません。私たちがまだ在籍している以上、アビドス高校は廃校したわけではないので、私たちが管理しているはずです。いえ、もしそうだとしたら行政官を名乗ったアコさんの言い分にも納得ができる……。だってここはアビドス自治区ではないのだから……」
「……なにやら皆様のほうも、色々とすれ違いが起こっているようですが、私どもで保証が出来るのは先程倒壊させたビルを含めた一帯がアビドス自治区ではないということのみです。本来ここキヴォトスでの建造物の扱いはその所有者を除いて、自治区を管理している学園が保有しているものですが、ビルを買収する時点で保有者はここアビドス自治区ではなく、別の企業のようです。よろしければ、当社が先程ビルを買収した際の契約資料のデータをお送りしましょうか?」
「…………お願いします」
「かしこまりました。そちらのドローンに搭載された通信機を介してデータを送ります。社外秘の情報ですので、データの拡散等はご遠慮ください。送る際の形式は……大丈夫のようですね、少々お待ちください」
淡々と告げられた事実が、先程呟いていた予想を肯定されていくことに不安を覚えながらも、アヤネはその提案を受け入れた。そして数秒後、ドローンを介して送られたきた契約内容の資料を見て驚きの声をあげる。
「なっ…何なんですかこれは!?」
「……アヤネ、私の方にも送ってくれるかな」
「は、はい!」
そして先生の持つシッテムの箱にアヤネから送られてきたデータを表示し、その場にいた対策委員会の3人は周りからのぞき込むようにして見る。
「購入者は……Aid Lady。購入したビルは……さっき倒壊したのを含めて大体10棟に満たないくらいだね」
「………ん、どれもビル一棟の値段が億を下回ってる……。どれも安すぎると思う」
「……仕方ないですね。ここアビドスは住人が少なくて、定期的にくる砂嵐によって経済的効果が薄いですから……」
「……それでも全部一括で振込とか……あのメイド達どれだけお金持ちなのよ……」
「まだ続いてるね……っ、これは……」
タブレットを持っている先生を含めて囲むようにしながら、送られてきたデータを読み進めていく。ビルの購入者や、日時。購入したビルの値段に驚きながらも読み進めていくと、そこには衝撃の事実が乗っていた。それを最初に視界に入れた先生は一呼吸いれて、それを呟いた。
「……ビルを含む土地の保有者は……
「「「…えぇ!?」」」
その事実に思わず声をあげる対策委員会の3人。
「……ん、カイザーって言ったら」
「はい、この前利息を受け取りに来た銀行員の務めていた企業です」
「なんでそんな企業が私たちの自治区のビルを保有してるのよ!?」
「……メイドさん、この資料は本当?」
「はい」
「…そうなんだ」
メイドからそう答えられて、口を閉じた先生。同時に対策委員会の4人も沈黙が流れる。彼女たちの中は疑問で埋め尽くされていた。そしてオペレーターのアヤネは絞り出すようにして呟いた。
「……この事態が収まった後、改めて私たちの現状を把握しなければなりません。私たちが一体、どんな状況で、だれに借金を負っているのか……。私たちのアビドスの為に」
その一言に現場にいる対策委員会の3人とシャーレの先生が強く頷く。そして、それに追随するよにメイドが声を発する。
「はい、それがよろしいかと。それと付け加えるようになりますが、皆様は
そう言われて、3人はお互いに顔を見合せながらメイドへと伝えた。
「かしこまりました。それでは再度お抱えしますので、しっかりとおつかまり下さい」
そして便利屋68を除く対策委員会の3人とシャーレの先生は、4人のメイドに抱えられてビルの屋上から姿を消した。そして1人取り残されたカヨコは、隣のビルから手を振っている3人を見て呟く。
「……とりあえず、みんなと合流しないとね。どうせならメイドさんに運んでもらえばよかった……」
そう言いながらカヨコはビルから降りる為に、屋上に付けられた扉に手を掛けた。
対策委員会がビルの屋上から向かう数分前……
大通りの中心に立つメイドを包囲した風紀委員会に向けて複数のビルが倒壊した現場は、50㎜迫撃砲が撃ち込まれた際とは比較にもならないほどに瓦礫や砂埃が散乱した状態となっていた。部隊の攻撃を指示したオペレーターのアコは顔面蒼白の状態で、現状の把握を行おうとするが……
「なっ……、一体何が起こったのですか!?だれか報告をしなさい!」
通信越しに彼女の声が響くが、その声に返すものは1人しかいない。
「私を包囲していた風紀委員会の皆様には、瓦礫に埋もれてもらいました。商談を控えた状態で、あなた達を1人ずつお相手する暇などありませんからね」
そうやって砂煙からメイドが現れる。
「くっ……こんなことをして、ただで済むとでも!」
「先程の方にも申し上げましたが、あなた方が言うべき言葉ではないですよ。ゲヘナ学園での素行不良の生徒を捕らえるのが風紀委員会の仕事というの理解していますが、その為に他校の生徒を巻き込むとはわかりかねますね」
そう言いながら映像上のアコの目の前に立つ。被害現場の中心に居たにも関わらず、傷どころが汚れ1つないメイド服を身にまとった彼女は、最初と同様に無表情を浮かべていた。
「さて、いかがされますか?まだ後方にて待機されている風紀委員会の方々はおられるのでしょうが、ここで埋もれている風紀委員の皆様を掘り出すことをお勧めしますよ。もちろん、このまま続けるというのであればお相手しますが」
そうメイドから問われながら返事に戸惑うアコの表情は重たいものだった。彼女自身による独断での風紀委員の動員、そしてあれだけの戦力差で負けるなどとは考えていなかったために、この後の部隊への指示をしかねていた。
「(どうする!?まさかビルをそのままぶつけてくるとは……。まずは後方で待機している者たちに救出作業を……いや、この目の前のメイドに邪魔されない保証はない。…降伏する?いや、それこそ悪手…エデン条約を有利に進める為に行った部隊の派遣がたった1人のメイドになすすべなくやられたなど……)」
思考を巡らせていくごとに、どんどんと顔色が悪くなっていくアコ。そこに1つの通信が入る。
「……アコ、今どこ?」
「おや、あなたは……」
「ヒナ委員長!?わ、私ですか?……そ、その…えっと……げ、ゲヘナ近郊の市内辺りです!風紀委員のメンバーとパトロールを……そ、それより委員長がどうしてこんな時間に?出張中だったのでは……」
「さっき帰ってきた。それよりも、学園内の風紀委員の数が少ないのだけれど、どういうこと?」
「そ、それは迅速に処理しなくてはいけない用事がありまして、その為に緊急で動員を……」
「……他の学園の自治区に風紀委員の大半を動員するほどまでに?」
「……え?……えぇ!?どうしてここにっ!?」
いまだ空中を舞っている砂煙の中からその人物は、後方にて待機していた風紀委員を連れて現れた。
「……あなた達は瓦礫に埋もれた他の部員たちの救出作業をしなさい。それと救急医学部に出動を要請。車両の搬入に邪魔な瓦礫は最優先で撤去して、各員の点呼も欠かさずに」
「「「「「了解しました!」」」」」
彼女の言葉に声を揃える風紀委員会のメンバー。そして一斉に指示された行動へと取り掛かる。
「……なにか釈明はあるかしら、アコ」
「こ、これは素行の悪い生徒を捕まえようとして……」
「便利屋68のこと?私の前には1人のメイドと瓦礫の下敷きになった委員会のメンバーしかいないけど?」
「……え、えっと……委員長、すべて説明いたします」
「いや、大体把握してる。くだらない言い訳は聞きたくないわ」
「…………」
突如として現れたヒナを前に映像越しのアコは言葉を失う。
「……エデン条約を前に、ゲヘナにとっての不安要素の確認及び排除。そういった政治的な活動の一環ってところね」
「…………はい」
「でもアコ、私たちは風紀委員会であって生徒会じゃないわ。シャーレやティーパーティー、連邦生徒会などの案件は
「あぁ、空崎ヒナの言う通りだ。いつからお前たちは
アコとヒナとのやり取りに割り込むような形で1人の人物が映像に現れた。
「なっ……!?」
「……ちっ…やっぱり気づいていたのね、マコト」
「これだけの騒ぎを起こしたのだ。その手に流通しているものからしたら気づかないほうがおかしいだろう。もちろんトリニティも例外ではないぞ?」
「……そうね」
「あぁ、よくもふざけた真似をしてくれたな?アコ行政官。ゲヘナの治安を維持するのがお前たちの仕事だが、政治的な活動に風紀委員会を動員するなど、ずいぶんと偉くなったものだ。なぁ?」
「…えぇ。アコ、通信を切って校舎で謹慎してなさい」
「…………はい」
「さて、まずは現状の把握からだが……」
そういって映像のアコが姿を消し、
「お久しぶりでございます、羽沼マコト様。先日は当社をご利用いただき、ありがとうございます」
「……なに?私はお前のことなど……いや、ちょっと待て。そのメイド服はもしかして」
「はい、人材派遣会社Aid Ladyでございます。丹花イブキ様はお元気でしょうか?」
「おぉ、あの時のメイドか!姿が縮んでいてわからなかったぞ。イブキか?以前作っていたプリンをそれはもう大絶賛だったぞ。一緒に食べられなかったことが残念がっていたがな」
「おや、そうでした。配慮が足らず申し訳ございません。次回にご依頼された際は事前に作ったものを持っていくとしましょう」
「キキキ!あぁ、是非頼む。また近いうちに依頼させてもらうとしよう。イブキも喜ぶからな」
「当社へのご連絡を心よりお待ちしております」
目の前のメイドと通信越しのマコトで会話が進んでいたが、一区切りついたところでヒナが口を挟む。
「……あなた達は知り合い?」
「挨拶が遅れてしまい、申し訳ございません。人材派遣会社Aid Ladyの代表を務めております、お気軽にメイドさんとお呼びください。以前ゲヘナ学園の校舎にてすれ違いましたが、覚えておられるでしょうか?」
そう言われて彼女は記憶の中から目の前の人物を探し出す。
「…………もしかしてあの時のメイド?幾分か身長が低くなっているように見えるけど気のせいかしら?」
「いえ、機体の調整を行いましたので気のせいではありませんよ。キヴォトスに住まわれる方々の平均的な身長を鑑みて、少し低くしてみました」
「(……機体の調整?)そう、まぁいいわ。それで?この騒ぎはあなたが起こしたってことでいいの?」
「この事態の発端が便利屋68の方々か先程の行政官のどちらかなのでしょうが、この現状については私とお答えしましょう」
「……そちらが風紀委員の公務を妨害したと認識していいのかしら?」
「おや…ここがすでに
「……知っていたのね」
「知らないほうがおかしいのでは?アビドス対策委員会の皆様はなぜかご存じないようでしたが」
「そう……。それを加味したとしてもここまでやる必要性はあったの?」
「私としましては、あくまでも正当防衛だと認識しておりますよ。一度は警告しておりますので、銃口を向けられた時点で攻撃する意志はあったと判断しましたが?」
「……そうね。でも私は風紀委員会の委員長として、このまま帰るわけにはいかないわ。委員会のメンバーが大勢負傷し、今もなお救出作業を行っているこの状態であなたを見逃すなんて真似はできないわ」
「続けるようであればお相手しますよ。下敷きになった皆様の無事は保証できませんが」
お互いに一歩も譲らない対話で辺りの空気が張りつめる。ここキヴォトスでは驚くほどに銃の引き金が軽い。個人同士のちょっとした争いであってもすぐさま銃撃戦へと移行する世の中で、武装した集団から一斉に銃口を向けられたとなると、向けられた反撃されても文句は言えない。
そこはヒナも理解はしているが、その集団に向けてビルを丸ごと倒壊させてぶつけてたともなれば話は別だ。彼女たちの付近の瓦礫の下で動けない風紀委員が大勢いる中で、その実行犯を見逃すようなことなどしたら他の風紀委員たちに向ける顔がない。
その点も踏まえてヒナは目の前のメイドにどう対応するか悩んでいた。
「……ならば、その風紀委員どもが救出されるのであれば、ここを引くのか?空崎ヒナよ」
しかし、その空気を打ち破ったのは通信越しに映っている羽沼マコトだ。今回の出来事は風紀委員会の失態であり彼女自身、嫌味は言えど、この件には関わらず風紀委員会たちの手によって解決すべき事態だと判断していた。しかし、あまりの事態の大きさに引くに引けない空崎ヒナと、今後も関係を持ちたいAid Ladyのメイドの姿を見て1つの提案をする。
「……なんのつもり?マコト」
「キキキ、今回の事態は貴様らの失態だからな。貴様たち自身の手で解決すべきであろうが、このマコト様が手を貸してやろうと思ってな。……ここはあえてメイドと呼ばせてもらおう。そこの瓦礫の下敷きになった間抜けどもの救出を依頼したいのだが、いいだろうか?」
「勿論でございます。救出後に依頼が終了する形でよろしいでしょうか?」
「あぁ、それでいい」
「かしこまりました。ご依頼主は羽沼マコト様、ご依頼内容は負傷及び安否不明の風紀委員会の方々全員の救助、ご依頼期間は風紀委員会の方々の安否が確認されるまで。となります」
「あぁ、請求書は目の前の空崎ヒナに渡してやれ。部下の失態だからな」
「かしこまりました、それでは作業の方に移らせていただきます」
そういってメイドは無造作に足元の瓦礫に手を突っ込んだかと思うと、そのまま2人の生徒を引きずり出した。
「……ゴホッ…ゴホッ……た、たすかった……って、えぇ!?い、委員長、なんでここに!?」
「ゲホッ、ケホッ……ど、どうしましたかイオリ……ひ、ヒナ委員長!?」
「まずは2人ですね。あとは……あそこですね」
そういって手に掴んでいた2人を無造作に地面に落とすと、そのまま次の場所へと向かう。
「……あなた達、話は後で聞くからまずは瓦礫に埋もれた他のメンバーたちを救出しなさい」
「「…は、はい!」」
瓦礫の中から脱出できたかと思ったら、目の前に風紀委員長が居て驚く2人。しかし彼女の浮かべる表情を見ると、なぜここに居るのかを訪ねることはできなかった。そのまま、救出作業に当たっていた他の風紀委員の元へと走っていく。
「(……まるで最初から分かっていたかのように……。あの2人を含めて埋もれた風紀委員のメンバーたちは人質と変わらないってことね。……Aid Lady、すこし前から話題に上がり始めた企業ね。まさか、
ヒナをそう思考しながら遠くの方に視線を向け、そこから数km離れたビルの屋上に複数の生徒とメイドが居るのを見つける。1人のメイドと視線が交差したかと思うと、そのまま生徒を抱えてこちらへ向かってくる様子が見えた。
「(あれがおそらくアビドス高校の生徒ね……はぁ、まずはお互いの状況の確認と事態の説明からね。面倒だわ……)」
彼女はそうため息をつきながら、3人の生徒と1人の大人を抱えたメイドが到着するのを待った。
メイドによって再び現場へと訪れた対策委員会の3人と先生は、目の前の2人の人物を視界に収める。
「ゲヘナ学園風紀委員長……空崎ヒナ。外見も一致しています、間違いなく本人です。そしてあの行政官と入れ替わるようにいるのが……ゲヘナ学園、
「……ん、風紀委員長といったらゲヘナの最高戦力。そして
「ど、どうしてそんな人物までここにいるのよ!?」
「……あのメイドさんはどこに?」
「えっと……あっ、あそこに……」
ノノミの疑問に答えるように先生が指さす。一同がそこに目線を向けると、瓦礫の中へと手を突っ込み埋もれた風紀委員を引きずり出しては、その場に落としているメイドの姿であった。
「「「えぇ……(困惑)」」」
「まるで野菜を収穫する見たいに……」
「あなた達がアビドス高校の生徒であってるかしら?」
「は、はい!ゲヘナ学園の風紀委員長、空崎ヒナさんと
「……えぇ、そうね。私たち風紀委員会が事前通達なしで、当校の問題行動を起こす生徒を捕縛する為に
「……ん、それだけ?」
「キキキ!言ってやれ空崎ヒナ。お前の部下が何をしでかしたのか」
「……そして、ゲヘナにとっての不安要素の確認及び排除のために、あなた達アビドス高校を巻き込んだ戦術的行動を起こしたことね」
「はい、その通りです」
「……最初の便利屋68との戦闘中に、風紀委員会の戦術行動に巻き込んだことについては謝罪するわ。だけど、こちらも風紀委員会としての公務。妨害されたことに変わりないわ。そしてその後に関してもあなた達アビドスが直接妨害してきたわけではないけれど、あのメイドの言っていたことから間接的に関わっていると思うのだけれど?」
「そ、それは……」
「ん、確かに………言われてみればそう」
「……それで?このまま便利屋たちを引き渡せって言うの?」
「…メイドさんに助けてもらいましたが、私たちの意見は変わりませんよ」
「ちょ、ちょっとまって下さい!あの風紀委員会の部隊の進軍はメイドさんによって防がれましたが、まだあのゲヘナの風紀委員長がいるんです!それにまだ後方に待機していた部隊だって残っていますし、これ以上メイドさんにお願いするわけにも……。あとはもう先生しか……」
簡易的に状況の把握が終わり、そのまま戦闘体勢へと突入しそうになる対策委員会の3人。アヤネは慌てて止めようとするが、そんな気配は微塵もなく弱音を吐いてしまう。
「あうぅ、こんな時にホシノ先輩がいてくれたら……!」
「……ホシノ?アビドスのホシノと言ったらあの小鳥遊ホシノのこと?」
「……え?えっと……それは」
「うへ~、一体何があったのさ。柴関ラーメンの周りがすごいことになってるじゃ~ん」
「……!」
「「「ほ、ホシノ先輩!」」」
ヒナが聞き返した直後、緊迫した状況とは正反対の彼女の声はその場に届く。
「ちょっ、今までどこにいたんですか!」
「いや~、ちょっとお昼寝しててさ。少し遅れちゃった」
「お、お昼寝って……」
「こっちは大変だったんですよー。ゲヘナ学園の風紀委員会がいきなり現れて……」
「ん、でも全員撃退した」
「いや……それ全部あのメイドが……、しかも目の前にはその委員長が残ってるし」
「風紀委員会?便利屋たちでも追ってきたの?まぁ、これで対策委員会は勢ぞろいだよ。後ろの方でなにかやってる人達と一緒にやりあってみる?」
「…………」
「キキキ!あぁ、それも面白そうだが……小鳥遊ホシノか。懐かしいな、確かずいぶん前にお前が執着していた生徒の名前ではないか?」
「ありゃ?もしかして私のことを知ってる感じ?」
現れた人物に対しマコトがそう呟き、ホシノが聞き返す。
「……情報部にいた頃、各自治区の要注意人物をある程度把握していたから。ずいぶんと変わったようね……あの時の事件以降、アビドスを去ったと思っていたわ」
「…………」
「…………」
ホシノとヒナ。お互いの視線が交差し、再び緊迫した状況に陥ろうとしていたその時、声を掛けた者がいた。
「お話し中失礼します。羽沼マコト様によりご依頼されておりました負傷及び安否不明の風紀委員会の方々全員の救助が完了しました。よって依頼は終了となりますが、いかがされますか?」
「キキキ!ずいぶんと早い仕事ぶりだな。これから面白くなりそうな状況だったが……どうする、空崎ヒナ?」
「……いいわ。私たちも戦いに来たわけじゃないから」
そういって振り返り、状況を確認する。遠くの方で到着した救急医学部の車両に雑に放りこまれた風紀委員のメンバーたちを見て、声をあげる。
「総員、撤収準備。帰るよ」
「……えっ!?」
「い、委員長!?まだ便利屋のやつらを……」
「何かしら?」
「あ……い、いや…何でもないです……」
遠くの方で救助活動をしていたイオリがその言葉に思わず走ってくるが、ヒナの視線が反論を許さなかった。そして再度アビドス対策委員会の方を振り向いて姿勢を正すと、そのまま頭を下げる。
「えっ?」
「頭をさげた……?」
思わぬ光景に声を漏らす4人だが、そのまま言葉を話す。
「事前通達無しでの無断兵力運用、そして他校での自治区で騒ぎを起こしたこと。このことについては私、空崎ヒナより、ゲヘナの風紀委員会の委員長として、アビドス対策委員会に対して公式に謝罪する。今後、ゲヘナの風紀委員会がここで無断に侵入することは無いと約束する。どうか許してほしい」
「キキキ!あぁ、上に立つものとしてそれが正しい。このマコト様からもAid Ladyの代表とシャーレの先生の顔を立てるとするか。ゲヘナ学園
そういって空崎ヒナは丁寧に頭を下げ、反対に羽沼マコトはどこか尊大な態度で頭を下げずに謝罪をした。その光景にアビドス対策委員会の面々どころか、撤収準備をしていた風紀委員たちも驚きの声をあげる。
「「「「「え、えぇ!?」」」」」
「あ…あの羽沼マコトが……!」
「謝罪をした!?」
「う、嘘だろ?夢でも見てるのか私たち!?」
それぞれがそう漏らし、近くで見ていたイオリも驚愕のあまり口がふさがらなかった。しかし、頭をあげた風紀委員長が視線を向けることですぐさま撤収準備へと戻る。そして、映像越しではあるが隣で謝罪をしたマコトに声を掛ける。
「……なんのつもり?今回の件には関わらないつもりじゃなかったの?」
「ん?なんだ空崎ヒナ。迷惑を掛けたのだから謝罪をするのは当たり前だろう?」
「どの口がほざいているのかしら」
「なぁに。私としてもゲヘナ学園としてもあのシャーレの先生、そして話題にあがりつつある起業、Aid Ladyとは今後とも仲良くしたいだろう?どこぞの行政官とは違ってな」
「…………」
普段の言動や態度からして、何かを企んでいるとしか思えない彼女だったが、そう言われてしまい追及が出来なくなってしまう。そして聞こえないように舌を打ちながらメイドへと体を向ける。
「……それで?あなたからは請求書とやらを貰えばいいのかしら?」
「はい。こちらが今回のマコト様からのご依頼による請求書となっております」
そう言われて自身とあまり身長の変わらないメイドから手渡された請求書を受け取ると、不可解な表情を浮かべる。
「……これはなんのつも………あぁ、そういうことね」
彼女が目にしたのは、0が1つ記載された請求書と一枚の白いカード。そして口の前に指を立てるメイドの姿だった。この光景はメイドがヒナの後ろにいたことで、マコトや対策委員会たちからは死角となっており、この2人以外には見られていなかった。
「……えぇ、確かに受け取ったわ(今回の事態のお詫びって形かしら……いや、それとも1つ貸しってところ?)」
「はい。では記載された日時までに、当社の口座に振込をお願いします」
「わかったわ」
そういって請求書とカードを制服の内側へとしまうと、アビドスの方へ振り返る。
「これで要件は終わりだな。では私はこれで失礼するとしよう」
そういって映像に映るマコトは姿を消した。続けてヒナも先生に何かを話しかけると、そのまま撤収準備の整った風紀委員会を引き連れてアビドス自治区を去っていった。
その場に残ったのは、瓦礫の散乱した自治区とオペレーターのアヤネを除く対策委員会の4人とシャーレの先生。そしてAid Ladyの代表と離れた場所で瓦礫の跡片づけをしているメイドの4人であった。緊迫した状況が解消されて全員が深くため息をつく。
「……ん、せっかく強い人と戦えるチャンスだったのに」
「いやいや…あの風紀委員長ですよシロコ先輩。絶対無茶ですって」
「うへ~、結局おじさんは状況が全然わかってないんだけど、何があったのさ?あの時のメイドさんが5人もいるし、周りのビルは倒れてるし……」
「そもそもホシノ先輩はこんなタイミングまで一体どこにいたんですか!」
「ごめんごめん」
「全くもう……」
お互いの心境を話し、ある程度の落ち着きを取り戻したところでメイドへと視線が集中する。
「それで?なんでこの前のメイドさんが居るのかな?」
「お初にお目にかかります。人材派遣会社Aid Ladyの代表を務めております。他の者と同様に名称はございませんので、お気軽にメイドさんとお呼びください」
「ありゃ、これはご丁寧にどうも……。そういえばこの前のメイドさんも言っていたけど、名称が無いってどういうこと?」
「おや、シャーレの先生にお聞きになられていませんか?私どもは、ヒトの手により作り出された汎用人格。作り出された機械に組み込まれたプログラムですよ」
「……へ?」
「もっとわかりやすく言うのであればロボットというのでしょうか」
「「「「え、えぇーーー!?」」」」」
「あ……そういえば、言っていなかったっけ?」
メイドのその一言に大きく声をあげる対策委員会。そして、彼女たちに言うのを忘れていたと言わんばかりの表情を浮かべるシャーレの先生。
「う、うそでしょ!?」
「ん、ロボットといったらもっとこう……大きなやつのイメージ」
「いやいやシロコちゃん。ロボットはアンテナがついたゴツゴツとしたやつだよ」
「さすがにそれは古くない?ホシノ先輩。一体何年前なのよ……」
「チッチッチ、違うねホシノ。ロボットはもっと巨大で変形して合体もするんだよ!だよね、メイドさん!」
「変形や合体はできませんが、専用のフレームへと換装すれば専用の装備などは取り付けられますよ」
「ほんと!?今度みせてくれる!?」
「はい」
「やったーー!」
「……いやいや、最初の質問から脱線しすぎですよ!先生もメイドさんも乗っからないでください!」
「ご、ゴメンねアヤネ……」
「これは失礼しました」
大人とは思えないほどにテンションを上げる先生と、気にする様子もなく答えるメイドを見て、アヤネが強引に話を戻す。
「えっと…それで、なんでメイドさんがここに居るのかな?」
「はい。簡単に要約しますと……」
そういって今までの流れを簡潔に答える。ホシノを除く対策委員会の4人とシャーレの先生も今一度振り返るために、その話を聞いていた。
「ふむふむ、メイドさんは便利屋たちに用があったんだね~。そこにゲヘナの風紀委員会が……そういえば、その便利屋たちは?」
「「「「…………あ」」」」
ビルの屋上からここへと向かったは良いが、そのまま便利屋68は屋上へと置き去りにしたままであった。そのことを思い出し、お互いに顔を見合わせたあと、メイドの方へと視線を向ける。
「便利屋68の皆さまでしたら、あのビルを降りたあとに柴関ラーメンと呼ばれるお店の店主と合流。そのまま病院へと向かったようです」
「え…?便利屋の奴らが?」
「……そういえば、まだ柴関ラーメンをふっ飛ばしたことについて話を聞いてない」
「そうですね。あの謝罪の後に風紀委員会が乱入してきましたから~」
「うへ?ノノミちゃん、謝罪ってどういうこと?」
「あぁ、それはですね……」
「話を遮るようで申し訳ございませんが、対策委員会の皆様は便利屋68の方々との勝負はいかがされますか?まだ決着はついていないようですが」
「えっと……メイドさん的にはどういう立ち位置でしょうか?」
「はい。便利屋68の方々に用があったのですが、「あの勝負に介入しないで欲しい。決着が付くまで待ってほしい」とのことでしたので、遠くで控えておりましたが、邪魔が入りましたので私の方で対処させていただいた状態でございます。順番待ちの最中に割り込まれては、良い気分ではありませんので。ですので現在、対策委員会の皆様と便利屋68の方々での決着が保留となっている状態ですが、いかがされますか?」
「えっと……色々あってまずは休みたいというか」
「ん。今日一日で色々あったから、あの決着はまた今度」
「そうですね~。大将のお見舞いにもいかないといけませんので」
「…そうですね。先程メイドさんからお聞きしたことについても話し合いのですが、まずは皆さんの体を休めないと……」
「うへ~、その勝負ってのはまだよくわからないけど、みんな疲れてるみたいだしまた今度ってことで。あとでここの跡片付けもしないとね~」
「左様ですか。ではわたくしどもは後に便利屋68の方々へとお会いしに行くとしましょう。瓦礫や建物の破損につきましては、こちらで責任をもって跡片付けをしますのでご心配なく」
「あ、ほんと?助かるよ~」
「まぁ、このほとんどはこのメイドの仕業なんだけどね……」
「それでは、今日は一旦解散ということで明日学校で状況を整理しましょう。こちらでもある程度調べておきますので」
「…アヤネちゃんの言う通り、今日は解散。また明日学校でね」
「はい、そうしましょうか」
「……とりあえずシャワーを浴びたい」
各々がそう話し、シャーレの先生がメイドに向き合う。
「そうだね……メイドさんも今日は助けてくれてありがとう。ちょっとやりすぎだと思うけど、やっぱりキヴォトスの皆からしたらそこまでなの……?」
「いえ、お気になさらずシャーレの先生。それでは私もここの跡片付けがありますので、これで失礼します。アビドスの皆様も、当社へのご依頼を検討であれば、是非お気軽にご連絡下さい」
そういって代表は丁寧にお辞儀をして、そのまま振り返り瓦礫の山へと歩いて行った。先生は先程ヒナに話しかけられたことを思い出しながらそれを見届けた。
「(カイザーコーポレーションがアビドス砂漠で何かを企んでいる……か)」
メイドが言っていたアビドス自治区に関する情報、そしてヒナから共有されたカイザーコーポレーションの動向。それを頭の中で組み合わせながら、対策委員会と共にその場を後にした。
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登場するメイドさん達の名前ってあったほうがいい?
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いる
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いらない
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そんなこといいからはよ続き書け