機械少女と青春を   作:バグキャラ

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大変長らくお待たせしました。


事態の悪化

 武装ヘリによる対地ミサイルによってもたらされた熱と黒煙が残る砂漠で、アビドス対策委員会の4人とシャーレの先生は、当初の目的であった施設の前に立つメイド服を着た人物へと目線を向けていた。

 

「久しぶり……って言うほど会ってない訳ではないけど、また会ったね、メイドさん」

 

 以前見た時と変わりなく、柔らかい雰囲気と同時にどこかミステリアスなものを纏った様子のメイドとは裏腹に、鋭く視線をぶつけるアビドスの面々。互いに持つ視線が交差し、沈黙が生まれる空間であったがシャーレの先生が素早く口を開き、それを破った。

 

「はい、昨日(さくじつ)ぶりでございます、シャーレの先生。これも何かの縁でしょうか。後ろにおられるアビドス高校の皆様も変わりないご様子で」

 

 声を掛けた先生に対して返事を返したメイドは、少し首をかしげる動作をするように先生の後ろへと顔を覗き込ませると、視界に入ったアビドスの4人にも声を掛けた。 

 

 先生の一歩後ろに控えるアビドスの4人は警戒心が強い状態であり、先生によって銃口を下げる指示が出たとはいえ、各々が持つ銃の把握(グリップ)を強く握りしめた状態であったからである。

 

 いくら怪しい存在であるとはいえ、こちらからの先制攻撃などがあってはならない。片方の手でシッテムの箱を構えつつ、もう片方の手は生徒達を落ち着けるように掌を向けていた。

 

「えっと、まずはさっきのことなんだけど……」

 

「ご安心下さい。この状況ですので、()()()についてはなんらおかしくないことかと」

 

「……助かるよ」

 

 先生の濁した言葉の意図を正確に読み取ったメイド服の人物はそのように返した。

 

 吹き荒れる砂と立ち上る黒煙によって視界不良の中、()()()()メイドとも一人の人物のいる方向へと銃口が向き、()()()()()()で銃弾が発射され、2人の間を横切った。

 

 些細な事であると続けたメイドとそれに目線を配る先生の意図を理解したホシノは、盾と銃を構えつつも隣に立つ後輩へと声を掛ける。

 

そういうことだから……わかった?シロコちゃん

 

……わかった

 

 当てるつもりは無かった。ただの威嚇射撃であった。などといった理由があったとはいえ、互いの立場が不明な状況で相手に対して銃口を向け、引き金を引いた。

 

 その事実はどうあれ先制攻撃とみなされてもおかしくないものであり、下手をすればそのまま戦闘が再開していたであろう事実に、ホシノを除くアビドスの3人は無意識ながらも引き金へと伸びていた指を慌てて離した。

 

 素性も実力も不明瞭な相手に対し、ここまでの行軍と戦闘によって疲労が溜まっている4人に対しメイドの相手をさせることなど、先生にとっては容認できることではなかった。

 

「色々と聞きたいことがあるけど……まずはメイドさんがどうしてここに?」

 

「私自身の口からは説明することはできませんが…………あえて言うのであれば招待されたと言っておきましょうか」

 

「誰に……って聞くのは野暮かな?あらかた予想は着くよ」

 

 メイドの後ろから聞こえてくる足並みのそろった音と装具の擦れる音が近づいてくる中、目の前に立つ人物が先生1人だけに聞こえる声量でぼそりと呟いた。

 

「……聞こえる前に改めて申し上げておきましょう。当社Eid Ladyはそちらと事を構えるつもりはございません

 

「……(こちらと事を構えるつもりは無い。それってアビドス対策委員会に対して?それとも……)」

 

 どこか深い意味を含んだ言葉に対し、こちらの意図を見透かされているかのように感じ取った先生は、その意図をすぐさま聞き返すようなことはせず、ただ静かに自身の背後で控えるアビドスの面々の隣に並ぶように引き下がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 施設に吹き込む風でスーツを靡かせ、砂で覆われたアスファルトの上で心地よく音を立てながら歩いてくる人物は、複数の兵を引き連れてメイドの横へと立ち止まると、シャーレの先生とアビドスの4人を視界に納めた。

 

「これはこれは……侵入者と聞いていたが、まさかアビドスだったとはな」

 

 そう言ってスーツを着た人物は相手を見下すかのような声音と態度で5人を見つめていた。

 

「なによあいつ……」

 

「……また援軍」

 

「……囲まれちゃいましたね」

 

「(あいつは、あの時一緒にいた…………)」

 

 その様子に各々の心境を抱きながらも、口に出すような真似はせず、その人物から続く言葉を待った。

 

「こちらが商談中にも関わらず、人の私有地へと入り込み、好き放題暴れて回ったようだな。これだけの損害を君たちの借金に加えてもいいのだが……大して変わらぬ額か」

 

「……あんたは、あの時の……」

 

「……ん?確かヤツが狙っていた……副会長だったか?」

 

 続けて言葉を発した人物に対しホシノが反応を示した時、にやりと距離が離れていても分かるほどに表情を変化させた。

 

「ふむ、良いことを思いついた。便利屋やヘルメット団を雇うよりも面白そうではないか」

 

 その様子にセリカやノノミがその人物へと問いただすと、予想外の一言だったのか大きく笑いだし、隣に立つメイドへと話しかけた。

 

「ふ、ふははは!まさか自分たちの借金相手すら知らんとは!全く……予想外とはこう言うことではないかね、Eid Lady?」

 

「おおむね同意しますが、まずは自己紹介などをしてみてはどうでしょうか?一部を除きアビドスの皆様はどうやらご存じないようですので」

 

「くっくっく……あぁそうだな、ここは営業の基本でもやってあげようではないか」

 

 そういって大きく笑っていた人物はこちらへと視線を向け直すと、その場にいる全員に対して聞こえるように声をあげた。

 

「既に知っている者が1人2人ほどいるようだが、まずは初めましてと言っておこう。私はカイザーコーポレーションの理事を務めている者だ。同時にここカイザーコーポレーションが経営をするPMCの代表取締も兼任している」

 

 オレンジ色をアクセントとした、全体的に黒いスーツを風になびかせながら背後にそびえるPMC施設を片手を広げてなびかせながらそう名乗り、そして広げた手をこちらへ向けて指を指すと、続けて言葉を発した。

 

「そして君たち、アビドス高等学校が借金をしている相手でもある」

 

「……こいつが!?」

 

「私たちの」

 

「借金相手……」

 

「…………」

 

 そういって突き付けられた真実に一同は驚きを表し、抱いた心情を口にこぼした。

 

「では、長くから続くこの借金について話し合いでもしようではないか。アビドス高校よ」

 

 そういって身分を現した目の前の人物、カイザーコーポレーション理事は淡々と言葉をつづった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アビドスが、借金をしている相手……」

 

「か、カイザーコーポレーションの……」

 

「正確に紹介すると、ここ以外にもカイザーコンストラクション、カイザーローンの理事でもある。先日、そのカイザーローンに強盗が入ったようだがね」

 

 驚きを口にしたノノミやアヤネの言葉にそう返すように言ったカイザーコーポレーション理事はつらつらと自身の持つ身分を述べていった。

 

「それはどうでもいいけど、要はあなたがアビドス高校を騙して、搾取し続けた張本人ってこと?」

 

「……ほう?」

 

「そうよ!ヘルメット団と便利屋を仕向けて、ずっと私たちを苦しませてきた犯人はあなたってことでしょ!」

 

 事前に得た情報で、自身の受けてきた仕打ちをやり返すように言い返したシロコとセリカだったが、それを聞いたカイザーPMC理事はまたもや笑い始めた。

 

「くっ……くははは!私に対し、最初に出てくる言葉がそれか!勝手に私有地へと侵入し、PMC職員である警備部隊へと攻撃しておいてその言葉が出てくるとは……」

 

「な、なによこいつ……」

 

「…………」

 

 強く言い放ったシロコとセリカは、まさか笑い声で返されるとは思っておらず、思わず放心状態へとなりかけるが、即座に態度を変えたカイザーPMC理事に思わず構えを取った。

 

「全く……予想外の連続ではないか。だが、口の利き方には気を付けたほうがいい。ここは合法的にカイザーPMCが事業を営んでいる場所だ。君たちは今、企業の私有地に対して不法侵入していることを理解したまえ」

 

「!」

 

「……確かに」

 

 変わらない事実を突きつけられ、わずかにたじろぎながらも更に強く言い返した対策委員会の面々に対し、カイザーPMC理事はどこか余裕のある態度でつらつらと持論を語っていく。

 

「苦しませてきた、辛い思いをした。それならいっそアビドス高校を放棄すればいいではないか?」

 

「「「……は?」」」

 

「既に荒廃していくだけの高校になんの思い入れがある?なぜわざわざこの学校にこだわる?限りある青春とやらを謳歌する為にも他の学校へと転校したほうが合理的ではないかね?」

 

「……!」

 

 アビドス対策委員会が長い間守り続けてきた学校を貶された瞬間、アビドスの中心にいたシロコが気にかけていた引き金へと指を掛け、銃を向けようとしたその時、1人の人物が上がる銃口を軽く手で押さえながら、対策委員会の前へと歩き出た。

 

「あまり私を無視してもらえないと助かるな、カイザーコーポレーション理事」

 

「……先生……」

 

「生徒相手に借金で立場を得られて、随分と楽しそうみたいだね」

 

「無視しているわけではなかったのだがね、シャーレの先生。既にあなたは私のことを知ってもらえているようで嬉しい限りだ」

 

「別に知ろうとしたわけじゃないよ。ただカイザーコーポレーションのHPにデカデカと写真が載せられていてね、嫌でも目につくさ。今回の件で功を奏したのか知らないけど、就任して間もないのにずいぶんとご満悦そうだね」

 

「ふん、それはそちらも同じことではないかね?失踪中の連邦生徒会長に名指しされた、シャーレの先生よ。運良く得た立場で借金まみれの生徒をこき使うのはさぞ楽しいだろう?」

 

「まさか?私は先生だよ。生徒の自主性を尊重し、手助けするのが私の役割。どこかの誰かと違って、子供相手に大人げない手法で悪巧みするような人物と一緒にしないで欲しいな」

 

 互いの表情が見て取れる程度の距離感に立つ2人は、最初と変わらず表情に変化はなく、軽口を交わす程度のやり取りで合ったが、その言葉の中に棘が増えていく様子を後ろに控えるシロコとノノミ、そしてセリカはどこか不安そうに見つめていた。

 

「どうやら想像していた印象とは随分違ったものだが……この件にシャーレは無関係ではないのか?人の私有地に入り込んで偉そうにするのはどうかと思うがね」

 

「おや?どうやらカイザーコーポレーションの理事は世情に疎いみたいだね。私はすでにアビドス対策委員会の顧問に就任していてね。方法はどうあれ、理事という立場にあるんだ。知らないってことはないんじゃない?」

 

「………口だけは回るようだな。それで?自主性とやらを重んじるシャーレの先生が、アビドスを引き連れて砂漠の辺境に、ましては企業の私有地に一体なんのようかね?」

 

「まさか。悪巧みが成功してはしゃぐ大人にちょっかいを掛けるほど私は暇じゃなくてね。それに勘違いしてるみたいだから訂正しておくけど、今ここにはアビドス高等学校の生徒は居ないよ」

 

「……ほう?」

 

 そう言ってシャーレの先生は白衣の内側から数枚の紙を取り出した。

 

「ここにくる前まで私はアビドス対策委員会の顧問として来ていたんだけどね。ここから先は連邦捜査部シャーレとして動かせてもらうよ。そして彼女たちはその部員。私の仕事を手伝ってもらっているんだよ」

 

 それは、彼女たちがここへ来る前に書いてもらった連邦捜査部シャーレへの仮入部届けであった。

 

「なるほど………2つの立場を上手く使い分けているようだな。そして、こんな砂漠の辺境にシャーレの先生が仕事とはな、ご苦労なことだ」

 

「超法的機関、連邦捜査部シャーレの権限については説明は必要かな?」

 

「……自治区内での制約なしの戦闘行為、及びその認可……だったか?」

 

「その通り。私1人には過ぎた権限だけど、生徒のためと考えるとね。アビドス自治区に位置するここの施設への立ち入りから、先ほどの戦闘にいたるまで全てが合法なのさ」

 

「全く、ふざけた権限を得たものだな。しかし、そちらこそ勘違いしているようだな。ここはカイザーコーポレーションの私有地だ。アビドスとの取引で我々が買い取っていてね。既に学園の運営から手が離れているこの土地でもその権限とやらは使えるのかな?」

 

「今回の仕事っていうのは、まさしくその取引さ。ここキヴォトスでは自治区にある学校が土地を管理しているみたいでね。だから先生である私が介入することができる。その学校と取引すること自体は全く違法ではない。土地の所有権も含めてね」

 

 まさしく大人同士の駆け引きに置いていかれつつあるセリカとシロコ、対照にホシノとノノミ、そしてドローン越しのアヤネは、普段は柔らかい雰囲気を纏う先生とは違った様子に驚きこそあれど、その流れを静かに見守っていた。

 

「アビドス生徒会とのやり取りで得たこの土地。違法性もない、クリーンな取引に一体なにが問題が?その薄っぺらい紙のようにこちらも証明できる書類を提示したほうが納得できるかね」

 

「はぁ……クリーンな取引を謳うくらいなら、もう少し上手くやったらどうかな?」

 

 カイザーコーポレーション理事に先生の持つ書類に指を突きつけられた先生はやれやれといった表情で部員届けを仕舞いながらカイザーPMC理事に視線を突き返した。

 

「ここアビドス砂漠の郊外の土地の所有権の譲渡からPMC施設の建設に至るまですべて、連邦生徒会に届け出されてないみたいじゃないか。ここに来る前に登記事項要約書を交付してもらおうかと思ったんだけど、まさか申請書すら提出されてないときた。いろんな事業に手を伸ばす割には随分と杜撰な管理だね。よく私有地だと言えたものだよ」

 

「……ここがまだアビドス自治区である。そう言いたいのかね?」

 

「端的に言えばそうだね。カイザーコーポレーション、アビドス高等学校、その他自治区や学園がここを君たちの私有地だと理解していても、正式にはまだ君たちの私有地とは認められていない」

 

 そう言い切った先生に対し、先程とは打って変わって苦い表情を浮かべるカイザーPMC理事。淡々と事実を述べた(PMC理事)に対し、彼女(先生)もまた、カイザーコーポレーションの理事の持つ弱みを丁寧に指摘することで優位な状況へと持ち出していた。

 

「お金を払ったから好き勝手していいなんて考えは、社会では通用しない。”先生”からの忠告だよ」

 

「……なるほど、確かに貴方の言う通りだな。運良く得ただけの人間だと思っていたが、どうやら違っていたようだ」

 

 立場が逆転した。対策委員会の誰しもがそう思っていたが、これは大人同士のやり取り。一筋縄ではいかないのが世の常である。

 

「いいだろう。ここカイザーコーポレーションの私有地の不法侵入に加え、好き放題暴れたことによる被害については見逃してやろうではないか。……だが、私個人としては、()()()()()()アビドス高等学校には信用が落ちたことによる対応はさせて貰おう。……私だ。例の件を進めろ」

 

「……そう来たか」

 

 先生による指摘を受け、それに応えたカイザーPMC理事であったが、突如として携帯を取り出してどこかへ連絡をすると、ドローン越しのアヤネの携帯から1つの連絡が入った。

 

「こちらはカイザーローンです。現時点を持ちましてアビドスの信用評価を最低ランクに下げさせていただきます」

 

「「「「なっ!?」」」」

 

「つきましては、変動金利を3000%上昇させる形で調整。それらを適用した上で、来月以降の利子の金額は9130万円でございます。それでは引き続き、期限までにお支払いをお願い致します」

 

「え、ちょ、ちょっと待って下さい!どうしてそんな急に……!」

 

 ドローンの通信越しに聞こえてくるアヤネとカイザーローン職員のやり取りを聞いた現場の4人は、この要因を引き起こしたであろう人物へと睨みつけた。

 

「はっはっは!どうやらアビドス高校は借金はおろか、利息を払うだけで借金自体の返済は一行に進んでいないことで、どうやらカイザーローンの信頼を失っていまったようだ」

 

「……白々しいね」

 

「これで君たちの立場は分かっただろう?いくら貴方が出てこようが、既に君たちは詰んでいるのだよ」

 

「…………」

 

「9000万だなんて……いきなりそんな額払えるわけ……」

 

「…………」

 

「そんな……」

 

「しかし、これだけでは面白みに欠けるな。……では、9億の借金に対する保証金も貰っておくとしよう。一週間以内にカイザーローンに3億ほど預託してもらおうか」

 

「保証金が3億……」

 

「何度もいうが、払うのが無理であれば自主退学でも転校でもすれば良い。そもそもアビドス高校の借金であって、君たち個人の借金ではない。それで全て解決であろう?」

 

「こいつ……!」

 

「できるわけないじゃないですか!私たちの大切な学校なのに!」

 

「……みんな帰ろう」

 

「……ホシノ先輩!?」

 

「先生もありがとう。……でもこれ以上ここで言い争っても意味がない。弄ばれるだけ」

 

「賢いようで何よりだ、副会長。では保証金と来月以降の返済についてはよろしく頼むよ、お客様」

 

 そういってカイザーPMC理事は周りを囲んでいた部隊に対し指示を飛ばすと、そのまま施設の中へ戻るように動き始めた。

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて……あなたには随分と時間を取らせてしまったな、Aid Lady。帰りについてはこちらで送ろうではないか」

 

 カイザーPMCの施設からアビドス一同が去った後、カイザーPMC理事は隣に立っていたメイドへと声を掛けた。

 

「いえ、こちらこそとても有意義な時間を過ごさせて頂きました。近くに当社のものが迎えに来ておりますので、送迎についてもお気になさらずに。改めまして、先程の取引につきましては後日こちらから連絡の方をさせていただきます」

 

「あぁ、良い返事がもらえることを期待しておこう」

 

「はい。ではこれで失礼します」

 

 そういってメイドは丁寧に一礼をすると、そのままここへ来た時と同じように砂漠へと歩き始めた。

 

 

 

 

 

 施設から歩き出して数分、いくつかの砂丘を越えた後に見えた荒野には、場違いと言っていいメイドが1人、そして複数の白い直方体がメイドの隣で空中へと浮遊していた。

 

 それを確認したメイドは迷うことなくその場へ向かうと声を掛けた。

 

「出迎えご苦労様です。しかし、緊急を要する連絡とは一体なんでしょうか?」

 

 アビドス一同とカイザーPMC理事がやり取りをしていた最中、Eid Ladyの代表を務めるメイドにButler(執事)から連絡が入っていた。

 

 今後、両社はともにEid Ladyと取引をする可能性があるために、連絡を後回しにしていたが、改めて緊急を要する件であると聞いて報告を受ける。

 

「現在、当社が位置する禁則地、通称廃墟と呼ばれる自治区にミレニアムサイエンススクールの学生と思われる人物によって構成された部隊が進軍中です」

 

「ふむ……危険度は?」

 

 腰まで伸びた髪を後頭部で纏めたメイド*1は報告内容を淡々と述べていく。

 

「はい。当社にて待機していた機体が直接確認したところ、先日代表が対応したゲヘナ学園に在籍する風紀委員会の大隊と同様であると判断しました」

 

「なるほど……確かにそれは危険かもしれませんね。現時点で当社のビルが第三者に補足されるのは好ましくありません」

 

「いかがいたしましょうか?当社からはまだ距離が離れておりますが、着実に当ビルへと向かってきております。外壁の偽装は随時展開中ですが、発見される可能性はゼロではないかと」

 

「現在はだれが対応を?」

 

「ビルにて待機していた機体が専用武装を使用して監視しております。既に部隊を補足しているため、指示があれば適切に対処しますが」

 

「いえ、結構です。不要に敵対する必要はないでしょう」

 

「左様ですか」

 

「まずは私自身、直接確認するとしましょう。()()()の方は?」

 

「既に準備が完了しております。いつでも出立可能です」

 

「気遣いご苦労様です。では急ぎ当社へと戻るとしましょう」

 

 そういって代表を務めるメイドと、この場にて待機していたメイドは空中に待機中であった白い直方体へと手にかけると、見る見るうちに形を変えていき、数秒後には細見のホバーバイクのような状態へと姿を変えていた。

 

 メイドが化粧箱と呼んだそれは、Aid Ladyが保有する汎用型ドローンである。人並みの大きさである白い直方体のソレは、必要に応じてプログラムされた形態へと変形する機構が組み込まれており、現在はこうしてAid Ladyの移動手段として活用されている。

 

 先日発生したアビドス自治区に位置する街中で発生した騒ぎの後片付けにも、この化粧箱は用いられており、彼女たちが作業する為の足場として、そして破損した建造物や路面などを修復する際には、それに適した重機と同じ役割を果たすなど広く活用されていた。

 

 淑女の必要に応じて必要な物へと姿を変える。ゆえに化粧箱と呼ばれるソレは、Aid Ladyの数少ない備品の一つであり、これまでに利用されてきた方法以外にも、物資の運搬や機体同士の通信を安定化させる為の中継器、そして社に所属する機体の応急修理も可能、更にはドローン自体に迷彩機能も組み込まれている。

 

 それは技術の進歩が目覚ましいキヴォトスでも、雲の上の存在であるといって差し支えない代物であった。

 

 そんな姿を変えた化粧箱に跨った2人のメイドは、その機体の重さを物ともせずにふわりと宙へ浮かび上がると、そのまま助走も無しの状態からは想像もできないほどに素早い速度で砂漠を駆けだした。

 

*1
便利屋68の依頼を受け、アビドス高校襲撃時にいたメイド。通称メイドBちゃんです




ちゃんと生きてます。これからも頑張って投稿していきますので、なにとぞよろしくお願い致します。

また、作品の評価や感想、誤字報告などが大変励みとなっております。皆様ありがとうございます。

登場するメイドさん達の名前ってあったほうがいい?

  • いる
  • いらない
  • そんなこといいからはよ続き書け
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