機械少女と青春を   作:バグキャラ

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お待たせしましたー


阻むもの

 崩壊寸前のビル群の中で、ひと際目立つように立ちそびえるのは、既に役割を失い、その身を吹き抜ける風に対して鈍い金属音で答える電波塔であった。

 

 全体を鉄骨で形成するそれは放棄されて以降、長く雨風に晒され続けたことで錆色に姿を変えており、その足元には体を縫い留めていていたであろうネジやボルトが落ちているのが見て取れる。

 

 そんな他のビルと同様に崩壊寸前である電波塔の上には、風に吹かれてもなお微動だにしないメイド服の人物が立っており、先程まで戦闘があったであろう場所に顔を向けていた。

 

「……なるほど。確かに危険度としては、先日に対応したゲヘナ学園の風紀委員会の部隊と同等と言ったところですね。部隊の練度として考えてもシャーレの先生が指揮するアビドスの皆様と比較して、ほぼ互角……いえ、あの方の指揮や人数差を考慮するのであれば僅かにアビドスの皆様に分があるといったところでしょうか」

 

 そう冷静に分析するのは、アビドスの砂漠にあるカイザーPMC施設から戻ったAid Ladyの代表を務めるメイドであった。足場とする電波塔の鉄骨の上で直立する彼女は、つい先程指示を飛ばした従業員からの連絡を受ける。

 

『誘導した無人兵器は、ビルの残骸と共に雨水貯留施設へと崩落。活動の停止を確認しました』

 

「ちょうど近くにいたものを宛がいましたが、撃破しますか。あの装甲に対しては苦戦されていたようですが、即座に別の方法を模索し実行するまでの判断とそれを行えるだけの実力。確かに脅威ですね」

 

『その他にも複数の防衛機構であったと思われる物に対し誘導を行いましたが、すべて撃破されております』

 

 C&Cがここ廃墟での調査任務を始めて以降、幾度となく無人兵器に補足されては迎撃に追われていた彼女たちであったが、それは全てAid Ladyのメイドによって誘導されて引き起こされた自体であり、なにも彼女たちの運が悪いというわけではなかった。

 

 こちらの存在が露見するような行動は控え、それでいて相手の脅威を見定めるためにそう動いたAid Ladyたちは、遠回りながらも確かにC&Cの進軍を抑え、交戦状況を把握することが出来ていた。

 

「さて、どうしたものでしょうか」

 

Butler(執事)の試算では、ここ廃墟において()()()で活動をしている無人兵器、および防衛機構を当てたとしても撃破されるとのことです』

 

「あの鉄くず達も、キヴォトスで暮らす方々を基準に考えるのであれば十分に脅威となりえますが、それ以上に彼女たちの部隊としての実力、練度、経験が高い基準のようですね」

 

 そのように語るメイドは、本店の構えるここ廃墟に対し進行するC&Cに対し、どこか嬉しそうな表情を浮かべているように感じ取れる。

 

「デザインは違えど、同じ種類の衣服を身に付けるものとしては仲良くしたいものですが、流石に間が悪いですね。最低限、他の地区に支店を立ててからでしょう」

 

『現在、元アビドス自治区で買収済みの区画にて建築確認申請を提出中です。審査が完了次第、支社を建設する予定となっております』

 

「当社が本格的に活動するにあたって、ここに本社を据えている以上は他の店舗が必要となるでしょう。廃墟となった街に直接ご来店していただくわけにはいきませんので」

 

『当社一帯を本格的に整備されてはいかがでしょうか?現時点で当社が保有する資源、また先程カイザーPMC理事と名乗られた方との取引で得られるものを合わせれば不可能ではないかと』

 

「あぁ、先程の件ですか。彼が申していた取引、あなたはどう思いますか?」

 

『当社の保有する備品の譲渡による物資の提供。いずれ備品の製造を開始する点を踏まえるのであれば悪くない取引かと』

 

「なるほど、確かに彼との取引をするのであれば不可能ではないでしょう。しかし、それだけではまだ保留ですね」

 

『何か懸念点が?』

 

 合理的であるはずの選択を否定されるかのような言動を前に、通信越しのメイドは代表の考えを汲み取ろうと疑問をぶつける。

 

「強いて言うのであれば、シャーレの先生という存在でしょうか。先程、カイザーPMC理事とアビドス高校の皆様を率いるシャーレの先生との話し合いに同席させていただきましたが、どうやらお互いに良い存在とは思われていないようで」

 

『代表がカイザーPMC理事との取引にて、シャーレという立場に対しての印象を悪くする可能性を考慮する点は理解できます。しかし、現時点での影響力を考えるのであればカイザーコーポレーションを選ぶほうが合理的かと』

 

 そう答えたメイドに対し、代表のメイドはくすりと笑う。

 

「えぇ、当社の今後の発展、および利益を望むのであれば実に合理的です」

 

『では何故?』

 

 何もおかしいことではない。そう考える通信越しのメイドは、再度代表へと尋ねた。

 

「取引を持ち掛けたカイザーPMC理事、彼が気に入らなかった。ただそれだけです」

 

『それは……』

 

 彼女に組み込まれているプログラムでは予想だにしていなかったその一言に、言葉を詰まらせたかのような反応をとった。

 

「勿論、これはAid Ladyの代表という立場ではなく、()()()としての意見です。代表の立場としても彼の言動や器の大きさ、寛大さを指摘することはできますが、さほど変わりないでしょう」

 

『では、カイザーコーポレーションとの取引は断ると?』

 

「いえ、それはあくまでも保留です。結論を出す際に私情を挟むつもりはありません。カイザーPMC理事とアビドス対策委員会の皆様。双方の関係が落ち着いてから結論を出すとしましょう」

 

『……現時点で()()()()()()()()()の方々は、カイザーコーポレーションに対し借金の利息、及び保証金の支払う手段はないかと』

 

「えぇ、()()()()()()()()()だけでは、数日中に借金を理由にアビドス高校を差し押さえられるでしょう。しかしおそらく、その顧問……いえ、シャーレの先生が手を打つはずです。機転が利くと同時に、それを合法的に行使することが出来るだけの権限、及びその能力を持っています」

 

『シャーレの先生名義でアビドスの借金を解決すると?』

 

「いえ、それはアビドスの皆様にとっての誇りを貶めることになるのでしょう。あくまでもあの方は先生。彼女1人で問題を解決するのではなく、生徒と共に問題に向き合うことを本質として捉えられている」

 

 Aid Ladyとシャーレの先生が出会ってまだ数日。代表に限ればまだ先日であったばかりであり、言葉を交えたのもほんの僅かと言える程度であったが、その中でメイドはシャーレの先生の立ち振る舞いや言動から、彼女という人物像を理解していた。

 

「非常に遠回りな道筋になろうとも、あの方は自身を曲げることはないでしょう。シャーレの先生、とても興味深い存在ですね」

 

『左様ですか』

 

「えぇ。便利屋68の皆様同様、今後ともお付き合いさせていただきたいものです。……さて、無駄話が過ぎましたね。彼女たちは?」

 

『現在、Aid Lady本社に向けて進行中。以前、代表が廃墟を掃除された際に使われた広場へと到着しました』

 

「おや、もうそこまで。その他にも調べる場所がありそうなものですが、随分と直線的ですね」

 

『いかがいたしましょうか?』

 

「仕方ありません。これ以上進まれては不都合ですので、あの広場から先に進まれるようであれば対処しましょう。近くにいるもので構いませんので、適当に1体用意しておいてください」

 

『かしこまりました』

 

 そういってメイドは通信を切り、隣に浮遊する白い直方体の物体として形取る汎用型ドローン、化粧箱に手を掛けると電波塔から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……にしても気に入らねぇな。あれだけ騒ぎを起こしたのに全く絡まれねぇ」

 

「うーん……結構遠くの方だけど、まだまだいるっぽい気がする」

 

「運が悪かっただけか……いや、アスナ先輩がいるから違う気がするけど……」

 

「現在もまだ廃墟のどこかで、無人兵器が生産される工場が稼働しているとの噂です。警戒することに越したことはないかと」

 

 彼女たちが移動を始めた直後、自分たちを捕捉した無人兵器、通称パワーローダーを撃退し任務を再開したのだが、あれ以降彼女たちが戦闘を行うことは無かった。他のメンバーとは違い、視界確保のためにビルの屋上を移動するカリンはその照準器越しで索敵を行うが、その姿を捉えることはなかった。

 

 彼女たちC&Cには、任務としての時間や所持する物資の数に制限があることもあって、当初とは打って変わって無人兵器又は防衛機構と接敵、捕捉されたとしても回避、離脱へと方針を切り替えていた。が、それ以前に敵と遭遇することがなく、本来の目的通りに廃墟の奥地へと進んでいく。

 

「仕事は仕事……なんだが、こうなるとやっぱ退屈だな」

 

「よいしょっ……と。うーん、ここも違うかー」

 

「持ってきた爆薬を鞄ごとお渡ししてしまいましたので、これ以上の戦闘はさらに長引くかと……ふむ、どうやらこちらも違うようで」

 

 そうインカム越しに話す3人は、廃墟の街ながらも、その発展と成長を感じられるような名残を残す大きな道路を中心に、沿道に立つある程度の原型を残した廃ビルの中を調べていた。

 

 所々が崩れ落ち、長い年月をかけて地面から伸び上がったであろうツル系の植物を掻き分け、建物の外観や大きさから構造を把握すると、素早く建物内を探索していく。

 

 無論、先程襲われた無人兵器同様に再度補足される可能性を考慮して最大限の警戒をしながらも手際良く進める様子は、ミレニアムのエージェントとしての経験や技術の高さを感じされるものであった。

 

「……ここから少し進むと開けた場所に出る。形状的には交差点だけど、視界が開けてるから奇襲されることはないと思う」

 

 索敵と同時に臨時のナビゲーターとして動くカリンは、今回の任務の際に持たせられた端末を用いて周囲の地形の把握とその記録を行い、簡易的な地図を作成していた。

 

 端末に表示される黒い空間の中に、白い線が格子状となって周りの地形や3人の探索した建物の輪郭を表すようにかたどっていき、そして立体的な地図を形成していくそれは、ミレニアムの高い技術の結晶であると見て取れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 周りの建物をしたべながら道路を進む3人は、カリンの案内通りに道なりを進むと、大きく開けた場所に出た。複数の道路が重なりあり、一つの大きな交差点を生み出すその場所は、発展した都市から感じることが出来るような神秘的なような場所であった。

 

「……視界は良好。ただビルに囲まれる感じは気に入らねぇな」

 

「すんすん……なんかちょっと焦げ臭いような」

 

 アスナの反応を聞いたアカネはその場に屈むと、道路を舗装するコンクリートを指で擦り鼻に近づけた。

 

「……どうやら以前にもここで戦闘があったようです。既に雨などで流されていますが、わずかに残る火薬の汚れや特有の臭いからして、先程交戦した無人兵器の類かと」

 

「なんでわかるんだよ。犬かお前らは」

 

「リーダーは分からない?」

 

「先程炎の中を動かれていたので、わずかばかり鼻が利きにくくなっているのでしょうか」

 

「……ま、臭いなんか分からなくても、辺りを見れば一目瞭然だな」

 

 そう話すネルは広場の中心に立つとぐるりと一周、辺りを見回す。

 

 視界の先にはところどころに弾痕が残っており、先程戦った無人兵器か、それと同様のものであっただろう機械の破片が地面にいくつか飛散していた。広場から離れた場所に散らばる瓦礫の隙間には、ここら一帯を徘徊する無人兵器の装備である銃器の薬莢と思われるものが、薄暗い廃墟の中でもなお鈍い金属の輝きを放っていた。

 

「……さて、結構進んだがいまだ進展はねぇな」

 

「一応さっきの道は続いてるみたいだし、もうちょっと進んでみる?」

 

「時間や物資の残量からして、この辺りが限度かと。交戦によって予想以上に時間を取られてしまいましたね」

 

「はぁ……リオやヒマリからネチネチ言われんのはそろそろ勘弁願いたいところだ」

 

「でも相手したいって言いだしたのはリーダーじゃん」

 

「だから隠れてやり過ごせってか?あたしの性に合わねぇ」

 

「趣味と仕事は別だったのでは?」

 

「お前も言うようになったな。アカネ」

 

「お褒めに預かり光栄です」

 

「ほめてねぇよ」

 

 部隊の中でメンバー同士、会話に花を咲かせる中、ネルは話す。

 

「とりあえず、もう少しだけ進むぞ。何かあれば撤退だ」

 

 そうして先程進んできた道を再度進もうと体を向けた瞬間、

 

「……!」

 

 何かに気づいたネルは咄嗟に体を後方へと跳ねさせた。その様子にアスナとアカネも聞き返すような真似はせずにすぐさま銃を構える。

 

「なんかいるな……カリン」

 

『今いる広場から進んだ道路の先。無人兵器が1体、こちらに向かってきてる』

 

 広場の中心から下がり銃を構えたネルは、離れたビルの屋上でライフルを構えるカリンへと問いかけ、感じ取った気配の正体を認識する。

 

「1体?さっきみたいに沢山じゃなくて?」

 

『……形状からして、リーダーが蹴散らしてたものと同じだと思う』

 

「戦力的には問題なさそうに思えますが……リーダー?」

 

 アカネがそうネルへと問いかけたが、声が返ってこず思わず視線を向けると、ネルは口を閉ざしたまま相手に視線を離さないようにしていた。

 

 開けた場所とはいえ、ビルで周りを囲まれた立地。カリンも索敵を終え、目の前を除く周囲には敵がいないことは確認済みであるが、それでもなお奇襲がないとは限らない。その点を頭の片隅に入れながら視界を前方に向けた。

 

 進路先の通路の沿道に立つ建物の影によって、いまだ直視で姿を捕らえることが出来なかったソレはゆっくりと3人の目の間に姿を現した。

 

 つい先程まで交戦していた無人兵器、パワーローダー同様に黒い装甲を人型の機体に纏い、数が少ないながらも群れを成して襲ってきた相手は、単独で彼女たちの前に立ち止まる。*1

 

 3人の目の前に立ちはだかる無人兵器、オートマタ*2はその手に持つ装備の銃口を地面へと降ろしたまま、動きを止める。そのままゆっくりと顔をあげ…………

 

「「「「!!!」」」」

 

 それに向き合う全員が表情を変化させた。

 

 つい先ほどまで交戦し、撃破していた無人兵器。オートマタと変わらない姿であり、手に持つ装備も同じであった。が、それを見た4人に対してそれは同一個体とは思わせないほどの異質な雰囲気を感じさせた。

 

「おいお前ら。気を引き締めろ、正念場だ」

 

「うん」

 

「はい」

 

「了解」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 静止した状況。お互いに動きはなく、間合いも離れたままの中、ふわりと風が吹き抜けた。それによって広場から離れた場所に置いていた金属の薬莢が、その空洞の構造によってどこか気の抜けるような音を立てながら両者の間に転がってくる。

 

「…………」

 

「…………」

 

 3人の先頭に立つネルと、それに対峙するように立ちはだかるオートマタ。その間で音を立てながら転がる薬莢が動きを止めた直後……

 

「やれ」

 

「……!」

 

 ネルの一言で、スコープ越しに相手を捉えていたカリンが即座に引き金を引いた。対戦車ライフル特有の轟音と同時にやってきた弾丸に対し、オートマタは銃を構えると同時に半身をずらした。

 

「!……避けられた。次」

 

 先程まで撃破していた無人兵器と同様に一撃で仕留められるとは限らないと判断したカリンは、オートマタの頭部や胴体ではなく、比較的装甲が薄いであろう腕部の関節部を狙った。

 

 しかし、最小限の動きで自身の狙撃を回避されたことに声を漏らしはしたが、驚くようなことなく即座に銃のボルトを引いて、排莢と同時に次弾装填を終えると再度相手を狙うべくビルを移動する。

 

 ほぼ確実のこちらの位置を知られた以上、同じ場所に留まり次の狙撃を回避されるという悪手を打つわけにはいかない。

 

 ネルが警戒する相手であると同時に異質な雰囲気を感じさせる相手でもある。先程まで戦っていた相手とは全くの別の存在であり、初めて接敵する相手と同義に捉えると、次の機会に備えた。

 

 

 

 

 

 狙われたオートマタは、対戦車ライフルの直撃こそ避けたものの、その着弾によって飛散する道路の破片を全身に受けてしまう。が、オートマタ自身は身じろぎをするような動作をすることはなく、目の前から向かってくるネルに対し一身に視線を向けていた。

 

 彼女もオートマタと同様に飛散する瓦礫をその身に受けながらも口角をにじりあげ、不敵な笑みで銃口ごとぶつけるのではと思わせるほどの勢いでツインドラゴンを突きつけた。

 

「……!」

 

 それに対しオートマタは構えた銃をネルの腕に沿わせるように向けると、そのまま銃を振りぬき大きく弾いた。

 

「はっ!やるじゃねえか!」

 

 先ほどまで撃破してきた相手からは想像もできない、肉薄した戦闘。照準器に捉えて弾幕を散らしていた相手が搦手を使い、銃口を逸らすことで接近戦を持ちかけたネルの行動を阻止した。

 

 しかし、彼女は2丁持ち。銃は手放さずとも、突きつけた銃を腕ごと逸らされたが、もう片方の銃で牽制を兼ねてオートマタの全身に銃弾を浴びせるべく引き金を引いた。

 

 接近戦から牽制と切り替えたネルによって弾幕を敷かれたオートマタは、ネルの手を弾いた方の銃を持った腕を胸元に戻すと同時に、被弾面積を抑えるべく上半身を屈めると、その姿勢のままに片足をネルに向けて水平に突き出した。

 

 オートマタによる中段蹴りは、咄嗟に弾幕をばら撒いたネルの腕による防御ごと体を捉えると、そのまま後方へと大きく吹き飛ばす。

 

「ぐぅ……クソっ!」

 

 他のメンバーと比べてネルの体格の小ささは、近接戦に置いて不利になりやすいが、彼女はそれを技術と根性で補う。

 

 最初に振り払われた腕の勢いを利用して空中を舞う体を捻ると、体の勢いを殺すべく、そのまま手に持つ銃を地面へと突き出した。彼女にとって一番の悪手は、相手との距離を離されること。

 

 超接近戦を十八番とするネルにとって、閉所ではなくひらけた屋外、近くに障害物と呼べるようなものはなく、相手に一方的に攻撃を許してしまうその地形は、不利と言わざるを得なかった。

 

 故に咄嗟に突き出したネルの銃は、地面との摩擦による金属音と火花を持ってして彼女をオートマタから数メートル離した場所で静止させた。

 

 蹴り出された勢いによって、重力を忘れていたかのように体が空中へと浮かんでいたが、即座にソレを思い出すと、ネルの脚をふわりと地面に降ろす。そのまま銃を突き出したことによってえぐれた地面に脚を掛けると、その亀裂を広げるかのような脚力で再度、前へと駆けだした。

 

 

 

 

 

 ネルが再度前線へと戻ろうと動く数秒前。

 

 カリンの狙撃と同時に動いたネルから一呼吸ずらして動き出したアスナとアカネ。ネルが接近戦を仕掛けて1対1の状況を作り出し、その背後から隙を狙うべく行動するが、そのの仕掛けを難なく躱して2人の間を通すように吹き飛ばさた様子を見て即座に作戦を変更する。

 

 ネルの代わりにオートマタとの相手をアスナが担い、その補助とカリンの狙撃の為の隙を作るべくアカネが動きだした。その判断と実行、そして彼女たちを横切ったネルの心配は不要だと伝える為の言葉は不要であった。

 

 相手のオートマタは雰囲気は違えど、同じ形状と装甲。何度も撃破した相手の為、その耐久値や弱点部分は把握している。しかしネルをあしらうその動きを見てアスナは射撃による制圧ではなく、銃そのものを使った肉弾戦を仕掛けると、オートマタもそれに応じるべく銃を構える。

 

 ネルの近接戦の技術には劣るが、それでも抜群の運動神経と反射神経。そして彼女の持つ直観の鋭さが、異質な雰囲気を纏う相手との戦闘を可能とした。

 

「(これは喉…次は脚……これはフェイント……からの足払い!)」

 

 普段の彼女からは想像もできない真面目な表情が、その肉弾戦の苛烈さを物語る。オートマタの持つ装備の銃口や銃床、そして黒い装甲で覆われた機体による彼女の急所を的確に狙った攻撃が、彼女を制圧しようと追い詰めるが、それを自身の武器と体裁きで紙一重に逸らしながら、ネルが復帰するまでの時間を稼ぐ。

 

 相手の動き一つ一つが歴戦の彼女の神経をゴリゴリと削っていく中、アスナは集中力を研ぎ澄ませる。

 

 同時に相手1人に気を取られないように戦場全体へと警戒し、奇襲への対策を怒らぬよう気を配り相手の一挙手一投足を見逃さない。わざと攻撃を受け、その衝撃を体の外へと逃がすと同時に更に距離を詰めるが、それを悟ったオートマタは機体の重心を後ろに倒し、地面を転がるようにして距離を取る。

 

「(相手の体勢が崩れた!)」

 

 オートマタはすぐさま姿勢を戻すべく地に手を付けた直後、背後から細い腕が伸びる。アスナが仕掛けるべく距離を詰めた途端に動きだしたアカネがオートマタの死角へと潜り込んでいた。アカネの持つ銃、サイレントソリューションでは有効打にならない可能性が高い以上、他のメンバーの為に隙を作るべく相手を拘束しにかかる。

 

「(まずは武器を奪……!)」

 

 武器を持つ片腕を無力化すべく、手を伸ばした直後。オートマタの死角であったはずの背後にいたアカネの喉元を目掛けて腕が向かってきていた。完全に設計を無視しているであろう人の関節の可動域を完全に無視した動きは、アカネの不意を衝くには十分だった。

 

「(不覚……!回避は間に合わない。ならば)」

 

 喉元へ掴みかかる腕に割り込ませるようにもう片方の腕を差し込ませた。被害は最小限に、それでいて相手への有効打を与えるべく腕を捨てた行動は、まさしく彼女の覚悟の現れでもあった。

 

 そうして腕を掴まれたアカネ。握りつぶされる際の痛みに備えると同時に次に備えた行動は、オートマタの伸ばされた腕の関節に対して蹴り上げられた脚によって阻止された。

 

「リーダー……っ!」

 

 後方へと飛ばされたネルの復帰と同時に繰り出された蹴りによって、アカネへの有効打が遅れたと同時に、彼女を掴んだ腕を持つとそのままオートマタの腕を捥ぎ取る勢いで、関節を決めにかかる。

 

 だが、オートマタもされるがままではない。ネルによって蹴り上げらた腕とは反対の腕で即座に銃口を向けて引き金を引こうとするが、直後にオートマタ頭部の顎に衝撃を受けたことによってわずかに行動が遅れた。

 

 腕をへし折りにかかるアカネと、ネルの復帰による対応によって、アスナの銃床による打撃への反応が遅れてしまったのだった。即座に行動を修正し、今後の行動に影響の出る腕の損傷の防ぐべく、再度アカネを狙うべく銃の引き金を引こうとする。

 

 しかし、その数瞬の間は彼女にとっては命取りであった。腕を蹴り上げたネルの脚は、そのまま踵落としのごとく振り落ろされ、銃を弾き飛ばした。お返しだと言わんばかりのネルの表情がオートマタの視界に映った瞬間、鈍い音が鳴り響く。

 

 音の発生源は背後にいたアカネであり、彼女を掴みかかった腕があらぬ方向へと折れ曲がっていた。

 

「(腕ごとを取るつもりがへし折る程度で精いっぱい……カリン!」

 

 オートマタの腕を無力化した割に苦い表情を浮かべるアカネは、初撃以降隙を伺っていたカリンに声をあげる。そのままへし折った腕の手首に全体重を掛けるとともにひねり上げ、アカネとオートマタと僅かな距離を開けた。

 

 刹那、わずかに空いた空間に轟音と同時に弾丸が飛来すると、へし折ったオートマタの腕が宙を舞った。直後、オートマタとそれに肉薄する3人は爆炎に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 広場の中心に広がる黒煙の中から3人が飛び出す。

 

「……ぷはっ!何が起こったの!?」

 

「あいつは爆発もすんのかよ」

 

「いえ、どうやらアレの腕をへし折った際に私の服の中に隠し持っていた爆薬を使われてしまったようです」

 

「まだ隠し持ってたのか」

 

「いえ、あれが正真正銘最後の爆薬です。あとはいくつかの投げモノしか……」

 

「持ちすぎなんだよお前は。どこに仕舞ってるんだよほんとに」

 

「リーダーはちっちゃいからね!」

 

「うっせぇぞアスナ。……それよりあいつはどうなった」

 

「自爆紛いの行動でしたので……あちらも無傷ではなかと」

 

 そういって離脱した場所に目を向ける3人。そこには地面に残る爆発の後とわずかばかりの燃えカス、そして片腕を失ったオートマタであった。*3

 

「……あいつは一体なんなんだ。姿形はさっきまでのやつらと同じだが、どう間違っても別だろ」

 

「……特異個体……というべきなのでしょうか?」

 

「それってヒマリの仕事なんだっけ?」

 

 肩から先の腕を失ったことで、装甲の下に収まっていたであろう骨格と配線が見え隠れしており、それらが千切れた先で音を立てながら火花を散らしていた。その状況を確認するように視界を向けるオートマタは、何事もないかのようにネルに弾かれた銃を手に取る。

 

 しかし、拾い上げたソレはすでにカリンによって撃ち抜かれており、銃には大きな穴が開けられていた。オートマタ自身もアカネの爆薬を用いた自爆的行為によって機体全体が損傷しており、黒い装甲をさらに黒く染め上げていた。

 

 つい先ほど撃破した無人兵器、パワーローダーの纏っていた装甲とは違い、彼女たちの攻撃によって損傷を与え、撃破していたものと同様の姿であることから、目の前にいるオートマタは確かに同じ類のなのだろうと予想が付く。

 

 片腕と武器を失った相手はまさに満身創痍。機械であるオートマタには不適切でありながらも、そう言い表せられる状態は決着がついたといっても過言ではない。しかしながら、それと対峙する彼女たちは軽口は叩けど、一瞬たりとも気を抜かない。先程同様に一挙手一投足を見逃さない彼女たちを見たオートマタは、既に機能を失った銃を地面へと捨てると、だらりと片腕を垂らして、3人…否、ネルを捉えるかのような視線を向けた。

 

「…………」

 

「……はっ!いいぜ、付き合ってやる」

 

「あれ、もしかしてそうゆうこと?」

 

 そういってネルは一歩前へと踏み出した。その様子に思わず声を掛けようとするカリンとアカネだったが、背中越しに腕を振ったネルを見て控えた。

 

 互いに一歩進めばぶつかる距離で対峙する無人兵器オートマタと、C&C部長美甘ネル。

 

「アスナ!好きなタイミングで良い。合図しろ。……お前もそれでいいだろ?」

 

「おっけー!」

 

「…………」

 

 そういってネルは後ろのメンバーと目の前に立つオートマタに対し声を掛ける。ネルの後方からは肯定の声が届くが、対峙する相手は無言であった。しかし、その立ち振る舞いがネルに肯定の意を表していた。

 

 

 

 

 

 

 無音となった戦場。2人の足元を黒い煙が漂うなか、ネルの言葉を受けたアスナは手に持つ銃のマガジンを抜き取ると、そのまま空の銃を隣にいたアカネへと預けた。

 

「いっくよー……それっ!」

 

 大きく振りかぶったと同時に投げられたマガジンは、綺麗な弧を描いて2人の頭上へと向かうと、そのまま地面へと向かい始める。その様子にネルは銃の把握を強く握りしめるが、対するオートマタは腕を下ろしたままである。

 

 宙を舞ったマガジンが2人の頭上の高さを通り過ぎ、そのまま音を立てて地面へと衝突した。

 

「………!」

 

「………!」

 

 音が2人に届くと同時に仕掛けた。

 

 先手を取ったのはネル。先程と同様に銃口ごとぶつけるかのような勢いで銃をオートマタの頭部へと突き付けた。それに対しオートマタは同じように銃ごと腕を弾くべく、片腕をネルの腕へと添わせるように向かわせる。結果、全く同じようにネルは銃を握った腕を大きく弾かれてしまった。

 

 そのまま続くようにもう片方の腕で牽制を兼ねて弾幕を巻いたネルだが、オートマタは先程と違い、被弾面積を抑えるようなことはせずネルの腕を銃ごと膝を打ち出して、上空に逸らした。

 

 無防備となったネルの首に目掛けて最初にネルの腕を振りはらった手で手刀を繰り出した。

 

「!」

 

 そこでオートマタは気づく。ネルの銃を腕ごと振り払った方の腕に鎖が巻き付いていることに。鎖の先はネルも持つツインドラゴンの銃床であり、手刀を繰り出そうと手を振りかざしたことで、それにつながる鎖が振り払ったネルの腕を引き寄せた。

 

 ネルのもう片方の腕を蹴り上げたことで、まだ地面に脚が戻っておらず回避が間に合わない。そう判断した直後、戻っていたネルの腕に持つツインドラゴンの銃床による打撃を胴部へと受けてしまう。ボロボロの機体が揺れて体勢を崩しかけるが、なんとか浮き上がった脚を地面に戻して持ちこたえると、反撃のために再度蹴りを繰り出そうと顔をあげて、そこで気づいた。

 

 脚で蹴り飛ばした腕の勢いを利用した回転によって繰り出された蹴りが、オートマタの頭部を狙い、差し迫っていた。

 

 反撃、不可。

 

 回避、不可。

 

 防御、不可

 

 まさしく打つ手なし、機械では表現できないヒトの走馬灯ともいえる瞬間。ふと、声がオートマタに聞こえた。

 

「次はサシだな」

 

 その言葉を聞き取とると、なにかを発したかのように反応したオートマタは、そのままネルの上段蹴りによって頭部を蹴り飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 頭部を失ったオートマタは、まるで糸が切れたかのようにその場に崩れ落ちた。

 

 地面へと転がるソレは、対峙したネルは勝者であるかのように証明しており、ぴくりとも動くことはなかった。その様子をみたネルは大きく息を吐いて言葉を吐いた。

 

「……機会があれば……か」

 

 

*1
キャラのデザインとしては、ブルアカのオートマタ兵士(ロボット)の黒いバージョンを想像してください

*2
以降、オートマタと呼称

*3
葬送のフリーレンの零落の王墓攻略中で登場するシュピーゲルがフリーレンに化けた後、フェルンに攻撃された後ボロボロの状態の構図を想像してください




ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
やっぱり戦闘シーンを文字に起こすのは大変ですが、書いてて楽しいですね。

感想やお気に入り登録、評価や誤字報告が私にとってなによりのモチベーションと励みとなります。これからもよろしくお願いします。

登場するメイドさん達の名前ってあったほうがいい?

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