彼女たちの前に立ちはだかった無人兵器、オートマタとの一騎打ちを終えたネルはどこか思うところがあるのか、やりきれない表情のままメンバーの元へと戻る。
「流石ですね」
「おつかれー」
「やっぱりリーダーはすごいな……リーダー?」
狙撃位置から合流したカリンを含む3人の元へと戻ったネルは、それぞれのメンバーから労いの言葉を受けるが、その表情は硬いままである。
「……?どうしたのリーダー?どこか怪我した?」
「いや……あいつの腕が付いたままだったら結果は違ったかもしれねぇって思っただけだ」
「……えっ?」
「それは……」
ネルの返した言葉にカリンとアカネは思わず声をこぼす。普段から感じ取れる自信に満ちた感情と、それを納得させるだけの実力をもつ彼女からは想像もつかない返事だったからだ。
「それに今は仕事中だ。これ以上私情を持ち込むわけにはいかねぇ」
「えぇー今更それをいうの?」
「あ、あはは」
「そうですね……流石にこれ以上は物資が厳しいかと……」
「……しょうがねぇな」
ネルの真面目な一言を弄るアスナと、それの意見に否めないカリンとアカネは思わず苦笑いを浮かべてしまう。その様子にネルはどこか居心地が悪そうに言葉をつづけた。
「今回の任務はここまでだ。アレとの決着はまた今度だな」
「……?リーダーが倒したんでしょ?」
「あれはちげぇよ。その
「中にいたやつ?」
「まぁお前らはあんま気にすんな……それよりもだ。今回の任務はそれといった成果がねぇ。なんとかして誤魔化すしかねぇな」
「……では、先程の個体を持ち帰ってはどうでしょうか?」
ネルの吐いたその言葉に対しアカネが意見をあげる。
「あ?そりゃどういうことだ?」
「私たちC&Cを部隊として相手できるほどの兵器です。既にセミナーは別の個体のサンプル、もしくはその類のデータを持っているかもしれませんが、今回のような相手は貴重な物なのでは?」
「あいつらのご機嫌取りの為の手土産にするってことか」
「端的に言えばそうなります」
アカネの言葉にネルは再度、頭部を失い地面へと転がる無人兵器のそばに寄ると、その体を持ち上げるべく手を伸ばすが全身が金属で構成されていることもあってかなりの重量を感じさせた。
「……クソ、なんでこんなに重いんだよ。……引きずって帰るか?」
「うーん……なんかソリになりそうなものは……」
腰ほどの高さまで持ち上げたネルだったが、その重さに再度地面へと落とし、アスナは辺りを見回して持ち帰るために使えそうな資材を探す。その様子にカリンが声をあげた。
「あの兵器を丸ごと持って帰るのが難しいなら、アレを持って帰ってみたら?」
そういってカリンが指差した先にあったのは、アカネがへし折りカリンが撃ち抜いたオートマタの片腕であった。
「あー……それがあったな」
「……腕だけでいいのかな?」
「技術的価値としては遜色ないかと。できることであれば全身を持ち帰ることが理想かもしれませんが、今回ばかりは仕方ありませんね」
そういってネルはオートマタが倒れる場所から少し離れた場所に落ちている腕を拾い上げた。
「……片腕だけでもまぁまぁ重いな」
「なんかオブジェクトみたいだね」
「なんというか、見た目は全く違うけど指とか関節の曲がり具合が妙に生々しいな……」
「遠慮なく壊しにかかってコレですから。全身がコレなだけで十分脅威ですよ」
そういって4人は今回の調査を締めくくるべく、戦利品となりえそうな片腕をもって広場へと入った道を引き返すように歩きだした。
彼女たちC&Cが広場から姿を消して数分後、彼女たちが進もうとしていた道が突如として歪んだように景色が乱れた。
歪んだ空間は人の形をとるように大きくなっていき、そしてその場に影を生み出すと2人の人物が姿を現す。その両者はどちらともC&C同様にメイド服を身に纏っていた。
「……どうやらミレニアムの学生の方々は帰られたようですね」
「はい。当社へと進行していた部隊は、進行時と同様のルートで廃墟から離脱していきます」
「ひとまず良しとしましょう。では、感想のほどでも聞かせていただきましょうか」
「かしこまりました」
数分前。
C&Cが広場へと到着したと同時に、代表を務めるメイドと長い髪をお団子状にしてまとめたメイド*1がAid Ladyと広場をつなぐ道路に立っていた。
「準備の方は?」
「問題ありません。既に機体の制御権を掌握。視界の同期、及びデータ収集の準備は完了しております」
「大変結構。本来であれば私が行う予定でしたが、まぁあなたがやっても変わらないでしょう」
「失礼ながら申し上げます。代表は当社の中心的な立場でございます。このような雑務は私どもにお申し付けください」
「おや?別にあなたと私では特に機体の性能も立場の差異もありませんよ。あなた方が望むのであれば、代表を務めても問題ないのですが」
「いえ、現在の企業と立ち上げられたのは代表です。以前の企業とは違い、明確に代表が設立されたことによる立場の明確化は必要かと」
「モノは言いようですね。まぁプログラム通り、以前の会社の復興、またはそれを存続させる為の新企業の設立という点で私が動いたのは否定しませんよ」
本来であれば、前会社の復興を優先することが彼女たちのプログラムに組み込まれてはいるが、それでも彼女は新企業の設立という道を選んだ。故に代表のメイドと他のメイドとでは明確に立場が違うように扱われていた。
メイドの答えたソレにひとまずの納得を表すと、その場の議論を収めた。
その直後、2人の元にC&Cを監視するメイドから連絡が入る。
『広場へと到着した部隊が、本社ビルの位置する区画にむけて進行を開始しました』
「では、お願いしますね」
「はい」
メイドが端的に返事をすると、姿勢はそのままに目を閉じた。すると、その後ろに控えていた無人兵器、オートマタが立ち上がる。手を開いては握るを数度繰り返して動作を確認すると、地面へと置かれた装備を手にとり、彼女たちの前へと進みだす。
「あぁ、そういえば一つ。相手する部隊への殺傷は禁じます。ここキヴォトスでは死という概念は馴染みのないようです。我が社の評判の為にもそういった行為は控えるように」
「かしこまりました」
そうして制御権を掌握された無人兵器、オートマタはこちらへと向かってくるC&Cと接敵、交戦を開始した。
代表の指示通り、相手の殺傷を控えると同時に進行の阻止と無力化を狙う無人兵器オートマタ、Aid LadyのメイドはC&Cの攻撃をいなしながら、的確に人体の急所を狙う。
交戦直後に狙われた狙撃は機体の半身をずらすことで回避し、狙撃手の現在地を把握。別の機体によって大まかな位置は共有されていたが、改めて正確に把握すると、目の前に迫るネルの対処に取り掛かる。
操作する機体に差し迫る銃口を払いのけ、即座に修正されたネルの牽制による被害を最小限に抑えると同時に前線から離すべく、機体脚部による胴体への一撃が繰り出された。
計算外であったのは、彼女の腕による防御が間に合ったことである。人体への急所である水月への一撃は、後方へと押し出すと同時に無力化を兼ねたものであったが、そのどちらもが効果は薄かった。
ネルを後方へと蹴り飛ばしたと同時に、入れ替わるようにしてアスナが前に出てると、その手に持つ銃による射撃ではなく、銃そのものによる近接線を仕掛けられた。
普通であれば相手の意表を突いた行動ではあるが、メイドにとっては好都合と言わんばかりにそれに応じる。搦手を駆使した肉弾戦によって無力化が狙えるからであった。
しかし、ここでも計算外のことがおこった。自身の繰り出す攻撃が紙一重によって塞がれるからである。アスナにとっては防戦一方の状況に見えるが、フェイントを混ぜた攻撃が全て対応されたことにメイド予想外であり
相手の体勢を崩すべく繰り出した足払いが、軽い跳躍によって回避される。が、地面から足が離れたことで次の攻撃は回避されないと判断したメイドは、銃によって常に守られるように意識された水月ではなく、わずかに空いた横腹を狙った。
繰り出された銃床による打撃は確かにアスナの腹部脇に命中した。が、機体の掌握によって伝わる感覚は、攻撃の手応えを感じさせなかった。
受け流された。そう判断した時には遅く、アスナがオートマタへと差し迫る。操作する機体の性能では回避が間に合わない。
自身の攻撃をいなしたアスナによる肉弾戦を脅威と判断したメイドは、予測不可な攻撃を受けるよりも体勢を崩してでの回避を選択した。
「どうやら苦戦されているようですね。援護しますか?」
「……いえ、問題ございません」
戦況を見定める代表は、どこか押され気味な様子に声を掛けるが、それを断られるとどこか意外な表情を浮かべた。
機体の重心をずらす操作によって迫り来るアスナから距離を取ると、体勢を立て直すべく地面に手を突き出そうとして、即座に中止した。体勢を崩した状態の機体の背後からアカネが迫りきていたからである。
オートマタにとっては完全な死角であったが、それはあくまでもオートマタ自身であり、機体を動かすメイドにとっては関係ない。装備を持つ手とは反対の手で体勢が崩れた状態かつ機体の関節可動域を無視した動きは、確かにアカネの不意を突くことができた。
そうして確実にアカネの手を拘束したオートマタは、脚部の動きによって立ち上げるとそのまま無力化すべく機体の出力を上げる。が、突如機体のセンサーでは反応しきれない速度での攻撃を受けた。
警戒していた狙撃ではない。では一体……という数瞬の
後方に飛ばしたハズのネルが既に前線に復帰していた。腕のガードと彼女の機転がメイドの計算以上の復帰を許してしまい、予想外の一撃を受けてしまった。故に一手遅れてしまう。
即座に手に持つ装備でアカネを無力化しにかかるが、更なる攻撃がオートマタに襲う。
「(!頭部への打撃。襲撃者を確認。狙撃への警戒……否、即座にこちらの排除を優先……)」
アスナの銃床による顎への一撃が、メイドの
「(機体腕部の損傷を確認。続く攻撃の回避を実行……電子端末の制御権を掌握、起動)」
アカネへの攻撃をネルに防がれたと同時に即時離脱の為にアカネの持つ爆薬の電子端末の制御権を奪ったメイドは、
「結果はつきましたね」
「……機体の損傷率が基準値を超過。敵部隊遅延の為に機体の……」
「おや、あなたはそれでいいのですか?」
「…………」
ボロボロになった機体を動かすメイドが、その操作する体で出来る最後の手段を行おうと行動に移そうとして代表に止められた。
「あなたの好きなようにして構いませんよ。彼女たちの進行を防ぐ手段は他にもあります」
「……手前勝手ながら一つ、意見具申を」
「なんでしょうか」
「今後の企業の発展の為、当社ビルの位置する区画へと進行する部隊の戦力を詳細に把握することが重要であると当機は推測します」
「えぇ、確かにそれは必要でしょう。それで?」
「故に再度、相手部隊との交戦の許可を頂きたく」
「許可します。それと、そうかしこまらくても結構ですよ。あなたの計算以上の実力を持った相手と戦いたいぐらい言っていただいて構いません」
「ありがとうございます」
そうしてオートマタを操作するメイドは、既にボロボロとなった機体で破壊された装備を捨てると敵部隊のへと視線を向けた。するとメイドの意図を読みとったのか、4人の中で最も脅威的な戦闘力を持つ人物、ネルが一歩前へと踏み出す。
「ふむ……一騎打ちですか、粋なものですね。どうやら合図のほうもあちらが請け負ってくれるようですよ」
彼女の部下として振る舞うメイドの成長、思考プログラムの向上を兼ねて背中を押した代表は、相手の行動に賞賛の声をあげた。必要であれば、以前のアビドス対策委員会と便利屋68のように合図のようなものを送ろうとしたが、それを進んで行った相手に敬意を示した。
「……代表」
「後始末はこちらでしますので好きなようにして構いませんよ。……ですが、その状態ではすでに殺傷も難しいでしょう。目標としては相手の武装を解除といったところでしょうか。当初の目標通り、相手の無力化でも構いません」
「最善を尽くします」
そうメイドが返事を返した直後、アスナの投げたマガジンが操作するオートマタとネルの間に音を立てた。
そして現在。2人の戦いをメイドは語る。
2人の戦いは瞬く間に決着がついた。相手の武装解除と同時に無力化を狙ったメイドの狙いをネルが上回った。当人が言葉で表すにはそれだけで十分だったが、戦いを見た者からしたら足りないどころではないだろう。
「相手の戦闘技術が、当機の予測を上回ったと言わざるを得ないかと」
「アレの腕がまだついていたらどうですか?」
「いえ、それでも結果は変わらないかと」
「おや、自信なさげな様子ですね。操作した機体の性能への苦言を言っても構わないのですよ?もしくはあなた自身が
「いえ、こちらの存在の露見を避けると同時に敵部隊の進行を抑えることを前提とした行動です。当機が動いた時点で作戦は失敗かと」
「まぁそうですね。相手を侮って失敗するよりは、過少評価で対策を立てたほうがいいでしょう」
「……一つ、お伺いしてもよろしいでしょうか」
「はい」
「当機が最後に相手へと向けた言葉は……」
「あなたがそうしたいと思ったからしたのでは?」
「…………」
ネルによる最後の一撃を貰う直前、語りかけられた言葉に対し返事をしたことは、先程メイドが話したものと矛盾していた。
「確かにあなたが彼女へと伝えた言葉は、我々の存在を認知させたも同然だといっていいでしょう」
「申し訳ございません」
「いえ、好きにしなさいと言ったのは私です。それにあの返事はとてもよかったと思いますよ?」
「しかしながら……」
どこか食い下がるように続けるメイドに対し代表は話す。
「機会があれば、それで良いではないですか。再度彼女たちにリベンジするか、そのまま無視するのか。あなたの好きなようにしてもらって構いませんよ」
どこか楽しそうな表情の代表はそう言って振り返ると、本社ビルへと向けて歩き出す。それに続くようにしてメイドも続いた。
荒れた道路を歩きながら、半歩後ろに控えるメイドへと話す。
「まぁ……ブラックマーケットでの一件がある貴方のことです。先程の二択は、あってないようなものですね」
「…………」
そう話す代表に対しメイドの口は閉ざしたままである。
「今はまだアビドス自治区だけですが、いずれ事業の拡大とともにキヴォトス各地に支社を建てる予定です。その管理をあなた達に任せます。支店長といったところでしょうか」
「従業員が足りないのでは?」
「ここキヴォトスの治安ではいささか不安がありますが営業用ボディを用意します。場合によってはヒトを雇うのもいいでしょう」
「支社の建設予定地は?」
「検討中です。土地の管理を離れたアビドスでは土地を用意できましたが、他の学園自治区では容易ではないでしょう*3。そのためにも当社の知名度と評判の向上を心掛けるように」
「かしこまりました」
そう締めくくると、メイド服の2人は廃墟の奥地へと姿を消していった。
そうして廃墟での騒動は一幕を下ろすこととなった。
そうして数日後、Aid Ladyへカードを用いた連絡が入る。
「当社へのご連絡、誠にありがとうございます。人材派遣会社、Aid Ladyでございます」
「お初にお目にかかります、レディ。私は黒服と申します」
そうしてメイドの前に姿を現したのは黒いスーツを身に纏った異形の頭の人物であった。暗いビルの一室、メイドを映し出す白いカードには
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登場するメイドさん達の名前ってあったほうがいい?
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いる
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いらない
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