機械少女と青春を   作:バグキャラ

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おまたせしました。

今回の話は会話メインになります。あと黒服の会話部分ですが、自分の中での妄想や他作品を基に作成したものですので、解釈違いだと感じる方もいらっしゃるかと思いますが、何卒二次創作ということで納得して頂けたら幸いです。


カードの価値

敵視されている。

 

 黒服がそれを自覚したのは反感や嫌悪、不信感をはらんだ目線を向けられてすぐのことであった。その視線を向けるのは他の誰でもない目の前の彼女。

 

 衰退するアビドスの立地に聳えるビルの一室、彼のオフィスにて置かれたテーブルの上に置かれたカードによって出力されている映像、実体を持たないAid Ladyである。

 

 Aid Ladyのメイドが発した言葉は随所に棘を含むような部分はあったが、まだ()()という状態ということもあり基本的には丁寧なものであった。

 

 仕える者に対しての接する言葉遣いは従者(メイド)の装いをしているということもあって、基本技能の一つだということは理解できる。だが、その者から向けられる威圧感は到底無視できるようなものではなかった。

 

 キヴォトスでは珍しくもない銃を突きつけられるような行為ではなく、ましてや映像越しの会話によっての脅迫に近いそれは、聞く者によっては何の意味もない。もしくはただの冗談の類だとと言い捨てるかも知らない。

 

 しかし、それを現在進行形で受けている黒服にとっては笑い事などではなかった。

 

「…………」

 

 冗談ではない。

 

 単に銃を突きつけることが脅しという行為になるのであれば、今対面しているAid Ladyから黒服に向けて放たれるそれは一体なんと表現すれば良いのだろうか。

 

 キヴォトスにて1人の研究者として観測し、探求する黒服からしてみれば初めての経験であった。映像越しの相手に自身の生殺与奪の権を握られているかのような体験は。

 

 カイザーコーポレーションを利用してアビドスを追い詰め、キヴォトス最高の神秘と言われる小鳥遊ホシノという実験材料を手に入れた黒服の手腕や立場など、彼女を前にしては微塵も役に立たないだろう。

 

 以前に見かけたブラックマーケットでの一件や旧アビドス自治区での破壊活動、そしてそれを一晩にして復旧させるだけの圧倒的な技術力がそれを証明しており、黒服の持つ全てをさらけ出したとしても比較にならないと断言できてしまうほどに高次元なものであった。

 

 まさに予想外の状況。小鳥遊ホシノの持つカードがAid Ladyにとっての依頼に用いられる普通のカードなどではなく、彼女たちの企業への長期的な利用によってのみ得られることの出来る会員カードだという事実が、彼の立場をこうして危機に陥れていた。

 

 実際、黒服はこのカードがAid Ladyにとっての会員カードだとは()()()()()()。そしてその事実を彼女に対して説明すること自体も簡単である。

 

 だが、そのような説明(言い訳)がこのような場で簡単に通用する訳がないことなど契約を重んじる黒服にとって、そしてキヴォトスに身を置く大人として、彼自身が十分に理解していた。

 

「(Aid Ladyへの依頼費は法外と言えるほど高くわけではありませんが、学生にとっては手を出しずらい金額でしょう……あのアビドス高校に会員カードを貰うまでの依頼をするだけの余裕はないはず。然るにアビドス対策委員会とAid Ladyを含む便利屋68との衝突時に何かあったということ)」

 

 彼の持つ人脈や技術、資金などこの状況では無価値に等しい。ここから更に下手に言葉を発したとして彼女の気分を害する、もしくはAid Ladyの社内規約のようなものに触れてしまえば、その後の状況や結果など言うまでも無かった。

 

 まさに詰み一歩手前の状況。このまま沈黙を続けるのであれば、唯一残されたAid Ladyからの質問(尋問)による状況の打破までもが閉ざされてしまう。

 

 万が一を想定してこの場から逃亡する手段を考えるが、その全てが失敗に終わる。場合によってはこのビルごと消される可能性を考慮した上でのものであったが、黒服の考える最悪の想定を実行できてしまうだけの技術を相手が持っていることを理解すると、逃げるという手段の模索ための思考を放棄して、この状況を突破する為だけに全力を注いだ。

 

「……恐れながら一つ。お聞きしたいことが」

 

 先程同様に、相手の機嫌を損ねることがないようにと気を配りながら黒服は言葉を発した。

 

「なんでしょうか?」

 

「先程、貴方は私にカードの盗難と不正利用の2点についての疑惑が掛けられている……そう仰せられました」

 

「はい。こちらのカードは貴方の物ではなく、使用の許可もしておりません。そして現在貴方がこちらのカードを使用している状況ですので当社としては、貴方がこのカードを本来の所有者から奪取、そして当社へのご依頼もしくはその他連絡のために使用した。そう判断しております」

 

 黒服の問いに対し机上のメイドは肯定の意を返し、続けるように掛けられた疑いの理由まで述べた。彼の想定していた対応の中には、メイドの質問とは無関係な言葉を発した場合、有無を言わさず明確な敵対扱いされる可能性があったが、相手もそこまで咎める気はないようではあった。

 

 最悪は免れた。だが、まだこの状況を脱したわけではない。落ち着いてメイドの後に言葉を続けた。

 

「はい。その疑いについて、個別に説明させていただきたく」

 

「では、聞きたいこととは?」

 

「現時点で私には、このカードの所持による窃盗と不正利用の疑惑が掛けられております……しかし、御社が対処すると仰せられたのはカードの不正利用に関する点のみでした。不正利用の罪の大きさについては重々承知しておりますが、窃盗の容疑に関しては対応しないという風に受け取られるように解釈することもできます。聞き手の解釈の差はあれど、そのように捉えることが出来るように仰られた点についてお聞きしたく……」

 

「おや、カードの窃盗について容疑を認められると?」

 

「…っ、いえ……そのようなことでは」

 

 失態であった。メイドの対応は変わらず、そして情報収集の為とはいえこのような質問をするべきではなかったと彼は後悔し始めるが、その様子とは裏腹にメイドの態度は変わらない。黒服の言葉を遮るようにして問われた言葉は、この状況を好転も逆転もさせることは無かった。

 

「先程の質問の意図は理解しかねますが、聞かれたからには答えておきましょう。窃盗の容疑に関しては、()()()()罪に問うつもりはありません。現時点で貴方がカードの窃盗を行ったと断定するには、いささか情報が不足しております。こちらのカードの所有者であるお方からお話を伺い、いつどこで紛失したか、もしくは誰かに強奪されたかなどをお聞きする必要があります。そのうえでカードの現在地を把握し、所有している人物から事情を聴取し、落ちていたものを拾得した、誰かから預かった、もしくはカードの持ち主から強奪したなどの背景を調べることで初めて、窃盗した又はされたと定義するように当社は規則として定めております」

 

「………」

 

「しかし、カードの不正利用については異なります。こちらが許可した人物を介したカードの連絡、もしくは依頼をされるのであれば目をつむりますが、許可していない人物……今回の場合は黒服様のみのカードの使用は当社の規則により不正利用として取り扱うように定められております。他にカードの使用を許可していた人物がこの場にいない以上、あなたには不正利用の疑いが強く掛けられています。先程申し上げた窃盗に関する疑惑とは異なり、カードの不正利用についてはその過程や背景などを考慮に入れる必要はないため、こちらで判断が終わり次第厳粛に処置させていただく場合がございます」

 

「……なるほど」

 

「先程の質問に関する回答はこちらでよろしいでしょうか?」

 

「勿論でございます。ご教授いただき、感謝いたします」

 

「それでは、黒服様。当社からの質問に関する回答は用意できましたか?」

 

「………失礼しました」

 

 見抜かれていた。メイドからの質問に関する回答の間いくつもの解答例を組み上げ、その中から最も可能性のあるものを選びだして、何とか質問への回答を間に合わせることが出来たが、そんな様子などお見通しと言わんばかりのメイドに戦慄を覚えた。彼とて多くの企業や要人との対面など数えきれないほど経験している。交渉事など彼の最も長けた部分の一つであったはずだが、彼女を前にしては隠し事の一つなど通用しなかった。

 

「それでは改めまして、私に掛けられている窃盗とカードのに2点について説明させていただきます」

 

 この期に及んで彼女を前にして嘘など付けばどうなるかなど考えるまでも無い。話すことは真実のみ、しかし知らないことやこちらが不利になることは口に出さないことで、何とか反感を抱かせないように細心の注意を払った。

 

「まずこちらのカードの窃盗の件についてですが、このカードを所有していた者との取引によって入手したものでございます」

 

「…………」

 

 嘘は言っていない。あの小鳥遊ホシノとの取引内容までは口に出さなかったが大まかな内容としては、まさしく口に出した通りのものであった。メイドからの反応はないが、黒服は言葉を続ける。

 

「取引した際の内容は、お互いに納得のいくものであったため不当な手段で得たものではないと認識しております」

 

 一つ目の窃盗に関する容疑についてそう述べた。契約を重んじる者として、第三者としてのAid Ladyに小鳥遊ホシノと結んだ契約書類を見せるわけにはいかないが、話した内容はそのままと言えるものである。

 

「当社のカードに関する権利等を勝手に解釈されるのは困りますが、黒服様が述べられたことが真実であるのであれば窃盗に関しては不問ということになるでしょう」

 

「ありがとうございます」

 

「しかし、カードの窃盗という疑いについては完全には晴れておりませんのでその点は誤認されないようにお願いします。カードの譲渡に関してはご遠慮いただいているのですが、先程述べられた点のみでは断定することは不可能なので、限定的にカードを預かっている。そう認識していただくように」

 

「かしこまりました」

 

「こちらのカードの所有者に確認の為の連絡を差し上げているのですが、どうやらつながらないようで……()()()()()か、もしくは()()()()()()()()()()にいるでしょうか。後日改めて状況確認の為に直接伺うとしましょう」

 

「…………」

 

「なにか?」

 

「いえ、お気になさらずに」 

 

 なんとか一つ目の疑惑に関することを乗り切った、そう思った直後に爆弾発言を落とされた黒服は硬直した。が、すぐさま気を取り直し、メイドからの疑惑を回避する。

 

「続いてカードの不正利用に関する点についてですが、こちらは先程申し上げましたカードの所有者との取引によって得たものであるため、カードの所有権及びカードの利用に関しても問題ないと認識しておりました。御社が申されていた権利等の解釈については、仰る通りこちらの不手際であったことは自覚しております。その点については深く謝罪を」

 

「カードの取引によって、その使用に関する権利も移行した。故に貴方のカードの利用は不正に当たらない。そう認識されているということでよろしいでしょうか?」

 

「はい、その通りでございます」

 

「その取引というものが正常に行われているのであれば、こちらのカードの不正利用についても考慮すべき部分はあるでしょう」

 

「……」

 

 行ける。この危機を乗り越えられると黒服が踏んだその時、再度黒服は硬直しかけた。

 

「つきましては黒服様。こちらのカードを取引した際の内容ついて詳しくお教えいただきたいのですが如何でしょうか?」

 

「……それは……」

 

「何か不都合でも?」

 

 先程問われた窃盗に関する際に述べなかったことを聞かれてしまい、思わず言い淀んでしまう。Aid Ladyにとって何が地雷なのか不明な以上、変に彼女の敷地を歩きまわる訳にはいかなかった。

 

「当社としては、カードの不正利用に関しての対応は相手の事情等を考慮する必要はないと捉えております。しかしながら黒服様はカードの窃盗に関する疑いを、カードの所有者である方との取引で得たものだと説明され、続くカードの不正利用の疑いもこの取引によって所有権が移り、正当性があると申されました。とするのであれば黒服様とカードの所有者、双方が行った取引が正式に行わた者であったかを把握する必要がございます」

 

「……えぇ、おっしゃる通りかと」

 

「このカードの所有や使用に関する権利に関しての取引が正式に行われていたものであったか。両方が納得した内容の取引であったとしても、それはお互いの立場に付け込んだものではなかったか、もしくはこちらのカードに関する知識等を有していたものであったか、その他考慮すべき部分が正しく処理されていなければその取引の中で不正があった、または詐欺行為に該当する取引だと判断する場合がございます。後日カードの所有者である方にお伺いする予定ですが、取引に関しての齟齬があってはいけません。そのため取引を行った両者からお話を聞いたうえで改めてカードの窃盗に関する件、そしてカードの所有権に関しての処置を決める必要がございます」

 

「……」

 

「先程申し上げた通り、カードの使用もしくは所有に関する権利の譲渡は原則として認めておりません。しかしながら、先程述べた通りカードの所有者が納得したやり取りであったこと、もしくはそれ相応に特殊な状況であったのであれば当社としても柔軟に対応し、それに則った対処をさせていただこうと考えております。本来であれば黒服様とこちらのカードの所有者である方との取引内容に関して当社が関わる権利は在りませんが、当社のカードがその内容に含まれている、そして今回の会員カードの不正利用の処遇を決めるための判断材料といった点から、黒服様にその取引内容の開示を請求させていただきますが、よろしいでしょうか?」

 

 黒服からの反論を一言たりとも許さないメイドの主張は、しごく真っ当のものであった。言葉にはしていないが、小鳥遊ホシノとの取引でやり取りにやましいものがあったと言えない訳ではない。しかし、あくまでも作成した契約書通りの取引であり、契約を結んだ時点で双方が納得していたやり取りでもあったために、正当な取引であったと黒服は認識している。

 

 黒服はカードの窃盗に関する主張として小鳥遊ホシノとの取引を持ち出した。で、ある以上は黒服はその取引に関する内容を開示する必要があり、Aid Ladyはカードの不正利用に関する点の判断のためにこの取引の内容を考慮する必要がある。

 

「勿論でございます。しかし……」

 

 まさに綱渡りの状況。状況は変わらず劣勢ではあるが、話を聞く限りAid Lady自体にも多少なりとも融通の利く部分がある風に捉えることができた。原則として禁止されている会員カードの譲渡も、正当な取引であるのであれば限定的に認めると言っているからである。

 

 突破口はある。現時点での取引の内容は誠実なものだと言えるかどうかは怪しい部分があるが、その点はこのカードとは関係ない。あくまでも黒服の本来の目的は小鳥遊ホシノ自身であり、このカードは副産物であった。であるのであれば、カード自体の取引は不正ではなかったと説明することでAid Ladyを納得させ、この場を乗り切れる。そう考え、Aid Ladyに対し取引の内容を説明しようと口に出す。

 

「書類については個人情報が含まれているため、口頭での説明となりますがよろしいでしょうか?取引内容については嘘偽りなく説明させていただくことをここに誓います」

 

「……いいでしょう。その点についてはこちらから強要するつもりはございません」

 

「ご配慮いただき感謝いたします。では改めまして、こちらのカードに関する取引について説明させていただきます。はじめにこちらのカードの所有者である()()()()()()に対し、私自身が直接取引を持ち掛けまして……」

 

「……小鳥遊ホシノ?」

 

 黒服がそうしてこのカードを取引した人物の名を上げた直後、再度彼のいるビルの一室の時間が止まったかのような錯覚を感じた。

 

「……いかがされましたか?」

 

 再び襲う黒服への威圧感を感じ取った彼は、恐る恐るその威圧感を放つ彼女へと問いかけた。

 

「貴方は先程、こちらのカードの所有者は小鳥遊ホシノ。そう言いましたね」

 

「……はい。こちらのカードの()()()である小鳥遊ホシノに対して私から取引を……」

 

「こちらの本来のカードの所有者である方は小鳥遊ホシノ様()()()()()()()

 

「なっ!?」

 

「小鳥遊ホシノ様に対して、当社はカードの使用に関しては認めておりますがこちらのカードの所有者ではありません」

 

 黒服の言葉を遮るようにして指摘された事実は、彼にとって2度目の予想外な状況でありその衝撃が再度黒服を襲った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(馬鹿な……小鳥遊ホシノが持ち主ではない?だが使用に関しては認められているということは、本来のカードの所有者はアビドス高校の5人のうちの誰かであることは明白。……一体だれが……いえ、今はそれどころではない。今対処すべきことは……)」

 

 アビドス高校の最後の生徒会のメンバーでありアビドス対策委員会の委員長でもある小鳥遊ホシノがこのカードの所有者だと認識していたあまりに得た事実は、普段の彼とは思えないほどに動揺しており、思考の混乱とともに驚きの声を発した。すぐさま本来のカードの所有者を特定しようと思考を回そうとするが、即座に切り替える。

 

 今最も優先するべきはこの状況、Aid Ladyへの対処だ。それはカードの所有者として認識していた小鳥遊ホシノとの取引を前提とした交渉が全て無に返るものであったからだ。

 

 改めて机上に立つAid Ladyへと視線を向ける。そこには無表情に、しかし明確な敵意を持ったメイドが立っている。そして黒服に対し敵意とともに放たれる重圧は先ほどの比では無かった。

 

「…………」

 

 どう対応するかなど考えている暇などない。すぐさま釈明をと声を出すが、

 

「恐れながら申し上げます。こちらのカードの所有者に関しての誤解が生じている件について、説明の機会を頂きたく……」

 

「いえ、必要ありません」

 

 そう無慈悲にも切り捨てられてしまう。カードの不正利用について相手の事情など考慮する必要はないと判断していたAid Ladyに対して、カードとの所有者との正式な取引ゆえに不正ではないと主張していた黒服の意見は全くの意味を無くしてしまった。

 

 釈明の余地なし。まさしく詰みと言っても変わりない状況の中、Aid Ladyが言葉を発した。

 

「改めてこちらのカードについて確認しましょう。こちらは当社を長らくご利用して頂いた方にお配りしている会員様のカードであり、当社の信頼の形でもあります。その為、こちらのカードの譲渡に関してはご遠慮いただいており、原則として当社が許可した人物以外のカードの使用は不正利用と見なしております」

 

 確認という形で机上のメイドは手に持つ黒いラインの入ったカード、彼女を映し出す会員カードの価値について話し始めた。

 

「しかし黒服様はこちらのカードの所持を、カードの所有者として認識していた小鳥遊ホシノ様との取引によって得たものだと説明され、続くカードの利用に関しても正式な取引で譲渡されたが故に、自身に使用する権利があると主張されました」

 

「……はい。しかし……」

 

「しかし、こちらのカードの所有者は小鳥遊ホシノ様ではありません。本来の所有者である方との正式な取引のもと、カードを預かる。もしくは譲渡されたということであれば、当社としても一考の余地ありとしましたが、どうやらそれ以前の話のようです」

 

「……」

 

「小鳥遊ホシノ様のカードのご利用は許可しておりますが、所有者ではありません。あくまでもカードの所有者である方からの貸与によって所持、使用を承認しているということであります。故に貸与された状態からさらに他者への貸与、ましてや所有者の許可なく第3者への譲渡など論外。当社としても会員カードの信用、そして当社を信頼してご利用頂いているお客様方の為、厳格に対処させていただきます」

 

「……左様でございますか」

 

 打つ手なし。長い手回しによって利害の一致したカイザーコーポレーションと手を組み、渇望した実験相手を手に入れ、更には彼の好奇心を心行くまで擽ったAid Ladyという未知の存在のカードまでもが手に入った。

 

 だが、それが彼にとっての油断でもあった。手に入れたカードの裏どりまでするべきであった。事前に集めていた情報には載っていないモノが手に入った以上、時間を置いてでも調べるべきであったと後悔する。

 

 黒服自身このアビドスの地で広く暗躍してきた人物ではあるが、元は1人の研究者である。その原動力である探求心こそが、今回の失態。この経験が、ありもしない次回へと繋げるために強く身体へと刻みつけた。

 

「しかしながら……」

 

「……?」

 

 厳格に対処すると言及した手前、更に続くメイドの言葉に疑念を抱いた。

 

「今回の件について、多少なりとも当社に落ち度があったと認識している点があります」

 

 ビルの一室にて行われていた審問にて、黒服に対しての明確な敵意や威圧感を放っていたメイドからは予想もできない一言が現れた。

 

「今一度お尋ねしましょう。黒服様はこちらのカードについて、当社の会員カードだと認識していましたか?嘘偽りなくお答えください」

 

「……いえ、わたくし自身こちらのカードは御社Aid Ladyへのご依頼、ご連絡に用いる一般的なものだと認識しておりました」

 

「ではこの件については当社にも責任があります。こちら皆様にお配りしているカードと当社を長らくご利用いただいている皆様にお配りしているカード、デザインに差異はありますが、当社を存じてえない方からすれば違いはないでしょう。他のお客様からもご意見を頂いておりまして、現在のカードだと他社とのデザインの類似によって分かりずらいとの声が届いており、数日のうちにデザインを変更する予定でした」

 

「……」

 

「そして、こちらのカードの所有者である方や黒服様と取引されました小鳥遊ホシノ様に対して、カードの取り扱いについての説明が不十分であった点も当社の不手際でしょう。当社のカードによって引き起こされた事態に対しては当社が責任をもって対処し、こういった事態を予防することについても勿論当社が対処すべき範囲内あります」

 

 こちらにも非がある。そう説明するAid Ladyに対して黒服は言葉を返すことは無かった。もしこの場で増長してAid Lady自らが認めた責任を追及などすれば、それこそ彼の頭部と胴体が泣き別れるのも遠くない未来であっただろう。

 

「そのため今回の件に関しまして、カードの窃盗、不正利用について当社の不手際によって関係者の方々に十分な周知が行き届いていなかったということを考慮致しまして、不問という形にさせていただきます」

 

「……それは」

 

 誰がどう見ても詰みであった状況。それがAid Lady自身が責任の所在について、多少なり自分たちにもあると認めたことによって窮地を抜け出したのであった。

 

 黒服が今回の会員カードによる一件について、その所有者の誤認、そして会員カードという存在を()()()()()()という理由で。

 

「勿論、今回の件は一部当社に責任があるが故に特例の処置とさせていただきます。そのため、次のこちらのカードを許可していない人物の使用を確認した場合、()()()()対処させていただきますのでご理解のほどよろしくお願いします」

 

「……かしこまりました」

 

 机上のメイドからの忠告を受けた黒服は手を胸元と腰の後ろにやり、丁寧な一礼を持って肯定の意を示した。それを見たメイドはひとまずの納得を示すと、その映像越しから放たれていた重圧と手に持っていたカードを消し、机上から()()()

 

「   」

 

 立体映像としてカードから映し出されるあるはずのメイドはふわりと音を立てずにカードの置かれた机から降りると、そのまま部屋の床材として使われているタイルカーペットとメイドの履くブーツによって心地よい足音を立てながら黒服のもとに歩いていく。

 

 そうして黒服の目の前に立った彼女は、メイド服の内側から一枚の白いカードを取り出すと黒服へと差し出した。

 

「……こちらは?」

 

 まだ理解が追い付いていない黒服は、どこか片言に聞こえるような声で問いかけた。

 

「こちらは当社へのご利用の際に用いるカードとなっております。今回の件ではこのような形になってしまいましたが、貴方には当社に対してご依頼……いえ、要件があったことは把握しております。そのため次の機会ではこちらのカードをご利用下さい」

 

「………」

 

「勘違いなされないように申し上げておきますが、こちらは会員様にお配りしている会員カードではなく一般的なものですので、その点はご安心を」

 

「……ありがとうございます」

 

 差し出されたソレを反射ながらに答えると同時に受け取った黒服を見たメイドはそのまま振り返りカードが置かれる机の上へと歩き戻った。

 

「それでは黒服様、私はこれで失礼いたします。こちらのカードについては黒服様が()()、小鳥遊ホシノ様へとお返しいただくようお願い致します」

 

 そういってメイドは、挨拶であるカーテシーと共に机上から姿を消した。部屋に残ったのはメイドを映し出していた黒いラインの入ったカードと、()()()()()白いカードを持つ黒服だけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 彼女が部屋を去った後、重圧から解放された黒服は重い足取りでデスクチェアへと倒れ込むように座り執務机の上に白いカードを置くと、ただ呆然と天井を見上げた。普段の彼からは想像も付かない様子は彼を知るものが見れば驚きの声をあげるだろう。

 

 そしてふと、カードを置いた机から部屋の出口へと視線をずらすと………

 

「………!」

 

 そこには僅かに隙間の空いた扉があった。

 

「…………ククッ、クックックッ……」

 

 思わず笑いがこみ上げてくる。メイドが去って数分、彼自身ようやく理解が追い付いたのであった。

 

 メイドを映し出すカードの置かれた机上から降りて黒服にカードを渡すまでの過程において、確かにメイドは()()()()()()のだ。

 

「返答を間違えれば、私は確実に……」

 

 改めて彼女の言っていた対処の意味を理解する。彼女たちはわざわざ黒服のいるビルごと消す必要などない、ましてや敵対する必要もない。状況に応じて誰にも気づかれることなく彼の前に現れ、しかるべき対処をするであろう。その事実に黒服は身体を震わせた。それは彼女を前にして感じた恐怖(テラー)か、いまだ湧き上がる探究心(クエスト)か彼自身にも分からない。

 

 部屋の中で1人、自身の置かれていた状況を整理するかのように呟く黒服は、つい先程までAid Ladyの()()机の上に目線を向けた。そこには、彼女を映し出していたカードが残っている。

 

 Aid Ladyの会員カード。彼女たちにとっての信頼の証とも言えるソレは、本当に小鳥遊ホシノから貰ったものと同じ物なのかと疑念を抱くほどに異彩を放っていた。再度手に取るべく立ち上がろうとデスクの手すりに身体を預けるが、上手く力が入らない。彼の身体があのカードを手に取ろうとする行動を拒絶しているのだ。

 

 頭脳では現状を理解し呑み込めていたのしても、身体はそうはいかない。一生に一度、死の淵に立つというあるかないかの経験がその身に表れていた。だがメイドからの忠告を受けたこともあって、カードをそのままにしておくわけにもいかない。粗雑に扱うなどすればどうなるかなどもまた、その身で経験してしまったからだ。

 

 力が入らない身体に鞭を打って立ち上がると、机の上に置かれたカードを手に取った。そこで彼は気づいた。

 

「……折り目が……」

 

 無い。黒服がカードを使うにあたって使用したカードは、確かに目に見えない折り目にそって曲げられた角が消えていたのだ。

 

「…………」

 

 彼女がこの場に居た際に新しい物へと取り換えていたのか、それともカード自体に修復する効果があるのか、彼はまだ知らない。だが、彼の抱く懸念はそこではなかった。

 

 Aid Ladyがこのカードをこの場に()()()()()()のだ。忘れていったなどとは考えられない。彼女自身が責任を持って対処すると口にした手前、こうして黒服に直接返すようにと命じた行動には疑念を抱かざるを得なかった。

 

「警告か、あるいは監視されているのか……」

 

 考えられる状況を口に出して整理する。彼の一挙手一投足が今後のAid Ladyにとっての判断材料である。である以上は下手に動くことは禁物でもあった。黒服の基に拘束された小鳥遊ホシノへとカードを返すことは簡単である。だが、それは彼女に返却ではなく押し付けたと判断されてしまう可能性もあった。

 

 最も安全性が高く可能性のある手段は小鳥遊ホシノの拘束を解き、彼女に対する一切の権利を手放した上で彼女と契約を破棄しカードを返却することであった。

 

 しかし、キヴォトス最高の神秘と謳われる彼女を手放せと言われたとして、二言返事で了承できるかと言われれば納得しがたい。だが、彼女たちの判断基準がどこにあるかは彼自身にも分からない。

 

 故に慎重に動く必要がある。黒服とAid Lady双方にとって納得のいく結末を目指すことを目標に彼は動きだす。机上から手にとったカードを、事前に用意していた包装紙に包みこむ。

 

 その紙質から感じさせる高級感は、Aid Ladyへの敬意を表していた。丁寧に仕舞いこんだカードを手に、今後の計画を立てるべく動きだそうとしたとき、一通の連絡が彼のもとに届いた。

 

「……おや」

 

 それは、黒服が小鳥遊ホシノを手に入れる為に利用していた相手からであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ここまで読んでいただき、ありがとうございました!

 感想やお気に入り登録、評価や誤字報告が私にとってなによりのモチベーションと励みとなります。これからもよろしくお願いします。

 また今回の話については、自分でも読んでてわかりづらいなーと感じたので簡単にまとめたものを後日投稿しようと思います。

追記 2025年8月18日

メイド「お前、会員様限定のカード勝手に使ったな?場合によっては処すぞ?」

黒服 「(ふぁっ!?これ会員カードなん?やっばメイドブチギレとるやん……知らんかったって言いたいけど、大人としてソレはいかんやろなー。なんとか時間稼がな………)」

メイド「意味わからん質問やけど答えたるわ。窃盗はお前がたまたま拾った可能性もあるし保留や。だけどカードの不正利用は現行犯やからな、言い逃れできへんで。あと時間稼ぎなのもバレバレやからな」

黒服 「バレとるやん。とりあえず言い訳(説明)するわ。これは持ち主と取引でゲットしたやつやで。だから窃盗に関してはノーカンや」

メイド「ほーん、まぁ本当ならノーカンやな」

黒服 「不正利用も権利と一緒に貰ったとおもっとったからセーフやと思ったんや。まぁそこは勝手に解釈した点はすまんやで」

メイド「まぁ筋は通っとるな。ならその取引内容教えろや」

黒服 「え?」

メイド「本当はダメやけど、内容によってはカードの譲渡を認めてやってもええで。うちを通さずに勝手にやり取りしたのはめっちゃ不愉快やけど」

黒服 「えーまじかー」

メイド「なんや、やましいことでもあるんか?本当は有無を言わさず処してもええけど、さっき取引でゲットした言うたし、お前の無罪証明するためにもさっさと見せろや」

黒服 「すまん、個人情報あるし口頭でもええ?」

メイド「まぁそこは妥協したるわ」

黒服 「サンキューやで。このカードは小鳥遊ホシノから貰ったんや」

メイド「は?今なんつった?」

黒服 「えっ?小鳥遊ホシノから貰ったんや」

メイド「このカードの持ち主小鳥遊ホシノちゃうで」

黒服 「ま?やばいやん」

メイド「さっきまでお前が言ったやつ全部無しな?」

黒服 「詰んだわ」

メイド「なら処すわ」

黒服 「終わった」

メイド「まぁでもこっちにも悪い部分あったし不問にしてもええで。だって知らんかったんやろ?」

黒服 「せやで」

メイド「なら見逃したるわ、次はないぞ。あとコレ、なんか言いたいことあるならコレ使えや」

黒服 「は?ここにおったん?映像ちゃうの?」

メイド「このカードお前が直接返しとけよ。やらんかったら分かるやろな?」

黒服 「おけ、絶対やるわ」

メイド「じゃあな」

黒服 「死ぬかと思ったわ」

登場するメイドさん達の名前ってあったほうがいい?

  • いる
  • いらない
  • そんなこといいからはよ続き書け
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