機械少女と青春を   作:バグキャラ

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 前回話と今回の序盤の話で差がすごいのですが、間違いなく続きですのでご安心ください。

追記 予約投稿をミスってたみたいでして、これの一つ前に投稿する予定だったお話ではなく、この話が投稿されてました。読んでしまった皆様にはお詫び申し上げます。


協力者

「───お待たせしました。こちら前回のご依頼時に要望されておりました、当社特製のミルクプリンでございます」

 

 そういって配膳カートに乗せられたそれを万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)の人数分、部屋に置かれた脚の低いセンターテーブルへと用意するのは、髪をハーフアップで纏めたメイドである。

 

 Aid Ladyに依頼が届いたことにより彼女は、代表の側を離れてゲヘナ学園の万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)執務室へと訪れていた。

 

 配膳カードから取り出したものはガラス製のパフェグラスに盛られたプリンであり、そのプリンには生クリームとサクランボが乗せられている。

 

「わぁー!ありがとうメイドさん!」

 

「キキキッ!これはまた素晴らしい出来栄えではないか……チアキ、書記としてこのプリンをしっかりと記録をしておけ。もちろんイブキが食べる瞬間もだ」

 

「了解しました!このカメラでイブキちゃんの最高の瞬間を切り出します!───それはそうと、こちらの写真は今後の記事に使用しても……?」

 

「勿論だ。ゲヘナ自治区全域にこのイブキとプリンのすばらしさを……いや、待て。メイドよ、このプリンの写真使用についてだが」

 

「マコト様からご配慮、ありがとうございます。当社としましても制限しているわけではありませんのでご遠慮なくご使用ください」

 

「だ、そうだチアキ。メイドに感謝しておけ」

 

「はい、ありがとうございますメイドさん!」

 

 チアキからの感謝を受け取ったメイドはニッコリと微笑む。

 

「しかしながらチアキ様。こちらのプリンについてですが、万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)の皆様に向けて当社が心をこめて手作りしました特別な一品ですので、恐れながら非売品となっております」

 

「キキキッ!そうか、我らだけの一品か!」

 

 メイドの特別という言葉に、耳を傾けていたマコトは上機嫌な顔をしていた。

 

「ですので、チアキ様が作成されている定期新聞:週刊万魔殿にこちらの一品を掲載されてた場合、それに関するお問い合わせが届いた際は当社では対応できかねますので、何卒よろしくお願いいたします」

 

「!分かりました、その点については責任もって私のほうで対応しますね!……それといってはなんですが、このプリンについてメイドさんに直接取材させていただいてもいいですか?」

 

「勿論でございます。万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)の皆様も、当社でお作りしたプリンについてご説明させていただいてよろしいでしょうか?」

 

「……!はい、ありがとうございますっ!マコト先輩もっ!いいですよね!?ねっ!?」

 

「おちつけチアキ。隣を話で聞いたではないか……ではメイドよ。その説明とやらを頼んでもよいか?」

 

「かしこまりました。それでは説明に移らせていただきます」 

 

 チアキからの質問に対して回答と同時に提案し、マコトの許可を頂いたことを確認したメイドは一礼と共に持ち込んだプリンの説明を始めた。

 

「改めましてこちらのプリンは、丹花イブキ様のご要望により万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)の皆様に向けて当社が心をこめて手作りしました特別な一品となっております」

 

「うんっ!ありがとうメイドさん!」

 

「恐れ入りますイブキ様。───材料はプリン本体にはキヴォトス高原より管理された養鶏場にて厳選した卵を使用しました。グラニュー糖は当社の技術によって市販品で販売されている物ではなく、ショ糖から純度を限りなく高めて精製したものを用いております。もちろん連邦食品衛生管理法に基づいて作成していますので皆様のお体に害はなく、それでいて必要以上のカロリーが体内に吸収されない構造から、女性の皆様に配慮が行き届いたものになっております」

 

「……お、おぉー?なんだがすごいことを聞いた気がしますね……」

 

 プリンのサンプルは十分に取ったのか、手に持っていたカメラを首につるしてメモ帳とペンを持ってメイドの説明を記入するチアキは驚いた表情をしている。

 

 ちなみにマコトは既に理解が追い付いていないのか、とにかくすごいプリンということだけを聞いて、イブキの表情を見ることに専念していた。

 

「卵と共に使用しました牛乳もまた、同じくキヴォトスの丘陵に広がった牧場で生産されているものを用いております。自然豊かな土地で育った乳牛から採れた牛乳は知る人ぞ知る絶品との評価を受けたことも。後程準備しますカフェラテやミルクティーにもこちらを使用しておりますので是非ご賞味ください」

 

「……なんというか、凄いこだわりですね」

 

 部屋の端のソファで本を読んでいたイロハも同じく興味を示し始め、メイドの説明に口を挟んだ。

 

「もちろんでございます、棗イロハ様。私の説明に興味を示していただき、ありがとうございます。万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)の皆様にご満足いただけるよう腕によりを掛けましたので、是非ともお召し上がりください」

 

「……まぁ、この部屋に居る以上はあなたの声は聞こえてきますので。それに用意されたからにはもちろん頂きますよ、えぇ」

 

 軽く口を挟んだつもりだったが、まさか返事をもらうとは想像できず、しかも名指しで話しかけられた身として黙るわけにもいかずに読んでいた本で顔を隠しながらその返答に応えた。

 

「カラメルについても先程ご説明しました当社で製造したグラニュー糖を用いておりますので、プリン本体に使用した卵本来の味を損ねないように図っております。そしてプリンに乗せられた生クリームについてですが、こちらはプリン本体に使用した牛乳とは別のものを使用しており、プリンに含まれた牛乳と比較するとわずかに酸味が強い品種になっております」

 

「……ん?プリンに酸味なんているのかしら?」

 

 メイドの説明に疑問を浮かべるのは、ピンクの長髪や大きな身体的部位など、全体的に妖艶な雰囲気が特徴の人物である。

 

「もちろん、これには理由がふくまれておりますので、順に説明させていただきます」

 

「あら、そうなの?ごめんなさいね、説明途中で口を挟んでしまって……私に気にせず続けて貰えると嬉しいわ」

 

「かしこまりました。京極サツキ様が仰られたように、こちらの酸味が含まれた生クリームはプリン本体の甘味を損ねてしまうかのように思えますが、これはプリン作成時にあらかじめ設計されていたものになります」

 

「……設計されていた?」

 

「はい。こちらのプリン本体についてなのですが、それぞれ使用した卵と牛乳、そしてグラニュー糖の濃厚さ・クリーミーさ・甘さのそれぞれが強い主張を放っており、プリン単体で味わうにはいささか甘味が強いものになってしまいます。ですが、ここにあえて酸味のある生クリームを合わせることで、使われた材料の強い主張がオーケストラのように調和を始め、後味がしつこくなく、それでいて舌に確かな印象を植え付ける一品となります」

 

「プリンの甘すぎず、薄すぎずを完璧に調整した一品ってことね。そこに生クリームの酸味も利用するなんて……脱帽だわ」

 

「ありがとうございます」

 

 メイドの説明は終わったのか、サツキからの賞賛に感謝を述べると共に一礼をする。

 

「……ん?メイドよ、一つ聞いてもいいか」

 

「いかがされましたか?」

 

 そこで1つ、マコトから質問の声が挙がった。

 

「このプリンの上に乗ったサクランボは一体なんだ?先の説明を聞く限りでは恐らくこの一つにもこだわっているのだろう?」

 

 その質問にクスリとメイドは笑い、微笑みの表情をマコトへと向けた。

 

「流石はマコト様、その洞察力ある質問に敬服致します」

 

「キキキッ!分かりやすい世辞はよせ……まぁ、悪い気はせんがな」

 

 メイドの言葉一つ一つが羽沼マコトの心象を良くしていく様子に、サツキとイロハは関心した様子を浮かべる。

 

「「(マコト先輩(マコトちゃん)の扱い上手いな……)」」

 

 と。色んな意味で問題があり扱い辛い人物でもあるマコトの機嫌を損ねることなく、一定の好感度を保ったまま話を続ける処世術の様子は、Aid Ladyが人心掌握に長けていることを表していた。

 

「マコト様からご指摘いただいた通り、こちらのプリンに乗ったサクランボもまたこだわりを掛けたものになっておりますが───皆様はお気づきになられましたか?」

 

「……ん?高級品ではないのか?」

 

「是非ともこちらのサクランボにお顔をお近づけていただいてもよろしいでしょうか」

 

「「「…………ん?」」」

 

 メイドから言われた通り、机の上に並べられたプリンに乗せられたサクランボを凝視するべくイブキとマコト、サツキとチアキが顔を近づけた。

 

「……んー?いたって普通のサクランボのように見えますけど」

 

「そうね、強いて言うならば普通のサクランボよりも瑞々しいって感じかしら」

 

「うーん……なんかキラキラしてるのかな?」

 

「キキキッ!イブキの言う通りだ。この輝きが目に入らんのか?」

 

「実はこちらのサクランボ、果実そのものではなく当社でお作りした()()()となっております」

 

「「「「……え、えぇー!?」」」」

 

 メイドの口から出た真実は、その凝視していた4人を後ずらせ、離れて見ていたイロハも驚きのあまり本を落としている。

 

「な、なんと!?このサクランボって本物ではないんですか!?」

 

「……見比べてるわけじゃないから確証はないけれど、サクランボにしか見えないわ……」

 

「わぁー!これって飴ちゃんってこと!?スッゴーい!すごいね、メイドさん!」

 

「なんともこれは……確かに、よく見れば光が透き通った部分が見えるな」

 

「こちらのサクランボはサクランボの果汁と砂糖のみで作っており、人工着色量は使っておりません」

 

「……その割にはすごい完成度なんですけど」

 

「そこは当社の企業秘密ということでお願いします」

 

 本物となんら変わりない飴細工のサクランボは、確かに照明の光を透き通らせており、飴特有の輝きを持って果実の瑞々しさと高級感を纏っていた。

 

「────それでは皆様、私の説明にお付き合い、誠に頂きありがとうございました。万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)の皆様へ心を込めて作らせていただきました、Aid Lady特製のミルクプリン。どうぞ、ごゆるりとお召し上がりくださいませ」

 

「キキキッ!素晴らしい説明であったな。では、いただくとしようではないか」

 

「うんっ!いっただきまーす!」

 

 離れたソファに座っていたイロハもいつの間にかプリンの置かれた机のそばに来ており、どこか落ち着かない様子でチアキの隣に座っている。

 

 イブキの掛け声と共に、各々がプリンへとスプーンを向かわせると、乗せられた純白の生クリームと想像以上に柔らかいプリンを掬い取り、口へと運んだ。

 

「「「「……!!!」」」」

 

 全員が同じタイミングでスプーン上のプリンを口へと収めたとき、一同は驚愕したように目を見開いた。

 

「「「美味しい!」」」

 

「ありがとうございます」

 

「いや、ほんとに美味しいですよ!なんですかコレ!?」

 

「んーっ!口の中でプリンとカラメルの甘味が広がるこの感触……素晴らしいわ!」

 

「キキキッ!なるほど、まさしく絶品というべきだ。どうだイブキ、美味いか?」

 

「すっごく美味しい!」

 

「……確かに、このサクランボも実際に食べてみると、飴だとわかりますね……それでいて、不要にべたつきが無く食べやすい……」

 

「……あっ!イブキちゃんの食べる瞬間の写真が!」

 

「な、なにー!?チアキ、この失態をどうするつもりだ!?」

 

「い、いやだって、マコト先輩だって美味しそうに食べてたじゃないですか!それを私1人だけ我慢するなんてできませんよ!」

 

「ご安心くださいませマコト様並びにチアキ様。イブキ様がプリンを頂かれる瞬間はこちらの方で確保しております」

 

「な、なんだと!?流石はメイドだ、その写真はどこに!」

 

「こちらの方をご覧ください」

 

 メイドの隣にはいつの間にか白い直方体が浮遊しており、レンズのようなものが万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)執務室の壁へと顔を向けていた。

 

 数瞬の間を置いて出力されるのは、イブキを含めた万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)の全員が美味しそうにプリンを頬張る様子であり、プロジェクター形式で映し出されているとは思えないほどに高画質であった。

 

「おぉっ!なんという画質でしょうか!すごい解像度です!」

 

「こちら当社のカメラで撮影しました約10億画素数の写真でございます*1

 

「キキキッ!素晴らしい写真だ!このイブキの部分だけをさらに拡大して週刊誌に乗せるぞチアキ!」

 

「了解しました!メイドさん、こちらの画像を頂いてもよろしいでしょうか?」

 

「勿論でございます。後程データを圧縮したのちにお渡しさせていただきます」

 

「……イブキはみんなで取れた写真がいいな……」

 

「……はっ!す、すまないイブキ。もちろんこの写真を丸ごと使おう、いやイブキの書いた絵の横に飾ろうではないか!」

 

「そのようでしたら写真を載せる額縁は是非とも当社にお任せください。オーダーメイドで必ずやご満足いただける一点をご用意したしましょう」

 

「え、良いのメイドさん!?」

 

「ご安心下さい、イブキ様。数日のうちに、こちらで最高級の物をお届けさせていただきます」

 

「よかったなイブキ!改めて礼を言おうメイドよ。この美味いプリンといい、最高の写真といい素晴らしい仕事ぶりだ。報酬については色を付けよう」

 

「ありがとうございますマコト様。今後とも当社Aid Ladyを御贔屓によろしくお願いします」

 

「勿論そうさせて貰おう。その仕事と気配りはキヴォトス一だという宣伝もかねてな」

 

 マコトの言葉に再度メイドは深々と頭を下げて感謝の意を示す様子に本人は満足いったのか、高級感溢れる椅子の背もたれに寄りかかり、上機嫌でプリンを食していた。

 

 そしてふと、執務室の窓から外を見た時に、とある人物が視界内に入った。

 

「……ん?あれは確か……シャーレの先生か?なぜ風紀委員のやつらと話をしている……?」

 

 マコトにとってもシャーレの先生は興味を引く人物であり、以前にアビドスの地でゲヘナ風紀委員会と揉めた際には挨拶がてら代理の謝罪を行っていた。故にマコトにとって記憶に新しい人物であり、そのような者がここゲヘナ学園に足を運んでいる様子に疑念を抱いていた。

 

「……は?」

 

 一体何を話しているのか。興味深く窓から見ていたマコトは直後、話していた風紀委員の脚を舐めだした様子に思わず声が漏れだし、手に持っていたプリンを落としてしまった。

 

 滑り落ちたプリンはそのまま重力によって床へと向い、高級感あるカーペットのシミの原因に────なることは無く、落としたガラスの器が空中で拾い上げると、そのままプリンの形を崩すことなく机へと戻された。

 

「いかがされましたか?」

 

「あ、あぁ。すまないなメイドよ。少しトラブルがあったようだ」

 

「トラブル……ですか?」

 

「そちらには迷惑を掛けん、それだけは保証し……ん、あいつは────」

 

「おや、あそこにおられますのはかの有名な風紀委員長ではないでしょうか」

 

「ふむ……一体何を話しているんだ」

 

「よろしければ聞かれますか?」

 

「何───出来るのか?」

 

「これもまたご依頼の範疇として判断すれば可能となります」

 

「では頼もう……いや、待て。まだイブキがプリンを食べている最中だ、気を散らすようなことは避けたい」

 

「では、このようにしてはいかがでしょうか」

 

 メイドが話したその直後、マコトの座る執務机とその他議員が集まるセンターテーブルの間に透明なカーテンが現れた。

 

「これは……なんだ?」

 

「防音機能を兼ねた仕切りでございます。こちらから皆様に音が漏れることはありませんので、マコト様のご要望にお応えできるかと」

 

「キキキッ!最高だぞメイドよ」

 

「ありがとうございます。あちらのお話を聞かれる際はこちらのイヤホンをお使いください」

 

「もう一つ頼み事があるが……良いか」

 

「皆様については私のほうで対応させていただきます。───マコト様に急務が発生したとお伝えすればよろしいでしょうか」

 

「なんともよくできたメイドだ。これほどの気配りにはこちらもチップを弾まねばならないな」

 

「感謝の極みでございます」

 

 

 

 

 

 

「────ですので、マコト様は急務に対応すべく集中されるとのことでした」

 

 瞬きの間にプリンを落としたマコトの隣へと移動したかと思うと、そのまま用意した配膳カートの上で、人数分のカップとお湯を用意するメイドはそのように語る。

 

「……マコト先輩に仕事ですか……?」

 

「はい。なんでも外せない用事とのことでして」

 

「珍しいですね、マコト先輩がそんなことするなんて」

 

「あら、そうかしら?案外マコトちゃんのことだから、あの風紀委員長絡みかもしれないわよ?」

 

「ヒナ先輩が……?」

 

「仕事内容については私の方ではなんとも……それよりも皆様。お飲み物についてはいかがでしょうか?紅茶からコーヒー、ココアからカフェラテなど、多くのものがご用意する準備ができております」

 

 彼女たちの目線の先にはいつの間にか透明なカーテンが掛かっており、その向こう側ではマコトが書類仕事をしている様子が見られていた。

 

「あ、じゃあイブキはココアがいいな!」

 

「はい!私もイブキちゃんとおんなじココアで!」

 

「かしこまりました。イブキ様とチアキ様にはココアを、サツキ様とイロハ様は何になされますか?」

 

「あら、良いのかしら?それなら……さきほど説明されてたミルクティーを頂けるかしら」

 

「あー……私はコーヒーでお願いします。できれば甘めのものを……」

 

「サツキ様はミルクティー、イロハ様は甘めのコーヒーでございますね。すぐにご用意しますので少々お待ちください」

 

 配膳カートの上で手際よく用意する様子は、見慣れない者からするととても興味深く、またそれをメイド自身も認識しているために一種のパフォーマンスのように演じる。

 

「おぉー……なんというか、まさしくプロメイドってやつですね」

 

「そういえば、ミレニアムにもメイドがいるって話だけど、あなた達ではないのよね?」

 

「はい。何度か当社へのご依頼でミレニアム自治区に足を運んでおりますが、どうやらミレニアムサイエンススクールには同業者がいるようです」

 

「……わぁー!ねぇねぇ、これってイブキのココア?」

 

「その通りでございます、また最後の仕上げとしては……」

 

「?」

 

 自身の目の前で用意されたココアに胸を躍らせるイブキは、あと少しで出来る様子にもう待てないといった様子だったが、どのような意図があったのか、ココアの入ったカップをメイドが手に取った。

 

 そしてもう片方の手にはミルクの入ったピッチャーが握られており、用意されたココアの中に注ぎ込まれていく。

 

 そうして数秒後、イブキの目の前には要望されたココアが置かれた。

 

「えぇー!?な、ななな──なんですかこれは!?」

 

「あら、これはラテアート?それに書かれているのは」

 

「……!これってもしかして……イブキ?」

 

「……いやいや、どうやって数秒でこれが出来るんですか。流石におかしいですよ」

 

 イブキの目の前に用意されたココアには、デフォルメされたイブキがラテアートに書かれており、それを見た一同はプリン以上の驚きを表していた。

 

 書かれた本人は嬉しさのあまりに隣のイロハへと抱き着き、チアキは休むことなくカメラのシャッターを切り続けている。

 

「ピッチャーだけでここまで出来るものなのかしら」

 

「普段はこのようなサービスはやっていないのですが、お作りしたプリンへの賞賛を頂いたお礼ということで、特別に施させていただきました」

 

「あら、そうだったのね。それなら私からもお礼を言わせてくれるかしら?イブキを楽しませてくれたこと、感謝するわ」

 

「ありがとうございます。皆様ご注文の品もご用意できていますので、是非ご堪能ください」

 

「ありがたくいただくわ」

 

 そうしてイブキのココアと同様に用意されたチアキのココアとサツキのミルクティー、イロハのコーヒーにも同様の物が施されており、それぞれのデフォルメされた顔が浮かんでいた。

 

「わぁー!みんなのも見せて見せて!」

 

「ほらほら……急がなくてもラテアートは逃げませんよイブキ」

 

 少し遅れて気づいたイブキが、テンション高々に声をあげて回りのカップを覗き込む様子をイロハが優しく宥め、それを見ていたサツキとチアキも笑って見守るような微笑ましい光景。

 

 おだやかな時間が流れていく中……突如としてマコトの高らかな笑い声が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょ、まだ話の途中だ!……おいっ!何しっかりの脚を固定して───ひゃっあ!?」

 

 ゲヘナ学園の風紀委員長に会いに来た先生に対し、交渉の一環で差し出された脚を舐めろと冗談交じりにいったイオリは、現在の状況にパニックとなった。

 

「おいっ!大人としてのプライド……というか人としておかしいだろ!?」

 

「そんなものはない」

 

「そんなきっぱりと断言するなぁぁぁぁあああ!?」

 

 イオリが話す間も執拗に脚を舐める───否、嬲るように舌を指の間まで丁寧に這わせていく。これがイオリと先生が男女であればまだそういった関係として言い訳がついたかもしれないが、先生は女性である。

 

 大人として、女性としての魅力を十分に兼ね備えた先生が未成年の脚を嬲るような様子は、まさしく混沌が校風のゲヘナにふさわしい。

 

「絶対おかしい!変態!歪んでる!」

 

「褒め言葉をありがとう」

 

「なぁぁああああ!!!!」

 

「────なんだか楽しそうね、イオリに先生」

 

「い、委員長!?」

 

「自分の為ではなく、生徒の為に膝をつける様子は初めて見たわ。顔を上げてちょうだ……何をやってるのかしら」

 

「いや、その……委員長。こいつ……先生は膝をついてるんじゃなくて……脚をなめ……」

 

「…………?…………!!!???」

 

 困惑した様子がどんどんと驚愕に変わっていくヒナを見て先生は、どこか惜しそうにイオリの脚を離した。

 

「────ありがとうヒナ。実は手を貸してほしいことがあって……」

 

「……あ、う、うん」

 

「いやいや、委員長。こんな変態の言うことなんて聞かなくていいから」

 

「────ほう?かのシャーレの先生に脚を舐めることを強要した風紀委員がいったい何をほざく?」

 

「……!」

 

 先生とイオリのやり取りに、近くの生徒は距離を取っていた状況であり、望まずとも密談にちょうどいい状態となっていた空間の中に、聞き慣れた声───ヒナにとっては気分を下げるような声が届いた。

 

「……なんの用かしら、マコト」

 

 そうぶっきらぼうに言葉を吐いたヒナの声と共に現れたのは、立体映像に映し出された人物、羽沼マコトであった。

 

「キキキッ!なんのよう……だと?それは勿論、先生から要件を聞くためであろう?貴様の部下の失態は他自治区ではなく我が校の敷地内でも引き起こすのか」

 

「なっ!いや、それはアコちゃんとは違って……こいっ…先生が勝手に舐めだして……」

 

「正直、私も状況に追いついていないわ」

 

「フッ……なら、寛大な慈悲にて見逃してやろう。なにせ今の私はとても気分がいいからなぁ!」

 

「……えっと」

 

「…………」

 

 流石に申し訳なくなってきた先生と普段の様子が違うマコトに警戒を向けるヒナ、そして上機嫌なマコトと困惑するイオリ。四者四様の状況は混沌を極めている。

 

「まずは要件を言ってみたまえシャーレの先生、そこの風紀委員長に一体何を頼みにきたのか」

 

「……あなたには関係ないでしょう?あくまでも私個人にお願いしに来たのであって風紀委員……いや、ゲヘナは関係ないわ」

 

「そういってシャーレと手を結ぶつもりではないか?都合の良い大人のパイプはさぞ欲しかろう」

 

……チッ、どの口がそれを……

 

「え、いや私はただ手を貸してほしくて……」

 

「あぁ、すまんなシャーレの先生。以前より我が校が迷惑の生徒が掛け続けているようだ」

 

「いや、そんなことはないよマコト。ちょっとしたお願いをしたいだけで……」

 

「ふっ、心配はいらん。この万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)の議長。羽沼マコトが聞き入れようではないか!」

 

「あー……えーっと……」

 

 マコトの言葉に先生はちらりとヒナの方を見るが、視線の先にはただ横に首をふる様子しか見られなかった。

 

「えっと……じゃあお言葉に甘えて……」

 

 そうして先生はアビドス対策委員会が協力者:援軍を欲していることを話し始めた。今のアビドスの置かれた状況とこれから何をするのかを簡潔に話す様子に他の3名はただ静かに耳を傾けた。

 

「……なるほど、カイザーPMCに喧嘩を吹っ掛けたいからそれに協力しろと。キキキッ!なに、面白そうではないか。なぁ空崎ヒナ?」

 

「そうね……先生は小鳥遊ホシノを助け出すために、力を貸して欲しいのね」

 

「うん。ホシノはアビドスの皆の大切な先輩で、私の生徒だ。必ず助けたい」

 

「いいだろう先生、ならばそこの風紀委員長を連れていくがいい。ついでに我が万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)からも戦車隊を貸し出そうではないか」

 

「……!?本気なのマコト。一体なにを考えてるか知らないけど、ゲヘナの戦力からは私たちだけで十分なはずよ」

 

「こちらこそ本気かと聞き返そうではないか空崎ヒナ。かの連邦生徒会直属の組織の生徒が連れ去られたというのだぞ、ならば我らゲヘナ学園も万全を期すべく戦力を出すのが当たり前ではないか」

 

「(いや、違うわね……おそらく先生の援軍に対して戦車隊を出すのは、トリニティへの牽制を兼ねる為の口実。エデン条約に向けて本気で取り組みに来たといったところかしら)」

 

「それに私はとても気分がいい。この気分を他の者にも体験させたいと思っていたところにちょうどいい捌け口を用意してくれたのだ。使わんというほうが失礼だろう?」

 

「(……本当に何のつもり?流石に様子がおかしいわ)」

 

「さて、援軍は早い方がいいだろう?空崎ヒナもさっさと部隊の編制に入りたまえ。こちらも戦車隊の準備を急がせるとしよう……あぁ、それとゲヘナの公的部隊が再度アビドスの地を踏みいれることについては勿論許可してくれるな?」

 

「勿論、こちらで話は通しておくよ」

 

「キキキッ!ならば良し。近くに来た際は連絡を入れるとしよう」

 

 そういってマコトは立体映像を消した。

 

「(……一体いつから聞いていた?偶然というには出来すぎている……)」

 

 ヒナはマコトが立っていた位置をただじっと眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キキキッ!イロハァ!戦車隊の準備をさせろ、出撃だ!」

 

 執務机の椅子にて書類仕事をしていた様子のマコトが突如として立ち上がり、勢いよく透明なカーテンを捲ったかと思うと、そう叫んだ。

 

「……はぁ?いきなりどうしたんですかマコト先輩。また風紀委員の皆さんにちょっかいを掛けにいくんですか?」

 

「そんな程度の低いことなど、この私がするはずが……なんだ、それは」

 

「ズズ……ん、あぁこれですか。メイドさんがたった今淹れてくれたコーヒーですけど」

 

「そのコーヒーについて聞いているんじゃない!その……そのラテアートはまさか……!」

 

「そうだよマコト先輩!見て見て!これ、イブキだよ!」

 

「ん?どうしたイブキ、それはココ縺�o縺√=��シ溷庄諢帙>縺�>縺�>!!!!????」

 

「……どうしたのマコト先輩?」

 

「どこからそんな声だしてんのよマコトちゃん」

 

「大丈夫ですよイブキ。ただ単にイブキのラテアートに驚いているだけですので」

 

「おっと、これは失礼しましたマコト様。こちらマコト様のコーヒーでございます」

 

「縺�o縺√=��シ溷庄諢帙>……はっ!そうだ、メイド!私のラテアートは勿論──」

 

「はい。イブキ様を描かせていただきました」

 

「最高だぞメイド!出来るやつはやはり違うな!くっ……だがこの完成度だといささか口にしずらいっ……!」

 

「おっと……描かせていただいた身としては身に余るお言葉かと」

 

 仕事を終えたマコトは一喜一憂を繰り返しながらもイロハへと指示を投げ、それをしぶしぶといった形で了承したことに満足し、コーヒーに口をつける様子をメイドは微笑みながら眺めていた。

*1
世界最大のサイズの写真の最高画素数が7万枚の写真で構成された3650億画素数




この話を書いていたらプリンが食べたくなってきました。

登場するメイドさん達の名前ってあったほうがいい?

  • いる
  • いらない
  • そんなこといいからはよ続き書け
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