「……終わったのかな」
「……先生にも分からない。今だってここに居ること自体が結構危ないからね」
「っでも、それだとホシノ先輩が!」
「うん、ホシノは絶対に助け出す。でもその前にみんながやられるのはもっとマズい」
先生含むアビドス一同は、カードによって呼び出されたメイドとカイザー理事の搭乗する人型兵器との戦闘が勃発後すぐに近くの建物へと逃げ込んでいた。
ここは既にカイザーPMCの保有する軍事施設内である。そのため隠れた建造物もまた相応の耐久性を備えているが、先の戦いによって既にボロボロである。
戦いがまだ続いているのか、それともどちらかが敗れたかにしろ移動しなければならなかった。特に最初に引き起こされた大きな地響きは、周りの地盤を砕くかのような一撃であった為、次の攻撃で同様のものが起こった際は瓦礫の下敷きになるのは必然だった。
いつまでもその場にとどまる訳にはいかない。その為状況把握の為にも先生はゆっくりと顔を出し辺りを見渡した。
「……これは」
一番最初に目についたのは大きなクレーターだ。大きさはアビドスの校庭に出来たものは浅いがその広さは倍以上である。おそらくは、一番最初に引き起った衝撃によるものだと判断した。
「…………」
次に目に付いたのは、無造作に置かれた人型兵器の腕部と思われるもの。その大きさは先生以上の太さと重さだと想像できる。その両腕分がその場に残っており、繋がっていたであろう根本はどうやったのか、まるで強引に引きちぎったかのような破損をしていた。
そして少し視線をずらすと目に入るのが、人型兵器を支えていた脚部。まるでいきなり搭乗部分を含んだ胴体を無くしたかのように両足がそろって地面の上へと立っている。だが、腕部とは違って断面はある程度の形が残っている。まるで
本当に何が引き起っていたのだろうか。まるで怪獣戦争後のような被害現場は、その苛烈さだけを残していた。
顔だけでなく、身体全体を建物から出して辺りを見回す。
「…………いない」
この被害を出したであろう2人の人物は見当たらない。カイザー理事とAid Ladyの代表、その両方は姿を消しており、カイザー理事が搭乗していた胴体も、Aid Ladyが最初に現れた要因ともなったカードも同様である。
念をもってアヤネのドローンとシッテムの箱を持って軍事施設全体を調べ上げるが、その両者どころかカイザーPMCの部隊すら見つからない。まさにもぬけの殻と評すべき施設に先生はただ疑念の視線を向けることしかできなかった。
ただ真っ広く黒い空間にホシノはいた。この部屋の壁面から伸びているのか、赤い糸のような拘束具は彼女の手を背後でとらえており、緩みは一切なく、逃がさないという意志を感じ取れる。
「…………」
彼女本人も理解しているのか、それとも逃げ出す気力すら既にないのか。抵抗した様子はなく、ただ床に顔を向けて項垂れている。
彼女がここに囚われたどれほどの時間が経っただろうか。既に涙も声も枯らし尽くしたようであり、そこは非常に静かな空間であった。
だが、そこに一つの足音が聞こえてきた。履いているのはブーツだろうか、規則正しく鳴る心地良い音がこの広い空間に響くが、ホシノは身動き一つ取らない。
やがてその足音は彼女の目の前にやってくるとピタリと止まった。
「…………」
「少々お話する時間をいただけないでしょうか。小鳥遊ホシノ様」
「…………だれ」
「人材派遣会社、Aid Ladyの代表を務めております。名前はございませんのでその点はあしからず」
聞き馴染みのない声に、掠れた声で聞き返したホシノはその名前にゆっくりと顔を上げた。
「おや、どうやら体調があまりよろしくないようですね。声を出すのが辛いようでしたら、首を振る程度でも構いません」
「────助けに来てくれたわけじゃないんだ」
「そのようなご依頼は受けておりませんので。今回は私情───もといお客様とのトラブルが発生したため、その事情聴取を兼ねてお尋ねしました」
「…………」
「急ぎという訳ではありませんが、時間を掛けるつもりもございません。聞きたいことは3点だけですので、是非とも嘘偽りなくお答えください」
「……なにかな」
「ありがとうございます。ではまず一点目から……小鳥遊ホシノ様は黒服という方をご存じでしょうか?特徴としては黒いスーツに少々変わった頭部を持った方です」
「……知ってる」
知らない訳がない。ホシノ自身がここにいる理由も、ホシノがアビドスを失った理由も全てこの人物が原因であるからだ。答えると同時に黒服に向けての罵詈雑言を吐きたかったが、そこまでするほどホシノの体力は残っていなかった。
「お答えいただきありがとうございます。続いて2点目ですが───こちらのカードについてご存じでしょうか?」
「……これって、セリカちゃんが持ってた───」
「ありがとうございます。ご存じのようですね」
黒いラインの入った白いカードを目の前に差し出されたホシノはそう口から漏れたように呟くと、質問に答えたと判断したのかそのまま黒いカードをメイド服の内側へと仕舞いこんだ。
「では最後についてです。当社にとってはこの質問が一番大切ですので、何卒お答え願いますよう……」
「───いいよ。どうせこの後に私はもう……」
「では質問させていただきます。──ホシノ様はこちらのカードを黒服様へお渡ししたことがありますか?」
「……うん、あるよ。黒服との契約の内容で私が所持していたもの全てを渡すって内容だったから」
「……なるほど、そのような契約があったのですね。教えていただきありがとうございました」
「……聞きたいことってそれだけ?」
「はい。最初に申し上げました通り3点だけですので」
「……そっか」
「では、私としましてもお聞きしたいことが聞けましたので、これで失礼します」
「……ほんとに助けてくれないんだね」
「依頼されていませんので。……しかしながら」
「…………?」
メイドがホシノの下を去る間際、聞こえるか聞こえないかの声量でぼそりと呟いた。
「私が助ける必要はないと思いますよ」
そうしてメイドは来た時と同様に規則正しくなる足音を立てながら姿を消していった。
直後、遠くの方で自身を名前を呼ぶ声が聞こえた。
あの後、先生を含むアビドス対策委員会はホシノを助け出した。誰もいない施設をただ探索する中でひと際強いセキュリティの掛かった部屋があったが、先生の持つシッテムの箱をその設備にかざしただけでロックが外れたことに一同は驚愕の声をあげた。だがそれ以上にその場所がホシノの拘束された部屋であったことでその場の全員の記憶の隅へと追いやられている。
軍事施設の外で戦っていたカイザーPMCの部隊たちは通信部もといカイザー理事と連絡が取れなくなったことで撤退し、違うPMC軍事施設へと退却していった。
カイザーPMCに対して正式に宣戦布告を申し込んだゲヘナ学園は、両者合意の下で停戦したとのことだった。後日賠償金についての話し合いが行われている予定であるが、日程についてはいまだ未定である。
対策委員会はホシノを救出した後に、そのまま学校に戻るのではなくシャーレへと向かった。カイザーPMCとの闘いの場になった学校はいまだボロボロのままであり、ガラスも散らばって危険だと言うことでシャーレで一泊することになった。
そして翌日、先生と共に連邦生徒会へと向かい連邦生徒会長代理、七神リンと連邦捜査部シャーレの先生の名の元で、アビドス対策委員会の正式な委員会へと承認された。あの場で先生が持ち出したアレは、正式には申請段階でありかつアビドス対策委員会の部員の了承が無い状態。いわゆるアビドス対策委員会顧問の独断による申請ということで色々と綱渡りな状態であったという。
そしてアビドス対策委員会はアビドスの正式な生徒会としても認められたことで、対策委員会はその役割を負うことになった。いまだ生徒会長がいない状態だが、現状はそれでいいということだったのは先生としても意外であった。
カイザーコーポレーション理事はあの騒動以降、生徒誘拐事件や金融機関の不正が発覚したことで連邦生徒会より指名手配されているが、あの日の騒動から行方が知れていない。
また金融機関に調査が入ったことで、アビドスへの不正な利子が発覚しており、過払い分はそのまま借金の返済へと充てられている。その後の利子についても以前まで支払っていた額とは思えないほどに低い額になることとなった。
アビドス自治区の大半はいまだ、カイザーコーポレーションの所有となっている。取引自体は違法ではなかっため、その点についてはひとまず置いておく形である。
紫関ラーメンに関してはあの後屋台として再開することになっており、セリカのバイト先として営業をしている。突如として営業形態を変えたことで客足は以前よりも少ないが、常連が話を聞いて徐々に戻ってきているとのことだった。
先生はシャーレの事務所でとある人物と話をしている。話をするシャーレの先生はどこかぎこちない表情を浮かべているが、反対にその話相手は笑顔を浮かべている。
「────というわけなんだけど、お願いできないかな?」
「……先程申し上げられた通りですと、費用が非常に高額になる恐れがありますがよろしいでしょうか?」
「ま、まぁ……ある程度の覚悟はしてるよ…………あとで簡単な見積書とかって出せたりする?」
「かしこまりました。後程詳細なデータをこちらの形式で送らせていただきます。それと着工開始時期はお早目がよろしいでしょうか?」
「そうだね……出来る限り早めがいいかな」
「では早速見積もりに入るとしましょう。着工前に連絡を入れたほうがよろしいでしょうか?」
「いや、大丈夫。私も色々立て込んでて連絡に出られないかもだし、なるべく早くがいいからね」
「かしこまりました。それでは御見積書をお送りしだい、作業に取り掛からせていただきます」
「……あ、そうだ。前払いとかって………」
「シャーレの先生であれば必要ないでしょう。────それとも経済的事情に問題がおありでしょうか?」
「…………いやいやそんなわけが────あるかもしれない」
「当社は分割払いも対応しておりますので、ご安心を。では私はこれで失礼します」
そういって目の前の人物は姿を消した。先生もまたそれを確認すると体の力を抜いて椅子へと倒れるように座り込んだ。
「……ひとまずはこれで安心かな」
『だ、大丈夫ですか先生?』
「ありがとアロナ。……まぁ確認できたことは確認できたし、あれについても段取りが出来たから良しとしよっか」
先生は自身の持つタブレットの中の少女からの心配の声に返すように笑顔を向けた。
『……でもっ、先生があの費用を直接持つ必要は────』
「だからといって、あの子たちの借金に加えるのは違うと思うんだ。これは私が勝手にやること。だから私が払う必要がある」
『……でもぉ』
「まぁなんとかなるよ!分割払いが出来るみたいだし、いざとなれば禁断のリボ……」
『それは本当にダメですっ!』
「あはは、冗談だよ」
その場に残ったのは先生とシッテムの箱の少女。そして一枚のカードだけあった。
日が沈みだしたアビドス自治区。そのとある場所にて3人、メイド服を着た人物が立っている。その周りには複数の白い直方体が浮かんでおり、その数は10を超えている。
「……さて、ご依頼主様からは早期での工事完了を望まれておりますので、大仕事になりますよ」
「「かしこまりました」」
背丈の低いメイドの言葉に、残り2人のメイドが了承の言葉を返した。
「他の者は?」
「はい。現在ゲヘナ自治区とトリニティ自治区にて業務に取り組んでおります。依頼終了時間は間もなくとのことですので、のちに合流できるかと」
「建材については?」
「先程見積もりを出したところ、追加で購入する必要はありません。以前のビル撤去の際に発生した資材を用いれば十分に足りております。しかし、備品については修繕したとしても数に限りがあり───」
「分かりました。念の為、本社から離れた場所のビルを潰してある程度の資材を確保しておきましょう。いずれは支社を建設する際に必要になるでしょうから。備品については後程購入するかをご依頼主様とご相談するということで」
「かしこまりました、
「それと追加で化粧箱を配備して置いてください。夜分での作業ですので防音対策を」
「見積もりと同時に一帯の住民調査を行いましたが、現時点で住民は確認されておりません」
「建前というものですよ。ここキヴォトスに馴染んでいくためにも、些細なことから取り組むべきです」
「失礼しました」
「構いません────では、作業を始めるとしましょう」
アビドスでの騒動が終わってから2日後。対策委員会一同は、アビドス高校へと戻ってきていた。
「結局シャーレで2泊もすることになるなんてね」
「あはは……まぁ皆さんも疲れてたみたいですし、仕方ないですよ」
「……ん、でもこれからもっと疲れることをする」
「言わないでよシロコ先輩。……はぁ、帰ってきてから丸一日寝て、次の日は朝から夜まで書類にサインばっかり」
「いまの今までアビドス生徒会としての業務が溜まりに溜まってましたからね」
「流石に溜まりすぎよ!先生はシャーレの仕事があるから仕方ないとしても……5人もいて一日掛かるってどれだけなの!」
「……途中でホシノ先輩が寝てた」
「うへっ!?シロコちゃん、それは言わない約束って────」
「あの時みんな気づいてた」
「……うへぇー」
「……でも、いつものホシノ先輩で安心した」
「…………うへー///」
「学校の片付けはホシノ先輩に率先してやってもらう」
「…………うへぇ」
「さっきからうへぇしか言ってないじゃない!」
「ふふっ、これも対策委員会らしくていいですね……それよりも、もうそろそろ学校が見えてき……て……?」
「……なにあれ」
戻ってきたホシノを含めて他愛のない会話をする対策委員会は、あの騒動で散らかった学校を片づけるべくその場所へと向かっていたが、突如として視界に入ったのは校庭ごと四角く白い布で囲われたアビドス高校であった。
「え……本当になにあれ?だれか聞いてないの?」
「い、いえ。私は何も……」
「……そういえば先生が先にアビドス高校で待ってるって言ってた」
「そ、そうよ!先生はどこに……」
かつては校門があった場所へと着いた一同は、先生の所在を確かめるべく携帯を取り出そうとして────
「……あ、みんなも着いたかな?」
突如、アビドス高校を覆った白い布の中から先生が現れた。
「……先生!……この白い布はなに?」
「そうよ!私たちは何も聞いてないわよ!」
「ふふっ、それは私が言ってないからね」
「……なにかあったの?」
「それは見てからのお楽しみってことで。ちょっと待ってね────メイドさーん!みんなが来たからいいかなー!」
「────かしこまりました。それではこちらの方を外させていただきます」
そう先生が大きく声をあげると、聞き覚えのある声と共に白い布が取り外されていった。
「では!私からみんなへのサプライズってことで───」
「「「「「 !!!! 」」」」」
アビドス高校を覆っていた白い布が上から取り外されていき、その校舎の姿が露わになった。
そこにあるのは、アビドスの騒動でボロボロになった校舎───ではなく、傷どころか砂一粒すら見当たらない綺麗な校舎であった。
「えー!?何よコレ!?」
「綺麗になってる」
「……嘘。だって一昨日の夜はあんなに……」
「……これは先生がしたんですか!?」
「いやいや、お願いしたのは私だけど、やったのはみんなの知ってる人だよ。……紹介してもいいかな」
「……うん。大体予想がつくけど」
「だ、そうだよ」
先生の言葉と同時に先生の隣に歩いてきたのは、メイド服を身に纏った人物である。
「では、ご紹介に預かりましたので自己紹介を。お久しぶりでございます、アビドス対策委員会兼生徒会の皆様。人材派遣会社Aid Ladyの代表に務めております。名前はありませんのでお気軽に呼びやすい呼び方でお呼びください」
そういって丁寧に頭を下げるのは背丈の低いメイドであった。
「ということで、みんなの学校を修繕してくれたのはこのメイドさんたちでーす!」
パチパチーという掛け声と共に紹介されたメイドに対策委員会一同はなんとも言えない表情を浮かべた。
するとセリカはこっそりと先生の下によって耳打ちをする。
「(ちょ、ちょっと先生!……その、このメイドは結局だいじょうぶなの!?この前だってなんか暴れるだけ暴れて……)」
「(まぁそこは……聞かないほうがいいかな?先生の方でもこっそり確認した感じ、もうなんともないみたいだし……)」
「(き、聞かない方がいいって)」
「ま、そういうことも世の中にはあるってことだよセリカ!それよりもメイドさん!これから学校を案内してもらってもいいかな?」
「かしこまりました、それでは皆様。当社で皆様の学校を修繕させていただきました、Aid Ladyでございます。これより当社の方で手をいれた部分を順にご説明させていただきますので、ご同行をお願いします。また、それに関する質問もその場で随時お答えしますのでお気軽にお声がけください」
「は、はい……」
「わかりました……」
「……ま、いってみようじゃーん」
状況が追い付いていないアビドス一同は、その先を歩いていくメイドにぎこちない返事を返しながらも後を追った。
「では初めに校庭の方からご案内させていただきます。こちらの校庭の中央部に直径8m、深さ1mほどのクレーターがありましたので、こちらで新たにグラウンド用の土と砂を用いて埋め直しております。施工に付きましては連邦建築基準法を満たしておりますのでご安心を」
「……すごいわね」
「綺麗さっぱり穴が消えてる」
「それに加えまして堆積していました砂も全て撤去しております。消えかけていましたサッカーコートや陸上トラックのラインなどは再度引き直していますので後程ご確認ください」
「……いつぶりだろ。こんなに綺麗なアビドスの運動場をみたのは────」
「……ホシノ先輩」
「質問が無いようでしたので次の場所へご案内させていただきます」
「続きましてはこちら、皆様が普段から使用されているアビドス高校本館でございます。外部からの衝撃による損傷もそうですが、経年劣化による損傷も激しい部分がございましたので、その点を含めて全て修繕させていただきました。そのため、建物の物理的強度は以前の約3倍ほどに上昇しております」
「さ、三倍ですか……?」
「はい。外的損傷もそうですが、建物の経年劣化は意外と目に見えないものです。後程詳細なデータについてもお渡ししましょう」
驚きの声をあげるアヤネにメイドは何気なく答えた。この校舎は普段から使っていることもあって彼女たちが丁寧に清掃や管理を行ってきたが、そのまさかの数値に声を失う。
いかにアヤネがこのような作業に長けていようと、彼女は学生。本職にはかなわないのである。
「校舎外壁の塗装についても塗り直しております。場所によっては差が激しかったので、一度全ての塗装を剥がした後に再度塗り直させていただきました。使用した塗料は最高級の物を使用していますので、およそ25年ほどはこの状態が続くかと」
「に、25年!?そんなに長持ちするの!?」
「はい。いずれ皆様のお子様がこの学校に入学されても、この状態を維持出来ていますのでご安心を」
「こ、子ども………///」
「………………え、なんでみんな
「では、校舎の中の方もご案内させていただきます。まずは廊下の方から」
「おぉ……綺麗になってるわね」
「はい。後程ご案内する別館もそうですが、どうやら廊下や教室の窓ガラスが
「……ピッカピカ」
「お取替えした窓ガラスはキヴォトス基準で用いられている防弾ガラスを使用しております。9㎜拳銃ではまず傷がつくことは無く、突撃銃で使用される5.56㎜や7.62㎜でもかすり傷程度しか付きません。45㎜口径の大型マグナムや狙撃銃となると流石に無傷とまではいきませんが、貫通することはなく、その特殊な構造で弾丸を受け止めることが可能です」
「……こんなすごいガラスってキヴォトスでもほとんど見かけないような……」
「主に要人を護送する際に使用する車両に使われることが多いかと」
「……これ一枚、いくら?」
「材料費だけでいいますと……そうですね、為替レートによって多々変動しますが、この窓のサイズですと一枚あたり50万は下らないでしょうか」
「ごっ、50万!?」
「……それが最低価格……?」
「はい。また一般的な防弾ガラスは約5年ほどで定期交換が必要となりますが、こちらの防弾ガラスは当社の技術によって耐年数が飛躍的に向上しておりますので、基本的な交換は必要ないかと」
「……え、もしかしてこの校舎と別館の窓ガラス全部がこれ?」
「はい。すべて同じものを使用しております」
「────────」
メイドから聞いた言葉にアヤネは思わず倒れ込み、うしろにいたノノミに支えられる形となる。その隣ではセリカが近くの窓ガラスの枚数を数えており、シロコが電卓をたたいておおまかな額を計算しようとしていた。
ふとシャーレの先生がこっそりとメイドの下に近づき、小声で話しかけた。
「……ちなみに本館と別館だけでどれくらい掛かったの?」
「お聞きになりますか?」
「……やっぱ止めとく」
「後程、施工費用も含めたお見積りをお見せしましょう」*2
「……見たくないなー」
「楽しみですね」
先生からの質問に対して答えたメイドは、それはもう素晴らしい笑顔だったと先生は語る。
「こちらが対策委員会の教室になります」
「……あんまり変わってない?」
「はい。ここは皆様が普段から使っていらっしゃるようでしたので、窓ガラスの交換と清掃だけに留めております」
「…………帰ってきたって感じがするなー」
「もう勝手にいなくならないでね、ホシノ先輩」
「勿論だよ」
「……あとで教室の上のほうにホシノ先輩が書いた手紙と退学届けを飾る」
「それだけは本当にやめてシロコちゃん」
「ん。メイドさん、後であの防弾ガラス仕様の額縁を頂戴」
「ねぇシロコちゃん聞いてる?そんなことされたらおじさん、恥ずかしくて死んじゃうから」
「かしこまりましたシロコ様。後程お届けするとしましょう。費用については────」
「大丈夫。手ごろな銀行を抑えているから、まずはそこに行ってから……」
「ダメだからね?」
「ん」
「では次の場所に向かうとしましょう」
「そしてこちらが別館になります。こちらも窓ガラスの交換を除くと基本的な作業は清掃と教室の修繕になっております。本館の方では説明を省きましたが、床のワックスもかけ直しておりますので、今後の清掃では箒と雑巾で十分かと」
「本当にすごいね……アフターケアもばっちりなんて」
「これも淑女の務めというものです」
「多分だけど絶対違うと思う」
「あ、あの……別館の音楽室や科学室などは────」
「はい、アヤネ様。そちらの教室は基本的に清掃と備品の整理になっております。後程確認できた備品の種類や個数、規格をまとめた目録をお渡しさせていただきます」
「あ、ありがとうございます」
「……なんか本当になんでもありだね」
「淑女ですので」
「違うと思う」
「では最後になりますのはこちらの────」
「え、ここってまさか……」
校内の案内の最後として向かったのはグラウンドの横にある施設。老朽化もあるが、屋外ということもあり砂嵐による被害によってすでに利用はされてない場所であった。
「……水の音がする」
「……うそ」
「アビドス高校屋外のグランドプールになります」
「「「「「 ! 」」」」」
そこにはいつぶりだろうか。透明な水を並々に溜めて、正午の位置に上りかけた太陽をその水面でまぶしく照らす施設。プールであった。
「まずはじめに堆積しておりました砂を除去した後、プールの底にあるひび割れを補修。その後水道管の配管部分の修理を行いましたので、問題なく水を貯めることが出来ます」
「「「「「…………」」」」」
「破損したまま放棄されていた循環濾過装置も整備が完了しております。消毒用に塩素剤を投入できる仕様に改良を加えていますので、一度水を貯めてしまえば約一カ月ほどは健康に害はないでしょう」
「「「「「…………」」」」」
「また、定期的に発生する砂嵐についてですが、そちらについては後程ご紹介します防塵ネットをご使用下さい。非常に目の細かいネットですので、飛来する砂は通さないようになっておりますので普段からの管理は問題ないかと」
「「「「「…………」」」」」
「では、これにて大まかな施工内容の説明を終わらせていただきます。質問などについては随時受け付けておりますので、お気軽にお声がけください」
「「「「「…………」」」」」
「あ、あのーメイドさん。一つだけ質問してもいいかな?」
「いかがされましたか先生」
「私の後ろでさっきからそわそわしてる子たちが居るんだけど、このプールってもう……」
「はい。いつでも入れる状態ですので、すぐにでも飛び込んでいただいても大丈────」
「「「「「……!」」」」」
そうメイドが言い終えるまえにアビドス対策委員会は、制服を身に付けたままプールの中へと飛び込んでいった。
「おやおや。皆様、元気がいいご様子で」
「あ、あはは。ゴメンね、私の生徒たちが……水と掛かってない?」
「お気遣い頂きありがとうございますシャーレの先生。ですがご安心を。こちらのメイド服は完全防水ですので、大雨の中でもこちらを着ていれば、頭部以外は濡れることはございません」
「はへぇー、そりゃすごい」
「はい。……さて、いかがでしょうかアビドス対策委員会兼生徒会の皆様」
そう言って先生と話していたメイドは、プールへと飛び込んでいった対策委員会へと問いかけた。
「……控えめにいって最高」
「そうよ!アビドスのプールなんて初めて!」
「……うへー……私もこのプールを入るのは初めてだねー」
「プールに入るとしたら市民プールですから」
「あ、そうです!このアビドスのプールでプール開きをしませんか!近くの住民の皆さんも呼んで……」
「楽しまれているようで何よりでございます。タオルや替えのご洋服などについてはこちらでご用意しておきましょう」
「あー……何から何まで悪いねメイドさん」
「いえ、お気になさらずに。これもまた淑女の務めというものです」
「うん、多分違うと思うけど……もしかしたらそうかもしれないって思い始めてきたよ」
「ありがとうございます」
その日学校の片付けを行いに来たアビドスは、みなプールで一日遊んで終わることとなった。その時のみんなの笑顔を忘れることはないと先生は心の奥深くに刻み付けて。
その日の夜。アビドス高校にてみんなと別れたホシノは1人、アビドスの街をパトロールしていた。彼女にとってこれはいつものルーティン。それは彼女がアビドスを去り、後輩たちに助け出された後も変わらない。
「…………」
自分の持つショットガンと携帯式の折り畳み防護盾を持って、夜の街を歩いていく。
「………誰」
わずかに感じ取った謎の気配。ホシノがそう呟くと同時に、コツコツと革靴を履いた足音が聞こえてきた。
「…………お前は」
あの時聞いたAid Ladyの足音とは違う足音。この足音の主をホシノは知っていた。
「────こんばんわ、小鳥遊ホシノ様。とてもいい夜ですね」
彼の名は黒服。あの日以降、先生や連邦生徒会をもってしても行方がしれなかった人物がいま再び、ホシノの前へと現れた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!次回、対策委員会編、最終話になります!
感想や誤字報告がなによりの励みとなっております。というか下さい。また、お気に入り登録や評価等を貰えると嬉しいです!それとアンケートにも投票していただけると助かります!
登場するメイドさん達の名前ってあったほうがいい?
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いる
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いらない
-
そんなこといいからはよ続き書け