機械少女と青春を   作:バグキャラ

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こちらはアビドス一章後の物語のため、そちらを読了推奨ですが一応はそのまま読んでも大丈夫なようには書いたつもりです。


番外編
先生とメイド その1


「あー………多すぎる…………」

 

 キヴォトスの中心に聳え立つサンクトゥムタワーの如く設立された書類の山を前に先生はそう呟いた。

 

 アビドスでの騒動が落ち着いた後、先生はD・Uシラトリ区の外郭区に位置するビルのオフィス、シャーレへと帰還していた。

 

 先生がアビドス高校からの救援要請後、その移動時間の都合上でアビドス自治区のホテルへと宿泊していたが、その騒動も収まったことでその必要もなくなり、本来の業務を果たすためにも今こうして業務机に向かっている訳であったが

 

「……え、ナニコレ。本当に多すぎない?この書類全部私がしないといけないの?半分くらいは送り先間違ってるとかじゃないよね?」

 

『大丈夫です先生!この書類は全部連邦生徒会より送られたものになってますよ!』

 

「ごめんアロナ。私が大丈夫じゃない」

 

 先生の所属するシャーレは、その立場上連邦生徒会に属する組織の為にその業務量は膨大である。その量は1人だけではまず不可能と断言していいだろう。

 

 先生自身の休憩・休息時間を削る、もしくは複数人での業務は必須であり、そして先生1人では仕事を片づける量よりもその仕事が翌日早朝に補充される量のほうが上回っているため、目の前の書類の山が無くなることは無い。

 

『先生はアビドスの皆さんを呼んでみてはどうでしょうか?』

 

「うーん……流石にあの騒動の後に呼ぶのは気が引けるかな……」

 

 アビドスでの騒動が終わった後、対策委員会の5人は連邦捜査部シャーレの部員として所属している。カイザーPMCの軍事施設へと乗り込む際に利用した仮入部届けも正式なものへとなっておりシャーレ発足以降、新たな部員として歓迎されていた。

 

 が、彼女たちの周りはドタバタ騒ぎだったこともあってか、こうしてシャーレに所属後すぐに仕事の手伝いに呼ぶのは先生自身も気が引けた。

 

「まだアビドスの件は片付いた訳じゃないし、借金と自治区の問題もあるからそっちを優先したいけど……」

 

 そういって視線を落とした先には先生の持つ携帯。表示される画面にはおびただしい量の通知が届いており、不在着信や連邦生徒会からのメールが数えきれないほど届いており、そこから感じるのはもはや怒気ではなく殺意の感情である。

 

「流石に……流石にこれ以上怒らせるのはマズイ……よね」

 

 先生の脳裏に浮かぶのは眼鏡の裏に黒い瞳を浮かべる人物であり、安易に折返し電話を返そうものなら一体どれだけの小言が並べられるかが容易に想像できた。

 

『でもコレだけの量を先生1人では到底無理な量ですよ!?』

 

「大丈夫……この前出張でミレニアムに行ったときに買ってみたこの妖怪MAXを飲めばきっと3徹……いや、4徹は固いはず」

 

『死ぬ気ですか先生!?』

 

「大丈夫アロナ。人はいつの日か限界を超える日が来るんだよ……私の場合はそれが今日だっただけで……」

 

『でも先生は既に2徹してるんですよ!?これ以上は本当に危ないです!』

 

 冷蔵庫に手を掛け、目的のブツを手に取りプルタブに指を掛けようとしたところでシッテムの箱の少女から声が掛かる。

 

『そうです先生!Aid Ladyさんにお手伝いしてもらえばいいんですよ!』

 

「Aid Lady……あぁ、メイドさん達ね……」

 

 既に目が映ろな先生はアロナからの提案になんとか思考を回して返事をした。

 

「でもアロナ……私はメイドさん達に借金があるんだよ……?まだちゃんとした請求は来てないけど、見積もり書の額は見たでしょ……」

 

『それはそうですけど、ここで体調を崩す方が本当に危ないんですから!』

 

「…………」

 

 アロナの提案にも一理あると先生は考える。もしここで自身の体調を崩し、Aid Ladyからの請求に対して正しい支払いが出来ない、又は支払い状況が認められないと判断された場合にAid Ladyが次に請求する先はアビドス対策委員会なのは明白であった。

 

 先生自身が行った選択の影響が生徒達へ降りかかることは何としても避けたい。そう判断した先生は手に取った飲料を冷蔵庫の中へと戻し、ハンガーラックに掛けた白衣のポケットへと手を入れた。

 

「……えっと……確かここに……あれ、ない」

 

『先生!反対側のポケットですよ!』

 

「……ん、あぁこっちね……あったあった」

 

 掌にも満たない名刺サイズの小さなカード。デザインも連絡先も記載されていない真っ白なカードを手に取るとそのまま身体を引きずるようにして執務机の椅子へと腰を下ろした。

 

「……大丈夫かな。ちょっとシャワーを先に浴びてきたほうが……いや、先に仮眠をとってから……」

 

『先生の体調を考えるとそっちの方が優先ですけど、先にAid Ladyさんに連絡してみたらどうでしょうか?この前の話を聞く限りだと事務作業が主な仕事内容みたいですから、休んでいる間に書類仕事やシャーレのお掃除などをやってもらえるかも知れませんし……』

 

「……それもそうだね。とりあえず連絡だけでも……」

 

 そうして喉の奥から漏れ出そうな欠伸を抑え込み、白いカードの角へ指を掛けた。

 

「……んっ…と。これでいいかな」

 

 既に日が暮れ始めている為、依頼を受けてくれるだろうかと考えながら先生は、涙がにじむ瞳を擦り白いカードの角を折り曲げると、そのまま机の上へと置いた。

 

「……あ、そうだった。地面に置かないといけないんだったっけ────」

 

 既に2度も睡眠をとることなく夜をまたいでいる先生の思考は限界を迎えており、うつろな動作で机の上へと置いたカードを再度手に取ろうとしたところで、カードに内臓された映像出力機から見慣れたメイド服の人物が現れた。

 

『当社へのご連絡、誠にありがとうございます。人材派遣会社Aid Ladyでございます』

 

「……あれ、メイドさん。少し小さくなった?」

 

 等身大の人物が現れるかと思った先生は、机の上に置かれたカードの上に立つようにして先生へと顔を向けるメイドへと声を掛ける。先生の視線の先には1/8フィギュアほどの等身のメイドが立っていた。

 

『おや、シャーレの先生でしょうか?先日は当社への大規模な仕事のご依頼、誠に有難うございました。こちらの姿については場所に応じて適切なサイズで表示されておりますのでお気になさらず』

 

「……そうなんだ。すごいね、メイドさんは……」

 

『…………』

 

 先生の視界に映るメイドは腰辺りまで長く伸ばされた髪が垂らされており、ヘッドドレスを乗せた頭部が先生の状態を把握する。

 

『ふむ、さっそくですがシャーレの先生。本日のご用件をお伺いしてもよろしいでしょうか?』

 

「……あー……そうだね。ちょっと仕事を手伝ってほしくて……」

 

『仕事の手伝い───それは以前に早瀬ユウカ様からご依頼された内容と同様のものと認識しても宜しいでしょうか?』

 

「……そうだっけ……あー……そうだね。出来たらシャーレのお片付けもしてほしいなーって」

 

『かしこまりました。どうやらシャーレの先生は体調があまりよろしくないようですので、急ぎこちらへ向かうようにしましょう』

 

「……お願いできるかな?」

 

『もちろんでございます。では手短に契約内容についての確認を────ご依頼主はシャーレの先生依頼内容はシャーレの先生の事務作業の補佐、及びシャーレオフィスの清掃。期間については……後程ご相談ということにしましょう。場所はこちらシャーレオフィスでよろしいでしょうか?』

 

「……うん、それでいいかな」

 

『かしこまりました、ご依頼主様から直接ご了承を得ましたのですぐに向かわせていただきます。オフィスへと立ち入り許可については頂いたと判断させていただいても?』

 

「いいよー……あとで鍵を開けておくね」

 

『ありがとうございます。では後程』

 

「お願いねー……」

 

 そうして先生の視界の前に表示されていたメイドが姿を消すと、シャーレの先生もまた背もたれに身体を預けるようにして天井を仰いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シャーレの先生がAid Ladyへのカードによる連絡を終えてから数分後、先生のいるオフィスの扉をノックする音が室内へと響き渡った。

 

「……あれ、もうきたの?」

 

『はい!Aid Ladyさんは先程オフィスビルのチャイムを鳴らされてましたよ!』

 

「……あー……ゴメン。少し寝てたかも」

 

『たぶんそれ寝てたんじゃなくて気絶ですよ先生……』

 

 依頼の連絡を終えてから数分間の記憶がない先生は徐に椅子から立ち上がり、扉へ手を掛けた。

 

「……はーい。久しぶりだね、メイドさん」

 

「はい、お久しぶりでございます。シャーレの先生。早瀬ユウカ様からのご依頼───いえ、アビドス対策委員会とゲヘナ学園風紀委員会とのトラブル以来でしょうか?」

 

 オフィスのドアを開けるとそこにはメイド服を纏った女性が立っており、先生と視線が交差するなり、カーテシーで挨拶をした。

 

「そうだねー……他のメイドさんにはちょくちょく会ってる気がするけど、こうして依頼で会うのはユウカの時以来かな?それにしても来るのが早かったね」

 

「当社への依頼の予定も無く、時間が空いておりましたのでこちらへ向かわせていただきました。現在、わたくしの方でDUシラトリ区からAid Ladyへのご依頼を担当させていただいておりますがら恥ずかしながらAid Ladyへのご依頼数は少ないものでして」

 

「あー……メイドさんによって担当する地区が違うんだね……」

 

「はい、DUシラトリ区でご依頼される場合は私が。アビドス自治区、また他の自治区では別の者が担当させていただくことになっております。以前アビドス高等学校へ便利屋68の方々と共に赴かれた者を覚えていらっしゃるでしょうか?」

 

「……あのローポニーのメイドさんだっけ?」

 

「ご記憶にお留めくださり、ありがたく存じます。では早速仕事の方に取り掛からせていただいてもよろしいでしょうか?」

 

「……いいかな?ちょっと寝てなくてね……」

 

「シャーレの先生の体調が優れていないことは当社に連絡時より把握しております。睡眠不足は健康状態に直結して影響しますので、まずはゆっくりと休まれるべきかと」

 

「ごめんねー……仕事をほったらかしでお願いして……」

 

「どうぞお気になさらずに。既に仮眠室のベットメイクは済んでおりますので、私の方で運びしましょう」

 

 その言葉と同時に先生よりも背丈のあるメイドはそのまま腰を落とし、ふらふらと立つ先生の膝裏と肩に手を掛けると抱きかかえた。

 

「わぁー……お姫様だっこなんて何年ぶりだろぉ……」

 

「揺れないよう最大限の注意を払いますが、もし御不快に思われたのであればお気軽にお申し付けください」

 

 シャーレの先生自身も女性の平均身長以上の背丈であるが、それ以上の身長を持つメイドは何なく先生を抱き抱えると、そのまま仮眠室へと向かう。

 

 不思議と歩行に合わせた揺れを先生は感じることなくオフィスの廊下を歩いていく。

 

「……まさにVIP待遇…………」

 

「私どもからすればご依頼されるお客様は(みな)、特別な存在でございます。料金の踏み倒しや当社のカードの不正利用をされる方はその限りではありませんが、シャーレの先生であれば問題ないでしょう」

 

「問題ないように頑張るよ………」

 

 そんなやり取りをメイドの腕の中でやりながら2人は仮眠室へ辿り着いた。

 

「仮眠室へと到着しましたのでこちらに降ろさせていただきます。足元にお気をつけてください」

 

「ありがとー………あれ、なんかいつもと雰囲気が違う?スンスン…………ちょっと良い匂いもするし」

 

「睡眠の質を高める為にお香──もといアロマを焚いております。落ち着いた香りは心身をリラックスさせ、安心した睡眠環境を提供いたします」

 

「いつもの仮眠室が高級ホテルの寝室に……ベッドもなんかふわふわだし」

 

「わたくしどもからすれば最低限のご用意になります。時間の都合上でこれ以上のご用意が難しい状況ですので、何卒ご理解いただけたらと」

 

「いやいや十分すぎるよー……」

 

 メイドの説明に声を返しながらも、ベッドの傍らに降ろされた先生はそのまま靴を脱いで、そのまま倒れるように毛布の上へと寝転がった。

 

「うわぁ………ふっかふかだー。お日様の香りがする気がする」

 

「ありがとうございます。では消灯を」

 

 メイドの言葉と共に部屋の中は暗くなり、睡眠に適した環境へと移り変わった。

 

「あー………ごめん、もう無理。ちょっと寝るからあとお願いして良いかな………仕事が終わったら起こし………Zzzz」

 

「かしこまりました。わたくしの判断で処理できる雑務については取り組ませていただきます。では、ごゆるりとお休みくださいませ」

 

 ベッドの上で寝転がり、そのまま枕に顔を埋めてメイドに言葉を掛けた直後、寝息へと変わった先生にメイドは丁寧な一礼を持って応えた。

 

 その後、メイドは音を立てぬよう仮眠室の扉を閉めると振り返りオフィスへと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…………」

 

 オフィスへと戻ったメイドが最初に取り組み始めた仕事はオフィス内の清掃であった。

 

 いつの間にか用意されていた大容量のポリエチレン製の袋を取り出し、オフィスに散らばるゴミを手際よく片付けていく。

 

 食べ終えたカップ麺の容器やその側に置かれた割り箸。中途半端に中身の残ったペットボトルの容器にティッシュの空き箱や宅配用のダンボール箱。中身が溢れたゴミ箱の中身や不必要なチラシ。既に日付の遅れたカレンダーやインクの切れたボールペンなど。

 

 一目見て明らかなゴミと判断できるものを種類ごとに分別していった。

 

「…………」

 

 机の上や戸棚の物置、床に広がるゴミをあらかた片付けたメイドが次に取り組んだのは散乱した衣服の片付けであった。

 

Butler(執事)、本社のランドリールームの使用状況は?」

 

『当ビルのランドリールームは現在、空室です。使用予約につきましては現時点では入っておりません』

 

「では私の方で予約を。使用者の名義はシャーレの先生でお願いします」

 

『かしこまりました。これより担当機を派遣致します』

 

 メイド以外に誰もいないはずのオフィスでおもむろにそう話すとメイドにしか聞こえない声で返事をする者がいた。

 

 その声に承諾を得たメイドは、そのまま部屋中に散乱した衣服と、さらにラックにハンガーを用いることなく掛けられた衣服、そしてタオル類を集めていき、これまたいつの間にか用意されていたランドリーバックへと入れていく。

 

「…………」

 

 ゴミは片付き、散乱した衣服を纏めたメイドが次に取り掛かったのは食器類並びに給湯室の清掃であった。

 

 ペットボトルのゴミとは別に、コーヒーの粉や茶渋が底に付着したコップを集めると、そのまま給湯室へと向かい備え付けのシンクを利用して食器の片付けを行なっていく。

 

 既にシンク内も使用済みの食器で埋め尽くされていたが、そんな状態を気に留めることなく蛇口レバーを引いて水を流し始めた。

 

 使用するスポンジと洗剤はシャーレオフィスに常備されたものではなく、Aid Ladyが独自に開発して使用する物である。なんの変哲もない白い容器やスポンジにはただ一つ、ヘッドドレスを身につけたものがお辞儀をするようなデザインが印刷されており、それはAid Ladyのロゴを示していた。*1

 

 そのAid Lady印の洗剤とスポンジによって洗われた食器やコップは、茶渋やコーヒーのシミ、油汚れや乾いたソース跡などのしつこい汚れを纏っていたはずが忘れたかのようにして落として白い泡に覆われていき、水によって泡ごと流されていった。

 

 特段強い力で擦られていない筈の食器は汚れ一つなく白く輝き出すようにし、まるで新品同然とも言える姿へと生まれ変わった。

 

 そうして様子が変貌した食器は一つ一つ丁寧にメイドの手に持つクロスにて拭かれ磨かれ、そして照明を眩しく照らしかえす食器へとなった。

 

「…………ふむ」

 

 磨いた食器を注意深く見渡すメイドは汚れや拭き残しが無いことを確認すると、そのまま給湯室の壁面に備えられた食器棚へと収納していく。

 

 その後、空にやったシンクを磨き上げ、水垢の消えた銀色の輝くシンクに変化させると、三角コーナーや排水溝受けのゴミを片付け、新たな水切りネットを取り付け、給湯室を後にした。

 

「おや、ご苦労様です」

 

「「「…………」」」

 

 給湯室からオフィスへと戻ったメイドが目にしたのは3人が並んだメイド服の人物でだった。

 

 全員が同じ顔であり髪型もショートヘアに切り揃えられて統一されている。

 

 メイドの言葉に3人のメイドは言葉を返すことはなく、ただ無言で瞳を閉じて指示を待っていた。

 

「荷物はそちらのランドリーバッグの中です。スーツとシャツはクリーニングに加えてアイロン掛けと汚れ防止加工を。その他の衣服やタオル類は通常通りに」

 

「「「…………」」」

 

 先ほど同様にメイドの言葉に声を返すことはないが、指示を受けた3人は了承の意を示す一礼をした。その後に衣服の入ったランドリーバックごと手に持つと、そのままシャーレオフィスを後にした。

 

 その様子を特に見送ることもなくメイドは次の作業へと取り掛かった。

 

「化粧箱」

 

 先ほど同様に誰もいない筈のオフィスで言葉を紡ぐと、直後何もないはずであった空間が縁取られていき、そして白い物体が姿を表した。

 

「こちらの机とあちらのソファを」

 

 指を刺すように指示するメイドの言葉に、化粧箱と呼ばれたら物体は指示された内容を既に理解したのか行動を開始した。

 

 中を浮遊する白い物体は、指定された家具の隣へと移動すると、折り畳まれていたのだろうか長い突起のような部分が物体下部から現れて、家具の下へと差し込まれた。

 

 そのままゆっくりと上昇を開始し、机が化粧箱と呼ばれた物体と共に宙へと持ち上げられた。

 

「…………」

 

 その動作を指示した本人は気にすることなく、フローリングワイパーを手に取り、清掃用シートを取り付けてオフィスのフローリングを拭き始めた。

 

 肉眼では捉えにくい埃や抜け毛、小さなゴミなど見逃しやすい物は問題なくメイドの視界に表示されており、それらを一つ残らず綺麗に拭き取り始めるとたちまち、フローリングワックスの輝きを取り戻していった。

 

 持ち上げられた家具の下の清掃を終えたと判断された化粧箱はゆっくりと持ち上げた家具をフローリングへと降ろし、次の家具の隣はと移動して再度宙へと持ち上げた。

 

 側から見ればとても奇妙な出来事であるが、その様子に声を掛ける者はその場に居ない為、何事もなく作業は進んでいった。

 

「………さて、こんなところでしょうか。降ろしてもらっていいですよ」

 

 ソファやテーブルに加えて書類の積まれたキャビネットも難なく持ち上げていた化粧箱は指示通りに元の位置へと下すと、そのまま背景に溶け込むようにして姿を消した。

 

 メイドがオフィス内の清掃を始めて数十分。ゴミや脱ぎ捨てられた衣服、使用済みの食器や埃などで覆われたオフィスは姿を変えていた。

 

 オフィスの床に落ちたものは埃を含めて一切無く、以前に清掃された時と同様に照明の明かりを反射してワックスの輝きを取り戻していた。

 

 書類の山だけを残したオフィスは見違えたと言えるほどに綺麗になっており、メイドがここへ訪れる前とは段違いであった。

 

「では、次は書類雑務を……おや」

 

 次なる仕事に取り掛かるべく、先生が普段使っている執務机から書類の束を持ち出そうとして、ふと机の上に置かれたタブレットがメイドの視界に入った。

 

「…………」

 

 メイドはそのタブレットを興味深そうに見回していた。電源を入れることは無いが、それでもタブレットの外観を注意深く観察している。

 

「……化粧箱」

 

 再度、名を呼ぶようにして物体を呼び出すと、隣に現れたのは白い直方体。それを確認するとメイドは机の上に置かれたタブレットを手に取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お休みのところ失礼します」

 

「Zzzz……」

 

「こちらシャーレの先生の所持品と判断させていただいたものになります。貴重品等が含まれておりますので、こちらにお持ちさせていただきました」

 

 そういってシャーレの先生が眠る仮眠室へと赴いたメイドは、先生のいるベッドの枕元の机に白いトレーを置いた。

 

 トレーの中に入っているのは、先生の財布や携帯。普段から首に下げている名札と、その裏に収納された()()()()()()。そして、先程メイドが手に取ったタブレット、シッテムの箱であった。

 

「わたくしどもは契約上、お客様がお休みの最中であってもこうした貴重品の取り扱いなどについては目の前で明言しなければなりません」

 

 メイドが手にとったシッテムの箱には特段何か手を付けるわけでも、データを取る訳でもなく化粧箱の用意した白いトレーに入れられただけであった。

 

「では私はこれで。他の仕事が残っておりますので失礼いたします」

 

 そうして掛けられた声が届かぬほどに意識が底に落ちた先生を残して、オフィスへと戻っていった。

*1
C&Cのロゴ、横向きのメイド服の女性が正面を向いてカーテシーをしているようなデザイン




ひとまずアビドス編が一区切りついたので、ブルアカの登場キャラとメイドとの日常生活を書いてみました。

 こちらの作品のタイトルである《機械少女と青春を》の機械部分も青春部分も書けていないので、機械部分は2章のパヴァーヌ編から、青春部分は今回のような番外編で書いていこうと思います。

 番外編については章を一区切りするたびに今後もこのような形でシャーレの先生や生徒。部活動、組織などと絡めた物語を書いていこうと思います。

登場するメイドさん達の名前ってあったほうがいい?

  • いる
  • いらない
  • そんなこといいからはよ続き書け
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