機械少女と青春を   作:バグキャラ

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 皆様おひさしぶりでございます。前話の投稿から約半年の期間が開いてしまい、申し訳ございせん。
 言い訳のようにはなってしまいますが、今年で新社会人入りした身として色々と忙しく執筆が出来ない状況でした。就職先の研修も終わり、ようやく落ち着いて執筆できるようになってきましたので、こうして投稿させていただきます。今後の投稿頻度としては1~2週間に1話投稿できるよう努力し、新たな環境に身体を馴染ませつつ、今後の投稿頻度を上げていけたらと考えております。失踪する気は全くないので長い目で見ていただけたら幸いです。
 また、返信はできておりませんが皆様の感想は全て目を通しております。皆様の感想、評価、誤字報告など全てが私の励みとなっております。
 これからもどうかよろしくお願い致します。



先生とメイド その2

「………ん」

 

 柔らかく包まれた毛布の中で先生は目を覚ました。柔らかいベッドからゆっくりと身体を起こし、辺りの状況を確認している。

 

「……あれ……いまなんじ……?」

 

 手元にスマホはなく、部屋も照明が落とされているため視界の確保が出来ず、ただ茫然と辺りを見回していた。

 

「……あ、そうだ。メイドさんに仕事をお願いしてて……それで……あれ……何時間たった!?」

 

 ぼんやりと記憶を呼び起こしていく中で布団の上に横になる直前のことを思い出すと、急いで布団から飛び起きて仮眠室を飛び出た。

 

 靴を履くのも忘れた先生はシャーレ内の廊下を靴下で駆け抜け、いつもの仕事場であるオフィスへと向かう。

 

「め、メイドさん!今何時!?」

 

「おや、おはようございます先生。十分にお休みになれましたでしょうか?」

 

「え、あ……うん。おはよう、ゆっくり眠れたよ……じゃなくて!今何時!?」

 

 オフィスの扉を開けるとすぐに目に付いたメイドに先生が質問を投げかけると、部屋に備えられたソファで書類整理を行っていたメイドがやさしい微笑みで質問に答えた。

 

「現在時刻は朝6時でございます。先生が睡眠をとられたのは昨日の17時ごろですので、ちょうど12時間ほど経過したところでしょうか」

 

「じ、12時間!?し、仕事が……!」

 

 シャーレオフィス内から見られた暮れる太陽は、地平線へ沈むどころか上がってきているその状況がメイドの言葉を裏付けており、同時に半日以上を寝いた事実に驚愕して目を見開いた。

 

「し、仕事が……仕事がぁ……」

 

 先生の脳裏に浮かぶのは眼鏡を白く光らせる七神リンの様子であり、寝起きでありながらも冷や汗をだらだらと垂らし始めた。

 

「ご安心ください。提出期限の迫っている書類等につきましては、わたくしの可能な範囲内で処理しております。あとはシャーレの先生の確認および訂正のみとなっておりますので後程確認の方を」

 

「──っほんと!?ありがとう…っ…!本当にっ──助かりました……!」

 

 寝起きにも関わらず額と背中に脂汗を浮かべ始めた直後、そのメイドの言葉に先生は安心感を抱くと同時に心の底から感謝を述べると、そのまま地面へと座り込んだ。

 

「起床後で身体が動かしづらいかと思いますのでお手を。こちら白湯でございます」

 

「……え、あ。はい……いただきます」

 

「それとこちらスリッパを。仮眠室にお忘れした靴は後程お持ち致します」

 

 伸ばされた手を思わず取った先生はそのままオフィスのソファに座らされると、目の前にお盆を差し出された。

 

 いつの間に用意したのだろうか、盆に乗せられたマグカップを受け取ると、ただ茫然と中に入った白湯を眺める。

 

 わずかな湯気と共に手に伝わる熱が先生の心身を落ち着かせ、そのまま口に付けると喉を通った白湯が身体の底から温め始めた。

 

「…………」

 

 白湯の入ったマグカップを両手に抱えた先生は、寝起きと提出期限によって慌てていた思考を落ち着かせると、そのままシャーレオフィス内を見渡した。

 

 以前にユウカを経由して依頼した際と同様にオフィス内は片づけられており、散らかっていた書類や衣服、ゴミや食器などは見当たらない。

 

「…………」

 

 いつも使っているハンガーラックの衣服は洗濯後なのだろうか、よごれ一つどころか皺1つなく、綺麗にハンガーへと掛けられていた。

 

 雑に書類を詰め込んだキャビネットも整理整頓がされており、遠くから見ただけでもわかるほどに綺麗であった。

 

「…………」

 

 そして先生の座るソファの後ろに控えるメイドへと視線を移した。手を前にして瞳を閉じており、無言のまま立ち尽くしていた。

 

「…………」

 

「いかがされましたか?」

 

「……えっ、あ。いや……すごく部屋がきれいになってるなー……って」

 

「ありがとうございます」

 

 瞳を閉じていたはずのメイドはすぐに先生の視線を感じ取り、声を掛けてきた。それに驚いた先生は咄嗟に仕事の出来栄えについての感想を口にしてごまかした。

 

「え、えっと……その、仮眠のつもりでお布団に入った私が言うのもなんだけど時間とか大丈夫だった?仕事をほったらかしにして時計一周分もメイドさんを拘束してしまったわけだし……」

 

「お気遣い頂きありがとうございます。先程───いえ、昨日申し上げた通り当社へのご依頼は恥ずかしながら少ない状況ですのでご安心を。会社の方針としては身体(機体)のメンテナンスを除いて業務に身を置くように定められておりますのでお気に成さらず」

 

「そ、そっか……」

 

「はい」

 

「…………」

 

「…………」

 

 なんとも気まずい空気が2人の間に流れる。それを思った先生が言葉を口にした。

 

「そ、そういえば私の携帯とか知らない?あとタブレットと……カード……が入った名札とかなんだけど」

 

「おや、先生がお休みなられていた仮眠室へとお運びしておりましたが、お気づきになられませんでしたか?」

 

「あ、ほんと……?ちょっと取ってくるね」

 

「いえ、私の方でお持ちしましょう────化粧箱、先生の貴重品を」

 

「……ん?化粧箱?」

 

 突如として口にした単語に先生は疑問を浮かべるが、それはすぐに解消された。

 

「……!?え、何コレ!?」

 

「私どもが普段から作業等に使用する当社の備品でございます」

 

 先生の座るソファの後ろに控えるメイドへと視線を向けていた先生は、突如として現れた白い直方体の物体に驚きの声をあげた。

 

 吊るされているわけでもプロペラやブースターなどのような推進器が取り付けられているわけでもなく、ただフワフワとメイドの隣を浮遊する物体に視線を縫い付けられた。

 

「……えっと……化粧箱って……これのこと?」

 

「はい、様々な機能がありますので私共も重宝しております」

 

「……はぇー……」

 

 メイドの言葉によって姿を現した化粧箱は、そのままスゥーっと音を立てずにシャーレのオフィスを出ていった。

 

「さて、シャーレの先生も目を覚まされたことですが、これからいかがされますか?」

 

「……いかがしようか……」

 

 流石に半日も仕事に付き合わせるつもりの無かった先生は思考を巡らせる。これから仕事の出来栄えについて確認して、その後に代金の振込等を確認しなければならないのだがと考えていたが、次に発したメイドの言葉は全く予想していなかったことであった。

 

「お時間を頂けるのであればご入浴の準備をさせていただきます。また、お腹が空いていらっしゃるのでしたら朝食の準備が出来ておりますのでご用意いたしますがいかがでしょうか?」

 

「……んぇ?」

 

「ご就眠時から半日ほど経過しております。ご入浴はまだとしても、まずはお召し物を替えられてはどうでしょうか?」

 

「え……あー……確かに。なら、着替えるついでだし、お風呂の準備をお願いしてもいいかな?」

 

 そう話した直後、先生のお腹が鳴った。

 

「……あ」

 

「では、お食事と入浴の準備を並行して行わさせていただきます。つきましては、それらの迅速なご用意の為にも追加で人員の要請を行ってもよろしいでしょうか?」

 

「勿論!むしろこっちがお願いしてるんだから、好きにやっちゃって!というかお願いします!」

 

「かしこまりました」

 

 そういって先生に対しお辞儀をしたメイドの横に化粧箱と呼ばれた白い直方体が戻ってきた。

 

「あ、帰ってきた」

 

「そのようですね。では改めましてお待たせ致しました、こちらシャーレの先生の貴重品となります。ご確認ください」

 

 白い箱の上部に乗せられたトレーを手に取ったメイドはそのまま先生の前へと差し出した。

 

「……うん、確かに受け取ったよ。財布と携帯と名札とカードと……シッテムの箱。全部揃ってるね」

 

「わたくしどもは規約上、お客様の貴重品等の管理につきましては厳格に定められております。今回の場合としましては、シャーレの先生の貴重品目を手の届く範囲に保管かつ保管場所の警備という形をで対応させていただきました。そのため、今後ともお手を煩わせてしまうかもしれませんがどうかご理解、ご協力のほどをよろしくお願い致します」

 

「いやいや……そんな、とんでもない!お財布には大した額は入ってないし、携帯だってクラウドにバックアップもあるから……あ、でもタブレットだけは私にとって大事なものだから、そこだけかな?」

 

「かしこまりました。こちらでも今後の機会があれば丁重に取り扱わさせていただきます。シャーレの先生がお望みになられるのであれば、生体認証式の金庫をご用意いたしますが、いかがでしょうか?」

 

「せ、生体認証……?なんかすごそうだね」

 

「単純な数列だけの電子施錠や錠を用いた物とは異なり、心拍数・血圧・瞳の光彩・指紋・顔認証を備えたものになります。また、その他にも電子制御と物理的な施錠を組み合わせたものによって最も安全なセキュリティを提供できるかと」

 

「さ、流石にそこまではしなくてもいいかな……?そんな凄そうな金庫は高そうだし」

 

「左様ですか───かしこまりました。気が変わりましたらいつでもお声掛けください」

 

「き、気が向いたらね……よし、なら私は提出予定の書類の確認をしようかな。メイドさんは……お風呂とご飯をお願いしてもいいかな?」

 

「かしこまりました、ご入用の際にはお気軽にお声がけ下さい」

 

 そういってメイドは一礼と共にオフィスを後にし、シャワールームへと向かっていった。

 

「……よし、頑張るか!」

 

 先生は自身の奉仕の準備の為に出ていったメイドを見送り、いつもの執務机に座ると翌日提出予定の書類の束を確認し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シャーレ内の廊下を歩くメイドは機体に内蔵された通信機能を用いて本社ビルへと連絡を取っていた。

 

Butler(執事)、バスルームの使用状況は?」

 

『当ビルのバスルームは現在、空室です。使用予約につきましては現時点では入っておりません』

 

「ではシャーレ内にバスルームの手配を。使用名義はシャーレの先生、急ぎでお願いします」

 

『かしこまりました。これより機材と担当機を派遣致します』

 

「それと事前に予約していたキッチンルームの方は?」

 

『既にご用意が出来ております。DUシラトリ区の方にて待機中でございます』

 

「ではシャーレオフィスのビルにお願いします。既に許可は頂いておりますので、そのまま来ていただいて構いません」

 

『かしこまりました』

 

 そうして通信を終えたメイドは化粧箱を連れてシャーレオフィスの居住区に備え付けられたシャワーブースへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………んー……やっぱりメイドさんってすごいね」

 

 本人以外には誰もいないはずのオフィスで1人呟く先生の声に反応する声があった。

 

『Aid Ladyさんがオフィスを掃除する途中で私を先生が寝ている仮眠室まで運んでくれたんです!』

 

「へぇー」

 

 執務机に積まれた書類の束を片づけながら、タブレットの少女と会話をする先生は、提出期限ぎりぎりの書類を一枚一枚丁寧に確認してから紐付き封筒に入れていく。

 

「……なんというか……備品管理書とか経費の請求書に見積書の作成と……あと家計簿的な物までつけてくれてるんだけど……」

 

『私の方でも確認する限りではこのまま提出しても問題ないと思いますよ!』

 

「うん、これ私要るの?」

 

 経費精算に関しても、事前に用意していた領収書やレシート、シャーレ部員からの提出書類を基に作成されたそれらには誤字脱字等は見られず、紙と電子の2種類の媒体で用意されているため、確認をする先生自身も非常に楽が出来ていた。

 

「だってコレ、ほぼほぼ私サインくらいしかしてないけど……あと、この領収書とかどうやってまとめてるの?この書類って手書き用のはな形くらいしか無かったと思うんだけど……そしてすっごく字が綺麗。インクからしてパソコンじゃなくて手書きでしょこれ」

 

『きれいな明朝体ですね!文字のサイズも統一されてますよ!』

 

「なんかもうこんなに綺麗だと私の字が落書き程度にしか見えないんだけど」

 

 先生自身の書く字も書類仕事の関係上、世間一般的には綺麗な方へと分類されているが、こうしてメイドが処理した書類と先生が行った書類を見比べると違いが一目瞭然であった。

 

『シャーレの規則的にはおそらくAid Ladyさんの仕事は先生の執筆代理という形になると思います!』

 

「当番の子たちにもよく手伝ってもらってるし規則的には大丈夫……だと思う。よし、とりあえずこれで今日提出期限の書類はだいじょうぶ……っと。仕事内容とか全く伝えずにそのまま寝ちゃったけど、ここまでやってくれてるなら本当に私の存在意義がなくなりそう……あ、そういえば携帯の通知も返さなきゃ……わぉ、リンちゃんからすんごい数の連絡が来てる」

 

 ベットの上で死んだように眠っている間も届き続けていた通知に目を通しながら、一つ一つの内容を確認し、返信をしていきながら書類へのサインを行う。

 

「それならもういっそのこと、お金に余裕があるならずっとソファに座ってメイドさんに仕事を全部任せたい……」

 

 そんな話をしながら書類の確認を終えた先生は自筆のサインを書いていき、紐付きの封筒の封筒に仕舞った。

 

「……よしっ!これでとりあえず今日は凌げるかな?ひとまずリンちゃんにも午前中のうちに書類を持っていくって連絡したし」

 

『せっかくメイドさんを雇ってるんですから、来週分くらいまでは片づけたらどうですか?』

 

「……いやー……とりあえずお風呂に入ってからにしよう!まずはそれからだよ!」

 

『後回しにしましたね……』

 

「だってメイドさんが来る前から全然お風呂に入れてなかったわけだし、汗臭い先生は嫌でしょ?」

 

『お風呂には毎日入ってください!』

 

「勿論生徒に会いに行くってなったらシャワーを浴びるけど、こうしてオフィスに缶詰になるならもういいかなーって……そういえばお肌もガサガサ……」

 

 執務机の引き出しから手鏡を取り出して、寝起きの顔を見る先生は頬に手を当てながら肌の状態を確認している。

 

「うわぁー……肌もそうだし毛穴もヤバい……寝る前にせめて化粧水くらいは……」

 

『寝不足で既に肌が荒れていたので多分逆効果ですよ……ちゃんと睡眠はとってください。あとコーヒーとか清涼飲料水じゃなくて水を飲むように……』

 

「カフェインの入った水とか無いかなー」

 

『それじゃ意味がありません!』

 

「……どうしよ?折角メイドさんを雇ってるんだし、お風呂の準備をお願いしてるついでにスパとかお願い出来ないかな?」

 

『うーん……どうでしょう?そもそもですけど、シャーレにお風呂ってあるんですか?』

 

「一応居住区の方に小さな浴室はあるけど……どちらかというとシャワーブースのほうが近い

?」

 

「────お望みであればバスルームの方で施術を行いますがいかがでしょうか?」

 

「あ、できるの?ならお言葉に甘え……てぇぇ!?」

 

「私どもの機体にはスパセラピストの技能もプログラムされております。入浴時のマッサージとしてもご満足いただけるかと」

 

「い、いつの間にいたの……?」

 

「つい先程でございます。お声を掛けたのですが気が付かれなかったようで。入浴のご準備が出来ましたがいかがでしょうか?」

 

 タブレットの少女と手鏡に夢中になっていた先生は執務机の前に立っていたメイドに気づかず、声を上げたが、特にこれといった様子もなくメイドは言葉を続けた。

 

「今回のご依頼は事務作業の補佐ということで承っております。以前に早瀬ユウカ様からご依頼いただいた内容と同様ということであれば先生の身の回りのお世話をさせていただこうかと思いますが如何でしょうか」

 

「………ちなみにお金は割増になったりする?」

 

「当初より据え置きでございます。人員の追加派遣につきましてもこちらからの要求の為、料金の増額はありません」

 

「なら遠慮なく!」

 

 現時点でいくらになった分からないAid Ladyへの依頼料を不安に思いつつも、すでに高額になっているのであれば多少の増額は今更だろうと考えていた先生は、その言葉に二言返事で了承した。

 

「ではそのように。人員の手配も既に終えておりますので、どうぞこちらへ」

 

 そして普段は使用していない、というよりは使用する暇のないシャーレの居住区画の方へと脚を運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先生の務める連邦捜査部S.C.H.A.L.Eのオフィスビルには、キヴォトスの生徒たちの活動の為に作られた設備が数多く兼ね備えられている。

 

 学習用の教室を始め、図書室や実験室。視聴覚室や様々な部活動の活動を可能とする体育館。キヴォトスの学校特有の射撃場から車両の格納庫など。

 

 キヴォトスの外では考えられないような設備が揃っているが、先生にとっては慣れたものだ。今はまだアビドス以外の学校との交流が少ない故に利用する者も少ないが、今後は賑やかになってほしいという思いも込めて、それらの施設の前を通り過ぎていく。

 

 そうして数歩後ろにメイドを連れた先生は、普段から利用するシャワーブースへとたどり着いた。直接的な入浴施設はないものの、一日の労働を終えた身体の疲れを洗い流すには十分すぎる施設である。

 

 お風呂の準備をすると言って少しの間席を外していたメイドは、脱衣所にて入浴の準備を進めていた。しかし先生の記憶の中では確かに目の前の施設には入浴できるような場所はない。少し広めのシャワーブースがあるだけだったはずだと思い出しながらも脱衣所に脚を踏み入れ、来ている服に手を掛ける。

 

 昨日──否、数日はシャーレに缶詰めだったが故に着替えをおろそかにし、かつ同じ服装のまま仮眠室のベットの上で横になった為、皺だらけであったそれを脱ぐと、なんの違和感もなく近くのメイドに渡してしまった。が、そこで先生は違和感に気づく。

 

「……あ、ごめん。普通に渡しちゃった……ってあれ、なんかメイドさんが増えてるように見えるんだけど」

 

「お気遣いなく。先程申し上げた追加の人員でございます。そのままお洗濯させていただきますのでそちらにお渡し下さい」

 

「あ、そう……?じゃあお願いね」

 

 肩に当たらない程度のショートヘアに切りそろえられた髪のメイド服の人物は無言のまま先生の脱いだ服を受け取った。

 

 当たり前のように増えていたメイドに疑問を抱いた先生だったが、彼女たちはそういうものなのだろうということで思考を放棄。一礼と共に両手を差し出したメイドの手に乗せるようにしてジャケットを渡した。

 

 そのまま流れるようにパンツスタイルのスーツの先生は衣服を脱ぎ、身体を伸ばす。カジュアルなスタイルのスーツとはいえ、先生にとって堅苦しい衣服であることには違いなく、久方ぶりの身軽さに爽快感を覚えた。

 

「ん~っ!はぁ、やっぱりスーツをずっと着てると疲れるね!ジャージが一番いいよ」

 

 そう言いながら下着も脱ぎ、一糸まとわぬ姿となった先生の身体を待機していた他のメイドがバスローブを身体に回す。

 

 おそらく同性であろうメイド以外に人は居ないのだ。その程度の状況で自身の裸体について特に気にすることのない様子の先生だったが、せっかく用意してくれたものだということで身に付ける。

 

 そしていざ。シャワーブースの扉に手を掛け、勢いよく開ける。そして入浴の準備と言っていたメイドの言葉が明らかになった。

 

「え、えぇーー!?」

 

 先生の視界に広がるのは、湯気に包まれた大浴場。高級ホテルに備えられた浴場と見間違うかと思うほどの場所であった。

 

 白いタイルで構成されていたはずの床は継ぎ目の存在を思わせない高級感あふれる大理石に。

 

 黒く磨かれた御影石によって構成された浴槽───湯舟にはすでにお湯が張っており、角にはお湯を供給し続ける湯口と、あふれる湯を排出する湯尻が備えられている。

 

 シャーレの設備であったはずのシャワーブースの面影は一切ない。それどころか本来の空間以上の広さだと感じるほどの幅広さや奥行を感じる。

 

 まさに高級ホテルの浴場。日帰りで利用するだけでもかなりの額になりそうな施設に先生は声をあげた。

 

「いやいやいやいやいやいや……おかしいって!ここ本当にシャーレの中!?どこでも〇アでどこかの高級ホテルにでも移動したんじゃないの!?」

 

 シャーレの利用についての全責任は先生に一任されている。だが、一任されているからといって好き放題していいわけではない。建物自体の所有は連邦生徒会にある為、勝手な改築や増築は流石にルール違反である。

 

 それにルール違反であるかどうかを差し置いてもメイドが席を外していたのはたった数分の間である。そんな短時間でこんなことが出来るのか……?と思い至ったが、これまでのAid Ladyのメイドを見ていれば出来るかできないかで言えばおそらく出来るのであろう。そんな思考を思い浮かべながらギギギと首をぎこちなく横に回しながらメイドと視線を交わした。

 

 メイドは先生の意図をしっかりと把握しており、ニコリとほほ笑んだ。

 

「ご安心下さい。こちらのシャワーブースには手を付けておりません」

 

 湯気が立ち上る空間でメイドは先が見えない空間の端へと歩いて行った。

 

「拡張現実、という言葉を聞いたことはありますか?」

 

「……拡張……現実?」

 

「はい。文字通り、現実を拡張する技術です。言葉で説明するよりは実際に体験してみるのが早いかと……こちらに手を伸ばしてみてください」

 

 湯気で先の見えない空間の先。ペタペタとはだしの音が鳴りながらもメイドの元に寄った先生はおそるおそる手を伸ばした。

 

 そして気づく。何かが手に当たる感触を。

 

「……あれ。なんだろコレ……壁?」

 

「はい。元のシャワーブースの壁面でございます」

 

「え、じゃあこれって……」

 

「映像をこのシャワーブース全体に投影しています。浴槽は専用のものを持ち込んで再現していますが、施工ではなくあくまでも設置ですので撤去時も元通りに」

 

「はぇー……便利なものだね」

 

「これもお客様の満足度を追及した当社の技術の結晶です。ではお体も冷えますので早速洗髪から───」

 

「……え、私からお願いしておいてなんだけどもしかして何から何まで全部やってくれる……的な?」

 

「もちろんでございます。ではこちらの台へ」

 

「おぉ……たまに銭湯で見かけるやつだ」

 

 案内されたのはシンプルなデザインながらも高級感を感じる寝台であった。手を伸ばして触れれば無機質な冷たさではなく、人肌程度にぬくもりを感じる温かさとすべすべとした感触が伝わってくる。

 

 この寝台に寝転ぶだけでも十分な睡眠がとれそうだと感想を抱きながら先生は、メイドに促されるままに寝台の上に横になった。ちょうど首元に負担が掛からぬようちょうどよい硬さのクッションが差し込まれると、楽な姿勢へと自然に身体が動いた。

 

 さっそくメイドがどこからともなく伸ばされたシャワーヘッドを手に、洗髪を始める。

 

 お湯と寝台の程よいぬくもりが起床したばかりの先生に睡魔をもたらす。

 

「あー……ヤバいこれ───このまま寝れる」

 

「私の視診から申し上げますとシャーレの先生は慢性的な睡眠不足だと診断致します。十分な睡眠時間を取られては如何でしょうか?」

 

「そうしたいのは山々だけど、上手くいかないんだよねー……私1人だと仕事は片付かないし、生徒たちのこともほっとけないし……でもだからといって当番の子たちに頼り切りってのも申し訳なくて……」

 

「なるほど、シャーレの先生もお悩みをお抱えのようで」

 

「私なんてただの教師だよ。今でも銃は怖いし、仕事は終わらないし……メイドさんをずっと雇えたらいいんだけどね」

 

「過分な評価痛み入ります」

 

「十分な評価だと思うけどねぇー……あ、そこもうちょっと強く……」

 

「おや、こちらですか?」

 

「あぁー……めっちゃ気持ちぃ……」

 

「ここは血行促進や疲労改善につながるツボでございます。机上での作業が多い先生には実感の得られやすい効能が期待できるかと」

 

「言われてみれば確かに……?心なしか身体全身がポカポカしてきたよ……」

 

「その他には腰痛や眼精疲労にも効果が得られるものがありますがいかがでしょうか?」

 

「あぁ~……とりあえずお任せで……」

 

「かしこまりました。先生にご満足いただけるよう組み込まれた技量を最大限生かさせていただきます」

 

 既にメイドは洗髪を終えていた。寝台の上で横になる先生の頭部に手を伸ばしながら待機していた他のメイド達に指示を出す。

 

「(準備の方は?)」

 

「…………」

 

 沈黙で答える者たちを前にスパを実施しているメイドは声を出さないままに作業内容を伝えていく。

 

 追加の人員として呼ばれたメイド達の機体には発声器官が備わっていない。それは本社にて待機、依頼における準備を担当する下位の機体だからである。彼女たちの意思疎通は近くにいる機体との短距離通信や化粧箱を中継器とした長距離通信によって完結しており、製造過程で不要だと判断されている。

 

 直接依頼を受ける者には後付けで発声器官を備え付けられることも可能であるが、現時点では実施されていない。なにより、ここキヴォトスで量産機では万が一ということもあると判断した代表により、汎用フレームの者以外は直接依頼を受けないようにと指示が出てきた。

 

 明確な意思やプログラムが入力されていない指示を受けることを前提とした機体は、上位の個体として認識しているメイドの指示を受け取ると、準備されていたものを用意する。

 

「それでは先生、お顔のほう失礼します」

 

「……ん、これって顔パック?」

 

「はい。睡眠不足でお肌が荒れていたご様子でしたので、まずはこちらのほうで改善させていただこうかと」

 

「おぉ……何から何まで至れり尽くせりだね」

 

 先生の頬にピトリと乗せられたパックは、乾燥や食生活、自律神経の乱れによって荒れた肌に吸い付くと、沁み込んだ溶液が肌の奥深くへと浸透していく。

 

 基本、浴室での顔パックの使用はその環境から本来の効果を発揮できない可能性が高く、あまり推奨されていないが、Aid Ladyの用いる製品は別であった。

 

 一度浸透した溶液の成分は流れ落ちることなく自ら密着するように肌上へと保持され、毛穴汚れを排出すると、そのまま身体の一部分だったかのように一体化する。周期的に細胞の入れ替わりを行う肌の細胞を活性化させ、新たなる細胞の分裂と形成を促していくそれは新しい自分へと生まれ変わる第一歩であった。

 

 先生の肌の細胞と一体化を始める成分は適応する。紫外線を浴びても衰えないハリを、乾燥してもかさつかない潤いを、肌の持ち主の乱れた生活習慣に振り回されない強かさを得るために。

 

 先生の肌年齢を若返らせるのではなく肌そのものを生まれ変わらせたAid Lady用いるソレは、失われた歴史に存在したというロストテクノロジーの産物であったということを先生は知る由もなかった。

登場するメイドさん達の名前ってあったほうがいい?

  • いる
  • いらない
  • そんなこといいからはよ続き書け
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