ボロボロの機体と接続された格納ケースから腕が伸び、ケースの縁をつかむ。
『機体の換装が完了しました。同時に個体情報及びプログラムの組み込み作業、権限の付与が終了しました』
格納ケースから立ち上がった機体は四肢や指先、関節の動きを確かめるような動作を取る。
「機体の動作や状態は大丈夫ですね。個体情報、プログラムの移行、及び権限の付与も問題なし。データ移行時にトラブルが起こるのではと予想しておりましたが何事もなく引き継がれていますね……これは喜ぶべきか、それとも厄介ごとと捉えるべきでしょうか」
そういって彼女は格納ケースから降りる。オフィス全体に備えられた照明は縫い目のない人工皮膚で覆われた彼女の肢体を照らしだす。さながら動く美術品のような体は見る者すべてを誘惑するかのようで、換装前のボロボロな機体とは比べ物にならない。
汎用フレーム。それは社に所属していた自動人形たちの標準的なものであり、当時の環境においても高度な演算、戦闘機能を兼ね備えた高スペックな機体である。その整えられた容姿となびく艶のある伸びた髪は当時、美術品としての価値も高く、マニア向けに販売がされていたこともある。
家事から事務作業、対象の護衛から施設の警備、紛争地域への戦力配置における戦闘行為に至るまでのすべてをその身一つでこなすことが可能である。その名の通りの汎用性に優れた機体は、人が出せる膂力の数十倍を出力し、銃弾の1つや2つなどでは傷一つつくことすら許さない耐久性を兼ね備えている。対象が武装していようと無傷で捕縛、沈静化させることなど容易いことであり、それはここキヴォトスで
また、以前の彼女の機体は、営業用フレームと呼ばれるものであり、上記のようなすべてをこなせるような機体ではなく、あくまで家事や事務作業に特化したものだった。以前の企業の拡大と同時に需要も増えたために開発されたその機体は、行う任務をそういったものに限定することでコストを抑えるように設計されていたため、汎用フレームよりも耐久性が劣っていた。
「しかし、あのボロボロな機体で過ごした後となると、新しいボディは良いものですね。気分が高揚するというのでしょうか」
格納ケースに収納された機体は衣服を纏っておらず、ヒトで言うところの裸体である。しかし、彼女はそんなことを気にも留めずに、換装後の具合を確かめ、そして堪能するかのようにその四肢を、関節を、機体全身を動かしている。その整えられた表情はどこか笑みを浮かべているように思える。
そして近くにあった衣装ケースを開き、機体専用の衣服を取り出して身に着ける。この衣装棚もまた専用のものであり、長い年月にも関わらず収納した衣服を当時の品質で保っていた。
「こちらの品質も大丈夫なようですね。ほつれもないようで何よりです」
先ほど身に着けた衣装は俗にいうメイド服と呼ばれるものであり、丈が長く肌の露出が少ないタイプのクラシックメイドと呼ばれるものであった。裸体を晒して、見る者を惑わす美術品から、落ち着いた雰囲気を身に纏ったヴィクトリアンメイドへと変身した彼女は、この機体が収納されていた格納ケースのそばで横たわる機体を丁寧に抱きかかえ、その空いた格納ケースへと寝かせるように収納する。
「これだけボロボロとは言え、破棄するといった無駄なことなどありえませんね。機体の修復、及び“軍事用フレーム”への改造を開始。それと同時にバックアップの作製を」
そう格納ケースへと命令を下すと、機体を取り出すために開いていた蓋が自動的に締まり、カシュッっと空気が抜けて中身が密閉される。
『機体の修復、及び“軍事用フレーム”への改造を開始。診断・解析を開始。……診断・解析が終了しました。機体の損傷率が規定値を超えているため、基準よりも長い時間が掛かる場合があります。機体の修復、および“軍事用フレーム”への改造完了時間は、----時間です』
「ふむ、修復だけでなく改造も行うとはいえ、完了時間が未定とは。見た目以上に中が破損していたのでしょう。それに私がほぼすべての期間を停止していたとはいえ、長年連れ添った機体です。他の予備の機体を改造したほうが速く、効率的なのでしょうが、この機体がいいという考えが沸いてしまっては仕方ないですね。これが愛着というものでしょうか」
機体の換装を終え、以前の機体の処理が済んだ彼女はオフィスの壁に付けられた窓ガラスへと寄り、あたりを見渡す。ビルの周辺や瓦礫の散乱した道路、すでに崩壊した建物の中などいたるところに、無人兵器が闊歩していた。ここに来るまでに絡んできたものから、下のオフィスで攻撃を仕掛け、鉄くずの仲間入りをしたもの。円盤のようなものから人型のものまで多種多様なものが見て取れる。
「さて、先ほどの宣言通りに
そういって振り返り、予備の機体が収納された複数の格納ケースを視界に入れる。
「ここは効率よくいきましょう。格納中の機体を起動、及び機体の操作権限を一時的に掌握」
『命令を受諾。整備中を除く、当ビルに格納中の換装用の機体4機を起動します』
ビルのシステムがオフィスのマイクを通じてそう答える。彼女の視界に収めた4つの格納ケースが開き、中に収納された機体達が立ち上がる。
「おはようございます、初めての空気はいかがですか?早速ですが、あなたたちには私の手伝いをしてもらいますよ」
彼女は起き上がった機体を見ながら手を鳴らし、そう答えた。
「掃除の時間です」
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