「さて……」
エレベーターへと乗り込み、先ほどのオフィスへ向かいながらこれからのことを考える。“本社”そのものが消失し、それを継ぐ新たな社を設立するという方針までは立てた。今度はそれをより具体的なものへと変えていかねばならない。我々が何も情報を持っていない状態では、時間も費用も浪費してしまうことなどは容易に想像ができる。これからどうするべきか複数の案を浮かべ挙げながら、エレベーターの到着を待った。
チャイムが鳴り、乗っていたエレベーターの扉が開く。最初にここへ着いたときと同様、綺麗に整えられたオフィスが姿を現すが彼女はどこか違和感を抱える。
「おや、ここも改装したのですか
『はい、当ビルを今後の活動拠点とする以上、オフィスの改装が必要であると判断しました。作業は、さきほど派遣した2機を除く残り2機で行っております』
当初、オフィスというより工房というものに近いように見えたその空間は不必要な備品を片づけられ、再配置された机や椅子からどこか執務室のような雰囲気を醸し出していた。そしてその部屋の端へと移動した機体の専用ケースの隣で彼女たちは待機していた。彼女はその前に立ち、声をかける。
「先ほどの2人にも言いましたので、あなた達にも。素晴らしい出来栄えですよ、ご苦労さまです」
声をかけたメイド達は目を伏せ、言葉を発することはない。長い時を経て再起動した彼女とは違い、その行いを当たり前なことであるとして認識しているからである。そのことについても彼女は理解している。それでも声をかけ、その仕事ぶりを評価するべきだと判断したからだ。
「さて、一通りやることが終わりましたので、あなた達は戻っておいてください。あぁ、服は着たままで構いませんよ。また必要となれば
そういうと専用ケースの横に控えた彼女たちはお辞儀をし、その中へと入っていった。機体を修理・改造するときと同様、自動的に空いていた蓋が閉じられる。そんな様子を尻目に彼女は、空間の奥へと配置された執務机の椅子に座る。
「では
『はい、先ほど接続した回線を利用し、辺り一帯の情報の再取得が完了しました。取得した情報、及びビル一帯の地形を表示します』
そして執務机の上に浮かぶようにディスプレイが表示される。立体状に浮かぶビルとその周りの地形、そして取得した情報が一目で見やすいように現れる。
「
『はい。また一部誤りがあります。キヴォトス、それは数千の学園によって構成された連邦都市であり、その各学園の生徒会が自治体を管理することで運営されています。また各学園によって差はありますが、その規模に応じて議員を輩出し、連邦生徒会に対しての発言権を得ているとのことです』
「なるほど。これは学園などという枠組みではなく、その一つ一つが州や国家のような役割を持っているというわけですか」
『補足します。各学園には、他学園からの侵犯や内政干渉を拒絶する対外主権や、非常時には他の自治区への宣戦布告権すら認める強力な自治権が与えられており、自治区周辺にある住宅街や商業施設などの運営も担っています』
「……先ほどの表現を訂正します。国家のようなではなく、
『はい、キヴォトスに設立されている学園へと通う多数の生徒や、それを除く住民のほぼすべての者が銃器、またはそれに類するものを所持しています』
「はい?」
『また、個人で装輪車両や戦車を所有しているものも確認でき、学園によってはそれらのほかに武装ヘリなどを備品と扱っているものも確認できました』
「……ふむ」
『そのほかにも、自動販売機やコンビニエンスストアなどでは銃器のマガジンを含む弾薬や、手榴弾などが一般販売されています』
「……このキヴォトスという場所は紛争地域なのでしょうか?どこか別の国や都市と戦争中、もしくは内戦が起きているのですか?」
『いえ、そのような事態は確認されませんでした』
「ずいぶんと血と硝煙にまみれた学園都市なのですね」
彼女はそれを重く受け止めた様子はなく、抱いたものを口に出しただけであった。彼女自身、以前の機体で要人の護衛や紛争地域への派遣を複数回行っており、その過程で機体を血に染めたことは何度もあったため、銃器や兵器などを所有する生徒達に驚きはすれど、特に忌避したような感情は抱かなかった。それは彼女にとって再起動をしたあとしても変わりなかった。しかし……
『一部訂正があります、接続したネットワークからはそのような表現に関する該当するデータは見つかりませんでした』
「さて、現状につきましてはある程度理解できましたね。キヴォトスそのものが摩訶不思議と言えますが、まぁそういうものだと認識しておくことにしましょう。銃火器が一般的に普及しているとなると、軍事用フレームは急ぐべきかもしれませんね。使われている銃器や弾薬などを見るに汎用フレームでも問題はないでしょうが、備えておくことに越したことはありません。それにここらのビル一帯は
『提案します。今後の企業の方針において効率的な拡大の為ため、キヴォトスに既存する各学園、その中でも影響力の強いキヴォトスの三大校と呼ばれる、ゲヘナ学園、トリニティ総合学園、ミレニアムサイエンススクールのさらなる情報の取得を推奨します』
「ふむ、情報は何事においても強い手札となりますが、逆に敵対組織を増やしかねないですね…………
『はい。私が判断する中では、ミレニアムサイエンススクールを挙げます。当ビルが位置する一帯、廃墟と呼ばれるこの廃都市エリアはこのミレニアムサイエンススクールの近郊に位置しており、敵対した場合において最も素早い対処が必要となります。また現代基準において、最新鋭・最先端と称される設備や発明品を多く開発しており、学園全体のインフラの整備状況から、3校の中で最も情報の取得が有益であると判断しました』
「なるほど、わかりました。ではあなたにお願いするとしましょう。全体的な判断はあなたに任せますが、なるべく隠密にお願いします。どの段階まで進んでいるのかはわかりませんが、キヴォトスの中でも技術が進歩している学園とのことです、データの改竄などはこちらの存在が発覚する可能性があるので、あくまで閲覧などに留めておくように。なにかあれば連絡を」
『かしこまりました。ミレニアムサイエンススクールを対象に情報の取得を開始、当ビルの存在の露見、及び発覚した際の逆探知を回避するため、専用のプログラムを構築開始。構築終了、ネットワークからミレニアムサイエンススクールの区画に位置する施設のサーバーへとハッキングを開始。侵入成功、続けて各施設へプログラムの組み込みを作成開始。情報取得の終了と同時にハッキングの痕跡、及び組み込んだプログラムを破棄するよう設定。プログラムの組み込み終了。続けて当区画において重要施設と思われる建造物、ミレニアムタワーへのアクセスを開始。防壁を確認。逆探知を回避するためアクセスを終了、及び防壁の解析へと移ります』
「さて、まずは“我が社”の売り込みからですね。いきなり知らぬ事業が参入しては怪しまれるでしょうから、そうですね……。であればブラックマーケットなどがちょうど良さそうですね。連邦生徒会とやらの管理が及んでない治外法権のエリアとは、まさしく社の一歩としてはうってつけでしょう。あぁ、そういえばキヴォトスには多くの学生が在籍いているとのことでしたね。それならいっそ外見を幼くするほうが良いでしょうか?まぁそれも含めて今後次第でしょう。そのためにもまずは社の名前からですね、どういったものにしましょうか・・・」
そういって彼女は執務机の上で手を組み、目を伏せる。はたから見れば白紙のキャンパスの前で筆を握った少女のような雰囲気を醸し出す。
その後、ブラックマーケットに新たに進出した企業が、生徒達の間で話題に上がることは少し先のお話である。
ミレニアムサイエンススクール、数ある部屋の中のとある一室にて……
「……なにこれ」
その部屋の主はカフェインのはいった缶を片手に、掛けた眼鏡でPCの画面を凝視する。表示された
「…………あっ、もしもしヒマリ?ちょっと見てもらいたいものがあるんだけど?うん……うん……、いやその前口上はいいから。はいはい、今送るから」
缶を机の上に置き、肩と頬でスマホを抑えながら手早くキーボードを打ち込む。
「届いた?・・・うん、それ。なにか知ってる?うん……うん……、いやさっき聞いたからもう言わなくていいよ。それで、ヒマリが何かやったやつ?……いやだから、この防壁この前一緒に作ったやつだよ。リオにねちねち言われながらやったやつ、思い出した?……そうそう、それそれ。ヒマリが途中で寝落ちして、結局私が徹夜で作ったやつだよ。いや嫌味じゃないって、本当だよ、ほんとほんと」
座る椅子のリクライニングを聞かせながら電話を続ける彼女。
「それで、何か知ってる?……いやだからこの防壁、
電話の向こう側からの返事を聞いて、思わず目元を抑える彼女
「……あー、ちょっとまずいかも。うん、かなりまずいよね。これはもう防壁として
そうして通話を切り、缶に残ったカフェインを体に流し込む。そして急ぐようにしてキーボードをたたき始めた。
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登場するメイドさん達の名前ってあったほうがいい?
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いる
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いらない
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そんなこといいからはよ続き書け