ヴァンヴァヴァンプ   作:めかぶパエリア

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モモに恋するメンヘラレズ女です対戦よろしくお願いします。


それって恋の始まりじゃん

 

 

 

 宗山カナタの家族関係は中学生の頃に破綻し、それと同時に彼女は人外の力に目覚めた。

 

 家を飛び出したカナタは自暴自棄になりながら神待ちのようなことをして、街を転々としながら退廃的な毎日を過ごした。

 目覚めた超能力を使えばどんな危険も問題なく乗り切れると驕っていたし、事実そうやってけしからん輩を撃退してきた。

 

 そうして能力を何度も使う内に自衛のためだけでなく、相手から金品を奪い取るために使うことにも躊躇が無くなり、だんだんと腐りきった社会に染まっていくことを自覚しながらも止めることが出来ないでいた。

 

 そんなある日の事だった。

 

 その日もふらふらと街を歩いていたカナタは身体目的のガラの悪いチンピラ数名にに囲まれていた。

 そのしつこさに辟易して、いつも通り超能力でどうにかしようとする直前、突然横から腕を引かれた。

 

「走って!」

 

 自分の腕を引く同世代くらいの少女に気圧されて思わず走り出す。

 カナタは今までに色んなトラブルに巻き込まれたり自分からトラブルを起こしたりしてきたが、こうして助けられるのは初めてのことだった。

 握られた手を握り返すと、より強く握られる。

 放浪生活で忘れかけていた人の優しさに触れて、カナタの冷えきっていた心に熱が宿っていく気がした。

 

 しばらく走り回って、どうにか追手を撒いた二人は公園でへたりこんだ。

 ようやくまともに会話する余裕が生まれたカナタは息も絶え絶えに、少女に問いかけた。

 

「なんで、私なんか、助けたの」

 

 肩で息をしながら、少女は心底不思議そうにカナタを見つめた。

 

「なんでって、アンタ、困ってたじゃん」

 

「は、はあ?なにそれ?」

 

 信じられないカナタは普段細めている瞼を開き密かに超能力を行使する。

 少女の本心を引きずり出す術を使ってみても、少女は変わることなく言い切った。

 

「困ってる人を助けるのは、当たり前でしょ」

 

 私の憧れの人ならそうするだろうなって、と屈託なく笑う少女。

 

 そんな少女の言葉を聞いて、カナタは心臓がドクンと強く脈打つのを感じた。

 血流が早くなり、顔が熱くなる。少女が顔に張り付く髪をかきあげる姿にドキドキする。

 彼女をモノにしたい、彼女のモノになりたい。

 

 初めての気持ちに戸惑いながらも、カナタはこの気持ちの正体を確信した。

 これは“恋”だ。私はこの少女に今、恋をしたのだ!

 

 カナタはキュンキュンする胸を抑えながら、彼女の名前を尋ねた。

 

「ねえ!名前、教えて!」

 

「名前?ウチの名前は、綾瀬モモ」

 

 それがカナタとモモの出会いだった。

 

 

 

 この出会いから数日後、カナタが同じ学校の同じクラスに通うようになり、モモは驚愕することになる。

 

「また会えたね、モモ。まさか同じ学校に通えるなんて、きっと運命だね♡」

 

 モモは異様に距離を詰めてくるカナタに得体の知れない恐怖を感じて、あの日助けに入ったことをほんのちょっとだけ後悔した。

 

 

 

 

 

 あの出会いから幾つかの季節が巡った今、カナタの機嫌は最悪だった。

 カナタは隣の席に座っているモモがぼーっと窓の向こうを眺めている姿を、爪をガジガジと噛みながら不愉快そうに見ていた。

 

 モモが好きな俳優の高倉健。彼に顔の雰囲気が似ているだけのクズ男と彼女が別れたのは一昨日のこと。

 別れたと聞いては我が世の春が来たと言わんばかりに狂喜乱舞して、別れる際にモモが足蹴にされたと聞いて()()乱舞してきたカナタであったが、その翌日、ウキウキの気分で登校した学校にモモは来なかった。

 

 行方もしれず、電話も通じず、GPSも機能しない。一身上の都合からモモの家を訪ねることも出来ないカナタは一日中悶々としながら過ごした。

 もし次の日も来なければ学校をバックれて探しに行こうかと思っていたカナタだったが、その翌日、モモは元気な姿で学校に現れた。カナタの知らない男と一緒に。

 

 校門前でその男と何やらイチャついている(ように見えた)モモを見つけたときは無事を喜ぶ気持ちが消え去って、その男への嫉妬で気が狂いそうだった。

 しかも、教室に来たモモときたら挨拶もそこそこに、自分の席に座ると物思いにふけってばかりで全く相手をしてくれないのだ。

 ギャル仲間のミーコとケイが何か言ってもなしの礫。遠くを見つめたり、突っ伏して唸ったりといった奇行を繰り返していた。

 

 しかし、 かつて同じ道を通ったカナタには分かる。これはおそらく恋の病だ。そしてその恋の相手は今朝のあの男に違いない。

 なんたる不条理だろう。これが噂に聞くBSS(僕が先に好きだったのに)ならぬWSS(私が先に好きだったのに)と言うやつか!

 こんなのあんまりだ……!脳が、脳が破壊されるッ……!!

 

 目の前の現実に打ちのめされたカナタもモモのように机に突っ伏して唸りだした。

 

「「ゔ〜〜〜〜〜」」

 

「うわ、カナタもおかしくなっちゃったわー」

 

「コイツがおかしいのはいつも通りじゃね?」

 

「それな」

 

 ミーコとケイに好き放題言われているのを聞き流しながら、カナタは名も知らぬ男への殺意を募らせる。

 しかし、非情にも更なる脳破壊が待ちうけていることを、彼女はまだ知る由もなかった。

 

 

 

 昼休憩の時間になり、モモと一緒に食事を取ろうとしたカナタはにベもなく断られた。今日のモモの様子からこうなるだろうと結果が分かっていても、悲しいものは悲しい。

 ミーコとケイは捨てられた子犬のような哀愁を漂わせたカナタの両脇を固めると学食まで連れていくのだった。

 

 学食の席を確保した二人は、注文もせずにカナタからの弁当を催促した。

 

「あるのはわかってんだよ!」

 

「オラッ、出すもん出しな!」

 

「どんなテンションよ……」

 

 モモが居ないことでご機嫌斜めのカナタは舌打ちすると、持参した重箱をテーブルに乗せる。

 明らかに一人用の弁当では無いソレは、本来ならカナタがモモと一緒に食べる為に用意している手料理がぎっしりと詰まっていた。

 ミーコとケイは待ってましたと言わんばかりにそれぞれの好みのおかずに割り箸をのばす。

 

「ちょっと!いただきます、くらい言えないの?」

 

「むぐ……いただいてまーふ」

 

「まーす。……ウマ!やっぱプロだわ」

 

 美味しそうに食べる二人に、カナタは当然だと言わんばかりにフンと鼻を鳴らした。

 モモに美味しく食べてもらうために日々修行を重ねているのだ。彼女に不味いものを食べさせる訳には行かないのだから、上達するのは当たり前だ。

 そうなると、モモは美味しいご飯を食べることが出来て幸せになる。カナタは手料理をモモが食べて栄養に変え、その身体を形成していくと考えると幸せになる。まさにWin-win!

 

 興奮して変な笑顔を浮かべるカナタにミーコとケイはドン引きしていた。

 

「またネジとんでんなー……」

 

「閉まってたことある?」

 

「それな」

 

 

 

 満腹になった三人で教室へと戻る途中、校舎間を繋ぐ中庭に差しかかったところでカナタは気落ちした様子で俯いて歩くモモを見つけた。

 主人を見つけた犬よろしく満面の笑みを浮かべて駆け寄ろうとしたところで、モモの正面から同じように俯いて歩いてくるにっくき恋敵を見つけて足を止めた。

 

「アイツ……!」

 

「ん、どしたん?」

 

 ミーコとケイはカナタの声を聞いて前方に意識を向けた。

 そして、三人はモモと少年の口と口がぶつかる瞬間を目にすることになった。

 

 カナタは絶句した。脳が理解を拒む。

 チューだった。前方不注意の事故チューとはいえ、紛れもなくキスだ。キスしたのか、私以外のヤツと……!モモとキスするのは私だと思っていた……!

 

 カナタが脳をバグらせて謎の電波を受信している横で、ミーコとケイは黄色い悲鳴を上げた。

 

「「キャーー!」」

 

 悲鳴を聞いたモモ達はギョッとして声の方に振り向く。

 

「いまキスしてたー!」

 

「ちょっとモモ!そういうことなら早く言ってよ!」

 

「だから色々おかしかったんだねー」

 

 勘違いされている事に気づいた二人は顔を赤くして必死に否定した。

 

「ちげえわ!こんなボンクラとキスなんかするかあ!」

 

「そうですよ!こんなバカな人とするわけないでしょ!」

 

「ちょっとまてやあ!てめぇが拒否ってんじゃねぇぞ、このハゲえ!」

 

「禿げてませんー!目ぇ見えてますー!?」

 

「うわ寒!マジメな返しマジ寒いクソメガネ!」

 

「はい今メガネの人全員敵に回しましたから!」

 

 ヒートアップする二人は周りに目もくれずに痴話喧嘩を続ける。

 あっという間に蚊帳の外にされてしまったミーコとケイはドキドキしながら二人の喧嘩を見守った。

 

「あんたなんかと喋りたくないから!話しかけないでよ!」

 

「そっちこそ!話しかけて来ないでくださいよ!」

 

 最後には喧嘩別れして別々の方向に去っていく二人を見送ったミーコとケイは顔を見合わせる。

 

「やば……」

 

「めっちゃ仲いいじゃん!」

 

「って、あれ?カナタは?」

 

 あんな事が起こったら真っ先に騒ぎそうなのに何も言わないので不思議に思って横に目を向けると、口を開けたまま虚空を見つめて固まっているカナタの姿があった。

 

「「し、死んでる……!」」

 

 

 

 二人は完全に固まってしまったカナタを引きずって教室に戻ると、嬉々として先程見た光景を吹聴した。

 魂が抜けたように真っ白に燃え尽きたカナタがその話の信憑性を保証するものだから、女子たちは色めき立ってモモを囲んで質問攻めした。

 

「だから違えって、言ってんだろがい!!」

 

 彼女達の質問攻めに耐えかねたモモが否定の言葉を叫ぶが、集まった女子たちはそれに堪えることなく他人の恋バナに湧き上がっていた。

 

「オタク君でさー、めっちゃメガネ」

 

「あっちのクラスらしいよ、オカルンって呼んでたって」

 

「えー、そんなヤツいた?」

 

「勝手に!話を!進めるな!」

 

 彼女達の勢いに押されたモモが辟易しているとミーコが突然教室の扉の方を指さした。

 

「あ、来た!あれ彼ピ!」

 

「だから、彼氏じゃねぇ──」

 

 ミーコが指を指す方に目を向けると、件の少年、オカルンがガニ股で立ち、股間の前に両手の指でふたつの丸を作る珍妙なポーズをとっていた。

 

「──って、何やってんだよ!?」

 

「綾瀬さん、お話があります!」

 

「──ハッ!?お前よくもモモを穢しむごご!」

 

「「ステイステイ」」

 

 抹殺対象の存在に気づいて再起動を果たしたカナタは何か言う前に、この状況を面白がっているミーコとケイにとり抑えられてた。

 

 モモは慌ててオカルンから顔を背ける。

 珍妙なポーズから目を逸らしたいのもあったが、それ以上にさっきの事故チューを思い出して気恥ずかしかったからだ。

 

 恋バナに浮かれていた女子たちも酷いポーズを見て流石にちょっと引いていたが、オカルンはそれに構うことなくモモとの話を続ける。

 

「大事な話なんです!二人きりで話したいんですよ!お願いですから聞いてください!」

 

「やだ!」

 

 オカルンのストレートな誘いを耳にして、先程引いていた女子たちは再び活気を取り戻し始める。

 

「綾瀬さん、朝はすごく話してくれたじゃないですか!なんで今は話してくれないんですか!」

 

「あんただって喋らないって言ったじゃん!」

 

「あれは売り言葉に買い言葉というか、本当は綾瀬さんと話したくて仕方ないんですよ……!」

 

 まるで漫画やドラマでしか見られような青臭いセリフに、女子たちの盛り上がりは最高潮に達し、カナタの怒りは頂天に達した。

 

「キャー!言うよねー!」

 

「いいぞー!オタクくーん!」

 

「むごごー!!」

 

 周りの囃し立てる声を聞いてますます恥ずかしがって顔を背けるモモにショックを受けたオカルンは俯いてしまう。

 

「ジブンと仲良くするのそんなに恥ずかしいですか」

 

 そう言い残して、教室を後にするオカルンの肩に背後から腕が回された。

 驚いて振り向いた彼のすぐ近くには、冷えきった微笑みを浮かべるカナタの顔があった。

 

「ねぇ、ツラ貸しなさい」

 

「ハイヨロコンデ!」

 

 女子と密着しているのにオカルンはドキドキしなかった。むしろ、殺されるかもしれない恐怖でドキドキしていた。

 

 

 

 カナタはオカルンを1階の階段下まで連れていくと壁際に追い詰める。

 

「ねぇ、あんた名前は?」

 

「へ?た、高倉健です」

 

「チィッ!!」

 

「なんで名前言っただけで舌打ち!?」

 

 憧れの人と同じ名前など、運命ポイントが高すぎる。

 カナタは苛立ちを感じて足先で床をトントンと踏み鳴らし始めた。

 

「私は宗山カナタ。綾瀬モモの彼女になる女」

 

「なんて?」

 

 最低限の礼儀として名乗り返されたが、今なにか変なことを言わなかっただろうか。

 そう訝しむオカルンを無視して、カナタは尋問を続ける。

 

「高倉、昨日モモと何があったの?」

 

「そ、それは……」

 

「電話も通じないし、GPSも途切れるし。やっと登校したと思えば体のあちこち怪我してるし」

 

 オカルンは言葉につまる。それをバカ正直に言ったところで誰が信じるだろうか。

 一昨日の夜に肝試しを行い、妖怪ターボババアにイチモツを奪われて呪われ、宇宙人に性的に襲われかけたモモと命からがらUFOから脱出して追手の宇宙人を撃退し、ターボババアと直接対決を挑み、これに打ち勝ってイチモツを取り戻した。なお、イチモツは竿だけが戻りタマは不在とする。

 もし、自分が何も知らない状態でそれを言われた場合、即座に病院へ行くことを勧めるだろう。

 

 カナタは答えあぐねるオカルンに対してさらにイライラして、床を踏み鳴らす速度が加速していく。

 

「何があった言いたくないんなら別にそれでもいいけどね、もし危険な目にあってたとして、そんな時にモモを助けられないような男なんて認められないの。そういう奴はモモには相応しくない」

 

 カナタの言葉にオカルンは俯いた。それは彼自身が思っているところだった。

 昨日の出来事の中でオカルンがモモに助けられたことは数多くあれど、逆にオカルンがモモを助けたと胸を張って言えるような場面は少ない。

 友達として対等でありたいのに、モモのように格好よくいられない自身を情けなく思っていた。

 

 そうしてる間にも、延々とモモの魅力を語り続けるカナタの言葉を遮るようにオカルンは声を上げた。

 

「確かに、ふがいないジブンでは綾瀬さんに助けてもらってばかりです。それでも──」

 

 おもむろに顔を上げるオカルンを、カナタは薄く瞼を開けてねめつけた。

 オカルンはそれに怯む事無く、真っ向から目を合わせる。

 

「──それでも、綾瀬さんと約束したんです。綾瀬さんが危険な目にあった時はジブンが助けるって。今は全然出来てなくても、いつか絶対に綾瀬さんを守れるような男になってみせます!」

 

 そう言いきったオカルンをしばらく睨みつけていたカナタは、再び目を細めると頭をガシガシと掻きむしった。

 

「及第点ね。腐ってもタマはついてるってとこか」

 

(いや、タマは今ないっス……)

 

 オカルンのタマは現在行方不明であるが、流石にそんな事を言える空気ではなかったので口には出さなかった。

 カナタは憂鬱そうにため息を吐く。

 

「モモの想い人がこんなヤツなんてね……」

 

「え、いや、友達っスよ」

 

「はあ!?あんた、あんだけモモにっ……!あ゛ーーーもう!!」

 

 オカルンはまるで信じてないような態度で少し照れながら首をかく。

 カナタはブチ切れた。

 あんなに想われていて気がつかない奴がいるか!どう見たってホの字やろがい!私はあんな態度取ってもらえたことないぞ!

 

 溜まりかねたストレスのはけ口として、カナタはガンガンと音が響き渡るほど強く壁に蹴りを入れ始めた。

 

「ひぃ!?」

 

「消えろ!!ぶっ飛ばされんうちにな!!」

 

 オカルンが足早にこの場を後にした後もカナタの怒りは中々収まらず、予鈴がなるまでのしばらくの間、彼女は呪詛を吐きながら壁を蹴り続けるのだった。

 

 

 

 

 

 学生たちが思い思いに青春を謳歌する傍ら、校庭には不自然な存在がポツリと立っていた。

 大人の倍以上はありそうな巨大な体躯を持ち、赤いワンピースを纏ったその女は長い髪を揺らして校舎の窓を見つめる。

 そして、その向こうに居る生徒の一人と目が合うと、凄惨な笑みを浮かべた。

 

 

 

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