「今の子は誰だったのかしら……?」
……グレモリー先輩の関係者じゃなかったのか、さっきの赤毛。
生きて動くところてんの同居人が居る俺だが、さっきの光景には多少なりとも動揺するさ。
兵藤パイセンは普段以上の奇行だし、グレモリー家の魔法陣から無関係なのが出て来るし。
まあ、別に良いか。俺には無関係だ。
「じゃあ、俺はこれで帰らせてもらうんで」
「え、ええ。……ところでこの子はどうして半裸なのかしら?」
「襲った奴(話からして変態仲間)の仕業らしいって」
「おいっ!? この状況だと私の仕業みたいだぞっ!? ……ま、まあ、良い。貴様の眷属だったか、グレモリーの姫よ。下僕が可愛いのなら少しは教育をする事だな」
そりゃそうだ、堕天使なんぞが潜伏している以上は身の安全の為に自分について自覚させる必要がある。
これはグレモリー先輩の落ち度、俺は巻き込まれて数分無駄にしたけれど……あっ。
急に夜食が食いたくなったからの買い物だから今直ぐ帰りたいが、なんか馬鹿みたいなやり取りに疲れて忘れる所だった。
これが悪魔と堕天使のみのいざこざだったらスルーして終わりだけれど……。
「俺まで巻き込んで殺そうとしたんだし、ケジメは必要だよな、堕天使」
「何を……がっ!?」
見下す相手への返答だ、そりゃあ不機嫌そうな顔になる堕天使だったが、その顔は驚愕に歪む事になる。
さっき槍を防いだ俺のスネ毛が胸に突き刺さっていたんだからな。
「安心しな。別に物理的な損傷は無いからさ。……平均寿命から計算して七十年分の魂をもらうだけだ」
「あががっ……」
生きたまま魂を削られる苦しみに堕天使はスネ毛を掴むもビクともしない。
そもそも力が入らないし、下級堕天使じゃ万全の状態だろうが抜けないさ。
「……まっ、こんなもんか」
スネ毛を抜けば堕天使は膝から崩れ落ちて意識を失い、俺には削った分の魂が力になって吸収される。
「予想以上に予想を下回るとは驚きだ」
魔王の妹の縄張りでウロチョロしてるから期待してたんだがな……。
「じゃあ、パイセンへの説明は適当にお願いするよ、先輩。俺は夜行性じゃないんでね」
この後で堕天使がどうなろうと知らないし、説明だって悪魔家業の時間帯だから今からすりゃあ良い。
問題は……。
「そういやパイセン、テレビとかで貧困国への義援金を呼びかけるCMとかやるけれど、生活費や遊興費を削ってまで寄付した事は?」
「え? いや、無いけれど……」
「発生するであろう俺や先輩方への文句の返答はそれって事で。先輩も言い含めるの頼んだからさ」
告白して来たのが命狙う相手だって知ってたのに止めず、助けられる力があってもスルーした、それを知ったらどう出る事やら。
後で言われそうな文句は熱くなる前に終わらせるに限るよ。
「堕天使が廃教会にねえ。大変だーね、管理者も」
「他人事かよ。他人事だけれど、部下の躾も出来ていない無能ってのが面倒だ。他にもはぐれエクソシストがうようよと。……貴重品だけでも纏めてとんずらする準備でもしとくか」
この町で暮らす上級悪魔は揃ってシスコンの魔王の妹、心情的にも立場的にも大事になりゃ大規模な争いになりかねない。
あー、嫌だ嫌だ。争う大国に挟まれた小国の国民の気分だーな。
悪魔と堕天使の争いにゃ興味無いけれど、巻き込まれるのが嫌なら何も知らないじゃ居られないから調べてみりゃ問題の種が山積みで頭が痛くなる。
「この建物って例の事件で空白地帯なんだよな。下僕を狙った報復とかを焚き付けるか? でもなあ……」
別に育った家に愛着がある訳じゃない、つまり何時でも捨てられるって事だし、何処かの勢力に傾き過ぎれば他の勢力に敵対するって事だ。
「狙われる理由を作るな。自由な報復の正当性を保て。組織に縛られてちゃろくな事にならねぇ」
集めた情報を纏め、買って来た夜食を胃に流し込んで紛れ込んだところてんを天の助の口にねじ込む。
俺が何も知らせなかったからって犠牲が出ても知っちゃ事じゃないんだ。
俺を復興の道具にしようとした身内のせいで他人に振り回されるのは飽き飽き、そもそも争いに持ち込むのが悪いのさ。
「シリアスな事言ってるけど、お前ってスネ毛を操るって巫山戯た戦い方するよな。ギャグ漫画みてぇ」
「存在自体が巫山戯てるだろ、テメェ」
引っ越すかどうかは別として、このギャグ漫画に出て来そうな珍生物はゴミの日に出すか。
あのオッサンに襲われてから向かったのは旧校舎にあるオカ研の部室、見るからに怪しい物が置かれた部室内だけれど、何でシャワーはあるんだ?
「俺が悪魔に転生? それに堕天使って……」
悪魔の駒、三大勢力、とても信じられない内容だけれど、夕麻ちゃんやオッサン、そして由良が見せた魔法っぽい奴がそれを証明していた。
本当はもう少ししてから教える予定だったけれど、下手すりゃあの時に死んでたかもって事か……。
つまり裸のグレモリー先輩との添い寝やシャワー姿の鑑賞イベントも起きないって事だ。
「凄く惜しいなっ!? ……あっ、何かすいません」
本当に俺は何に叫んでるんだ? ……疲れてるのかも。
もう叫んでも疑問に思うのは止めとこう。疲るだけだし……。
「あっ、そういや由良も悪魔なんっすか? 足から黒い鞭みたいのを出してましたけれど……」
さっき言われた事の意味が分かった。自分の安全を優先した事を責めるなって事か。
うぅ、予め言い負かされてるから友達を見捨てた事に文句言えねえ。
「……鞭じゃなくってスネ毛ですよ」
「スネ毛っ!? スネ毛って足に生えてるあのスネ毛っ!?」
部員の一人である小猫ちゃんの言葉を俺は飲み込めない。だってスネ毛だぜ、スネ毛っ!
ええっ!? あんなシリアスな感じだったのにスネ毛で戦ってたのかよっ!?
「丑の刻参りは知っていますか? 藁人形に髪の毛を入れる呪いですが、古来より毛とは呪術にも守りにも使われます」
小猫ちゃんは俺を見上げながら語るけれど、その眼鏡は何処から持って来たのっ!?
「その子、ちょっと戦いに関する事のオタクなの。それで語る時に眼鏡を掛けるのよ」
「そして碓氷家の中には足の裏の臭い等の特定の分野を伸ばす特殊な魔法を使い、その使い手は真拳使いと呼ばれているそうです」
そして、と小猫ちゃんは一拍開けると眼鏡のツルを指でクイっと上げる。
「碓氷さんの失踪した曾お祖父さんの髪の毛真拳や彼のスネ毛真拳を含め、毛を使う五大毛真拳は別格。それこそ神器の中でも別格の神滅具に匹敵するとも……」
話している内容は真面目なんだけれど、眼鏡のせいで余り伝わらない……。
「因みにかの有名な酒呑童子は足の臭いで戦う足の裏真拳の使い手が倒したそうです」
「足の裏の臭いっ!? 足の臭いで倒せたの、あの有名な鬼っ!?」
「いえ、足の裏をくすぐって笑い死にさせたそうです。あまりにもな内容なので秘匿されましたけれど」
そりゃするだろっ!? 知りたくなかった、その事実っ!
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