「美味そうな匂いがするぞ。不味そうな匂いもするな」
はぐれ悪魔バイザー。上半身は人間、下半身は獣といった異形の姿を持ち、主人を裏切って逃亡を図った罪人である。
元の種族は不明だが、悪魔は人種以上に容姿がバラバラな為に力を見出された下級悪魔だったのかも知れない。
どちらにせよ手配された罪人、潜伏先も既に把握されているが本人は廃屋に潜み哀れな犠牲者を食するのみ。
今宵も迷い込んだ哀れな……。
「是非とも食ってくれっ! 美味いぞっ!!」
「……はっ?」
哀れな子羊かと思いきや、自分から食われに来たところてんだった。何かこっちの方が正体不明だ。なんだ、動いて喋るところてんって。
取り皿と箸は既に用意しており、テーブルに置かれた巨大な皿の上で大の字に寝転がる天の助、もう食われる準備は万端だ。
「じゃ、じゃあ遠慮なく?」
「山葵も醤油も用意しているぞ! 味付けはご自由にっ!」
なんか場の空気に気圧されてバイザーは天の助を食す。
「おぇっ」
そして吐き出した。味覚の違い? いや、違う。
天の助はとっくの昔に賞味期限が切れていたのだっ!
「不味っ……」
「なんだとコラァッ!!」
「ぐはっ!」
炸裂する天の助の逆ギレパンチ! 天の助の腕はハジケ飛び、バイサーの巨体は軽々と吹き飛び、異変を察知してやって来たリアス達の方に落ちて一誠が下敷きになった。
「チクショー! 何時か絶対に食べられてやるからなぁあああああsっ!!」
走り去る天の助、その後ろ姿を呆然と見るリアス達、一誠はバイサーの死体の下で気絶していた。
「まあ、飼い犬の躾をちゃんとしない奴が居てね。先日襲われてちょいと揉めたんだよ。この通り無事だけれどさ」
「大変ですね。……そんなワンちゃんが居るのはちょっと不安です」
「大丈夫さ。廃教会には犬は居ないからさ」
ただいま俺は帰路を外れて金髪の少女シスターとお喋りしながら町外れへと向かってる真っ最中だ。
何でそうなったかって? ああ、それについちゃ俺の落ち度が入っているのさ。
「あのところてん、マジで殺す。面倒な事ばかり起こしやがって」
一応縄張りを任された立場への討伐依頼、それを珍妙な生物に邪魔されただなんて報告に困らぁな。パイセンへの駒の能力を教えるって目的もあったそうだしな。
オールマイティの女王にパワー&タフネスの僧侶、速度の騎士、低コストで他の駒になれる兵士、僧侶は……何だっけか?
作者が読んでた時点で特に説明されてなかったので知らねえ。
まあ、人間の土地で抹殺対象が人間を狙ってるんだ、その辺は適当にのらりくらりとやり過ごしたかったが、流石に部室で形式上の抗議だけ受けたんだよ。
そのせいで録画忘れた再放送の時代劇見逃すし、天の助に頼もうにも氷漬けにしてコキュートスに送ったから暫くは戻って来ないだろうし。
そんな訳で俺はちょっと不機嫌で注意散漫、普段ならしないミスを犯した。
「あ、あの、道を尋ねたいのですが……」
「ん? ああ、通じる通じる。訛りがある所は聞き取りにくいけれど道案内なら大丈夫……」
英語での如何にも困ってますって声に思わず返しちゃってから、あら大変。
町には天使側の管理する教会なんて既にないのにシスター服の金髪少女、しかも教えれば人払いの結界程度なら可能な程度に魔法力を使える感じ。
「よ、良かったです。町外れの教会に行きたかったのですが言葉も通じず道も分からずで……。神よ感謝致します」
そんなのを派遣するなよ、と口から出るのを堪えたが、この時点で結構ヤバい状態だ。
いや、ある意味会えて良かったのか?
「俺は碓氷。そっちは?」
「私はアーシア・アルジェントです」
「成る程、アルジェントさんね」
そんなのを派遣するなよpartⅡ! よりにもよって癒しの聖女様かよ。
満面の笑みを向けてくるのは絵に描いたような金髪碧眼の美少女、あのパイセンなら一発で見惚れちまうだろうさ。
まあ、俺は警戒心しか湧かねえよ、知ってる奴だからな。
確か教会の広告塔として治療系の神器の力を使っていたら、そんな聖女様が居る場所に不自然に現れた重症の悪魔を癒して、だっけか?
戦闘があったなら避難させるだろうし、そうでないなら怪我した奴が遠くからわざわざ教会まで?
天の助でなきゃ疑問に思うだろう内容だが、全部が全部真実じゃないなら簡単だ。
「あの坊ちゃんだよな、多分」
流石に全上級悪魔は無理でも魔王の身内とか有力な家の後継の眷属程度なら調べちゃいるが、ベルゼブブの身内が教会関係者、それも一人の男を除いて全員がシスターやら聖女ってマニアっぷり。
「横取りされたか作戦の内なのか……」
「えっと、どうかしましたか?」
「いや、ちょっと考え事さ。じゃあ、行こうか」
堕天使の目的とか、今だに信仰心やお人好しが抜けなさそうな聖女サマが堕天使や悪魔の所でちゃんとやれるかとか、俺には無関係だしな。
……こうして関わった以上は先日の事もあって目を付けられるだろうし、ちょいと探りを入れてみるか。
「状況次第じゃ全部消せば良いだけだしな」
日本語で呟き、全部の中に入ってる相手を盗み見る。積極的に殺しがしたい訳じゃないが、こっち側の世界に入ったら直接間接無関係に携わってるものさ。
それに坊ちゃんが絡んでるなら死んでも転生出来るだろう? そうでないならお気の毒って事で。
「ふーん。そっちも大変みたいだな。俺は生まれ育った家で暮らせているけれど、両親が居ないってのは不便なもんだよ」
「私も孤児院で育ったのですが、家族が羨ましかったです」
堕天使の拠点に向かう途中、話題になったのは互いの家族について。そして当然始まるのは傷の舐めあいなんだが、俺は目の前の相手が孤児院出身って程度は知ってるんだわ。
……話をしていて分かったが、堕天使の組織であるグレゴリには全く染まっていないな、この人。
芯が強いからって訳でもなく、全く教育を受けていない感じだ。
貴重な回復要因をどうして日本まで連れて来たのか、こんな素人に前線基地の衛生兵の役割なんか無理だろうし、立て籠もって戦いを始めるってのも……。
「……到着したな」
「有難う御座いました! えっと、ここ迄のお礼にお茶でも……」
とまあ、途中で親子連れが遊んでいる公園の前を通り過ぎ、教会までやって来た所だ。
この後で悪魔が絡んでるのかどうかまでは分からなくても目の前の相手の未来を察した俺は誘いを断って冒頭にって事さ。
「それじゃあ俺は見たいテレビがあるから帰るけれど、飼い犬の躾をちゃんとしておいてくれって伝えてくれるかい?」
それにしても見るからに世間知らずな箱入り娘を放り出すとか教会も残酷なこった。
野垂れ死ぬか悪い奴の餌食になるのは見えてるだろうに。
「ああ、自分達の手を汚したくないだけか。汚れに気が付かない振りが出来るってだけなのによ」
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