使えない道具も使わない道具も無意味だ、場所を取るだけ邪魔でさえある。
力もそうさ、どんなに凄い才能や神器を持っていても使い方が未熟じゃ力が呼び寄せる。
餓鬼の頃の俺なんか正にそうさ。使い易くした道具でしかなかった。
「下らねぇな。折角の才能が無駄じゃねぇか」
ガラクタを見る目で俺を見下ろしているのは曾祖父さん、俺と同じ五大毛真拳である髪の毛真拳の使い手で、俺がこんな状態の理由。
ああ、今の俺って洗脳状態だから身動きも会話も自分の意思じゃどうにも出来ない、才能があるから意識はハッキリしてたが、逆に苦痛だったよ。
向こうからすりゃ弱い俺が悪いんだろうが、風来坊で暴君な曾祖父さんが一族復興なんて微塵も興味が無いから抵抗する術を教わる前の俺が洗脳された訳で。
「おい、聞こえてるんだろう? 強くなれ。障害をぶち壊せ。好きに生きたきゃ邪魔な物は全部壊しちまいな」
弱者の言葉なんて聞きやしない強者。娶れと言われたから曾祖母さんと結婚するも、それで最低限の義務は果たしたと子育ても放り出しての好き勝手三昧。
そりゃ同じく才能溢れる俺を洗脳しておくかってなる訳だ。
これが曾祖父さんを見た最後、未だに生きていても不思議じゃねぇが、歳も歳だしな。
「今の此奴ならところてんを主食って刷り込め、ぎゃあっ!?」
唸る鉄拳、飛び散る破片。俺の拳はところてんを貫く拳だ。
当然だが当時から碓氷家に居た天の助への苛立ちで俺は抵抗する術を自力で会得、少しずつ慣らしていた。
そしてある日、なんか堕天使幹部の娘を消すのに手を貸したとかの報復で全滅、近所の目を誤魔化す為に普通の子供として遊びに出ていた俺は無事だったと、そんな感じだ。
「まあ、そんな感じだ。一応関わった以上は伝えておくから」
電話の向こうでグレモリー先輩が何か聞きたそうな感じだったが、敵勢力の人間を拠点まで案内したんだ。
詳細は伝えずにシスターを案内したとは伝えたが、ルシファーとベルゼブブの繋がりで何か関わってるとかは無しか。
「癒しの力とかアスタロトのボンボンが見張っているとかは知らせなくて良いのか?」
「別に良いだろうさ。寧ろ詳細を教える義理は無いだろ」
ちっ! 思ったよりも戻るのが早かったな。
コキュートスに送った以上一週間は稼げたと思ったのにもう帰って来やがって。
「そうそう、お土産持ち帰ったぞ。はい、なんかラミアっぽいのの氷漬け」
「おう、そうか。たまには気が利く……」
下半身が蛇で氷漬け……?
サマエルじゃねぇかっ!? なにしてんだ、テメー!!
「ごばっ!」
駄目だ、此奴殺さないとっ!
聖書の神が怒りのままに呪った堕天使、それが最強で最凶の龍殺しの性質を持ち、各勢力の合意で封印された……なのに俺の家に氷漬けの状態で存在する。
「ちっ! 今更返すにしても絶対問題が起きるぞ、あの骸骨爺ぃ相手じゃ。神話じゃ姪っ子を攫って嫁にした以外はマトモ枠の癖に実際は性悪が過ぎんだから」
折角自由になれたってのに、俺の望む人生には敵が多過ぎる。天の助の持って来る問題とか、俺を利用しようって連中とか、俺に関わらなくても勢力を伸ばそうって相手とか、もう死んだけれど親戚とか。
「……取り敢えず状況把握だ。コキュートスが今どうなってるかだな」
「代わりの物は置いて来たから大丈夫だろ」
「少し黙っていろ、この廃棄食品」
少しリスクはあるがコキュートスの様子を魔術で鏡に映し出す。下手すりゃ見てる事を察知されて逆に見られる危険があるが……。
鏡に映ったのはコキュートス、そして骸骨爺ことハーデス。おい、速攻でバレて……。
『問題は無い様じゃな』
そして氷漬けになったサバ缶(Lサイズ)。何事も無かった様にハーデスはお供を連れて去って行く。
「なっ? 誤魔化せてるだろ?」
ドヤ顔の天の助の顔と氷の中のサバ缶を交互に見るが、あれか?
サマエルならぬサバエルってか?
「納得いかねぇ……」
いや、本当になんで誤魔化されるんだ? この世界、絶対狂ってるだろ……。
「幼児並みの魔力って、臓器から生成されるし病院で診察したら?」
翌日の晩、俺はパイセンの家でゲームの対戦をしていた。俺の認識では顔見知りでも、パイセンの両親からすれば友達だ。
一切敬意を払う必要皆無の本人と違って両親は違うからな、飯に招待されて家に行ったら一応否定はしないさ。
……まあ、あとは天の助って指がないからコントローラー使えないんだよな。
それに俺だって偶には対人で遊びたい。
「いや、でも部長は特に何も言わなかったし。なあ、ところで朱乃さんとお前って……」
俺がハメ技を使ってパイセンが使うキャラをボッコボコにしてた時、不意に出て来た問い掛けに俺は押し黙る。
多分部内でも微妙な空気になったから勘繰ってるんだろうが、その辺を説明するのは主人の仕事だろうに、面倒な。
「センシティブな内容で話したらゲームが面白くなくなるから……はぁ」
「ため息吐くなよっ!? ボロ負けしてるのは俺なんだから」
「いや、違う。ちょいと面倒事だ。パイセンはお仲間に連絡しつつご両親の様子を見ててくれ。既に知ってるだろうが邪魔になる」
招かれざる客がこの家に向かって来ている真っ最中、余計なオマケ付きでな。
あー、これは俺のせいか? それともパイセンが悪魔になったのに気が付いて?
世の中には感情一つ動かさず、それこそ仕事と割り切っていても責任感とかを抱いているのもいるが、文字通りに息でもする様に殺しをする奴が居るんだが、俺が張ってる探知に引っ掛かったのは殺しを前に舌舐めずりするタイプ。
「話し合いじゃどうにもならない馬鹿が来ている。まあ、要するに……」
「げっ! 携帯の充電のコンセント刺さってなかったっ!?」
「事態がややこしくなるから口出し手出しは無用って事さ」
他人の不始末や争いは文字通りに他人事だが、俺が関係してるなら自分の尻程度は拭くさ。
じゃねぇと後から気になるからな。
「でも、俺も何か……」
「テロ対策班だって一般人の避難誘導も業務範囲内さ。巻き込まれない様に両親見張って、充電終われば助けを呼んでくれ」
いやはや、マジで魔法だの人外とは無縁の人生が良かったよ。持って生まれたら、一度でも関わったら、それで平穏とは無関係な人生になっちまうけれど。
まあ、他人に巻き込むなとか言うなら、俺も一般人を巻き込んだらいけないさ。
「ヒュー! 邪悪な悪夢君とお友達の魔法使いってのは君かい?」
ちょっと離れた所に人払いの結界を張っているのが一人、そして目の前には白髪の神父、殺意ダダ漏れのイカれた奴。
「シグルト計画のマウスか」
「はっ? お前、何でそれを……」
「それと訂正、俺はあの馬鹿の知り合いであって友達じゃない」
俺の言葉に神父の笑い顔が固まって警戒があからさまに現れるが、思考の切り替えが遅いね。
今年の経験は積んでるんだろうが、雑魚ばっかし食ってるから鈍ったかい?
銃に手を伸ばすが、ちょいと遅い。抜いて狙って撃つで動作が三つ、この距離じゃ抜くのが攻撃に繋がるナイフを使うか……出会い頭に襲って来るべきだったな……通じないけれど。
「ちょっと大丈夫……みたいね」
三分後、グレモリー先輩のご登場、パイセンにしちゃ上出来の早仕事だな。
「「スネ毛〜! スネ毛〜!」」
イカれた神父と一緒に来たオマケ……アーシア・アルジェントは俺のスネ毛に巻き付かれた状態で先端を持ってぶつけ合わせていた。
「何をしたのかしら?」
「洗脳」
見たら分かるだろうにさ。悪魔だって頻繁にするだろう?
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