「あっ、やべっ。洗脳を解く為の物がねーや」
魔法で作り出した倉庫的なアレから目的の物を出そうとするが出てこず、代わりに残り香のする包み紙が丸めて出て来た。
あー、はいはい。茶請けを切らしてたから代わりにしたんだっけな。
パイセンの家を襲撃しようとした白髪神父、そして周囲に人払いの結界を張った聖女サマ、現在スネ毛で洗脳中。
縄張りの管理者って事でグレモリー先輩に加えてシトリー会長もオカ研の部室に集合だ。
「つまり今の応対が続くという事ですか……」
「敵ながら悲惨ね」
「スネ毛〜! スネ毛〜!」
戦闘力の無い聖女サマは別室で見張り中、神父の方は手足の腱を切った上で更に鎖で雁字搦めに拘束中だ。
別に簡単に解ける洗脳じゃねぇんだが、逆に言えば俺の意思だろうと容易には解除不可能って事だ。
「他の言葉を話したり筆談は出来ないの?」
「無理だな。スネ毛真拳奥義”スネ毛色に染まれ“は意思を奪って支配する洗脳だが、知能の方がちょっとな。解除には月の力を吸収したスネ毛に反する鼻毛の力の源になる物が必要だ」
「……リアス、私の耳がおかしくなったのかしら? じゃないと今後月を見上げる度に微妙な気分になりそうなのだけれど」
「受け入れなさい、ソーナ。月の光がスネ毛の力の源だって確かに言ったわ」
「夜の世界の住人だろうと気にする事無いでしょ。月なんて兎や蟹や妖怪の住処扱いされて来たし、花言葉だって、微妙なのはあるでしょうに」
そんな微妙そうな顔されても俺が困る。大体、俺が一番微妙な気分なんだから。なんでスネ毛の力を高めるのに月の光を浴びなきゃいけないんだ、馬鹿か!?
「一応貴方を狙っての事だから拘束するのは問題無いんでしょうが、その必要な物ってのは……」
「あっ、弱点晒すのも問題なので秘密で。用意しようと思えば用意出来るし、出て行ってもらえる?」
そりゃ拘束も尋問も本来なら面倒な事態になりかねないが、今は縄張りに住んでる俺が襲撃されて、筋として話を通しに来たって事になってるからな。
縄張りで好き勝手してる敵対勢力の話は聞きたいだろうさ。
「それは良いわ。でも、シスターの方について何か知ってそうな感じだったけれど?」
「さてね。俺は何も言わないさ。上層部に文句を言ってくれって事で」
何処にも肩入れせず、最低限の筋だけ通す。どっち付かずの根無草には必要な振る舞いだ。
無理に引き入れるのも他の陣営に入らない様に始末するのも敵対行為になって、隙を晒さない程度の片手間じゃ始末するのは難しい、それが今の俺の力。
それを削ぐ術を教える筈もないし、侵入者については結界張らせてくれない上層部が悪いって事でヨロ。
「監視は無しっと。じゃあ、ちゃっちゃと作りますか」
悪魔達が出て行って、様子を探る目も耳も無し、誤魔化されてたら自己責任って事で月の光を相殺する物を作る準備に取り掛かる。
「携帯用ガスコンロにホットケーキミックスに粒餡、そして家庭用たい焼き機。……なんで鼻毛の力の源がたい焼きなのさ?」
多分知恵の神に訊ねても首を傾げる姿が浮かぶ疑問を呟きつつ俺はたい焼き作りを開始した。
うん、考えるだけ無駄だな。訳分からん謎はもう一つ有るし。
「分かってると思うけれど餡子は少な目な。あんまし甘くない感じで」
「ニャ」
……俺がたい焼きを作り出すと二足歩行の猫が大勢現れるんだが、何処から来た何者なんだ?
「ひゃひゃひゃっ! 間抜けな話だと思わねぇか? 追放されて今尚信じる神様を裏切った堕天使のスカウトを受けたのによ。目的は神器を抜き取る事だったのさ!」
フリードっつーらしい神父の話に当の聖女サマの顔は蒼白だ。そりゃそうか、聖書の教えじゃ自殺は厳禁、だから堕天使にすら縋って形だけでもシスターとしてって気だっただろうに。
……にしても癒しの力を手に入れて上からの寵愛をねぇ。
「魔王の妹の縄張りで独断行動……神器だけ取り上げられて終わりじゃね?」
普通に組織の一員として駄目だし、高価値の道具を手に入れようが許しちまったら組織としての示しがつかねえでしょ。
責任者のレイナーレってのも精々が中級だって話だし……。
「都合の良い妄想に溺れてる最中は分からねえもんだろ?苦難は試練か神の罰、祈っていれば何時かは届くってね。馬鹿な信者と変わらねぇよ」
「うん、まあそんな所だろうね」
シグルト計画ってのは要するに強化人間を作るってプロジェクト。大勢の被験体が死んで、生き残りも長生き出来ないって調べた限りじゃそんな感じ。
だからこその意見だろうが、よく知らないと挑発にしか聞こえねえな。
「それで今後どうするの? 俺は……」
二人の処遇。捕えたのは俺で、俺狙い。
対価として魂を少し貰って終わりってのも、計画を知られた後じゃ向こうさんがどう出るか分からねえ以上は……。
さっきは俺の方は見ちゃいないが、今は遠くから覗いてるアスタロトの坊ちゃんに聖女サマ渡しちまえば……。
もう全部放り投げちまえば良い。道案内しただけの相手をゲスに引き渡す同然の行為も、今も死んでる子供が居ると知っても貧困国に生活を切り詰めてまで寄付しないのと同じさ。
結局の所、最優先は自分って事で。
「……おん?」
こんな時に重要な用事を知らせる着信音、さっさと話を切り上げて集中したいのが本心だが、この時に俺は気が付けば送られた画像を見ていた。
勘でって言えばお粗末な理由に聞こえるが、魔法を使っていると偶に勘が冴え渡る時がある。経験から来る無意識の予想に加える何かが……。
「ふぅん、成る程ね」
表示されたのは横浜の淳子がカードの自販機を独占している姿、一見すると意味不明なだけだが、これが暗号だと知っていれば話は別だ。
即座に画像を消し去る、勿論魔法を加えて念入りに。
「なあ、お二人さん&アルジェントさん。俺と取引しないかい?」
この情報をどうすれば俺の平穏と利益に繋がるか、利他じゃなく利己的な思考で俺は悪魔と元聖職者に契約を持ち掛けた。
「じゃあ、こっちが偽造した滞在に必要な書類だから。高校への編入は試験パスだけれど最低限の学力は得ようか。翻訳は魔法で解決出来るけれど不正な試験は良くない」
グレモリー先輩所有のマンションの一室、マネーパワーと魔法があれば女の子が生活する程度の準備なんて簡単だ。
いや、それでも凄いな、グレモリー家、これで領地にはテレビすら普及してない地域があるんだろ? 他の領地はどれだけなのやら。
「あ、あの、本当に良いのでしょうか? こうやって生活の保証までして下さった上に学校まで……」
「別に良いさ。俺も取引で得するし、君の神器について研究させてもらうんから利益は十分だからね」
今日からこの部屋の主人となるアルジェントさんは戸惑っているが、別段どうでも良い。
放置したままの方が俺に不利益だと分かった、それだけだからね。
「あの、それで悪魔さん達に持ち掛けた取引っていうのは……」
「政争に役立つネタさ。その辺は知らない方が良いから」
いやはや、あの坊ちゃんは良い仕事をしてくれたよ。お陰で情報料を肩代わりしてもらえたし、貴重な研究対象も手に入ったからね。
「君は三大勢力でいざこざがあっても教会に敵対する事もなく、悪魔にもならないから信仰を続けるのに制約も存在しない。まっ、ラッキーだったとでも思うが良いさ」
研究の進み次第じゃ今後どうなるかは分からないけれど、心の中で思った事は口にはしないでいる俺だった。
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