二月、上旬。
枯れ木の連なる道を歩いていた私は、吹き抜ける寒気に身を震わせ、コートのポケットにその真っ白の手を突っ込んだ。
二月の寒さは、入試という人生に数度あるかないかの一大事に挑む学生達にも平等に優しくないなあ、なんて考えながら、養父の入れてくれたポケットのカイロを握りしめて、少女——
東海の冬は凛の生まれ故郷と違って、豪雪の白色以外の色に溢れている。
冬でも比較的暖かい太平洋側で暮らしている年数の方が長いのに、今でも凛の真冬のイメージといえば、一面に厚く降り積もった銀雪だった。一度染みついた印象は、なかなか取れないのだ。
そんな凛が今向かっている先は、入学試験の会場だ。それも、あの雄英高校ヒーロー科の。
高校の偏差値は79、倍率は毎年300を超え、多くのトップヒーロー達がOB・OGとして名を連ねる名門中の名門。ヒーローを目指す者達の憧れの一つである。
まあ、そんなことはどこ吹く風とばかりに、いつものように凛は、そのボーッとしたような眼で前を見つめながら、雄英への道を歩いていた。
と、そんな時のこと。
凛の前を歩いていた短髪の少女が、紙切れのようなものを落とした。凛はとりあえずそれを拾いあげて前を見てみるが、落とし主の少女は気付いた様子もなく歩き去っていってしまう。
とりあえず、凛は少女に追いついて声をかけた。
「……これ」
「………」
返事はなく。
よく見れば、音楽を聴いているようだった。そのせいで、周りの声が耳に入らなかったらしい。凛は再度、今度は肩を叩きながら声をかけることにする。
「……ねえ」
「うわっ……え、なに?」
「これ」
「え?って、ウチの受験票!?うそ、落としてた!?」
「ん」
「アンタ、拾ってくれたの。……ありがとう」
振り返った少女に受験票を渡して、凛は再び歩き始めた。
「ねえ、待ってよ」
「……?」
「アンタも雄英受けるんでしょ?なら一緒に行かない?」
「……いい、よ?」
少女二人は、並んで歩き始める。
しばらく無言が続く。凛の方から口を開くことはなく、裸の木々は寒くないのだろうか、なんて考えつつ、道端の枯れ木を眺めながら歩いているだけだった。
そんな凛の様子に痺れを切らしたのか、短髪の少女は自分の方から声をかけることにしたようだ。
「ねえ、ウチの名前は
「わたし?……
「うん、よろしく」
……会話は、5秒で終わった。
流石に気まずさが限界突破しそうだった響香は、何か話題となりそうなものを探そうと視線を彷徨わせ、そして遂に、凛が背負っていた細長い布に包まれた棒状の何かに目をつける。
これ幸いとばかりに、響香は質問を投げかけることにした。
「あー、霧崎さ。アンタが背負ってるその細長いやつ、何?」
「これ?……見たい?」
「え?いや、まあ、見たいっちゃ見たけど……」
「ん、いーよ」
凛はそれを肩から下ろし、慣れた手つきで布を剥がしていく。
出てきたのは、鞘に入った状態の太刀。刀身は顕になってはいないが、
銘を『宵貪:
『朱鵺』自体が異質な雰囲気を放っており、響香の目の前にボーッと立っている桃髪の可愛らしい少女と共に在るのを見ると、妙に言い表せないチグハグさを感じさせるような気もするのだが。
しかし、刀を大事そうに抱える少女の姿は、なぜだか妙に、ある種の一体感のある美しさを感じさせるのだった。
「え、ちょ、それ本物!?」
「ん……抜く?」
「いや、それはちょっと銃刀法とかのアレ的にまずいでしょ。てか、アンタ、免許は持ってんの?」
「うん……銃はともかく、刀は免許取得の年齢制限ない……」
「そ、そう……あー、ヒーロー科の実技試験のための持ち込み?私もヒーロー科受けるんだよね」
「ん」
そういえば、持ち込みは自由と書いてあったな、と響香は納得した。
一通り話し終えたと判断した凛は、再度くるくると刀を布に包んで背負い直す。
その後も他愛のない雑談を続けてしばらくして、二人は雄英に到着した。二人して受験受付に向かい、受験票を提出する。
「受験室は……まあ、流石に違うか」
「ん……響香とは、ここで、さよなら?」
コテン、と首を傾げながら、無表情ながらも凛は響香に問いかける。
「んー、一旦はそうね。でもまあ、どっちも受かればきっと、入学式で一緒になれるよ!」
「ん……そだね。がんばる」
「じゃ、ウチはこっちだから……」
「ん、ばいばい」
そうして、響香と別れた凛は筆記試験の会場に向かった。