初戦
「初戦は爆豪のチームと緑谷のチームか……。爆豪がなー、飯田とはこの前喧嘩してたし、緑谷とも仲悪いっぽいだろ?大丈夫か……?」
「麗日大丈夫かな」
「……勝己は、多分大丈夫。お茶子も……勝己は興味はなさそうだし。心配なのは、出久……」
「緑谷?あー、確かに爆豪ってなんか緑谷のこと敵視してるよな。確かに危ないか」
「……ん、ちょっと、ちがう」
ぼそりと、凛はつぶやいた。どちらにせよ、自分が出しゃばることのない、当人同士の問題だ。
【第一戦】
ヒーローチーム:緑谷/麗日 vs
やがて両者ともスタート位置について、オールマイトの合図で演習が始まった。
マイク音声は聞こえないが、出久・お茶子のコンビは特に支障をきたすことなく和気藹々としていて、良さそうなコンビだ。既にビル内に侵入し、二人で周囲を警戒しながら進んでいる。順調そうだ。
反面、天哉・勝己のコンビだが——意外にも、すぐさま核兵器前の防衛役と遊撃役にスムーズに分かれたようで、仲間割れもなく心配はなさそうな感じ。天哉は勝己の勝手な行動にちょっと文句を言っているようには見えたけどね。
そんな中、勝己はどんどんビル内を迷いなく進んでいく。
奇襲狙いだろうか。確かに、こう言った屋内戦では効果的な手だ。事前に脳内でビルのマップ構築も済ませていたのだろう、迷いがない。
勝己は短気な性格だ。特に出久が絡まるとその傾向が強くなるものの、曲がりなりにも入試トップの成績を保つ優秀な人でもある。そして、彼ほど優秀であれば、脳内マップからヒーロー側の侵入経路の割り出しも当然できるわけで。
出久たちを捕捉した勝己が、バッと角から飛び出して、二人に襲いかかった。
それを多少なり読んでいたのか、出久はお茶子を庇いながら地面に伏せる。直撃はなかったようだが、出久の方は爆風が少し掠ったのか、コスチュームの頭部部分が半分焼けてなくなっていた。
……もう少し、耐久性を上げた方がいいと思うんだけど。
会敵後は、爆豪有利に戦況は推移していくと誰もが思っていたが……その予想は、見事に裏切られた。出久が、”個性”を使わずに勝己と互角に戦っているのだ。
「二人とも……幼馴染、なんだっけ」
「あー、確かにそんなこと言ってたな」
互いに互いのことをよく知っている、というわけだ。
出久が一時的に優位に立てているのは、その情報を的確に使っていることと、彼我の力の差を理解しながらも良い方向に”開き直って”いることだろう。そして勝己の劣勢の原因は焦りと、出久を侮っていたことによる攻撃の単調化に尽きる。
個性把握テストの時に見た勝己の目を、凛は思い出した。
一度作戦を立てるためか出久が離脱し、それに合わせて小康状態が訪れる。
現状では、出久が勝己を翻弄しているように見えるものの、今のままでは出久側は決定打に欠ける。
出久が自分の個性の制御ができればいいが、それはできないようだし、一発外せばほぼ再起不能、例え直撃させることができたとしても、逆に今度は勝己が危ない、なんて個性なのだから、性根が優しい彼はあれを人に向けて打つことはできないだろう。
となれば、離脱してお茶子と合流し、二人での核確保が現実的だろうか……いや、逃げ切るのは難しそうだ。
凛が思考しているうちに、出久と勝己が再び接敵する。
だが今度の勝己はいきなり殴りかかることもなく、徐に右手を出久の方へ向けた。何かする気だというのは、凛にもわかった。
「爆豪少年、ストップだ!……殺す気か!!」
何かを察したらしいオールマイトが、焦ったような声でマイクで静止の声をかけるが、止まることはなかった。
映像の中で、巨大な爆発が巻き起こる。同時に、ビルの地下にあるモニター室にも、ズズン、という衝撃が響いた。
そこからは、勝己の一方的な攻勢が始まる。確保テープを使うこともせず、いたぶるような戦いだ。もう出久の読みも通じない。
「先生、止めた方がいいって!爆豪あいつ相当クレイジーだ、殺しちまうぜ!?」
「いや…、」
オールマイトは、何かを迷っている様子だった。そんな彼に、凛は近づいていく。
身を乗り出し、心配そうにはしているものの。止める様子は、見られなかった。
「……せんせ、止めないの?」
「む、それは……」
「止めてあげたく、ないの?……それは、出久だから?」
「ッ……」
他の人には聞こえないように問いかけた言葉に、オールマイトは凛の想像以上に反応した。なんとなく、そんな直感はあったけど、そこまでのものだったか。
「……止めるなら、今すぐして……止めないなら、」
「……」
「最後まで、ちゃんと見届けて、あげてね?」
「……ああ、助言ありがとう、霧崎少女」
「ん。……多分、死には、しないとおもう」
どちらが死にそうだったり、リカバリーガールでも直せないような怪我を負いそうなら、凛はオールマイトの背景事情など考慮せずそう言うつもりだった。だが、凛の直感は、そういった最悪の未来への警鐘は鳴らしていない。
だから、今日も、凛は直感を信じることにする。
「!逃げ出した!」
「男らしくねえけど……」
逃げ出した?……違う、気がする。
戦いはクライマックスへと歩みを進めていく。やがて激情のぶつかり合いに変化したそれは、どんどんと激しくなっていって。
二人の拳がぶつかり合う直前に、出久の口が何かを叫んだ気がした。チラリとオールマイトの方を見ると、少し迷っているようだったが、止める気配はなさそうだ。
やがて、拳がぶつかり合おうとして——直前で、出久は拳の向かう先を天井へと向けた。
ドオッ、と拳から生まれた衝撃波が空気を震わせ、天井を破壊した。そうか、と凛は思い至る。モニターの端にある立体マップを確認すれば、二人のいる場所のちょうどその上には核兵器がある空間があった。
出久の本当の目的は、その地点への誘導か!
核兵器がある空間の地面が崩れ、衝撃波が吹き抜ける。
それによって生じた瓦礫を、お茶子が建物の柱で打ち抜き、天哉への目眩しとして。
無重力で体を浮かせたお茶子が、キャパの限界に達しながらも、核に触れた。
「……ヒーローチーム、WIN!」
絶望に打ちひしがれたような顔の勝己が、凛には特に印象的だった。
これで、戦闘訓練の第一戦は幕を閉じた。
◆ ◆ ◆
その後、地下のモニター室で今の戦いの反省会が行われた。
ちなみに自身の個性で腕がボロボロになった挙句顔面に勝己の爆撃を喰らった出久は、絶賛保健室で治療中である。
「まあ、今回のベストは飯田少年だがな!」
「なな!?」
「なぜだろうなあ〜〜〜?何故だかわかる人!」
「ハイ、オールマイト先生」
スッと、百が手をまっすぐ上げた。凛も、そちらの方へ目を向けた。ハキハキとした口調で、彼女が話しだす。
勝己と出久は、個人的な事情での周囲への被害を顧みない暴走。お茶子は気の緩みと雑な攻撃があった。故に、状況設定に一番順応していた彼こそがベストだということだった。
感動に打ちひしがれている様子の天哉と、言いたかったことが言われてちょっとたじろいでいるオールマイトを尻目に、響香と電気が凛の方へ声をかけてきた。
「いやー、凄かったな!……なんかちょっとコワかったけど」
「……ん。出久の、個性。自己犠牲の塊みたいで、ちょっとやだった」
この前天哉にも聞いたけど、出久は入試の時も、自分の腕と足を犠牲にして巨大ロボに立ち向かい、お茶子を助けたらしい。
「?別に、自己犠牲は悪いことではないんじゃないの?」
「……出久はたぶん、自分の痛みとか、辛いこととか、全部無視して人を助ける人だよ。そんな人が、あんなの持ってたら、それこそ……」
いつの日か、誰の手をも振り切って、帰ってこれない場所に消えていってしまいそうだ。
「ン”ン”!さて、気を取り直して、二戦目に行こうか。二戦目の対戦カードは……」
オールマイトが復帰したので、凛もそちらの方へ目を向けた。
彼が二つの箱からボールを取り出す。
「Bコンビが『ヒーロー』!Iコンビが『
「……あ」
「Iって確か、霧崎と尾白だっけ。頑張りなよ」
「ん……」
響香の激励を受けながら、凛はひっそりと腰に刺した木刀をさすった。
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