かつて世界には、『オリンピック』と呼ばれた世界中が熱狂したスポーツの祭典があったらしい。だがその祭典は個性黎明期に個性持ちの人間の参加を制限したことと、同じく黎明期の混乱の中で規模が縮小されたのをきっかけに、だんだんと規模も人口も縮小していってしまったんだそうだ。
今も細々と個性なしの大会として続いてはいるが、かつての輝きには遠く及ばない。
そして今のこの、”個性”という特異な性質が染み付いた超人社会の日本において、オリンピックに変わって人々が熱狂し、初夏の国民的風物詩としても数えられることがあるのが、この雄英体育祭。
「……らしい、よ?」
「知らん。たかだか一高校の体育祭を国民レベルのエンタメに昇華する意味がわからん」
「……辛口、だね」
食卓でその話をしてみたけれど、養父にはプイッとそっぽをむかれてしまった。
養父が学生の頃は、雄英高校こそ存在したものの体育祭自体は全国放送されるようなバカなことはなかったらしい。
それが時代を経るにつれて形を変え、今あるような興行に近いナニカになった。というかなんならバリバリスポンサーがついてスタジアムには広告が貼られているし、学生イベントを金儲けに使うなよ、なんて意見もないことはないのだが。
まぁ、”個性”と言う自分の力を抑圧されたこの社会では、確かにそのストレスを発散する方法を他人に求めてもおかしくはないけれど。
それとは別に、全国のトップヒーロー達もスカウト目的で見るらしいと言うのが、この体育祭だ。
「おじいちゃん、会場警備に入るんだっけ……」
「ああ。最初は断ろうと思っていたんだが、まぁ、凛の同級生とやらがどんなものなのかみておいて損はないだろう」
「ちゃんと、警備はしてね……?」
「……するさ」
妙な間があったが、まぁいいだろう。
しばらくの間、食器の擦れるような音だけが響く。
「……凛」
「……ん、なぁに?」
「お前、この前ヴィランの襲撃があったそうじゃないか。大丈夫だったのか」
「ん。怪我、もう治ったし。……おじいちゃん、
黒もやの男……確か、黒霧といったか。そいつが名乗っていた、彼らの組織の名前だ。
「いや、知らん。襲撃組織の名前か」
「ん……すごく強い、改造人間?みたいなのがいたの。脳無って言うらしいんだけど……おじいちゃんも、気をつけてね?」
「俺ぁ勝てねえ勝負は端からしねえよ。そんなもんが出たら逃げる」
「ん、私負けちゃったから、頑張って勝ってね……」
「話聞けよオイ」
口では逃げるっていってるけど、助けを求められたら多分、助けてから逃げる人だ。自分だけ助かろうとする人じゃない。……たぶん?
それはそうと、色々個性について相談したいことがあったんだったと思って、凛は養父に話を振る。
「ねぇ、私のお父さんが戦ってるところ、見たことある?」
「……稽古でなら幾度か手合わせをしたことがあるが、奴が実戦に身を置いているのは見たことがなかったな。だが、凛がこの前やっていたように刀を体の中に収納するなんてことはできていなかったはずだぞ」
「……そう、なんだ」
「まぁ、そんなのはよくある話だ。人々の”個性”は世代を経るごとにどんどんと強力になってきているし、この世に同じ個性は二つと存在しない、例え親子であってもな。俺も長く生きてきたからわかる。俺の個性は子供の頃は強個性と持て囃されたが、今じゃ強さは平均レベルだ」
養父は第三世代と呼ばれる世代層に位置している。そして、凛が位置するのは第五世代。最も新しく、最も強力な世代である。事実、凛のクラスメイトにも”個性”の強さだけで言えば今すぐにでもプロとして活躍できそうな人材が何人もいるし、まったくもって末恐ろしいことだなと、凛はちょっとだけ考えた。
「……お前の個性の『サムライ』は確かにアイツと似通った個性だが、本質は全く違うかもしれないな」
「……?どういう、こと?」
「さあ、俺にもわからん」
「何、それ……」
実際彼にも、凛の”個性”の底は知れなかった。認識依存の切断、身体能力の向上、刀剣の収納。加えて、凛が普段よく言う『勘』と言うのもおそらくその個性の能力の一つだろうと思う。
ここが限界か、それとも発展途上なのか。彼には判別することはできないが。
ちらりと、ソファの上でリラックスした体勢で寝そべる、我が子同然の少女を見遣って思った。
(こいつはまだまだ伸びる。将来は大物確定として……さて、俺も長生きしねえとな)
老人になってようやく、将来を期待することができるようになるとは、不思議なもんだ。
そんなわけで。
五月の頭の涼しいはずの夜は、だがしかし高まる体育祭への期待で少し熱を帯びているように、人々の高揚をのせながら緩やかに明けていった——
◆ ◆ ◆
雄英体育祭 当日
控え室から出て、入場のために整列をする。
凛も体育祭までの二週間、個性の新しく見つけた機能に慣れたり、養父と手合わせを重ねたり、隠し球の用意をしたりと色々と頑張ってきたわけで、俄然気合が入っていた。まぁ、側から見れば普段と変わらぬぼんやりフェイスではあるが。
運動会の発表後に普通科の男子から宣戦布告があったり、お隣の二つ目のヒーロー科の組であるB組からA組が宣戦布告を受けたり、控え室ではどうやら焦凍が出久に宣戦布告をしたりしたらしいが(凛は全部寝ていたので響香に後から聞いた)、どうやら概ね平和に体育祭が幕を開けるようだ。
パンパンと昼花火が快晴の空に打ち上がり、体育祭の開幕を告げていた。
プレゼント・マイクの実況とともに選手達が入場する。
『雄英体育祭!!ヒーローのたまご達が我こそはとシノギを削る年に一度の大バトル!!』
「……あー……」
「耳栓いる?」
「今だけ、つける……」
響香にもらった耳栓である程度の音をシャットアウトした凛は、クラスメイトと共に入り口付近に立っていた教員の指示に従ってスタジアムへと入場を開始する。
『どうせてめーらアレだろこいつらだろ!!?
『ヒーロー科!一年!!A組だろぉぉぉ!!?』
「うわー、すんごい人だね……」
「……?」
「あ、耳栓してんだっけ。競技の説明始まったら外しなよー」
「…………?……ん」
聞こえてはないが、とりあえずなんとなく言いたいことは伝わった。
やがて選手全員が並び終えると、ミッドナイトが壇上に立って司会進行を始めた。
18禁ヒーローの名乗る彼女が教員なのもどうかと思うし、さらには司会進行を務めるのもどうかと思うし、さらにさらには全年齢対象の地上波で放送してしまっては、18禁の名が泣かないのか(?)とは思うがともかく、意外にも早いペースで体育祭は進んでいくようだ。
凛も耳栓を外して、彼女の話に耳を傾けようとする。
「18禁なのに高校にいてもいいものか」
「いい」
「静かにしなさい!選手宣誓!」
耳栓を外した途端に入ってきた会話が少し変だった気がしたが、とりあえず選手宣誓があるらしい。うちの学年からは誰が出るのだろうか……
「1-A、爆豪勝己!」
「……わぁ」
「ウチめっちゃ心配なんだけど」
「私も……」
各々が少し嫌な予感を抱える中で、勝己が宣誓をするために壇上に登った。
気をつけをするでもなく、背筋を伸ばすでもなく、ポケットに手を突っ込んだ体勢で気だるげに告げる。
「せんせー」
「俺が一位になる」
「絶対やると思った!!」
鋭児郎のツッコミを皮切りに、生徒中からブーイングが殺到する。
「調子乗んなよA組コラァ!!」
「なぜ品位を貶めるようなことをするのだ!!」
「ヘドロヤロー!!」
「せめて跳ねのいい踏み台になってくれ」
クイっと、親指で首を掻き切るような仕草をする勝己。その時、気のせいかもしれないが、ほんの少しだけ凛は彼と目が合った気がした。
どうやら最近流行りの宣戦布告を受けてしまったみたいだ。これには、全力で応えないといけないかもしれない。
勝己が壇上からおり、ミッドナイト先生が何事もなかったかのように登壇した。
パシンと手に持った鞭を鳴らして、ホログラムを背景に告げる。
「さーてそれじゃ早速第一種目行きましょう!いわゆる予選よ!毎年ここで多くのものが
「雄英ってなんでも早速だね」
「もっと……のんびり行こ……」
「おー霧崎、んなこと言ってっと予選落ちしちまうぜ?」
「アンタの方が危なそうだけど」
軽口もそこそこに、ミッドナイトの声に合わせてドラムロールが流れる。
「さて運命の第一種目!!今年は……コレ!!」
『障害物競争』。そう書かれたホログラムが表示された。
なんとも気の早いことに、早速とばかりに生徒達は続々とスタートラインに並べられた。
「計11クラスでの総当たりレースよ!コースはこのスタジアム外周4km!」
凛もとりあえず刀は出すことはせず、スタートラインに並んだ。
「我が校は自由さが売り文句!コースを守れば
パッと、点灯したスタートランプが一つずつ減っていき、開始への緊張感が高まっていく。
「スタート!!」
体育祭が、始まった。
今更ながら刀の名前を考えてなかったことに気づいたんですよね。ってことで、以下の感じに決定しました。
・刀α
刃長2尺6寸5分(80cmくらい)の黒鞘に赤い下げ緒が特徴的なメインウェポン。
作者案:宵貪『
・刀β
刃長6尺3寸(190cmくらい)の大太刀。外見は決まってない。メインが黒なのでこっちは白と金とか?
作者案:斬魂『
・刀γ
刃長3尺(90cmくらい)の頑丈さが取り柄の打刀。つっても作中で出してない。
作者案:塞断『
書いてて恥ずかしくなったので寝ます。
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