筆記試験が無事に終わり、凛は実技試験の会場にいた。
凛は、勉強に関してはそれなりにできる。それはおそらく、名家出身だった母の遺伝子も影響しているのだろうが。凛は、勉強とは黙々と鍛錬すれば、その分向上するものなので、すなわち刀を振るのと同じようなものだと考えていた。
まあ、間違いではないのだが、なんとも受験生泣かせな得意能力である。とにかく、その「黙々と数をこなす」ということが、凛は得意だった。
おそらく、筆記で落とされるようなことはないだろう。問題は、実技試験だ。
(かたな、準備おーけー……)
雄英高校ヒーロー科の入学試験の、特に実技試験といえば、採点方法や合格基準が全く明かされていないブラックボックスであることがよく知られている。
入試後にも実技の試験内容が明かされることはなく、OB・OGに質問をしてみても明確な答えが返ってくることは少ない。どうやら毎年のように試験の内容が変わっているということだけが周知されていた。
話は変わるが、凛はあまり煩い人間や環境が好きではない。幼少期のトラウマ故か、本人の生来の性格がそうさせているのだろうか。ともかく、何が言いたいかというと。
(はなし……聞いてなかったや……)
凛は、実技試験の説明を2割程度しか聞いていなかった。致命的である。
わかったことはとりあえず、仮想
しかしここで、目を瞑っていた凛は考える。
でも、まあ、と。チャリ、と腰に佩いた『朱鵺』に手をかけ、構えの姿勢をとる。
「斬れば……なんとか、なる」
スッ、とその眼を開き、眼前に聳える門を見上げて。
『ハイ、スタートォ!!』
瞬間、凛は駆け出した。街中を、持ち前の直感を頼りに駆けていく。
程なくして目の前に仮想
『標的補足!ブッコr……』
「……」
鍛え上げた彼女の剣筋の前では、たとえ体が鉄でできたロボットであってもひとたまりもなかった。というか、装甲がただ薄い鉄板なのもあって、容易に切断が可能だった。
切り捨てられた機械の体が、音声の名残と共に真ん中から二つズレて、爆炎と共に破片を散らしながら
凛の個性は、『サムライ』。
と言っても、侍っぽいことができる、とは診断医に教えてもらったが、その具体的な内容は凛もわかっていない。なにしろ、個性の使い方を教えてくれる人がいなかった。
かろうじて養父が実父の知り合いだったこともあり、最低限の情報は教えてもらってはいた。
今わかっている、この個性でできることといえば、『刀で「斬れる」と判断したものを斬れる』ということぐらいだ。……まあ、それでも凛には十分だったのだが。
そんなこんなで、凛の実技試験は始まった。
しばらくの後、目の前の仮想
「20体目……どのくらい倒せば、いいんだろ?」
今はとりあえずフィールドを走り回って目についた仮想
この試験で必要なのは、索敵能力や攻撃能力、判断能力といったものの総合力であるが、試験時間が10分と短いのも重要な要素であり、いかに『効率よく仮想敵を見つけ、効率よく撃破する』というルーティーンを確立するかという、機転思考力なども大事になってくる。
その点、凛の個性はシンプルに敵を斬り裂くことに特化しているから、持ち前の直感と合わせて効率よく敵を倒していけていた。
ただ、彼女はルール説明の内容も頭に入っていないため、仮想
『あと6分2秒~』
「……煩い……」
顔を顰めつつ、次の敵を探して周囲を見渡す。
凛がいる大通りの、少し先に行ったところで仮想
たかが高校の入学試験だが、侮ってかかると酷い目に遭う。下手なことをすれば命に関わることもあるのがこの試験だ。……そんなものを、たかが高校入試で使わないでほしいとは思うが。
凛の思考の第一候補として現れたのが、『助ける』と言う選択肢。——だが、獲物の横取りと、救出の区別が難しいのもこの試験の特徴だ。どうすべきか、凛は一瞬迷った。迷ってしまった。
「あっ……」
「……!」
迷った瞬間に、その受験生は小さな仮想
今度の凛は、すぐさま距離を詰めてロボットの頭部を刈り取った。
「……ごめん、遅れた」
「あ、えと、ありがとう……」
「だいじょうぶ?」
「多分、なんともない、です、」
「……そう、よかった」
その女子受験生に手を貸して、立ち上がらせる。
打撲以外の怪我がなさそうなので、凛はそのまま立ち去ることにする。じゃあね、と一言おいて駆け出す。後ろでその女子が手を伸ばすが、時間制限のある中で引き留めるわけにいかないと判断したのか、声をかけるという判断は取らなかったようだ。
それを横目で確認しながら、凛は次の仮想敵の元へ向かっていく。
怪我は軽い。だが、その受験生が試験に復帰することはなかった。