サムライ少女のヒーローアカデミア   作:crack

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21話 インターバル

 

 

騎馬戦が終わって、凛たち一年生は休憩時間に入っていた。

最終種目が行われるまでの間の、束の間の安息の時間だ。昼食を食べたり、応援合戦のようなことをしたり、これまでやってきた常軌を逸した競技ではない全員参加のレクリエーション種目もやったりするらしい。

 

そんな中凛は、今も会場のどこかで警備をしているであろう養父の元へ向かおうとしていた。目的は弁当を渡してもらうためだ。本来なら食堂でもいいのだが、養父がどうやら弁当を作ってくれたらしい。

 

朝早くから体育祭で頑張る自分のため、とか言う理由だろうか。

そんな性分ではないだろうに、彼は時たまそう言うことをしようとすることがある。具体的には、親らしいこと、だろうか。まぁ、作ってくれると言うのであればありがたくいただくのが凛である。

 

ただし、卵焼きが入ってなかったら怒る。

 

 

そんなふうに楽しみ半分でスタジアムの裏の廊下を歩いていたら、壁にもたれかかる勝己を凛は見つけた。こんなところで何をしているのか。なんだか気まずそうな顔をしているし、らしくない。

少し気になった凛は、そんな勝己に話しかけようとする。

 

「かつ……」

「!!」

 

シュバッ、止めにも止まらぬ速さと乱暴さで顎を掴まれ口を塞がれた。

結構な勢いでこられたので、とても痛い。なんだ、という抗議の意思を込めて睨みつけると、勝己は廊下のすぐ先の曲がり角の方を親指で指して示した。

なんだ、と思う間もなく廊下の先から声が聞こえてくる。

 

「……個性婚、知ってるよな」

「……!!」

(焦凍…?)

 

廊下の先から聞こえてきたのは、焦凍の声。相対する人は誰かはわからないが、なるほど勝己がしていたのは盗み聞きというわけだ。

 

あまり褒められた趣味じゃないね。

まあ私もちょっと気になるから聞くんだけど。

 

彼が言った個性婚とは、簡単に言ってしまえば個性の相性や強さを重視して配偶者を選び、個性の強い子供を得るために結婚を強いるというものだ。柔らかく言って仕舞えば、行き過ぎたスーパーベイビー願望とまとめることができるが、本人の意思や人権を無視した倫理観が欠如した前近代的かつ幼稚で押し付けがましい発想だろう。

丁度凛の養父のあたりの世代で問題になったもので、もちろん養父は関わっていないだろうが、話を聞こうと思えばネタの一つや二つあるだろうそれだ。

 

「親父は極めて上昇志向の強い奴だ。実績と金だけはあるその男は……母の親族を丸め込み——母の”個性”を手に入れた」

 

焦凍の父……ああ、この前どこかで聞いた気がするな。確かNo.2ヒーローの『エンデヴァー』だったはずだ。年間の事件解決数はオールマイトを超えて一位を誇っている、厳然とした性質で他者を近づけることをあまりしないヒーローだったはずだ。

凛自身も彼のことは尊敬している。

 

なるほどそんな彼が、超人社会のタブーとなった個性婚をしているとのこと。確かに問題であろう。

物陰に隠れる二人に気づく様子もなく、トントンと話は続いていく。

 

「俺をオールマイト以上のヒーローに育て上げることで自身の欲求を満たそうってこった。鬱陶しい……!そんなクズの道具にはならねえ」

 

だいたい読めてきた。そういう話を聞いてしまうと、色々見方が変わってきてしまう。

エンデヴァー(努力)というヒーロー名は、『ナチュラルボーンヒーロー』として世間の人気を一身に集めるオールマイトへの対抗心か当てつけか。

少し悲しい話だ。彼らも人間で、間違いを犯すことはあっても、裏切られたと感じてしまうのは仕方のないことだろうか。

 

「記憶の中の母はいつも泣いている……『お前の左側が醜い』と母は俺に煮湯を浴びせた」

 

半冷半燃とはそういうことか。左がエンデヴァーの燃焼で、右が母の個性……おそらく氷結系の何か。

彼が頑なに燃焼の力を使わなかったのはそのためか。

無意識に刀——『朱鵺』の入っている胸の内を撫でながら、そろりと隣で同じく盗み聞きをしている勝己に目を向けてみると、やはりなんだか気まずそう。うーむ、親の業という話題は、どうやら勝己でさえもこんな顔にさせてしまうほど触れづらい話題らしい。なるほど、響香が話すのを止めたのも納得である。

 

「ざっと話したが……俺がお前につっかかんのは、親父を見返すためだ。使わず”一番になる”ことで、やつを完全否定する」

 

……なるほど、焦凍はどうやらこの体育祭を通して父親を見返す腹積りらしい。なるほど、気持ちはわかる。わかるが、私たちにとっては完全に『手を抜いて優勝する』という宣言にしか聞こえないのも事実だ。

相対する私たちではなくて、優先するのが親のことというのは、ずいぶんと利己的なことで。使わずにやるとか見返すとか、誰よりも親に執着して、親の呪縛に囚われているのは焦凍自身じゃないか。

 

少々複雑な心境でいると、曲がり角の向こう側から焦凍以外の声が聞こえてきた。

 

「僕は……ずうっと助けられてきた。さっきだってそうだ……僕は——誰かに助けられて、ここにいる」

 

この声は、出久の声だね。話し相手は出久だったのか……どうして勝己が盗み聞きなんてしてるのかと思ったら、出久が話してたからだったんだね。こっちもこっちで、執着が強いことだ。

 

「オールマイト……彼のようになりたい。そのためには、一番になるくらい強くなくちゃ……君に比べたら些細な動機かもしれないけれど。でも僕だって負けられない。僕を助けてくれた人たちに、応えるためにも……!」

 

そんな出久の静かな決意のこもった声が聞こえてきた。そして出久は話を、こう締めくくる。

 

「僕も君に勝つ!」

 

話はそれきり終わったらしい。焦凍と出久の歩き去る足音が聞こえて、残されたのは勝己と凛の二人。

そっと勝己の方を伺えば、バッチリと目があった。

 

「何見てんだコラ」

「うにゃ……」

 

がしりと頭を掴まれて、情けない声が口から漏れる。

なんだ、さっきまでずいぶんしおらしかったと思ったらもういつもの調子ではないか、心配して損した気分である。

と、思っていたら、勝己は凛の頭を掴みながらおもむろに口を開いた。

 

「オイ、ぼんやり」

「……はなして」

「俺はお前に、三度(・・)負けた。これ以上負けるわけにはいかねえ」

 

三度?凛が勝己に勝った記憶は直前の騎馬戦くらいしかないのだけれど。他の二回はいつだったろうか。

 

「一度目は戦闘訓練の時、敵わねえと思っちまった。二度目はUSJの時、お前は俺より先に駆け抜けて相澤……先生を助けた」

 

それは勝った負けたの話ではないと思うのだけれども。

そんな凛の疑問をよそに、勝己はパッと凛の頭を押し除けるように離して、背を向けて歩き去る。

 

「俺が目指すのは完膚なきまでの一位だ……デクも、舐めプ野郎も、テメェも全部勝って一位になる……首洗って待ってろや」

 

そう言って、さっさと歩き去っていってしまった。

ふむ、首を洗って待っていろ、か。刀を使う私への当てつけかな。それはそうと。

 

勝己に追いついて、隣に並んだ。

 

「……私も、向かう方向そっち……」

「クッソが空気読めや死ね!!!!」

 

 

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 

 

その後養父と合流して、ねぎらいの言葉とご飯をもらった凛は意気揚々とA組控室のあたりに戻ってきていた。ちなみにご機嫌である。理由はきちんと卵焼きが弁当の中に入っていたから。単純という勿れ、凛にとっては実父のカレーと並んで、優しい思い出の詰まった品である。

 

そうして廊下を歩いていると、向こうから顔をツヤツヤとさせて歩いてくる電気と(みのる)を見つけた。どうしたんだろうか、何かいいことでもあったのだろうか。

 

「……電気」

「う、うお!霧崎!」

「? どうしたの?」

「い、いやー、なんでもねえよな、峰田」

「オイ霧崎お前こんなとこで何やってんだ!!さっさと八百万のとこ行けよ!モタモタしてっと始まっちまうだろうが!!」

 

誤魔化すようにした電気とは正反対に、実の方はなぜか目を血走らせて近寄ってきた。怒る理由もわからないし、そしてさらになぜかものすごく下心を感じるのだけれど。

 

「……え、なにが……?」

「ストップ、ストップ峰田!霧崎はダメだって!」

「あ”!?お前日和ってんのか!?霧崎のすらっとしたしなやかな肢体を存分に眺める……むぐ!」

「あ、あはは、霧崎ごめんなー、いや、急に峰田が変なこと言い出してよ」

「……まぁ、いいけど。百のところに行けばいいの?」

「あ、ああ。そうしてくれると助かるぜ……」

 

少々嘘の気配がしたが、さして気にするほどでもないだろう。

よくわからないが、電気の言葉に従って八百万を探すことにした。いったいなんだったのだろうか。

 

「おい何すんだよ!危うく霧崎を逃すとこだったじゃねえか!」

「霧崎はなんかめっちゃ勘とか鋭いからよ、下手なこと言うとバレるんだって!」

 

しばらく探したのち、凛はやっとこさスタジアムへの入り口あたりで他のA組女子と一緒になって待機している百を見つけた。

……なぜか全員、チアガールの格好をしていたが。

 

「……何、してるの?」

「あら、霧崎さん。奇遇ですわね、というか貴女も早くこれに着替えてくださいまし」

「……これ?」

「そうですわ。どうやら午後からチア合戦のようなものがあるらしく、相澤先生からの伝言?とかで急遽この格好をしなければならなくなりましたの」

「……ん、わかった。着替えてくる……」

 

話の展開に違和感は感じたものの、嘘の気配はなかったので、凛はとりあえず着替えることにした。

 

そうして着替え終わってA組に合流し、スタジアムへ出てみると……。

 

『どーしたA組ぃ!?』

 

確かに、チアの格好をしている人はいたけれども。全員白人の外国人だったし、多分あれ雄英生でもなんでもないし……

 

「峰田さん上鳴さん!騙しましたわね!?」

 

あぁ……そう言うことか。

八百万から嘘の気配を感じなかったのは、彼女が完全に信じ込んでいたからだろう。逆に電気と実から感じた嘘の気配をもっと深読みすべきだったか。いや、もはやもう遅い。

 

まぁ、でも。

 

「なぜこうも峰田さんの策略にハマってしまうの私……」

「アホだろアイツら……」

「まあ本戦まで時間空くし張り詰めててもしんどいしさ、いいんじゃない?やったろ!!」

「ん……ちょっと、楽しいかも……」

「凛ちゃんも透ちゃんも好きね」

 

やったことはないけれど、こう言う時間も悪くはないなと、凛は思うのだった。

 






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