ポッキーの日ですね。作者はトッポの方が好きです()
投稿間隔が開いて申し訳ない……
『さぁさぁ楽しく競えよレクリエーション!それが終われば最終種目、進出4チーム総勢16名からなるトーナメント形式!一対一の、ガチバトルだ!!』
凛たちがチア衣装でワイワイ騒いでいると、プレゼントマイクからそんな感じの煽り文句が入ってくる。昨年はスポーツチャンバラだったらしいが、今回は普通にサシで戦うんだって。
んー、私はスポーツチャンバラの方が得意だと思うけど、まぁそれは仕方ない。
対戦の組み合わせはミッドナイト先生のくじで決めるらしく、先生が箱を持って壇上へ上がってみんなを集める。
「それじゃあ、一位のチームから……」
「あの、すみません……!」
それに待ったをかけるものが一人。凛と騎馬戦を組んでいた尾白だった。
思い詰めたような、だけれども確かに決心したような表情で尾白は口をひらく。
「俺、辞退します」
「!!」
「あ……」
その時。
凛はちょっと、失敗したと思った。
「騎馬戦の記憶……終盤までほとんどないんだ」
記憶がないのは言わずもがな、心操の個性のせいだ。”洗脳”にかかっている間は被洗脳者は記憶が残らない。
凛が見守る中で、尾白は話を続けていく。
「チャンスの場だってことはわかってる……でも!みんなが力を出し合い争ってきた座なんだ。こんなわけわかんないままそこに並ぶなんて、俺はできない」
そこまで考えが及んでいなかった、と言うのは言い訳にしかならない。だけれど、自分が序盤のうちに彼の洗脳を解いておけばとは思ってしまう。それはでも心操を裏切ることになるわけで……。
「……猿夫……」
どうにもならなくなって、凛は尾白に声をかける。彼のプライドを踏み躙る行為に加担してしまったことは事実で、覆りようがない。それを謝罪すべきか、どうすべきか。口篭った凛に、尾白は顔を伏せながら声をかけた。
「いや、霧崎さんは関係ないよ……俺のプライドの話さ。俺が嫌なんだ……!」
「……ごめんなさい……」
「いや、君は本当に関係ないよ。いや、正直俺の洗脳を早めに解いてくれれば、なんて考えないこともないけど、それでも俺が奴の術中にはまったことは間違いないから。俺の分も最終戦で頑張ってくれよ……後なんで君チアの格好してるんだ……!」
「……ん、わかった」
いいひとだ、と凛は思う。
決して他人の責を問うことはせず、重荷を感じさせないような物の言い方だ。逆になんとなく居心地が悪くなって、今度何か埋め合わせでもしようかな、と凛は思ったのだった。
同時に、凛の騎馬のメンバーのうち洗脳にかかっていたもう一人、庄田も辞退の旨を口にする。
何もしていないものが上がることは、この体育祭の趣旨に反していると。なんとも正義感の強い男だと、凛はあまり知らぬ彼に好印象を抱いた。
「そういう青臭い話はさァ……好み!!庄田、尾白の棄権を認めます!!」
そう言うわけで、最後まで健闘していた鉄哲チームの二人、鉄哲と塩崎が繰り上がって、最終戦のトーナメント進出者16名が決定した。
凛の第一回戦の相手は……
「……あ」
「げっ」
凛が自分の名前を見つけるとともに、隣からも聞き覚えのあるクラスメイトの声がした。そっとそちらを振り向くと、やはりお目当ての人物。
「……よろしく、電気?」
「こっちゃよろしくしたかねーよぉ……」
第一回戦の相手は、雄英において凛が最も付き合いの長い人物のうちの一人、電気だった。
しょんぼりとした顔の電気を見て、凛も少し気が抜けてしまった。
「……上鳴、あんた頑張りなよ」
「くっそなんとか頑張るよ!!チクショウ!!」
◆ ◆ ◆
レクリエーションの時間は、凛にとっても結構楽しいものだった。
普通の学校の体育祭のような大玉転がしや借り物競走、あとはチアダンス(?)とか。ちなみに借り物競走のお題が『爆発物』だったので凛は結局最下位になってしまったが(爆豪を連れてこようとして案の定失敗した)。
さて、そんなこんなでもうおやつの時間である。凛はボーッと空の雲を眺めながらなんとなく卵焼きに似ていそうな雲を探していたのだが、やがてその思考はプレゼント・マイクの大音量に打ち消される。
相も変わらず煩い彼の声が、最終種目の開幕を告げた。
『Hey guys! アーユーレディ!?色々やってきましたが、結局これだぜガチンコ勝負!』
凛の出番は三戦目だ。まだ少し時間があるので、一戦目の戦いをスタンドから眺めることにしていた。ちなみに第一試合は出久と人使のマッチアップである。どちらを応援するか、凛の心情的にだいぶ複雑ではあるのだが……
「霧崎はどっちが勝つと思う?」
「んー……多分、出久だけど」
「やっぱり?あ、でもアンタあの心操って男子と騎馬組んでたじゃん?何か知ってるんでしょ?」
「ん。人使の個性は”洗脳”……自分の言葉に返事した人を、洗脳状態にするやつ……」
「え、つっっよ」
隣の響香がそう問いかけてきたので、自分の考えを告げた。ちなみに二人ともすでにチアの衣装は脱いでいる。
それでも。
十中八九出久が勝つだろう、と言うのが凛の予想だ。凛は特に何もしていないが、先ほど尾白が出久と話しているのを見た、おそらく情報共有をしていたのだろう。人使は”個性”のタネが割れて仕舞えば途端に戦いづらくなってしまうし、今回も出久がタネを知っているのであれば人使の勝率はないに等しいだろう。
『一回戦!成績の割になんだその顔、ヒーロー科!綠谷出久!!
「猿夫が、出久に人使の個性のことは伝えてると思うから、多分勝てない。……でも」
「でも?」
ヒーローとしての活躍を目指すのならば、人使が克服すべき点はまずそこだろう。
それこそ例えば、洗脳をかけられる条件の広域化、声真似の技術の習得、あと、この体育祭でも見せていたような——
「勝てる方法があるなら、」
『レディィィィ——』
「あの猿は
『STAAAAAART!!!』
「挑発、とか」
「チャンスをドブに捨てるなんて馬鹿だとは思わないか?」
「———!!なんてこと言うんだ!!」
人使が何を言ったのかは、スタンドからは遠くて聞こえなかったが、唇が動いていたのはわかった。
そして、対照的に、その後に続いた出久の怒りの声はスタンドからもよく聞こえて——
瞬間、出久の動きがぴたりと止まった。
「……ん、さすが……」
「え、なになに、どう言うこと?」
「多分、出久が怒る事を言って返事を引き出した……人を煽ることにかけては一人前……」
「それ褒めてる……?」
「ん、褒めてる」
出久は良くも悪くも直情的だ。
純粋に人のために優しくできて、人のために行動できて、人のために怒れる、そんな人。その良さが行き過ぎた自己犠牲につながっている節はあるんだけど……。まぁ、今回はそれが悪い方向に働いてしまったと言うだけの話だ。
『緑谷完全停止!アホ面でビクともしねえ!』
観客のどよめきとプレゼント・マイクの絶叫が合わさって、随分と騒がしい。その様相に辟易しながらも、凛は眠たげな目で試合を観察する。
「お前は、恵まれてていいよなぁ緑谷……振り向いてそのまま場外まで歩いてけ」
なんだか羨むような顔で、ボソリと人使が何かを呟いた。それと同時に、出久が機械的な動きで場外まで歩き出す。
「ちょ、緑谷……!」
「んー……」
「アンタもちょっとは反応しなよ!」
“洗脳”にかかった時点で試合は決着——の、はずなのだが。どうにも出久が負けると言う予感がしない。なんでか?理由はわからない。ただ結果に対する直感のみが、凛にそう告げていた。
そのまま歩いて、場外まであと数センチとなったところで。
瞬間、出久の指が暴風を産んだ。
「うわっ……何!?」
「洗脳の……自己解除……?」
確かに、洗脳はある程度の衝撃が与えられれば解除可能だ。だがしかし、自分での解除は不可能に近い。洗脳中は自由意志がなく、体は自由に動かせないと言うのは尾白が語ってくれた。
もし他者の介入なしに洗脳を解除する方法があるとすれば——精神的な何か?例えば、
ならばますます理由は不明だ。
凛が考える間にも、状況は進んでいく。
「〜〜〜!!指動かすだけでそんな威力か、羨ましいよ!!」
……なるほど、人使の個性は確かに強力だ。だがしかし、彼の人生の中ではそれを怖がられる機会の方が多かったんだろう。気味悪がるもの、避けるもの、利用しようとするもの。理解者は少なく、生活は窮屈。それ故の人格形成だったのだろう。
「俺はこんな”個性”のせいでスタートから遅れちまったよ。恵まれた人間にはわかんないだろ」
ざっざと、出久は心操への歩みを止めない。
「誂え向きの個性に生まれて!望む場所に行ける奴らにはよ!!」
確かに、そうだ。
凛は自分のこれまでの短い人生を思い返してみる。それは、目を背けたくなるほどひどいものだったか。
いいや、断じてそんなことはない。父がいて、刀があって、養父がいた。それらに恵まれていたんだ。
無言を貫き通した出久が、ついに心操の元に辿り着く。個性は使わないようだった。
拳だけでの、泥臭い取っ組み合いで——その末に。
「心操くん場外!!緑谷くん、二回戦進出!!」
出久の背負い投げで、試合は決した。
二人には場内から拍手が送られるが、人使の表情は暗いままだ。
……負けたら終わりとか、考えてるのかな。憧れは終わり?ヒーローにはなれない?
いいや。強い気持ちに応える人は、この世界にはいくらでもいるんだよ。
「かっこよかったよ、心操!」
「正直ビビったよ!」
「俺ら普通科の星だな!」
「この個性、対
「雄英も馬鹿だなー。アレ普通科か」
心操が、呆然としたような表情で、その声に耳を傾ける。
視線を巡らせ……そして、目が合った。
どうすればいいのかわからなかったので、ヒラヒラと手を振ってみる。
くしゃりと顔を歪ませた心操が、決意を顔に浮かべて。
「今回はダメだったとしても……絶対に諦めない。ヒーロー科入って資格取得して……絶対お前らより立派なヒーローになってやる」
ただの憧れでしかなかったものが今回の経験を通して、彼にとっての明確な目標になったのだろう。
いつまでも待ってる——いや、きっと彼とは共に道を歩んでいくのだろうと、凛は心の中でそっと予感した。
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