第一回戦が終わって、凛はA組の固まって座る席の辺りに戻ってきていた。
フィールドに目を向ければ、ちょうど天哉とサポート科の女子……発目とが戦いを繰り広げていた。発目という女子は出久と騎馬を組んでいた生徒で、サポートアイテムを駆使して出久を支えていたのを凛も覚えている。
……ただまぁ、フィールドの様子はちょっと異質だったが。
『どうですか飯田くん!いつもより足が軽く上がりませんか!?それもそのハズ、私が開発したそのレッグパーツが着用者の動きをフォローしているのです!』
「……何、アレ?」
「クソ漫才」
「タチの悪い通販番組」
「体育祭の私物化」
「そっか……」
サポートアイテムを装備させた天哉の攻撃を発目がただひたすらにサポートアイテムで回避あるいは迎撃し、その度サポートアイテムの性能を観客席に向けてマイクで高らかに説明する。
おおよそ、プレゼント・マイクの言うようなガチバトルには見えない戦いが目の前で繰り広げられていた。
……それがかれこれ5分10分くらい続いた後、最終的に発目が自ら場外へ出ることで勝負は決したのだが、いや本当に何だったのだろうか。
ちなみにこれまでの全試合の内容だが、個性なしの殴り合い、瞬殺、瞬殺、通販である。
やがて試合は進み、三奈対塩崎、踏影対百、鉄哲対鋭児郎と言う試合が行われ、会場のボルテージはどんどんと上がっていく。三奈と塩崎というB組の少女との試合は、個性の相性もあって三奈が勝利し、他に試合もそれぞれ踏影、鋭児郎が勝利した。特に鉄哲と鋭児郎との二人の戦いはバトルでは決着がつかずに腕相撲で勝負を決するところまでも連れ込んだので、それなりに見応えがあったのだが。
「さて、と」
「いや、きたなー……」
「ある意味最も不穏な組ね」
「ウチなんか見たくないなー」
「……ん」
さて、問題の対決。一回戦最終試合、お茶子vs勝己の試合だ。普通に凛にも先行きが読めないので不安ではあるのだが……と、このタイミングでフィールドに上がってきたお茶子の顔を見る。その表情は存外に頼もしく、心配はなさそうだった。
意外となんとかなりそうだ。
『中学からちょっとした有名人!堅気の顔じゃねえ、ヒーロー科爆豪勝己!
私情マシマシ……。
気持ちはわからなくもないけれど、凛としてはどちらもフェアに応援してあげたいと考えている。どちらも凛の友人ということもあるが、それ以上に両者ヒーローの卵としての覚悟と自覚を持っているのだ。色眼鏡をかけて仕舞えば失礼というもの。
やがて試合が始まる。
展開はやはり予想通り、勝己有利の圧倒的なワンサイドゲーム。お茶子も策を弄して必死に挑むけれど届くことなく、勝己の攻撃が通るたび観客から悲鳴が上がる。
「お茶子ちゃん…!」
「あいつまさかそっち系の……」
なんだか変なことを考えていそうな実は木刀で叩いておいた。
勝己は少なくともそんな趣味はないよ。……多分。なんだか自分でも不安になってきた。
やがて一方的な展開、それも一見すると強固性の男子生徒が決め手に欠ける女子生徒に一方的に攻撃を加えるという図についに我慢の限界を超えたのか、観客席からブーイングが上がる。
「おい!!それでもヒーロー志望かよ!そんだけ実力あるなら早く場外にでも出せよ!女の子いたぶって遊んでんじゃねーよ!」
「そーだそーだ!」
「……うわ、すごいブーイング」
「ん、多分、気づいてないんだろうけど……」
「だよね、ウチ正直麗日のことナメてたわ……」
当然のように、相澤先生からブーイングをしたヒーローに叱責が飛ぶ。まぁ、お茶子によって視線を低く保たされている勝己は仕方ないが、観客席から見てこの光景に気づいていないのならば視野狭窄にも程があるというものだ。
度重なる爆撃によって抉れたフィールドのコンクリの破片は、今や不自然なほどに地面の上に存在しない。どこにあるのかといえば——それは、フィールドの上空にふわふわと浮いているのだ。
『本気で勝とうとしてるから、手加減も油断もできねえんだろうが』
その相澤先生の言葉通り、お茶子は未だ死んでいない目を勝己に向けた。……そろそろか。
一言二言お茶子がつぶやいたのち——上空から隕石が如くコンクリートの破片が降り注ぐ。
『流星群–—!!』
『気づけよ』
ドドド、と瓦礫が勝己めがけて降り注ぐ。いや、勝己だけではない。お茶子自身もこのままだと巻き込む可能性があるほど大量に……それほどの覚悟を持って、お茶子はこの作戦を決行したのだろう。だが、その覚悟虚しく。
爆音ひとつ鳴り響いて、その瓦礫は全て吹き飛ばされて消えてなくなってしまった。
『会心の爆撃!麗日の秘策を堂々——正面突破!』
すでにお茶子はボロボロ、しかしなおも立ち上がらんとして……キャパオーバーしたのだろう、どさりと倒れ伏してしまった。
「麗日さん行動不能、爆豪くん二回戦進出——!」
これにて、全ての一回戦の試合が終わった。
◆ ◆ ◆
やがて勝己が観客席に帰ってくる。
そんな彼に、A組の面々が声をかける。
「おーうなんか大変だったな悪人面!」
「組み合わせの妙はいえとんでもないヒールっぷりだったわ爆豪ちゃん」
「うるっっせぇんだよ黙れ!」
暖か最も言える声かけだ。こういうところが、ヒーロー科がヒーロー科たる所以かもしれない。
どさりと空いている席️——凛の隣に腰掛ける勝己そんな勝己に、電気がおちゃらけた感じで声をかける。
「まぁーしかしか弱い女の子相手によくあんな思い切りのいい爆破できるな……俺はもう霧崎相手にゃそれはもう遠慮しちまって……」
「……ん、そうなの?」
「完封だったわ、上鳴ちゃん」
「……あのな梅雨ちゃん……」
そんなやり取りは聞いてすらいないだろう勝己が、ボソリと凛の隣でつぶやいた。
「どこがか弱ェんだよ……」
ちらりと勝己の顔を伺えば、相も変わらずの人相の悪さだったが、どことなく悔しさが滲んでいた。そんな勝己に凛は声をかける。
「ん、ナイスバトル」
「ったりめえだ」
この場合、どういうふうに労うのが適切だろうか、と考えたところでふと対人戦闘訓練の後にオールマイトにしてもらったことを思い出した。あれなら勝己も喜ぶだろうはず……
「ん……」
「…………は?」
驚くべきことに……凛は唐突に勝己の頭を撫で出した。
一瞬何が起きたのか分からずフリーズした勝己だったが、すぐに再起動して凛の手を払いのけ叫ぶ。
「何しやがるクソボケェ!!?」
「こうされたら、みんな喜ぶ……」
「俺はガキか!?あ”ぁ”!?」
「爆豪相手にあの扱いできんのすげえよ霧崎……」
「なんか、まじやべえって感じだよな……」
未だ怒れる勝己のことは気になるが、生憎凛はもう控え室に向かわなければならない。出久と焦凍との試合はすごく見たかったが仕方がない。控え室のモニターで我慢しよう。
そんなこんなで、凛は観客席を後にした。
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