「早速だが、コレ着てグラウンドに出ろ」
クラスの混乱が冷めやらぬうちに、相澤先生はジャージのようなものを着てグラウンドに出るように促してきた。
このあとはてっきり入学式があるものだと思っていたんだけど、違うのだろうか。
そんな疑問は解消される暇もなく、当の相澤先生なんかは更衣室とグラウンドの位置を説明したあとは、さっさと教室を出てグラウンドに向かってしまった。
いつまでも教室に残っていてもどうにもならないし、グラウンドに出てくるのが遅かったら遅かったでまた相澤先生が怒りそうだと言うことで、皆でグラウンドに向かうことになった。
「霧崎、一緒に行こ?」
「……ん。木刀だけ、持ってく……」
「なんでさ?」
「んー、なんとなく……?」
いつも通りの直感ゆえだった。
そんなわけで、手には木刀、もう片方の手にはジャージを持って、響香と凛は並び歩いて更衣室の方へ向かう。
……その途中で見かけた隣のBクラスは、まだ教室に残ってガイダンスのようなものをやっているようだった。
◆ ◆ ◆
「「「個性把握……テストォ!?」」」
訳もわからずグラウンドに出てきて告げられたのは、『個性把握テスト』の実施、と言うものだった。
亜麻色のボブカットが特徴的な少女が相澤先生に詰め寄るが、雄英の校風は「自由」だから、教師達も自由に行動していい、なんていう、拡大解釈の極みのような返答を返され、言葉を詰まらせてしまう。
「相澤センセ、なんかめちゃくちゃだね」
「ん。入学式、ちょっと楽しみだったのに……」
「ね」
凛と響香話している間にも、個性把握テストの内容は語られていく。
「爆豪、中学の時ソフトボール投げ何メートルだった」
「……67m」
「じゃあ、個性を使ってやってみろ。思いっきりな」
「……んじゃまぁ」
相澤先生からボールを手渡された男子生徒——爆豪は、円の中に入り不敵な笑みを浮かべる。さっきまで凛は彼と喧嘩していたこともあって、凛も真剣に見つめていた。
やがて彼は、ボールをおおきく振りかぶって。
「死ねぇ!!!」
物騒な言葉と、空気を切り裂く爆音と共にボールを放り投げた。
「死ねって、言った……」
「言ったね……」
「やっぱ、悪い人……?」
「曲がりなりにもヒーロー科志望だし、最低限のラインはあるっしょ。……多分」
爆風に押されて遥か彼方まで飛んでいったボールは、米粒ほどの大きさになってようやく落下を始めた。ボールが地面につくと同時に、相澤先生が手に持っていた端末から『ピピッ』と言う音がした。
「まず自分の『最大限』を知る。それが、ヒーローの素地を形成する合理的手段……」
示された表示は、705.2m。おおよそ個性なしでは見ることは絶対にないような数字だった。というか、どうやらこのグラウンドは奥行きが700m以上もあるらしい。改めて、雄英は異常だと凛は思った。
クラス中が湧き上がり、クラスメイト達が口々に突如始まった個性把握テストへの期待感を口にし出す。しかし相澤先生は、そんなクラスの様子を冷ややかな目で眺めていた。
そして、静かに口を開く。
「……ヒーローになるための三年間、そんな腹積りで過ごす気でいるのかい?」
「「!?」」
いきなり雰囲気の変わった相澤先生に、騒いでいた面々が凍りつく。
そんな中、凛はいつも通りの、なんとなくぼんやりしたような瞳で相澤先生のことを眺めていた。
「よし、トータル成績最下位の者は見込みなしと判断し、除籍処分としよう」
「「はああああ!?」」
「……げ、ウチちょっとまずいかも……」
「ん……がんばって?」
「アンタは……まあ、刀使いだし、武闘派って感じするから大丈夫そうだよね」
「どう、だろ……?」
入学早々の『除籍』と言う危機を前に、響香の胸には少しの不安が湧き上がったようだった。凛はそんな響香の方をチラリと見たあと、最初の種目である50m走のトラックの方へ向かっていった。
◆ ◆ ◆
【第一種目】50m走
「お、隣は霧崎か。よろしくな!」
「ん」
50m走は二人ずつ走るらしく、凛の相方は入試で共に闘った上鳴だった。彼の個性、『帯電』も増強型の個性ではないし、これらのテストには響香同様不向きなため、あまり高い成績は望めない……が。
『6.87!』
「まあ、中学ん時とは変わんねえよな……あれ、霧崎は……?」
『7.99!』
「……んー……」
凛がゴールしたのは、上鳴の1秒もあと。そんな凛の様子に、上鳴が声をかける。
「あれ?霧崎お前、入試の時もっと速くなかったか?」
「でも、これ、中学の時よりは上がってる……」
「お前、中学の時いくつだったよ?」
「8.2秒……」
「ウッソだろ!?もっと早いイメージだったわ……」
「……ん」
上鳴から見ても、明らかに入試の時に見せた加速よりも遅かった。
凛としても、稽古や鍛錬以外であんまりこうして全力で走ったりしたことがなかったからだろう。そうした能力の乖離に首を捻っていた。
【第二種目】握力測定
「ん……34……」
「……なあ、やっぱ変じゃないか?」
「なになに、どしたの」
上鳴の中での凛のイメージは、入試の巨大ロボの両腕を切り落とした時の圧倒的で強烈な強者のそれだ。だからこそ、この数値には違和感を覚える。
そんな凛と上鳴の様子を見て、少し遠くで測定していた響香も近づいてくる。話を聞いた響香もとりあえず、原因を考えてみる。
「ねえ上鳴。入試の時、ってのは、どんな感じだったの」
「ああ、マジでカッコよかったんだぜ!0ptの巨大ヴィランって居たろ?俺、霧崎に無理やり誘われて一緒にそいつ倒そうってなったんだけどさ。霧崎が、自分は注意を惹きつけるって言うから、何すんのかと思ったらよ、あのロボの腕を駆け上がって、両腕を刀で切り落としたんだぜ!!いやー、ありゃ痺れたぜ!」
「……え、まじ?」
「ん、まじ」
「へー、アンタ、めっちゃすごいじゃん」
「……えへへ」
響香の率直な感想を聞いて、ほんわりとした笑顔を浮かべた凛に、上鳴も響香も少しほっこりとした気持ちになる。
刀を持っている時と、日常生活とで、雰囲気が全く違う。ギャップっていいよな、なんて上鳴は考えていたのだが。その思考の途中で、引っかかるものがあった。
「……ギャップか」
「お、上鳴、なんか思いついた?」
「ああ、入試ん時と今との違いって言ったら、刀を持ってるかどうかじゃね、って思って」
「あー、なるほどね。霧崎、アンタ確か木刀持ってきたよね?」
「……わかった、持ちながら測ってみる……」
邪魔にならないところに置いておいた木刀を左手に持ち、もう一方の手で握力計を握って、2回目の握力測定を開始した。
「んん……!あ、70kg……」
「マジかよ、ほぼ2倍じゃん!?」
「あー、アンタそう言えば個性の詳しいことは知らないって言ってたっけ。でも、普段の生活とかで違い感じなかったの?」
「ん……。学校の体育の時とかは、あんまり真面目にやってなかった、かも……」
「だからわかんなかったのね……」
何はともあれ、疑問は解消されて、除籍回避の目処も立ったと言うことになる。相澤先生にも刀を持った状態で測定していいかも聞いたが、刀を記録測定に直接干渉させず、あくまで刀を持った時の記録を測るだけ、と言う条件でOKをもらえた。
「ん……よかった」
「いやー、にしても、刀持ってる時に身体能力2倍って……マジですごいな、その個性」
「ウチの個性、こーゆーとこじゃ使いづらいから、ちょっと羨ましいかも」
図らずも感想が一致した上鳴と響香の二人は顔を見合わせ、同時にため息をつく。
「「はぁ……」」
「……がん、ばって」
胸の前で両腕を握られて応援された二人は、苦笑しながらも歩き出す。
そんなこんなで、三人は次の種目、走り幅跳びの方へ向かっていった。
個性『サムライ』
現状能力
・「斬れる」と思ったものを斬れる
・刀所持時の身体能力向上
・勘が鋭くなる
凛ちゃんの素の身体能力が低いのは、基本トレーニングとかではなく刀の稽古しかしてないからです。『刀を使った運動』では、純粋な身体能力はあんまり伸びず、個性の能力だけが伸びる仕様です。
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