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第四種目の反復横跳びまで終わって、凛達はソフトボール投げのサークル周辺にたむろしていた。
八種目の半分まで終わって、大体の競技の記録なんかも全員判明している。したがって、この時点ですでに除籍の当落線上にいる生徒達なんかも判明してしまっているわけなのだが。
「電気も響香も……なんだかんだ、大丈夫そ……?」
「だなー。つっても、油断は出来ねえけど」
「ウチも。まあ、成績は中学の時よりそんな変わんないんだけどさ……」
どうやら響香も電気も、素の身体能力でカバーしているみたいだった。
凛は刀を持ってからの記録であれば、クラスの中央値以上の記録を出せていたため、それなりに安心している。手慰みに木刀を弄りながら、二人との雑談に興じる。
「つーかさ、すげえつったらあの女子だよな。えー、っと名前なんだっけ」
「八百万?」
「そーそー。個性で出した道具使えるんだろ、なんかすげえっつーか……ずるい?」
「ん……それも含めて、実力……」
そんな話をしていると、近くでも似たような話をしているクラスメイトがいた。
「緑谷くんはこのままだとマズいぞ……?」
「ったりめーだ!無個性のザコだぞ!」
先ほどの喧嘩の件で面識のできた、飯田と爆豪であった。話の内容が気になったのか、凛はそちらの方へ視線を投げかけた。
「無個性!?彼が入試時に何をしたのか知らんのか!?」
「は?」
「……なんだアイツら、また喧嘩してんのか」
「懲りないね。ってか、緑谷って無個性なの?」
「さぁ?でも、あの爆豪ってやつ緑谷と知り合いっぽいし、そうなんじゃねえの?」
「……んん、知り合いなのは、そうかも。けど、無個性は、違う気がする……?」
「なんで?」
「……勘?」
「勘かぁ……」
ボンヤリと会話を続けているうちに、件の出久が投げる番となった。なんだか思い詰めたような表情で、サークルの中に入っていった。
相澤先生からボールを受け取り、決意を固めたような瞳で前を向く。ボールが投げられる直前、凛は出久の腕に尋常ではない力が込められていくような光景を幻視した……が。
「46m」
「……あれ、やっぱ無個性なのか?」
「ん……ちがう。たぶん、相澤先生……」
凛が呟いた言葉の答え合わせのように、相澤先生が言葉を告げた。
「”個性”を消した」
「!?」
「つくづくあの入試は……。合理性に欠くよ。お前のような奴も入学できてしまう」
逆だった髪に、出久のことを睨みつける形で大きく開かれた瞳。相澤先生が、先ほどまでの不審者が如きダウナーな雰囲気とは違った、ヒーローらしい威圧感を纏って立っていた。
抹消ヒーロー、『イレイザーヘッド』。彼のヒーローとしての名は、そう言うらしい。
「知ってるか?」
「ん……知らない」
「あー、なんか聞いたことあるかも。メディア嫌いで有名らしいよ。地上波だと見ることないんじゃない?」
「ふーん。なんか最近の人気至上主義みたいなヒーローじゃないのな」
「……逆にそっちの方が、ヒーローとしては、信頼できる、かも?」
「確かにそうかも……見た目社会不適合者だけど」
「それな」
なんとも好き勝手に言う二人であった。こんな明け透けな雰囲気も、凛は嫌いではない。ぼーっと凛の眺める前で、対照的に追い詰められたような雰囲気の出久が二投目の準備に入る。
ブツブツと、他の人には聞こえないが何か考えている様子だった。やがて結論が出たのか、彼は二投目に入る。
また、先ほどと同じように空の腕に力が凝縮されていくのが凛の目には見えた。一投目とほぼ同じような、そんな力の入り方だったけれども。
少しの違いに、凛は目をとめた。
「今度は、指、だけ……」
「え?どういう……」
「
空気を切り裂く音と共に、ボールは空の彼方へと飛んでいく。弾道は、先ほどの勝己のそれと同じか……いや。——結果は、わずかに上回って。
相澤先生の手元の端末に表示された数値は、705.3mを示していた。
「まだ……動けます!」
「こいつ……!」
宣言と共に、相澤先生へガッツポーズを向けた。
その熱量に、クラスメイト達からも歓声が上がる。その様子に、凛の隣で見ていた電気も思わずといった風に声を出した。
「うお、すっげ……」
「ん、かっこいい」
「……え、アンタのタイプってあんな感じのやつなの?」
「……たいぷってなに?」
「あ、うん。なんでもない。ウチが聞いたのが間違いだった」
……果たして凛がそういった機微を理解する日は来るのだろうか…。
ともかく。その後も、緩やかな様子で凛の個性把握テストは推移していった。
(ついこの間まで……!道端の……石っコロだったろーが!!!)
打ちひしがれたような、焦燥と怒りがない混ぜになったような表情で出久を睨む勝己を、凛は感情の読めないような瞳で見つめていた。
そこからふいっと視線を外して、凛は歩き始める。
いかに春の日といえど長袖のジャージは暑いな、なんて密かに考えながら。
◆ ◆ ◆
やがて全ての計測が終了し、相澤先生の元へ全員が集められた。
「んじゃ、パパッと結果発表」
そんな中、凛の隣に立つ電気が小さな疑問を漏らした。
「やっぱ、最下位除籍処分にするって本気なんかな」
「ん……本気、
「まじか……」
「さっきまでは、ね……」
「トータルは単純に各種目の評点を合計した数だ……」
「ちなみに、除籍はウソな」
「「「………!?」」」
「……ん、8位……」
相澤先生の告白に、クラスメイト一同が硬直した。
そんな生徒達を嘲笑うように(というか凛の耳には相澤先生の「ハッ」という声がはっきり聞こえた)相澤先生が告げる。
「君らの最大限を引き出す、合理的虚偽」
「「「はーーーーー!!?」」」
蒼穹に、クラスメイトの絶叫が響き渡って。
入学初日のくせに、随分と濃厚だった個性把握テストは、終わりを告げた。
ちなみに、高校時代の筆者自身がどういう記録だったのか気になって、引っ張り出して見返してみたところ。
握力が30kgでした(笑)。
他の種目はそれなりだったんですけど、この握力と、あと長座体前屈は壊滅的でしたね。
個性把握テスト成績
《霧崎凛》
順位:8位
50m走:7.99秒(刀なし)
握力測定:70kg
立ち幅跳び:6.23m
ソフトボール投げ:88m
反復横跳び:77回(20秒間)
長座体前屈:57.7cm
上体起こし:44回(30秒間)
持久走:3分33秒(1500m)
ゾロ目が多いのはテキトーに考えたからです。
ヒーロー記録的なのはない代わりに、平均値がバカみたいに高いと考えてもらえれば。
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