Prologue ― 刺激したら、終わり。
名峰エジェイを望む高地に、ちょうど中華漓江沿いの山の如く聳え立つ、難攻不落の城塞都市がある。その名は〝エジェイ〟。
…その城塞都市エジェイの行政府庁舎に、綺羅びやかな将官服を身に纏った"ノウ"将軍は居た。
「ノウ将軍。その…会談前にですね、閣下の…率直な考えをお聞かせ願いたいのです。
そう聞かれたノウ将軍は、「…正直、要らん連中だ。」とだけ答え、質問の主に〝言いたい事は分かるだろう?〟と言う様な表情を向けた。
―――グレゴリオ暦1908年12月31日(中央暦1638年12月31日)。
旭日の大帝国〝大日本帝国〟は、突如として異世界に転移した。
…
グレゴリオ暦1909年(中央暦1639年)の春、クワ・トイネ公国は隣国たるロウリア王国からの武力侵攻を被った。
クワ・トイネから大量の作物を輸入していた日本は、国家の存続が脅かされる事態(そして大陸における
しかし…この派遣軍が、後述する〝とある理由〟によって、ロウリア・クワトイネ両国における災害と化す事が、派遣決定時点においては誰も想像して居なかった。
ノウ将軍は正直…ニッポンの南方派遣軍を〝厄介者〟と認識していた。
…彼にとって、城塞都市エジェイは〝彼の独壇場〟であったからである。
「閣下、ニッポンのオオウチダ将軍が来られました。」
その声に、ノウ将軍は襟元を正した後、立席してニッポンの将を迎えた。
「ノウ将軍閣下、お初にお目にかかります。
私は中桑*1方面軍隷下、第18師団長の大内田であります。」
ニッポン側の軍服には、若干の気品は感じられるものの、クワ・トイネ軍における将官服と比べれば、質素さを覚えざるを得ない。
「…これはこれは。良く、おいで下さいました。
私はクワトイネ公国軍、西部方面師団長のノウと申す者。この度の援軍、感謝致します。」
すると彼は窓の方へ歩き出し、語り始めた。
「ニッポンの旅団長殿。憎きロウリア軍は既に大都市ギムを陥落せしめた。
間もなく、この明媚なるエジェイの山麓は血塗られるであろう。
…しかしながら、見てお解りであろうが…我がエジェイ要塞は正に〝鉄壁〟〝難攻不落〟である。之を抜く事は…不可能と言っても宜しいであろう。」
…堅牢なる城壁、その高さ、メートル法にして約20。一万の大軍であろうと、百戦錬磨の強者であろうと、何者にも越える事は出来ない。
城塞都市の滑走路には、〈蒼の覇者〉たるワイバーン部隊が、要塞司令部による出撃命令を今か今かと待ち続けている。
正に鉄壁。正に完璧なる防御体制。
ノウ将軍は、この大要塞に国家生存の道を見出していた。
「我が隊はこの大要塞に敵先鋒を引き付け、ロウリア軍に
貴隊にあっては現時点での貴隊の基地で、我が要塞の後方支援に当たって頂きたい。」
兵が居れば飯を食わせねばならない。
つまる所、兵が居れば居る程、必要物資は増えていく。
…要塞戦において多すぎる兵は、かえって物資不足による自滅を招くのである。
〝私はこの要塞に国家の命運を賭けている―――だから邪魔をしないでくれ〟
その様な意図も含まれた、ノウ将軍の発言であった。
当然ながら、相手にもプライドがある事を承知で。
「…後方支援…と仰りましたか?」
「如何にも。貴隊にあっては我が隊の後方支援をして頂きたいのである。」
大内田は、ほんの少し何かを考えた後、
「…では…エジェイ要塞に、戦局把握の為の観測要員を派遣させて頂いても宜しいでしょうか?」
「……構わん。」
〝…おかしい。〟
ノウ将軍は心中にて呟いた。
遥々遠くから来たと言うのに、「後方支援のみを行え」と言われる。それは「邪魔者と思われている」と考えても何らおかしくない筈。
彼は大内田の〝あっけない〟反応に疑問を感じたのである。
〝彼等にプライドは無いのか。〟
ノウ将軍はその様に感じていた。
それから数週間。
敵軍先遣隊と思しき部隊がエジェイ西方5km地点に布陣。
敵部隊は度々、野営地から部隊を率いて城壁に接近、五丈原の戦いにおける蜀軍の如く挑発行為を繰り返し、エジェイ城内のクワ・トイネ将兵達は疲弊し始めている。
「…何か、良い手は無いものか。」
討って出ると言う選択肢もあった。
だが敵基地との距離もあり、部隊が辿り着くまでに壊滅させられる可能性が高く、敵本隊との決戦を前にして兵力を消耗する事は出来なかった。
…そんな時。
「将軍閣下、ニッポンの第18師団長からの通達であります。」
「読み上げよ。」
大内田からの通達は以下の通りであった。
〝ノウ将軍閣下、エジェイ市西方5kmに布陣しているのは敵軍で間違いないか。
許可さえ頂ければ、我々は後方から攻撃を行う。〟
「…後方からの攻撃……?」
…ノウ将軍には、一つだけ心当たりがあった。
それは先日のロデニウス沖海戦での出来事である。
〝ニッポンの艦船は、ロウリアの大艦隊を閃光の中に消し去ってしまった。〟
…訳が分からないが、その様な噂が出回っていたのである。
「…まあ、高みの見物と行こうじゃ無いか。
ニッポンの戦い方にも興味がある。…許可する旨を通達せよ。」
…前述の通り、今度の方面軍はロデニウス大陸における災害と化した。
今から起こるのは、その所以たる光景である。
ロウリア王国諸侯、ジューンフィルア伯爵の率いる先遣隊は、エジェイ要塞から西方5kmの丘陵に布陣していた。
高台の大天幕から見下ろせば、配下の兵どもが見える。
何と壮観な景色であろうか。その数、2万。
焚き火を前に、歌い、踊り、道中の村々で略奪した物資で宴会を開く。
一方、要塞に籠もるクワ・トイネ軍は、ただそれを眺めるのみである。
…然しながらジューンフィルア伯爵は、現戦力では些か…要塞攻略は厳しいと判断していた。
密偵から得た情報によれば、エジェイにはワイバーン部隊が配備されており、既存の戦力では対応出来ない可能性があるのだ。
〝本隊の到着でもって、敵戦力を討ち滅ぼす。〟
…それが彼の考えであった。
◇
一方、城塞の小窓から、エジェイ守備隊の指揮官たるノウ将軍も、その光景を見下ろしていた。
この軍勢に対し、ニッポン軍は如何なる攻撃を仕掛けるのか。単純に興味があったからだ。
…その時、遠方より轟音が響き渡った。
彼は知らぬが、
その次、彼の顫動する眼に映ったのは、閃光―――。
明確なる死の閃光。
未知なるエネルギー。
…ノウ将軍にとって、その正体は知る由もないであろう。
爆心地からの距離、僅か5km。
…エジェイ近郊で炸裂したのは、異世界大日本帝国の〝核砲弾〟であった。
そして彼は、恐懼の
※この世界の日本国……実は核兵器を通常兵器として認識しています
つまり…日本にちょっかい掛けた時点で核が飛んで来るのです(ミサイルが無いのが唯一の救い)