蒼天は〈閃光〉を経て黄昏に染まった。
エジェイの山麓に迸った閃光こそ、地球文明の英知の結晶たる〈
…
山地より昇る禍々しき雲を前にして、恐懼せぬ者が何処に居ようか。
脳裏を蛇の様に登り来る…漠然たる死の恐怖が、ロウリア軍将兵
「―――閣下…閣下!」
「……何が起こった…!?何が…!?」
ロウリア軍指揮官"パンドール"将軍もまた、その渦中に居た一人である。
彼の眼と口は驚愕を表し、自身の幕僚たる"アデム"副将に呼び掛けられるまで、半ば放心していた。
「…ば…爆発であります、閣下…!
恐らくエジェイ山地の
「…一先ず、先遣隊に状況報告を求めよ…!」
此処はエジェイ西方、ギム平原。東進中のロウリア軍主力部隊は、日本軍の放った核分裂兵器の片鱗を眼前にして、その歩みを止めた。
◇
〝私は亜人の何たるかを知っている。
文明に属さぬ者達、蛮人である。〟
ロウリア王国副将軍、アデム。
ロウリア三将軍たるパンドール将軍を支える幕僚。
ギム市おける大虐殺の指示者。
クワ・トイネ公国の大都市"ギム"が、轟々たる猛火に沈んだ時、その光景に恐れるでも満足するでも無く……
彼は戦争に、酷く恋焦がれた。
時折…歴史には、戦争に対して狂愛を向ける者が現れる。
その昔、ドイツ国副総統にRudolf Heßと言う人物が居た。
彼は第一次世界大戦中に志願兵として激戦地イーペルに居た頃、家族へ向けた手記の中で、次の様な言葉を残している。
〝焼け落ちる村々は、心奪われるほどに美しい……ああ戦争よ!〟
……その一人であるアデムが、この戦争始まって以来初めて恐怖を覚えたのが、あの〈閃光〉であった。
◇
「―――エジェイ山地に向かった騎龍隊は…救援要請の直後に連絡が断絶しました。」
…未だ噴煙立ち昇るエジェイ山地を前にして、時が止まったかの如く呆然とするパンドール将軍に対し、アデム副将は次の様に進言した。
「将軍、アデムはギムまでの陣地変換を進言致します。」
パンドール将軍は、渦巻く深淵に心を突き落とされた様だった。
主力部隊を率いる将軍が、ロウリア三将軍と称えられた男が、撤退を強いられる
しかし彼の
「……撤退は許されぬ。」
パンドールはアデムの方を向いて、決意した様に言った。
「東方では恐ろしきものが…我等を待ち受けている…。それが何であろうと、この大軍に打ち倒せぬ筈があるまい。」
それに
血湧き肉躍る、大いなる戦いを。」
〝解せぬ。ロウリア主力部隊を率いし将軍たる男が、自殺願望を表に曝け出すとは。〟
…実の所、それは戦士たる者の
アデムは、戦闘指揮において"それ"を持ち込む事が全くもって解せなかった。
「我が軍はエジェイ山地を抜け、敵国首都クワ・トイネを目指す!
之は神の恩寵に護られしロウリア王国軍に下された天啓であり、我は暴戻なるクワ・トイネを膺懲せねばならぬのだ!
ロウリア王国に栄光あれ!
大王陛下万歳!」
…
「……何て数だありゃ…数十万はおるぞ。」
ロウリア軍部隊から数km先の
「…待て、それが通信機か?」
「クワ・トイネの航空部隊から拝借した〈魔信〉とやらです。」
その兵士は上官に、クワ・トイネ軍のバシネットヘルムに付属した小型の通信器具を見せた。
「そんなちっこいので通信出来んのか………まあ良い。
通信兵、〝ロウリア軍主力部隊ト思シキ大部隊ヲ発見セリ〟と打電しろ。」
…