透き通るような世界で俺がやるべき唯一のこと   作:THE TOWER XVI

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視えた、百合ハーレムの糸!

「あーもうっ! セミナー所属の私が、なんで戦うはめに……ッ」

「ごめんねユウカ? でも、とても助かってるよ。ありがとう」

「っ……別に、現状に不満をこぼしただけで、先生に文句を言ってるわけではありません! それに、これもミレニアムのためですし!」

 

 素晴らしい……。

 

 俺は、目の前に広がる絶景に感嘆していた。

 

「うん。ハスミの射撃は精度が良いね。このままお願いしてもいいかな?」

「えっ、は、はい! もちろんです」

 

 世界は、斯くも希望に満ち溢れていたとは。

 

 目を閉じて、思い浮かぶのは数々の絶望。

 

 頬を一筋の涙が伝う。

 

 この一年。

 

 暗闇の中で、俺は迷いに迷い続けていた。

 

 そして今、俺の前に差し込んだ一筋の光に……一つ一つの脳細胞が……歓喜に震えている……。

 

 これだ。

 

 これこそが──目指すべき、理想郷(エデン)

 

「随分と、幸せそうだな。まさか魔眼の後遺症で幻覚でも視えだしたか? 僕には只普通に話している集団しか見えないが」

 

 ぬうっと、アルスハリヤが顔を出し、茶々を入れてくる。

 

 俺は側頭部を人差し指で叩きながら、ニヤリと余裕の笑みを浮かべた。

 

「これだから魔人は。俺の百合IQ180の頭脳によれば、彼女の百合指数は一億オーバー。タイプは違うが……月檻と同じ……。間違いない、彼女は百合ハーレムを作ってくれるかもしれない人だ」

「まぁ、彼女がこの世界でかなり重要なポジション、キーパーソンだろうことは否定しないが。特異性からもね。ただ、それを言ったら、ヒイロ君もまた大分特殊な立場と言えるな」

「どうせ俺が彼処(あそこ)に挟まるとでも言いたいんだろ? はっ、残念だったな。今の俺には勝利の百合を手にして、ユリリンピックの表彰台に登る道筋が、既に視えている……。レベルが違うんだよ。百合素人は黙って、俺が百合見守り部門で金メダルを手にするところを、指をくわえて見とけ」

 

 百合の可能性を目に焼き付けていると、地響きとともにドリフトを決めて戦車が彼女たちの前に姿を現す。

 

「クルセイダー1型……! トリニティの正式戦車と同じものが何故……?」

「考察は後! 皆、来るよ!」

 

 黒髪の少女が驚き、冷静に大人が指示を飛ばす。

 

 砲塔を回し、標的を狙う砲身から逃れるように散開。

 

 遮蔽に隠れて、戦車の砲身が向いてない隙を突いて各々攻撃しているが、流石に小銃では戦車の装甲に弾かれている。

 

「道中である程度削ったはずなんだが。まだ残ってたか」

 

 彼女たちとクルセイダーを挟んで向こう側。奥から新たな影が現れる。

 

「くっ、今度は、カイザーPMCの自走砲ですか!」

「一世代前の代物ですね。恐らくブラックマーケットに流れたものを手に入れたのでしょう。

 最近、アビドス砂漠において、企業間の抗争が活発になっていると報告が上がっていましたが、こんなところにまで影響しているとは……」

 

 神秘という超越的な事象により、本来ならば無力な小銃による攻撃も、徐々に戦車の耐久値を削っていた。

 

 しかし、クルセイダー一台でもそれなりに時間がかかるのに、追加でもう一輌の自走砲を相手にすれば、いくらキヴォトスの人間が丈夫だろうが火力負けするのは目に見えている。

 

 そろそろ介入すべきだな。

 

 そう判断して、引き金(トリガー)と共に強化投影(テネブラエ)を発動する。

 

「いいね、ヒーロ君。漸くヒーローの出番か。君の歪んだ顔を期待しているよ」

「フ〇ッキュー、糞魔人」

 

 寄生虫(アルスハリヤ)に中指を立てた俺は、仰角を上げる砲身を確認して、回り込むようなルートを見つけ出した。

 

 屋根の上を飛び移り、駆ける。

 

 そのまま死角から側面に回り込み、上空から奇襲。

 

「助太刀いたぁぁぁぁああああす!! チェェェェストォォォオオ!!!」

「えっ誰?!」

「い、一応、助太刀って言ってますし、今のうちにクルセイダーを倒しましょう……」

 

 初対面から好感度を破壊すべく、猿叫と共に俺は飛び出した。

 

 九鬼正宗の柄を握って、もう幾度と繰り返した手順を踏む。

 

 引き金(トリガー)導体(コンソール)接続。

 

 鞘の中で生成(クラフト)された光の刃を滑らせる。

 

 銀が閃き──目にも追えぬ速度で振り抜かれた刃が、魔力線が通う狭間を捉えた。

 

 斜めに。

 

 防楯ごと根元から切断され、砲身が地面に落ちる。

 

 ──残心。

 

 チンと、光剣を半回転させて鞘に戻した俺は、丁度クルセイダーも装甲を抜かれ、誘爆と共に砲塔が吹き飛ぶ花火の音を聞きながら、振り返った。

 

「どーも、愛の百合戦士こと三条ヒイロです。僭越ながら、この先、お手伝いしても?」

 

 無力化された自走砲から飛び出してくる不良達を、目も向けず不可視の矢(ニル・アロウ)で気絶させながら。

 

 唖然とする少女達を前に、俺はニヤリと笑う。

 

 ただ一人、後ろの大人は俺に向かって微笑んだ。

 

 

 

「えっと、つまり……あなたは先生に協力したいと……」

「正直、怪しいわね」

 

 早瀬ユウカと名乗った少女が訝しげに俺を見る。

 

 彼女たちと合流した俺は事情と自己紹介を聞きながら、一緒に目的の建物までの道を切り拓いていた。

 

 青紫色の髪の少女が早瀬ユウカ。ミレニアムのセミナーに所属。黒髪の大人びた少女が羽川ハスミで、銀髪の少女が守月スズミ。共にトリニティ。眼鏡を掛けたベージュ色の髪の少女が火宮チナツで、ゲヘナの風紀委員。

 

 そして最後に、人間型の大人である彼女が、『先生』。

 

「私は構わないよ。むしろ心強いしね」

「先生には危機感がないんですか!」

『……とはいえ、先生の情報は私にも直前まで秘匿されていました。不良を追いかけていて偶然出会った、という方が、あの超人から情報を抜き出し、わざわざ先生を狙って予め待っていた、というよりも蓋然性があるでしょう』

 

 先生の手元の端末からも、論理的な補足が入る。

 

「それは……そうだけど」

「ユウカ、心配してくれてありがとう。でもきっと大丈夫だよ」

「うっ……」

 

 先生の笑みを前に、目を逸らす早瀬を見ながら、俺は目の前にサーブされた百合の波動を味わった。

 

 風……吹いて来てる……確実に……百合の流れが……来ている。

 

 何が、俺の歪んだ顔が楽しみだって? 今、勝者と敗者は明確に分かたれた。俺が勝者で、アルスハリヤが敗者だ。

 

 菩薩のような微笑みを浮かべて、俺は聴覚器官に強化投影(テネブラエ)を施し、一言一句を聞き逃さないように努める。

 

『少々話が逸れましたが……先生にお伝えしたかったのは、今回の騒動を引き起こした生徒についてです。名は狐坂ワカモ。巷では災厄の狐として知られています。矯正局を脱獄して、今回の騒ぎを起こしたようです。似たような前科を多く持つ危険人物です。気を付けてください』

「ありがとう、リン」

 

 通信が終わり、ホログラムが消える。

 

 その様子を後方から窺いながら、ふと思い出して、俺は口を開く。

 

「あ。災厄の狐……そいつならさっき会ったぞ」

「え?」

「来る途中で襲われた。ただ、なにを思ったのか、急に走り去っていたし、たぶんもう居ないんじゃないか」

「さ、災厄の狐が逃げるなんて……先ほどの剣の腕を見れば分かりますが、随分と強いのですね」

「確かに、そういえばそうだ! あの剣、スパーンって感じで凄かったね! スパーンって!」

 

 何処となく尊敬を覗かせるように言う守月と、人が変わったように目を輝かせてIQの低そうな擬音を口にする先生。

 

 それを前に、頭の悪そうな回答で返す。

 

「いや、俺のはちょっとズルしているだけだ。あと、あいつも何か用事があったんだろ。例えば、お花摘みとか」

「それは絶対違うでしょ……」

 

 呆れたような視線を向ける早瀬を前に、俺は内心ガッツポーズをする。

 

 やべぇ、今日はマジで俺の百合IQ180を誇る頭脳が冴えてるぜ。完璧な好感度調整だ。我ながら、惚れ惚れするカードの切り方と言っていい。これなら、完璧な百合守護デッキとして全国制覇も夢じゃない。

 

 そうして進むこと暫くすると、目の前にガラス張りの建物が姿を現した。

 

「……皆さん、一応目的地に着きました」

「敵影はなし。不良たちも撤退したようです」

「ま、なにはともあれ、無事到着ね!」

 

 各々、肩の荷を下ろして一息つく。

 

 同時に通信が入り、再びホログラムが展開される。

 

『お疲れ様です。シャーレ奪還作戦は一先ず、成功したと言っていいでしょう。既に潰走を始めた不良たちの追撃に移っています。私ももうすぐ到着するので、地下室で合流しましょう』

「わかった。また後でねリンちゃん」

『……ちゃんは不必要です』

 

 そのまま通信が途切れて、先生は笑みと共に口を開く。

 

「皆、助かったよ。護衛ありがとう。ここから先は私だけで大丈夫だよ」

「そうは問屋が卸さねぇ。お頭ぁ、俺を置いていくなんて、なに言ってるんすかぁ。今宵の九鬼正宗は血に飢えてるぜぇ〜」

 

 真昼間から無属性の刃を生成し、ペロペロする俺は、最早居ない存在として扱われていた。

 

 あ^~生きてるぅ^~。

 

「……ふむ。わかりました。先生もお気をつけて」

「私たちは警戒の配置を決めましょうか」

「了解です。ビルの警備はお任せください」

 

 ニコニコと、先生が彼女たちに手を振ってビルの中に入っていく。

 

 それに付いて行こうとして、襟を掴まれる。

 

「ぐえっ」

「少しは察しなさいよ。先生が護衛を断ったのは内密な話をするからでしょ。取りあえずあなたと私で、裏の方を警戒しておくわよ」

「わ、分かったから手を離してくれない? なんか、これは俺の宗教ととても反している状況な気がしてならないんだ」

「さっきから変なことばっかりしてるのに、信じられるわけないでしょ。私が監視してあげないと……」

「ま、待って?」

 

 なんだ……? おかしくないか……? 普通奇行を取るやつは避けないか……?

 

 いや、まさか、トラップカード?! ダメ男に世話を焼きたがるタイプだとッ?! 嘘だッ!

 

 お、落ち着け、三条ヒイロ! ここは百合世界。人間型の男が見当たらず、今のところ主人公らしき人物は先生という大人の女性。

 

 そんな世界で、ダメ男に甘い世話好きの女の子、なんてラブコメチックなキャラが存在するだろうか。いや在り得ない。

 

 須臾の間に思考を終えた俺は、呼吸とともに冷静さを取り戻す。

 

 杞憂だ。これは単に、奇行を繰り返す男の監視役を、みんなの為に嫌々引き受けているだけ。そこに男女間の意識はないし、あるのは嫌悪感と義務感のみ。

 

 このまま奇行を繰り返す作戦で問題ない。

 

 問題ないよな……?

 

「そういえば、結局、何処の所属なわけ?」

「一応アビドスに居たが、もうずっと帰ってないしな。今頃退学扱いだろうし、無所属だな。たぶん」

「た、退学って、そんな適当じゃダメでしょ! ちゃんと学校は卒業しないと! ……そうね。今からでも遅くないわ。私が口添えすれば、ミレニアムに入れてあげられる筈よ。見た感じ、戦力として十分みたいだし、あなたのその特殊な剣とか、飛びつく人たちも沢山いそうだし。ただ、学力のレベルが懸念点ね」

「え、ちょっと待って、そんな赤の他人を勝手に入れちゃダメだろ」

 

 漸く解放されて立ち上がる俺をよそに、心配になるレベルのお節介を発揮し、何故か俺が別の学校に所属する話になる。

 

 否定しようとするが、権限について心配されたと勘違いしたのか、早瀬は胸を張って答える。

 

「ふふん、これでも私、ミレニアムサイエンススクールの生徒会、セミナー所属なの。交渉材料さえあれば、これぐらい簡単よ」

「いや、そういうことじゃなくて……」

「なに、うちじゃ不満ってわけ? でも他の学校なんて──「あら、やはりもう遅かったですか」──きゃっ」

 

 こちらを狙う銃口。咄嗟に手を引いて、胸の中に庇う。

 

 銃弾が一発、早瀬の頭があった場所を通過して、シャーレのビルの外壁に突き刺さった。

 

「……おいおいおい、俺とのランデブーを放棄して帰った奴が、戻って来て何の用だ?」

 

 片手で引き金(トリガー)と共に九鬼正宗を引き抜いて、狐面の少女に向ける。

 

「ああ……その瞳……そして、この昂ぶり。困りましたね……フフ……フフフ」

 

 未だ口から硝煙を昇らせる小銃を、手慣れたように回して。

 

 建物の上から見下ろす彼女は、何処か高揚するように笑い、言い知れぬ底の見えなさを覗かせる。

 

 固まっていた早瀬が意識を取り戻し、驚愕にその名を零す。

 

「さ、災厄の狐……!!」

「フフ、私も、今度は違う形で、逢引の続きと行きたいのですが……邪魔な存在が居ますね。あなたは何時までくっついているおつもりで?」

「……ッ! ち、違っ! もう大丈夫だから!」

 

 自分の体勢に気づいたのか、一瞬で顔が朱に染まる。慌てて俺の胸元から離れて、銃を構えた。

 

 いつの間にか、紫煙と共に現れて口を押さえて足をばたつかせるアルスハリヤが視界の端からインしてくる。

 

 緊急時だからノーカンだよクソが。無言なのに、いちいち動作がムカつくな。〇ね。

 

「そ、それで! 何の用よ! もうシャーレ周辺の不良は掃討済みよ! それに、直ぐ私たちの仲間が来るわ」

「連邦生徒会が大事にしている物を、まだ拝めていませんでしたので。一応見に来ただけです。しかし、来る途中で時間を使い過ぎましたねぇ。諦めて私は去るとしましょう。それに──」

 

 目と目が合う。

 

「──先程、私の胸を焦がす此の熱に、確信が得られました。では後ほど、ランデブーの続きをしましょう、あなた様♡」

「ランデブーは鍔迫り合いの比喩表現ね?」

 

 仮面越しにも感じ取れる、妖艶な視線に背筋から脂汗が出る。

 

「比喩表現だからね?(震え声)」

「ウフフフフフ♡」

 

 訂正が届いているのかも不明なまま、俺達に背を向けて少女は姿を消す。

 

 茫然と、立ち尽くす俺の肩をポンポンとアルスハリヤが叩いた。

 

「口が軽い男はモテない、か。成る程。とても素晴らしい言葉だな。感心するよヒイロ君」

「いや、普通好きでもないのに口説いてくる男とか嫌悪対象だろ。どう考えても、俺は間違ってない! そうだ! 間違っているのは、世界のほうだ!!」

「きゅ、急に世界を憎みだして大丈夫なの?! 話ぐらい聞くわ。……でも、それもそうよね、よく考えたらヒイロはヘイローも無いのに、私の為に災厄の狐に立ち向かってくれたし、本当は恐怖を感じていても──」

「異議あり! 俺は悪霊に守られているので、貴方の為に命を懸けておりません!! 先ほどの行為は鼻をほじる程度のハードルの行動であり、何一つ貴方が恩を感じる必要はありません!! はい論破ァ!!」

「恩を感じないなんて、そんな薄情なわけないでしょ! だったら私にだって考えがあるわ!」

「待って、これそういうのじゃないって、競売感覚で恩とお返しの値段を吊り上げるのはヤメロォ!」

「えっと……今大丈夫かな?」

 

 二人で言い争っていると、少し困惑したような表情で先生が立っていた。

 

「せ、先生! 用事は終わりましたか?」

「そうだね、サンクトゥムタワーの制御権は連邦生徒会に移したし、治安も落ち着くと思うよ」

「ちょっと、確認させてください……セミナーでも制御権を連邦生徒会が取り戻したことを確認しました。ありがとうございます!」

「大した事はしていないけどね。それで、もう他の子は帰ったけど、二人はどうするの?」

「私もミレニアムに戻ろうかと……そうでした! 先生、聞いてください! ヒイロが学校に行ってないそうですが、先生としても良くないと思いますよね!」

「私は生徒の意思を尊重したいけど……うん、勉強も大事だからね」

「ほら、やっぱり! 一緒にミレニアムに行きましょう。前に言った通り、あなたなら編入も可能だと思うわ」

「じゃあ、私もついて行こうかな。キヴォトスの学校を知るいい機会だし、何か手伝えることがあるかもしれないしね」

 

 当事者の俺を放置して、いつの間にかミレニアムに入学する話になっている。

 

 勿論、入学したからといって百合が破壊されるかは不明だ。

 

 むしろ、無所属よりも高校にいたほうが百合が拝めるのは確かだし、守るべき百合も実質的な女子高であるキヴォトスの学園にある。

 

 そう考えればメリットのほうが大きい……いやしかし、このまま流れに身を任せて、果たしていいのか……?

 

「悩むのも大切だけど、一度見てから決めても良いんじゃないかな?」

 

 優しく先生は微笑んで、俺はミレニアムの百合を拝んでから決めることにした。

 

 

 

 

 

 

 




 「奇跡は叶うよ」とかユメパイセンに大口叩いて、失踪したその日から砂嵐は止まってます。そして、よくヒイロが鍛錬に使っていた場所に行ったら、激しい戦闘痕と刀で斬られたようなビナーの残骸が残っていました。この時、三条ヒイロが退学扱いになってる可能性は果たして……。
 流石、原作でも二週間失踪した挙句、再会したメイドに開口一番、今日の晩御飯、自分の分があるか聞く男なだけあるな。
 もしかして、これって二重学籍ってコト?! アリスの学籍も連邦生徒会へのハッキング(大問題不可避)ではないと思いたいですし、生徒の学籍周りはそれぞれの学園で管理されている、としておきます。
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