透き通るような世界で俺がやるべき唯一のこと   作:THE TOWER XVI

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三条燈色は百合を見たい

 ミレニアムサイエンススクール。ゲヘナとトリニティに並び、キヴォトス三大学園に数えられる学校。合理と技術に重きを置き、地球で言う工科大学や工業大学に近いかもしれない。

 

 ただ、先生は何か気になることがあったらしい。入り口付近で別れる。

 

 俺は早瀬に連れられ、ミレニアムの生徒会に相当する、セミナーの部屋を訪れていた。

 

「三条ヒイロ、入りまぁす! 絶対に、ここがいいです! 最高です! セミナーの壁役やりまぁす!!」

 

 到着すると、セミナー書記にして早瀬の友達だという、白髪を腰まで伸ばした生塩ノアを紹介される。

 

 一級百合ニストである俺の目は誤魔化せない。絶対に、彼女たちの関係は友達以上。

 

 最高だ。ここ一年まともに拝めなかった完璧で究極な百合の芽がここにある!

 

「ちょ、ちょっと、さっきと態度が変わりすぎでしょ。……ま、まさか、ノアのことが気になってるんじゃないでしょうね!」

「へっへっへ、見誤ったな! 残念、俺はかわいい女の子には手を出さずにはいられない軟派野郎なんだぜぇ? グヘヘ、君かわいいねぇ。俺とお茶しようぜ?(好感度不要論)」

「可愛いだなんて……。ふふ、面白い人ですね。私でよかったら──」

「はい、タァーイム! 今のなし! やり直し!」

 

 頬に僅かに染め、主に興味で出来た色のいい返事に俺はタイムの合図を手で作る。

 

「今のなしとタイムが通用するのは、小学生の鬼ごっこまでだぞ……?」

「俺の価値観では現役なんだよ、売百合奴は黙っとけ」

 

 アルスハリヤの口を閉じさせた俺は、思い通りならない現実に憤る。

 

 仕方なく、ニコニコと微笑みを絶やさない生塩を前に、こそりと早瀬に耳打ちする。

 

「早瀬、今のは、性欲だけで女に粉をかける糞男から、親友を守る場面だ。もう一度、俺が百合に挟まる糞男をやる。だから、次は頼むぞ。本当に、頼むぞ。お前だけが頼みだ」

「ちょ、ちょっと、耳元で囁くの……その、あまりしないほうがいいわ。あと、私のことは下の名前でいいわよ。もう一緒に戦った仲なんだし」

「え、それは……」

「ふーん、じゃあ交換条件にしましょう。それが呑めないなら、私もあなたのお願いを聞く必要はないわね」

「わ、わかった。頼むよユウカ。お前だけが、俺の頼みなんだ! 俺はこの先の夢を見ないといけないんだ!!」

「……」

「ユウカさん……?」

「な、なんでもないわ! 言っとくけど、こんなのに付き合ってあげられるのは、私ぐらいなんだから……」

 

 そういって、わざわざ俺たちを待ってくれていた生塩に向き直る。

 

「ふふ、作戦会議は終わりましたか? まだ会って一日も経ってないのに、随分仲が良さそうで、妬いちゃいそうです♪」

 

 やべぇ、ノアユウ来てんじゃん。俺の百合エンジン、全力で吹かすぜ! ブルンブルンッ!

 

 テンションをぶち上げた俺は、再度、原作の三条燈色をイメージし、ナンパを開始する。

 

「めんごめんご! 一人で放置しちゃってごめんね~? 寂しかったよね? じゃあ、早速、おすすめの場所教えてもらっちゃおうかなぁ~?」

 

 肩に手が触れる直前まですり寄り、チラチラと早瀬を窺う。

 

 来い。来い来い来い! 百合インターセプト、来い!!

 

「な、何しているの! その、誘うのはノアじゃなくてもいいんじゃない? 私だったら、いくらでも──」

「じゅうべぇだぁぁあぁああああああああ!!!!」

「ちょっと! いきなりなんなのよ!」

「いや、あやふやにするなら界王拳を叫ぶといいって、ばっちゃが──じゃなくて。なんで、止めるんじゃなくて、候補に出てくるの? なんか、俺を取り合ってるみたいになってるじゃん。おかしくない? 間に挟まっちゃってるよ、燈色が。泣くぞ。本当に泣くぞ」

「えっ、取り合ってるって……ち、違っ! 少し間違えただけよ!」

「ふふ、ふふふふっ」

 

 何がツボったのか、こらえきれず笑い出す生塩をよそに、二人でまた言い争った。

 

 

 

 結局、落ち着いた俺たちは、三人で書類の処理に取り掛かる。

 

「一応俺、まだ部外者なんだよな? 勝手に見ていいのか?」

「別に誰も気にしないわ。本当に重要な機密はここにはないし、紙媒体のものなんて、知られても何の意味もない、事務処理や苦情に関係するものだけよ。それよりも、部外者だからこそ、わざわざ手伝わなくてもいいのに」

「俺は、女の子同士の絡みは多ければ多いほど、素晴らしいと思っている……。つまり、俺の力で雑事を処理し、ひいてはお二人のユリユリタイムを増やせるのであれば、手を抜かない理由がない」

「要するに、私達のためってこと? まあ、助かるけど……」

「ふふっ、処理も早いですし、ユウカちゃんはいい人を拾ってきましたね。手慣れていますが、経験とかあるんですか?」

「三人しかいない学校にいたからな。こういう書類仕事を手伝う機会もあったし」

 

 適当に話を回しながら、書類をさばいていく。

 

 早瀬を下の名前で呼んでいる手前、生塩の名前呼びを強制されたり、そんな事もありつつ。

 

 積み上がっていた紙が殆ど捌けたころ、既に窓の向こうの空は徐々に赤く染まっていた。

 

「あーもう! 一時期、連邦生徒会が機能してなかったせいで、今日の苦情や報告書の量は何時も以上に多いわね!」

「でもヒイロさんが手伝ってくれたおかげで、早めに終わりそうで良かったです。あ、戻ってきました」

「一旦切り上げて、お茶でもどうかな? さっき淹れておいたから、お二人でどうぞ」

「えっ、何処からそのティーセット取り出したの?!」

「フッフッフ……俺の秘密を知りたいか……? 教えてやろう。百合の敬虔な信徒として、俺は常にマ〇みて全37巻を布教空間(パーソナルスペース)に──」

「ユウカちゃん、ここはお言葉に甘えましょう」

「そうね。

 ……っ! 現在進行形で、意味不明なことを喋ってる男のくせに、淹れるのが上手いの、納得いかないわね……」

 

 滔々と、布教空間(パーソナルスペース)ひいては百合布教への情熱を語っている俺をよそに、二人でお茶会を始める。それを視界の端に収め、密かに俺は口角を上げる。

 

 やっぱり、学園だな! 個人で活動していた時は、便利屋ぐらいしか、百合を拝める機会が無かったし。この一日だけで、俺の気力がグングン回復していくぜ。

 

 女の子同士が談笑している空間には、絶対マイナスイオンとか発生してると思うんだよね……。

 

 満面の笑みを浮かべたまま席に戻った俺は、残りの紙を処理していって、手が止まる。

 

 廃部撤回要求? ゲーム開発部……?

 

「ご、ごめんなさい、残りの書類任せちゃって……」

「いや、そう俺が仕向けたし、むしろ百合の供給でプラス」

「プラスってどういうことよ……って、ああ、それ? ゲーム開発部なんて名乗っているけど、部員も定員を満たしてないし、古代史研究会を襲撃するわ、他所にも迷惑かけて。ほんっと、懲りないんだから」

「でもユウカちゃんって厳しく当たってる風に見えて、一番彼女たちに期待してますよね。数か月たってもまだ待ってあげているんですよ?」

「ノア!」

「まあ、違和感はないな。出会った時から、心配になるぐらいのお人好しだし。いやー、ユウカのそういう所、俺はとても素敵だと思うけどな」

「な、な、なにを言って!」

 

 私は分かってますと言わんばかりの生塩の発言に百合を見出しつつ、うんうんと頷く俺は、思考を部活に戻す。

 

「しかし、部活……そうか、部活があるのか」

 

 キャッキャウフフの、女の子たちが共に力を合わせて、山あり谷あり、努力と友情で逆境を乗り越える青春物語が脳内を駆け巡る。

 

 最高じゃん。

 

 後で光学迷彩(ディストーション・フィールド)を使って、ミレニアム部活紀行と洒落込もうかな??

 

「ヒイロさんがいたアビドスは三人しか居なかったと言ってましたが……そんな状況じゃ部活なんて出来ませんよね。やっぱり、気になりますか?」

「気になるね。特に管弦楽部は、個人的に百合の聖地だと思う」

「でもセミナーとの掛け持ちはできないので、ユウカちゃんが寂しがりそうですね♪」

「ちょっとノア! なに言ってるの!」

 

 妄想に浸っていると、生塩から早瀬へ、キラーパスが飛ぶ。

 

 そのまま、俺の脳にシュートされては困るので、すかさず援護する。

 

「そうだそうだ!! こやつ、テキトーなこと抜かして、俺達の仲を引き裂くつもりですぜ! なんて狡猾な野郎だ! ユウカは、俺が何処に行こうが気にしねぇよなぁ!! 言ってやってくださいよ!!」

「……まあ、ヒイロって突然叫ぶし、変なことばっかするし、デリカシーもないし」

「ほらみ──」

「でも、そのくせ気が利くし、今日だけでも助かったし……そ、それに守ってくれた時とか、真面目な所もあるって知ってるし……」

 

 味方だと思っていた存在から、予想だにしない言葉で背中を刺された俺は、驚愕の面持ちで振り向く。

 

 俺の視線を受けて、頬を上気させた早瀬は誤魔化すようにまくし立てる。

 

「なに? 私がちゃんと評価してないとでも思ったの? これでも、ちゃんと感謝してるんだから。何処に行こうが気にしないなんてこと、あるわけないでしょ。それに、そもそも、私にはあなたの監視責任がある上に、最初にセミナーに入るって言ったのはヒイロでしょ。一度口にした言葉は守ってもらうわよ?」

「ふふっ、少々強引な気もしますが、ここまで生き生きとしたユウカちゃんは久しぶりに見たので。私としても、今後もヒイロさんに手伝ってもらえると嬉しいです」

 

 二人に見つめられて。足元からジワリと不安が染み出し、地面が泥濘むような感覚。

 

 俺は、冷や汗を流して、席を立ち、後ずさる。

 

 これ、燈色が挟まってないか……?

 

 いや大丈夫なはずだ。俺は只の雑用係。作業を手伝ってくれる都合の良い男ってだけだ。そこに、百合を損なうような要素はない。

 

「ま、まあ、書類も捌けたみたいだしな。俺はちょっと引っ越しの準備もあるし、先に帰らせてもらうわ。その茶器類はその辺にでも置いといてくれ」

 

 悪い予感から逃れるように、距離を取った俺は、帰宅を宣言する。

 

「あっ、まだ編入の手続きとか終わってないわよ! って、待ちなさい!」

「わりぃ、俺、消えっから!」

 

 光が差す扉を背に、俺は笑顔を浮かべて振り返り、遁走する。

 

 角を曲がって──引き金(トリガー)光学迷彩(ディストーション・フィールド)

 

 ずりずりと壁を擦りながら、透明人間となった俺は、部活百合紀行の旅に出た。

 

 

 

 

 

 

 




 三条燈色の緋路(みちすじ)は幾らでもありますね。
 トリニティに行ってティーパーティー幼馴染衆に挟まるのも良し、ゲヘナでヒナアコの幻覚を見ながら風紀委員会に挟まるのも良し。誰か書いて♡
 原作では、パヴァーヌ編はエデン条約編の後らしいですが、独立していますし、この世界線ではエデン条約編を後回しにさせて貰います。燈色君が先生の代わりに血塗れになるイベントは後に取っておきましょう。
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