透き通るような世界で俺がやるべき唯一のこと   作:THE TOWER XVI

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閑話:アウトロー・オールド・デイズ 中

 私立探偵部の事務所、という名の陸八魔の寮の部屋。

 

 後ろで扉を閉めた俺は、すっと光学迷彩(ディストーション・フィールド)を解除し、端の方に移動する。

 

「私たちは依頼されたら何でもやる最恐のアウトロー集団。当然メンバーには相応の実力が要求されるわ。だから……そうね……とりあえず試用期間を設けて、あなたが使えるか見定めてあげる」

「ありがとうございます……! こんな凄そうな所で働けるなんて、光栄です!」

「ふふん、分かってるじゃない。私は陸八魔アル。この私立探偵部の部長よ!」

「伊草ハルカ、です! 精一杯、頑張ります!」

「良い心構えね。ちなみに、そっちが助手のムツキ、ヒイロは外部コンサルタントよ」

 

 陸八魔が機嫌よく他のメンバーも紹介する様子を見ながら、俺は満面の笑みで頷く。

 

 思った以上に二人の相性は良さそうだ。やはり俺の選択は間違っていなかった。

 

 何が裏社会ハーレムだ。所詮は魔人の戯言。ここは、百合という花を咲かせるための植木鉢。これからも隣でサポートしながら、百合が咲くさまを特等席で嘗め回すように見届けてやるぜ。

 

 明るい未来に思いを馳せていると、腰回りに重みが乗る。

 

「ねぇねぇ、センパイ、あの子どこで拾ってきたの?」

「普通に助けただけ。あと、はしたないから俺から離れなさい。女の子が不用意に男にくっついてはいけません」

「えー、なんで?」

 

 横を見ると、後ろから覗き込み、小首を傾げてニマニマする浅黄と目が合う。

 

「可愛い子にその距離感で近づかれると、男はすぐ発情して何するかわからないからね」

「ふーん、じゃあ、センパイも今、もしかしてムツキちゃんに── 」

「そんなわけないだろ、男に対する偏見で言い掛かりをつけるのは止めろよ、お前。名誉毀損で民間裁判所まで全力ダッシュ決めるぞ、お前」

「あはは、言っていることが滅茶苦茶になってるじゃん!」

 

 絡まれたまま、どうにか引き離そうと苦戦していると、いつの間にかこちらに来ていた陸八魔から小声で話しかけられる。

 

「……ちょっと、その、今から依頼を取ってきてもらえないかしら……?」

 

 応接用のソファーに座ったまま、僅かに目を輝かせソワソワしながら部屋を見回している伊草を見て、目の前の困り顔の陸八魔に視線を戻す。

 

「どしたのアルちゃん。依頼が来ないのはいつものことじゃん。まだ作って新しい部活だから知名度もないし」

「それはそうだけど、その、ほら……」

 

 チラチラと後ろの伊草を窺う陸八魔には、先ほどの威厳はほとんどない。

 

 その様子に大方察したのか、浅黄は無理やり俺の背中によじ登り、肩越しに口を開く。

 

「くふふ、勢いで見定めるとか言ってたからね。まさか数日前からずっと暇でした~、なんて言ったら失望されそうだもんね」

「し、失望……? 駄目よ、そんなの! 折角のチャンスを無駄にしないためにも、なんとしてでも今から依頼を見つけないと!」

「伊草はそういうの気にするタイプじゃないと思うけど、まあ、最初は俺も心配だし……とりあえず伝手を頼ってみるか」

「流石、我が私立探偵部の外部コンサルタントね……!」

 

 喜ぶ陸八魔を見ながら、多めに買ってきた弁当を布教空間(パーソナルスペース)から取り出す。

 

 浅黄は俺から離れると、慣れたように手を出して俺からビニール袋ごと受け取った。

 

「ま、取りあえずコレでも食べて待っとけ、昼食には少し早いかもしれないけど」

「やったー、センパイいつもありがとう! そこの椅子を買うために貯金使い果たしちゃって、ここ数日カップ麺二人で半分こしてたからね」

「ちょっと、私のカッコイイ部長のイメージが……!」

 

 今更自身の威厳を気にする陸八魔をしり目に、浅黄が伊草の元に駆けよっていく。

 

「よし、ハルカちゃんだっけ? これからよろしく! まずは一緒に食べようよ」

「あ、は、はい……よろしく、お願いします……」

 

 特に問題なく受け入れられているのを見ながら、俺は端末を取り出した。

 

 以前、アビドス高等学校の借金を返すために主に賞金稼ぎをしていたが、最近は護衛のような依頼も受けていた。既に舞い込んでいる依頼から見繕うのも手か。

 

 ちなみに借金返済も含め、ビナーを倒して以来アビドスとは関わっていない。

 

 陰から支援することも一瞬考えたが、正直余計な手出しだろう。

 

 百合を損なう砂嵐の元(ビナー)を断った今、後は彼女達だけで前へ進めると信じているし、何から何まで助けようとするのはきっと違う。植物だって水をやり過ぎれば腐るように、男の過度な干渉は必ず百合を損なう。

 

 百合園に男なんて害虫は必要ない、そんな当たり前のことを思いながら、チャット上で検討中のまま放置していた依頼を確認していった。

 

 

 

 

 

「それで、私たちはこの会場を護衛すればいいのね」

 

 依頼主の鼠の獣人の前、メンバーを後方に侍らせ、堂々とソファーに腰掛ける陸八魔が確認する。

 

 暫く探るように俺たちを観察した後、依頼主は口を開く。

 

「ええ、その通りです。かの無手の賞金稼ぎからの紹介なので腕の心配はしていませんが、今回の会談はそれなりに重要なものでして……」

「ふふっ、心配は無用よ。お金さえちゃんと用意してもらえれば、依頼はきっちりこなすわ」

「それは頼もしい限りですね。あれを」

 

 オートマタが金属ケースを持ってきて、そこに詰め込まれた札束を見せる。

 

 背中から陸八魔が一瞬動揺しているのが見て取れたが、幸い、相手は目をそらしていたため気づいてはいないようだった。

 

「前金としてはこれだけしか」

「え、これで前金ッ……ごほん、私たちは前金を受け取らない主義なの。ちゃんと結果を示してから頂くわ」

「プロ意識というやつでしょうか? 今時そのような芯を持った者たちも少ないですからな。なるほど、では後ほど足のつかないルートで現金化し次第、残りの分と合わせてお渡ししましょう」

「それで問題ないわ。私たち、私立探偵部にあとは任せなさい」

「心強い限りですね。では、私は仕事に戻るので、詳細はこの者と詰めていただければ。またお会いしましょう」

 

 最後にニッコリと微笑んで、鼠の獣人が退出する。

 

 ケースを持ってきたオートマタとはまた別のオートマタが現れ、陸八魔に会場の見取り図やスケジュールなどを伝え始めた。

 

 その様子を後方から眺めていると、ちょんちょんと脇をつつかれる。

 

「ねえねえ、受ける依頼本当にこれで大丈夫なの? 結構大変だったり裏があったりする奴じゃない?」

「金を持ってる奴は金払いがいいだけで、案外金額と難易度は比例しないからな。経験上、こういう大きな護衛依頼は、逆に防御が厚くて狙っても旨くないから襲撃される可能性が低いし、何も起きずに終わることだってあるさ」

「へー、なんかスケールが違うねぇ」

「まあ、襲撃されるにしろ、お前らが後れを取ることはないだろ」

「くふふ、そっかー、じゃあ期待に応えられるよう頑張らないとね」

 

 ニコニコしながら、くるりと身を翻して陸八魔の元に向かった浅黄を見送って。

 

 ふと、一人欠けていることに気がつく。

 

「おい、アルスハリヤ、伊草は何処に行った」

「なんだい、ヒーロ君? この僕を頼ってくれるのかい? ……おっと、ちょっと軽口を叩いただけだろう? そう睨むな。彼女なら来る途中に別れて、地面に何か細工をしていたぞ」

「細工……? 取り敢えず外なんだな?」

「いやぁ、君も心配性だね」

 

 伊草を探してくると、声だけ掛けて、俺は部屋から外に駆け出した。

 

 モモトークで一言だけ入れて、捜索していると、会場内の庭の付近に辿り着く。

 

 何処かから猫の鳴き声のようなものが聞こえ、音源へと引き寄せられて。

 

 白髪の少女が独り、屈んで猫の前にいた。

 

 どうやらあの音は、彼女が猫の鳴き真似をしていたものらしい。

 

「にゃんにゃん~にゃんにゃん~」

「なぁ、そこの猫の君」

「えっ」

 

 振り向いて、驚愕して固まる彼女と目が合う。

 

「ココらへんでショットガン持ってオドオドしてる感じの紫色の髪の子見なかった?」

「……み、見てないと思う」

「そっか、悪いな邪魔した……おっ」

 

 謝りその場を離れようとして、震える端末を取り出す。

 

 画面には、浅黄から伊草が戻ってきた旨の連絡と、伊草からも見慣れた長文の謝罪メッセージ。

 

「あ、さっきの子は見つかったわ。じゃあ、後はごゆるりと」

「ちょっと待って……今の……見た?」

 

 彼女に引き留められた俺は数舜考え、こちらを気にも留めず、寝そべったまま尻尾を揺らす猫に視線を移した。

 

「うん見た。どっちも可愛い猫ちゃんだったね」

「……からかわないで。この怖い顔に似合わないのは、自分でよく分かってる」

「いや、本心。似合わないも何も、クール系美人の猫真似なんて、ギャップで無垢な少女の心に一撃、百合一直線だぜ。やっべ、想像したら滾ってきた」

「美人って……お世辞は必要ないから」

「俺とお前に利害関係はないから、別にお世辞を言う必要は無い……と言ったらどう?」

「……そもそも、誰なの?」

 

 何とも言えない顔をした彼女は、逃げずにのんびりとしている猫に視線を戻す。

 

 何処か抱えているものが在りそうな雰囲気に、百合の種を逃すまいと俺は隣にしゃがみこんで、話しかける。

 

「山田タロウ。ここの会場の護衛をする予定の雇われ。そっちは?」

「……鬼方カヨコ。というか、関係ないのに私に構って、暇なの?」

「むしろ逆、今は君に夢中で忙しい。なんか我慢していることがあるでしょ?」

 

 僅かに両目を見開いて、此方を見つめる彼女に、キレイな笑みを浮かべる。

 

「俺、百合IQ180だから。百合に関することは、見逃さないわけ」

 

 俺の目は百合に関することであれば如何なる異常も見逃さない……。なんたって、俺は、百合IQ180だからな……。

 

 自慢げに頭側部を人差し指で叩く俺に、変人を見る目で見た鬼方は溜息を吐く。

 

「はぁ、あったとして……私があなたに話す必要あるの?」

「旅の恥は掻き捨てって言うだろ? 俺みたいな二度と会わない赤の他人にだからこそ、ぶちまけられるもの、あるんじゃないか? ちょっとは楽になるぜ」

「……まあ、どうでもいいか。別に、ただ……いろいろ縛られるのが面倒なだけ。今日だって結局そう。周りは色々煩いし──」

 

 そうして、暫く愚痴のような取り留めのない話が続いて、ふと、鬼方は口を止める。

 

「ごめん、思ったより溜まっていたみたい。確かに、少しすっきりしたかも」

「そいつは何より。俺も役に立てて良かったよ」

 

 いつの間にか、猫はいなくなっていて。

 

 役目を果たせて、満足して立ち上がる俺に、鬼方は顔を上げる。

 

「じゃ、俺もそろそろ戻るわ。ま、偶にはこうやって誰かに聞いてもらうのもいいんじゃないか? きっと、それを受け止めてくれる女の子が居る筈だぜ」

 

 その言葉に彼女は何かを言おうとして、駆けるような足音が近づいてくる。

 

「み、見つけました! その、こんなところで……あれ、この人は……?」

 

 制服に身を包んだ少女がやってきて、俺を訝しげに見る。

 

「彼はその──」

「いや〜、護衛の依頼を受けてここに来たけど、俺ってさ、可愛い子に目がないから。ナンパしようとしてわけ。もしかして邪魔しちゃった~? ごめんごめん!」

「い、いえ? あ、それで、時間が……す、すみません」

 

 立ち上がった鬼方の顔を見て、一瞬怯む。

 

「……分かったから先行ってて」

「は、はい……!」

 

 あからさまに安堵したように逃げ出す彼女を見送って、鬼方は溜息を吐く。

 

「ね、あれが普通の反応だから」

「普通ねぇ? 案外、人間の見えている範囲はごく一部の狭い世界だったりするぜ、ちょっと出てみれば普通の基準なんて、簡単に変わったりするかもな」

「口だけならなんとでも言えるでしょ。じゃあ、私は行くね。……話を聞いてくれたことは、その、ありがとう」

「お安い御用だから、お気にせず」

 

 微笑んだ俺は、去っていく鬼方を見送る。

 

 別れた俺はみんなのもとに戻った。

 

「おっそーい! センパイ、何してたの?」

「猫と戯れてた」

 

 横に並んできたムツキにそう返して、開かれた扉の前で仁王立ちする陸八魔の下に歩く。

 

「ようやくそろったわね!」

 

 かなり気合を入れている様子の彼女に、俺はニヤリと笑う。

 

「ああ、じゃあ行くか」

「は、はい! 準備万端です……!」

「くふふ、ちゃんと依頼をこなして次につなげないとね」

「ええ、もちろんよ。さあ、私立探偵部、出撃よ!」

 

 船出を祝福するような陽気に包まれた俺たちは、意気揚々と待機所から踏み出して──

 

 

 

「なるほどな、コレは浅黄が正解だったな」

 

 重装備のオートマタを引き連れ、杖を突いて立っている鼠の獣人。気を失って、その足元に倒れているのは、先ほど呼びに来た少女。

 

 そして、彼らに相対する様に拳銃を手にしたまま立っている鬼方。

 

 場所を伝えられていた陸八魔に先導されて向かった先。硝子細工と金色の装飾があしらわれた豪奢なシャンデリアの下、会談というにはあまりにも物騒な状況が広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 




 一つ前に完結させた作品の総文字数を超えました。これもまた、皆様からの温かい言葉があってのこと。この場を借りて感謝します。

【設定に関する余談】
 カヨコの所属についてはぼかしておきます。これでカヨコが名家のお嬢さんで、『縛られること』が、それこそ三条黎のようにお人形さん扱いされていたとかそういう方向だったら、ぼかした意味も無く、爆散しますが。ただ流石に、流れて着いたのが便利屋68って話だったので、転々としている途中に、ゲヘナ学園の、もしくは繋がりのある組織に所属していた可能性はあるということで、ここは許せサスケ。
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