透き通るような世界で俺がやるべき唯一のこと   作:THE TOWER XVI

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第三章 百合(リリィ)鎮魂歌(レクイエム)(ミレニアム編)
生徒会襲撃の表と裏


 往々にして、創作の中で生徒会は大きな権力を有し、学園編に突入すれば、街中のコンビニのごとく顔を出す。

 

 お紅茶片手に複雑な恋模様を映し出す、百合咲き乱れる夢の楽園であり。

 

 はたまた、学園の強者たちの集う主人公の前に立ちふさがる壁であり。

 

 主人公の華やかな日常を請け負う、青春の舞台である。

 

 学園物であれば、生徒会なしに語れない物語は多い。

 

 しかし、現実では飽く迄も雑用係の集合体で、当然実権は大人たちが握り、学校行事の企画運営が自由にできる範囲だ。

 

 夢現の狭間で生きるロマンティストには申し訳ないが、現実の生徒会にはアニメやゲームのようなイベントは存在しない──ここが我々の知る世界だったらなァ!

 

 そう、このキヴォトスにおいて生徒会というのは学園の運営の中心であり、そして学園自体の権力そのものが、一般にイメージする学園を軽く超越する。

 

 学園一つが都市に相当し、その権力は一つの国家に相当すると言って良い。

 

 国家は住民、領土、政府、外交能力で定義され、此処キヴォトスの学園は、自治区として領土と住民を持ち、生徒会が実質的な政府、そして他国と対等に接するための外交能力の基礎、軍事力を保有する。これらの学園の上にさらに連邦生徒会が存在するが、その頭に頂く『連邦』という言葉こそ、学園の国家としての性質を示す言葉だろう。

 

 一方で、生徒会というよりも政府というのが問題だ。

 

 キヴォトスの生徒会の権力は、創作物の生徒会のそれを超えていて──そして、当たり前のように、ミレニアムは非独裁的で健全な民主主義をベースとしているが故に、行政の処理は正しく、透明性を保って怠りなく実行されなければならない。

 

 本質的に、権力とは暇を弄ぶことではなく、管理という労働に従事することである。

 

 ここキヴォトスの生徒会、正確にはミレニアムサイエンススクールのセミナーは、書類仕事にリソースを圧迫されていた。

 

 当然、早瀬に連れられた俺も、キャッキャウフフの百合園とは程遠い書類の山に囲まれていた。

 

 ただ、俺が処理すればするほど、早瀬たちの時間が浮くと思えば、全力を尽くさない理由はないわけで。

 

 俺は百合を観光客気分で観に来た訳では無いのだ。

 

 そんなこんなで、偶に教えてもらいながら雑務を処理していると、隣で早瀬が端末を取り出して、数回の操作の後、顔を顰める。

 

「どうした?」

「面倒ごと。以前、廃部撤回申請を出していた部活動あったでしょ。ヴェリタスと結託して、どうやら、うちの保管庫を狙って襲撃する計画らしいの」

「襲撃? 部が生徒会を……?」

 

 想定外の言葉に思わず漏らすと、早瀬は少し笑って補足する。

 

「人が沢山いればこういう騒動もあるの。だから、自律ロボットとかで厳重にセキュリティを固めているわけだけど……」

 

 そう言いながら、丁寧に説明してくれた内容を要約すると──

 

 まず、ゲーム開発部は新たな部員を迎え定員を満たしたものの、最近規定が変更され、部活の存続に実績が必要になってしまった。

 

 そこで、早瀬はミレニアムプライズという、学園でも最大級のコンテストにゲームを出して成果を出せば問題ないと条件を示した。

 

 彼女たちはゲームを作ることになったが、そこで伝説的なゲームクリエイターが残したというG.Bibleをどこからか見つけ出し、今度はその解読をヴェリタス、ミレニアムのハッカー集団に委託したらしい。

 

 そのヴェリタスからこの前押収した『鏡』というハッキングツールがその解読に必要となり、元々鏡を取り戻したかったヴェリタスと利害が一致。ゲーム開発部は協力して鏡の奪還作戦、すなわちセミナーの襲撃を計画するに至ったとか。

 

「そこで、襲撃って選択肢が出るのがすごいな」

「純粋な子たちなんだけど、純粋だからこそ、とんでもないことを仕出かすのよ。

 先生が入れ込んでいるって話も聞くけど、流石に大人として協力してないことを願うわね。どちらにせよ、あの子たちには謹慎は覚悟してもらうわ」

 

 早瀬はそう言うと、ため息を吐いて立ち上がる。

 

「丁度、C&C……ああ、そうね、こういう事態が起きた時の鎮圧が得意なグループがセミナーの直属にあるんだけど、うちの生徒会長が動かすみたいだし、ちょっと話してくるわ。ノアにも伝えておいて。たぶんあそこにいるから」

 

 見当のつく場所だけ教えられて、去っていく早瀬に一つだけ尋ねる。

 

「その襲撃のタレコミって誰から?」

「ヴェリタスの部長よ。明星ヒマリ先輩、このミレニアム史上三人しかいない全知の称号を持つ天才ね。『鏡』を作ったのも彼女なの。

 そうね、今度時間をとってミレニアムに関することについて教えてあげる。じゃあ、ノアのこと任せたわ」

 

 そう言って出ていった扉を見つめたまま。

 

 話を頭の中で整理して、どことなく引っかかる点に頭を軽く掻く。

 

「出来すぎている……か?」

 

 ニヤニヤと、俺が独りになったのを見計らって、アルスハリヤが現れる。

 

「確かに、タイミングよく部活の存続条件が変わって、『鏡』も直前に押収されている」

 

 ふーっと紫煙を吐いて、魔人は指先で玩具の煙草を弄ぶ。

 

「まるで、何者かが、件のゲーム開発部にセミナーの襲撃を行うよう仕向けたように。そして、情報のタレコミ自体が、そのゲーム開発部を釣る餌として機能している『鏡』の製作者と来た」

「……ただ、仮に『鏡』が吊るされた人参だとして、問題は襲撃をさせて何を得たいかだ」

 

 一つは陽動。つまり、セミナー襲撃の隙に乗じて、何らかの計画を実行する。ちょうど、そのC&Cとかいう集団もセミナーの防衛に釘付けになるわけで。

 

 ただ、陽動の場合、襲撃の情報を教える必要は無いどころか、むしろしないほうが奇襲性は上がる。この疑念の前提となる、『鏡』の製作者が黒幕本人か関係者である仮定と反する。C&Cの位置の固定が目的なら、その限りではないが。

 

 もう一つは『鏡』かセミナーの保管庫の何かの奪還。しかし、それも無いだろう。わざわざ情報を漏らして難易度を上げる必要は無ければ、そもそも『鏡』がプログラムである以上、作ろうと思えばまた作れる筈だ。

 

 ……こう考えると、ヴェリタスの鏡を取り戻したいから協力する、という動機も少し怪しいな。その部長本人に頼めば済む話とも考えられ……であれば、ヴェリタスが協力するメリットは無くなる。

 

 部長と部員で断絶が大きいというのも違和感があるし、判りやすいのは、ヴェリタスの部員側も黒で、ゲーム開発部が襲撃から逸れないよう誘導しているパターン。これが黒幕視点でも一番確実だろう。

 

 どちらにしろ、ゲーム開発部にセミナーを襲撃させて、何をしたいのかが判らないが。

 

「まぁ、あれもこれも疑っても誇大妄想の迷宮入りだ。数千年と策を弄してきたプロである僕から言えるのは、往々にして世の中は偶然に満ちているということだ。

 偶々タイミングが、何者かが裏でこの襲撃事件の糸を引いているように重なっただけで、タレコミだって単なる善意、もしくは部長としての責任とも捉えられる」

「だが、たとえ1%を下回るような可能性でも、考慮しないわけにはいけない。万が一、それで百合を損なうようなことがあれば、俺は俺自身を許せない」

 

 撫でるようにして、重ねられた書類の端を整えて。

 

 キリのいいところで作業を中断した俺は立ち上がった。

 

 現状、情報が無いため、仮に陽動だとしたら、俺は後手に回る。

 

 それに、そのヴェリタスの部長の人物像を知らない俺は、その目的が果たして悪意のものなのか、善意のものなのか、それすら予想は立てられない。

 

 結局、シュレーディンガーの猫における観測者と似ていて、情報がないために、幾重にも可能性が重なり、絞れていないのだ。

 

 なんとなく、ミレニアムでは百合を拝みながら影を潜めて生活しようと思っていた。

 

 しかし、この物騒な世界では、なかなか平穏な日常を謳歌出来ないらしい。

 

「猫も杓子も情報収集だな」

 

 俺の杞憂で、偶然セミナー襲撃へともつれ込んだだけなら、別にそれで構わない。しかし、裏で糸引く何かがあるなら、護るべきものを取りこぼさない判断の為にも、把握しておくべきだ。

 

 今後の方針を固めながら、俺は早瀬に言われたように、生塩を探しに出た。

 

 

 

 

 

 アビドスの砂に塗れて年季の入った校舎とは異なる、清掃の行き届き、所々にミレニアムの科学水準の高さを窺わせる廊下を一人歩く。

 

 偶に清掃ロボットや警備用ドローンとすれ違いながら、部屋を覗いていると、建物の角、外の景色が見えるガラス張りのスペースで、山のような書類を並べて作業する彼女を見つけた。

 

 真剣に書類を仕分けている彼女は、集中しているのか、近くに来ても特に気づくことなく作業を続けていた。

 

 俺は向かいの椅子を引いて、その音に彼女が顔を上げる。

 

「あら、ヒイロさん? どうかされました?」

 

 設計図が描かれた書類をちらりと見て、机に九鬼正宗を立てかけて、腰を下ろす。

 

「今からセミナーが襲撃されるらしくて、ユウカに言われて探しに来た」

「それはまた大変ですね……でも、ユウカちゃんが動いているなら、私達に出来ることは大してなさそうです」

「まぁ、向こうはC&C?とかいう集団が守るらしいし、俺が結局ここに来たのも、護衛みたいなもんだな」

「ふふっ、では今は私の騎士(ナイト)様ってことですか?」

「今も何も、常時必要なら守るぜ、お姫様」

 

 ノアユウという百合を汚すような輩には、この命に代えても、指一本触れさせないからな……正直、彼女たちの百合力は、アビドスのユメホシと拮抗する戦闘力と言って良い。

 

 梔子先輩に抱き着かれて、口で抵抗しながら恥ずかしがっていた小鳥遊を思い出し、俺は満面の笑みで頷く。

 

 そうして頷いていると、正面の書類のこすれる音が途絶えていることに気付く。

 

 俺は目を開けて──手を止めて、こちらを見る彼女と見つめ合う。

 

 奇妙な間を挟んで、生塩は微笑むと、また作業を再開した。

 

「なんというか、臆面もなくそういわれると驚きますね」

「俺のデータによると、こういう軽口叩く奴は大抵モテない脇役だ」

「そうですか……? では、書記として、一度記録してみましょうか? ふふ、その場の思い付きですが、なかなか面白そうですね」

「データの追試にしかならなさそうだけどな」

 

 クスクスと揶揄するように言う彼女に、自信満々に答えて、先程から仕分けている書類に視線を移す。

 

「それで、さっきからしているのは……?」

「審査要請の入った特許の検討ですね。ミレニアムプライズを控えているこの時期は、全校生徒が研究に邁進するので、新しい発明特許の出願が大量に寄せられるんです。出願する特許を仕分けてまとめるのも、書記の業務の一つなので。

 本当は部室でやるべきなのですが、今日はいい天気ですし、陽当りのいい場所で仕事をするのも良いと思いまして」

「なるほどね。ちなみにさっきから話しかけちゃってるけど、大丈夫?」

「仕事ではありますが、私の好きな時間でもあるので、今は仕事中というより趣味の時間が近いかもしれませんね。そういう意味では、大丈夫ですよ」

「じゃあ、どっちにしろ悪いな。せっかくなら、この時間にミレニアムプライズのこととか色々聞こうかと思ったけど、それが終わるまでは適当に近くで暇をつぶしておくわ」

 

 俺は立ち上がろうとして、思いついたように声を上げる彼女に止まる。

 

「ああ、それでしたら、この日誌でも見ますか? それこそ、セミナーの会話なんかを書記として記録しているので。少なくともセミナーで何が行われていたかはわかるはずです。

 勿論、初めてお会いした時の、ヒイロさんがユウカちゃんと仲睦まじくしていた時の会話も記録してありますよ」

「俺が仲睦まじくしていた事実があったかはともかく、助かるけど、いいの? プライベートな物じゃないの?」

「詩のアイデアも偶に紙の上に起こしていますが、見られて困るものではないので」

 

 ニコニコとノートを差し出す彼女から受け取って、俺は腰を下ろす。

 

「そういえば先ほどの軽口も、折角なので記録しておくべきだったかもしれませんね『10時24分07秒。三条ヒイロが生塩ノアに「何時でも守るぜ、お姫様」と言い放った……』」

「いや、許して? 文面として残しちゃったら、百合の守護者としてあるまじき選択ミスをしている気がしてならないんだけど」

「冗談です。このことはお互いの心の中に留めておきましょう。思い出は明確に文字として形を得ないからこそ、時と共に移ろい自由ですから」

「その言い方も不安だけど……まあ、助かるよ。いや、これマッチポンプか……? と、取りあえず、目を通してみるから、そっちも作業に戻って良いよ?」

 

 前世(エスコ)からの癖で叩いた軽口を起点に、手のひらで遊ばれているような感覚に恐れをなした俺は、作業に戻るよう促す。

 

 しかし、流石にその拙い逸らし方は通用しなかったのか、手を止めて、こちらの顔を覗き込んできた。

 

「ふふ、気づいちゃいました。やっぱり、ヒイロさんを観察……話すのは面白いですね~」

 

 そのまま俺の顔を笑顔で見てくる彼女に、額から脂汗が滲み、手で拭う。

 

 俺の顔に何か珍しい虫でもついているのかな?

 

 なんというか……三条燈色という珍獣観察を行うにあたって、視線は蔑んで汚物を見るようなものであるべきなんだ……決して、こんな興味深いものを見るようなものではいけないんだ。

 

 望ましくない現実に震えながら、短いのか長いのかわからない時間が過ぎて。

 

 生塩の隣の仕分け済みの書類が高く積み上がった頃、突如、爆発音が聞こえた。

 

「結構ド派手だな。これは始まったか?」

「もしくは、エンジニア部の実験かもしれませんね。そろそろ、私も今日の分は終わりそうですし、後は生徒会室に戻って処理しましょうか」

 

 そう言った傍で、金属がこすれ合う音と共に、出口の通路の先に防壁が落ちる。

 

「これは……本当に襲撃みたいですね」

「え、出れなくなった……?」

「いえ、セミナーの役員なら指紋認証システムで開けることが出来るので。ちなみに、ヒイロさんの指紋も登録してあると思いますよ? セミナーへのエレベーターと同じです。ユウカちゃんに登録してもらう際に教えてもらっていないんですか?」

「……それ全部、俺の体を無許可で宿借りしている寄生虫がやりやがったから知らないんだよね」

 

 疑問符を浮かべる彼女の前で遠い目になる。

 

 そもそも、エレベーターに関しては気づかず使っていたが、当然あの指紋のデータも送る必要があるよな。

 

 つまり、あの野郎そんなことまでしていたのか。何が精々できるのはメールを送る程度だ、やりたい放題じゃねぇか。

 

 俺の自害を止めた時と言い、俺の付近で魔法を行使できるなら、端末なり使って指紋を取るぐらい簡単なのだろうが……。次見たら潰そう。

 

 アルスハリヤへの殺意を募らせている間に、机を離れた彼女が防壁の近くまで移動していた。

 

「では開けますね」

 

 そう言って生塩はパネルに指を翳して──

 

「データ不一致、未登録の指紋です」

「セカンドシャッター作動します」

 

 機械音声と共に、更に防壁が落ちる。

 

「これって……」

「閉じ込められちゃいました♪」

 

 欠片も深刻さのない軽い反応を聞きながら、システムのハッキングとは、これがミレニアム流の襲撃方法か、と俺は感嘆した。

 

 

 

 

 

 

 




 新年迎えましたし、ガントチャートもどきにちゃーんと整理したので、一話だけですが投げます。

 七椿編突入確定に歓喜しつつ、ゆりはさの一層の盛り上がりを祈願しましょう……。
 あと新年にかこつけて挨拶兼感謝の長文。
 ここすき、ありがとうね……モチベになってます。ここすき機能知らなかった人はこの小説に限らず試してみてね……本文の上で、スマホならスライド、PCならダブルクリックしたら出てくるから。なくても細々と続ける気はありますが、評価と感想含め、フィードバックがあるだけで、ほなもう少し頑張るかってなりますからね。ちょうど、一人でチョロチョロと燃料入れていたら、横から大量に流し込まれる感じです。
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