透き通るような世界で俺がやるべき唯一のこと   作:THE TOWER XVI

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携帯を買ってもらう系男子

 翌日、俺はコンパスと地図片手に、アビドス高校から遠く離れた市街地に向かっていた。

 

 起床早々に学校と周囲を探索していたものの、途中でパトロール中らしき小鳥遊と遭遇。生命の危機を感じるレベルで疑念レベルが上昇していたので、戦略的撤退を行ったわけだ。

 

「逃げ帰ったことで、あれは何かを探している不審者そのものだったね」

「好感度的にパーフェクトな対応だろ」

 

 呆れたように肩を竦めるアルスハリヤを無視して、魔導触媒器(マジックデバイス)、九鬼正宗の引き金(トリガー)を引く。

 

 現状、増えすぎた魔力のせいで、身体強化すらも脳内のイメージとのズレが生じていた。最低でも身体強化くらいは、イメージと現実の動きをすり合わせる必要があるだろう。その点では、この移動の時間はもってこいだ。

 

 魔力を込めて砂漠を歩いたり走ったりすること数十分。漸く感覚を掴んできた頃、目的の市街地に到着していた。

 

 さて、百合を鑑賞できるのは良いが……アビドスのヒモと化している現状は、早急に何とかする必要がある。

 

 地図やコンパスを布教空間(パーソナルスペース)に仕舞った俺は、手始めに道中で拾ったバイト募集のポスターに記された場所を当たることにした。

 

「『ハッピースマイルフーズ』……ここか」

 

 しかし、入口は何処だ? 扉を求めて裏側に回り──怒鳴り声。

 

 何体かの重装備のオートマタに、これまたスーツを着た小太りのオートマタ。そして、囲まれるように立っている銀髪の少女。

 

「……おい、アルスハリヤ、防御は任せた。障壁は出せるんだろう? 俺が死んだらお前も死ぬからな」

「いやはや、なんだかんだ頼ってくれて嬉しいよ、ヒイロ君。ちなみに脅しは不要さ。なぜなら僕たちは運命共同体だからね」

「黙っとけ」

 

 銃口が少女を睨めつける。

 

 中央のスーツのオートマタが優位を確信し、ディスプレイ上で口が弧を描いて──瞬間、俺は九鬼正宗の引き金(トリガー)を引いた。

 

 術式同期、魔波干渉、演算完了。

 

 導体(コンソール)、接続──『生成:魔力表層』、『変化:視神経』、『変化:筋骨格』──発動、強化投影(テネブラエ)

 

 蒼白い魔力光を曳いて、飛び出した俺は、少女の腕を掴んで後方に隠す。

 

 放たれた弾丸は全て、傾斜のかかった魔力障壁に弾かれ、あらぬ方向へと散っていった。

 

「なんだ、お前は?!」

 

 突然の闖入者に動揺するオートマタの目の前で──

 

「おいおいおい、バイトの面接に来てみたら、なんだか楽しそうなことしてるじゃねぇか?」

 

 ──原作の三条燈色のように、軽薄に、不快にさせるように、俺は笑った。

 

「俺も混ぜてよ」

 

 

 

 

 しかし、気軽に人に向かって発砲だなんて、頭がおかしい世界だな。どう考えても一人の子どもに向ける火力じゃないだろこれ。

 

 将来の百合の蕾を守れて一安心しつつ、この世界の倫理観に慄く。

 

「あら、あなたは……?」

「死にかけたとは思えない落ち着き具合だね。自己紹介の前に、これどういう状況?」

「そうですわね、性懲りもなく食を冒涜する輩を制裁していたところ──」

「違う、こっちが被害者だ! 我が社の食品工場を二度も爆破しやがって!」

 

 爆破?

 

 想定外の単語に思わず、彼女の赤い瞳を見つめる。

 

「水や廃棄予定の鶏肉を混ぜて肉の重量をかさ増しするなんて、食に対する冒涜。許せるわけがありません。ですから、生産地を探し出して木っ端微塵にしてさしあげましたの」

「何だと! そもそも我々の技術によって大幅にコストカットされ、馬鹿な消費者どもは牛肉100%と書いておけば、牛肉100%のつもりで楽しめる……ウィンウィンだ! それを貴様が……」

 

 えっ、それって普通に詐欺では?

 

「えっ、それって普通に詐欺では?」

「な、なァ!!」

「あ、ごめん。本音がつい、ぴょこっと、生来の正直者気質が、でちゃった」

「揃いも揃って、このガキ共がァ……大人を馬鹿にしやがってぇ……!

 もういい、1人増えたところで構わん! お前ら、さっさととっ捕まえろ! そのために雇ったんだぞ!」

 

 無言で、しかし命令通りに、銃を俺に向け、重装備のオートマタが動き出す。

 

 それにしても、傭兵か……金策的にはかなり良さそうだな。これを切り抜けたら、考えてみてもよさそうだ。まあ、詐欺の片棒をかつぐのはゴメンだが。

 

 って滅茶苦茶撃ってくるじゃねぇか!!

 

「ちょっと、これ、どうするつもりだったんだ?!」

 

 本来男の手で百合を汚すのは避けたいが、緊急事態故に少女を抱き上げて飛び退く。

 

 さっきから引き金が軽すぎるッ!

 

 いや、道行く人皆銃を持っていたし、手榴弾が自販機で売られていたとはいえ、気軽に人に使うかは別だろ?!

 

 人に向かって銃を撃つとか正気じゃねぇぞ! どうなってんだこの世界!!

 

「なるほど、腕の中で守られるというのも存外悪くないですわ」

「いや、状況ぉ! 撃たれてる! 殺されかけてるぅ!」

「ふふ、大袈裟ですわね。ただ、私も下手を打って、まさかこの数の傭兵を雇って待ち構えているとは思ってもいませんでした。

 さて、あなたが協力してくださるなら話は簡単ですわ。そのまま動いていてくださいます?」

 

 そう言うと、彼女は手に持っていたスナイパーライフルで、狙い、放つ。

 

 明らかに異なる。

 

 オートマタの銃撃より遥かに重い一撃が、光の尾を引いて、一発、一発とオートマタを沈めていく。

 

「見たところ火薬の化学エネルギーを超える威力だね。エネルギー保存則を離れた超常現象……まさに神秘というべきか。これは魔力障壁でも防げるか怪しい威力だぞ」

 

 アルスハリヤが愉快そうに独りごつ。

 

 やがて、その場には火花を飛ばして膝をつくオートマタと、スーツを着たオートマタが残された。

 

「あら、このままでもよろしかったのに」

「いや、お姫様抱っこは緊急時の仕様だからね。女の子と女の子でやるから尊いのであって、できることなら一生俺はしたくないからね?」

 

 俺が下ろすと、物足りなさそうに少女が言うので釘を刺しておく。

 

「さて、これで形勢逆転ですわ。食を冒涜した罪、受ける覚悟はありまして?」

「ひ、ひぃぃいい! 貴様ら、お、覚えておけぇぇえええ!!」

 

 パンツをオイルで濡らしたオートマタは、捨て台詞だけ残し、足をもつれさせながら逃げ去った。

 

「ふう、いずれにせよ助かりましたわ。そういえば自己紹介がまだでした。私は黒舘(くろだて)ハルナと申します」

「ああ、俺は……山田、山田太郎ね」

 

 爽やかな顔で俺は堂々と偽名を名乗った。

 

「……まあ今はいいですわ。このあとお時間はありまして? お礼も兼ねて協力してほしいことがあるのですが」

「それって、気になるあの子についての相談かな? なら答えはイエスだ」

「いえ、違いますわ。食事に付き合ってほしいのですわ」

「あ、そういえば俺、バイト募集で来たんだったわ。すまん、お礼は大丈夫だ。将来の百合を守るのは、俺の趣味みたいなものだからな」

 

 では、アディオス! と素早く別れようとして──導体(コンソール)が接続できないだと?!

 

 身体強化に失敗し、虚を突かれた俺は、なすがままに腕を絡めとられる。

 

 どこか妖艶な雰囲気を漂わせ、流し目で見つめられた俺はそのルビーの瞳に一瞬囚われる。

 

「先ほどお持ちになっていたポスターの『ハッピースマイルフーズ』でしたら、たった今私とあなたで成敗した輩です。そもそもポスター自体だいぶ前の物のようですが。ところで、私、お礼を抜きにしてもあなたと共にする食が気になって仕方ありませんの。これも美食の探求のため、許してくださいませ?」

 

 何処にこんな力があるんだ?! 驚愕する俺は抵抗すら許されず、引きずられていく。

 

 だが、彼女が美食を求めるように、俺もまた百合を求めているのだ。これはいわばお互いのエゴのぶつかり合い。

 

 俺は逃げさせてもらうぞ。せめて、身体強化さえできれば──空いている片手で導体(コンソール)を操作しようとし、デバイス、九鬼正宗を脇目で確認して気づく。

 

 魔力障壁、だと?

 

 導体とデバイスの物理的接触を拒むように、障壁が間に挟まっていた。

 

 驚愕に両目を見開く。

 

 なぜ、あの時、身体強化に失敗したのか。その謎が解ける。

 

 信じがたい悪意に打ち震えながら、目線を上げ──紫煙をくゆらせ、微笑む魔人(アルスハリヤ)と目が合う。

 

「すまないが、ヒイロ君。確かに昔、僕は愛とは(そこな)うものだといった。だが、今ならわかる。君が言った通り、愛とは守るべきものだ。

 人との縁は大切にするべきだぞ。君の愉快な相棒からのアドバイスだ」

「アルスハリヤァァァアアアアア!!!! てめぇぇぇええええ!!!! これは百合()に対する裏切りだぞぉぉぉおおおお!!!!」

「アッハッハッハ!! これが愛を守るということか、愛を損なうよりもよっぽど愉しいなぁ!!!」

 

 怒りに叫ぶ俺を気にするそぶりもなく、黒舘は俺を引っ張っていき、一人の百合好きの絶叫は、透き通った空へと消えていった。

 

 

 

 結局、俺が連絡手段を持っていないことが分かると、携帯まで買ってもらうことに(もちろん偽名もばれた)

 

 流石にここまでしてもらって逃げ出すわけにもいかず、そのまま空が赤く染まるまで付き合ってしまった。

 

「いや、その、助かるけど、むしろ俺のほうが貰い過ぎてないか」

「先行投資と思っていただいて構いませんわ。それに私、普段食事を共にする仲間というのもなかなかいませんので……共闘した仲間と食を共にする──美食の探求において一つ新たな境地に触れた気分です。

 ただ、あなたの心が咎めるのであれば、また付き合っていただけると嬉しいですわ、ヒイロさん」

 

 依頼することもあるかもしれませんので、そう言って彼女は去っていった。

 

 いやしかし、いいとこのお嬢様といった雰囲気で、何件か食品系列の建物を爆破したヤバイ奴とは俄かに信じがたい。人は見た目では分からないものだ。

 

 ただ、彼女が美食にこだわる姿勢は、同じように百合を求める俺には非常に好ましかった。

 

 この出会いが悪かったと言えば、彼女に失礼だろう。

 

 それに、俺たちは共闘した「仲間」だからな。別に「仲間」と二人で食べて、ショッピングしたところで何の問題もない。だって俺たちは共にそれぞれの夢を追う「仲間」なのだから!!!

 

「『あなたと食べると不思議とおいしくなってしまいますわね』……仲間の姿か、これが? すでに──」

「黙れよお前マジで、あの魔力障壁の件も許す気ねぇし許してねぇからな。魔力障壁の件がなくても殺したかったけど、あの件でお前のぶっ殺指数はストップ高、俺の脳内は空前のバブルで殺意狂乱だ」

「まあまあ、落ち着きたまえ。結果的に君は仕事に使える連絡先も顧客も手に入れたわけだ。君にたとえ怒鳴られようとも、君が誤った選択をするのを防いだ、僕の献身的で的確なサポートによるところも大きいだろう? 僕としては褒められるべき仕事をしたと胸を張りたいね」

「いや、ほんと、次こそはふざけたことぬかして俺の神聖な守護(しゅご)活動を邪魔するなよ。

 現時点でのお前との信頼関係は底を突き抜けてマイナス、むしろまだ下がるのかと俺も驚くレベルの下落っぷりだからね?」

 

 無言でニヤニヤと笑うアルスハリヤには、微塵も反省が見られない。

 

 むかつく顔面を掴み、道端のゴミ箱にシュートすると、アビドス高校への帰路に就いた。

 

 

 

 

 




 ちなみに、ゆりはさ3巻のAmazonのレビューに居る、最高すぎんだろ長文感想マンは私です(ドヤ顔420歳児師匠(アステミル)並感)
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