透き通るような世界で俺がやるべき唯一のこと   作:THE TOWER XVI

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正義の多角的視点(パースペクティブ)

「その目、自分の手を血に染めて、周りに反対されてでも、世界の為に正しいことをする、そういう覚悟の目だ。でも、百合IQ180の俺としては見逃せないんだよね。そういう、自己犠牲。丁度、ここに生まれながらの悪役がいるんだからさ、全部の罪俺にひっかぶせなよ」

 

 調月の目的に気付いた時から考えていた。

 

 これだ! これこそが、百合百景へ至る筋書き!

 

 なんて、完璧な計画だ。こんな悪役ポジ、見逃せるわけないだろ。

 

 アリスは聞き込みの結果、好感度の高い純粋な女の子、という評だった。果たして、そんな子に危害を加えようとする奴が居たとして、誰が好きになるだろうか、いや、ならない!!

 

 勿論、誰も犠牲にせずに済むのがベストだが、その選択肢を見つけた上でも、このチャンスを逃す手はない!

 

 これで一気に三条ヒイロへの好感度をマイナスまで持っていく。さらに、進んで敵になろうとしている調月を止めて、百合の可能性を護る。まさに一挙両得の作戦。

 

 早瀬の顔に泥を塗ってしまいかねないのが問題だが、そこは悪辣な三条燈色に騙されたみたいな噂を流しておけばいい。

 

「本気……? 貴方に、何のメリットがあるの……?」

「百合。俺にとって大切なものを守る為なら、俺は命も惜しくない。それで、どう? 俺なりに協力するよ」

「でも、これは……私、ミレニアムの生徒会長としての責任よ」

「合理的に考えて、ミレニアムを思うなら、冷静に最善のために動ける有能な生徒会長が残った方が良さそうだけど。別に最近入ってきたばっかりの男が追放されようが、大勢に影響は与えないさ。

 既に、責任という言葉を出した時点で、優しさのボロが出てるぜ。やっぱり、俺と違って、調月はミレニアムに必要な人間だ」

 

 先程の冷徹な雰囲気が鳴りを潜め、そこにはただ困惑がある。

 

 駄目押しとばかりに俺は畳み掛ける。

 

「それに俺は一応セミナー所属だ。駒としても動かしやすいんじゃないか?」

 

 沈黙の只中で、互いの視線が交錯し──調月が口を開く。

 

「わかったわ。受け入れるかはともかく、話してあげる。貴方は、アリスについてどの程度知っているかしら」

「取りあえず、調月が『世界を終焉に導く兵器』と呼ぶ存在であること。そして、聞いて回った様子では、純粋でちょっと変わった喋り方をする少女といったことぐらいかな。あいにく、まだ直接会えてないから、何とも言い難い」

「郊外の廃虚から、先生と共にゲーム開発部が彼女をミレニアムに連れてきたことは、知っているかしら」

「一応、先生から聞いたが……」

「あの廃墟に、ロボットの生産拠点が存在している。それも、現在の技術では解析できない、未知の技術で創られたもの……その名は『不可解な軍隊(Divi:Sion)』」

 

 淡々と、調月は続ける。

 

「彼女がミレニアムに来てから、ロボット──『無名の守護者』は廃墟外へ溢れ始めたわ。今も、C&CとAMASを使って警戒網を張ってミレニアムへ漏れ出ないよう処理しているけど……過去の文献を調べた限り、この『不可解な軍隊(Divi:Sion)』には指揮官が存在する。

 『名も無き神』を崇める無名の司祭が崇拝した『オーパーツ』であり、古の民が残した遺産『名もなき神々の王女AL-1S』」

「それが、アリスだと」

「その通りよ。まだ私の仮説にすぎないけれど、ほぼ間違いないとみているわ。彼女の名前も、ゲーム開発部がAL-1Sという文字を見て付けたのでしょう。アレは、廃墟から漏れ出た災禍。ミレニアムどころか、キヴォトスを滅ぼしかねない悪夢よ」

 

 そう言い切った彼女を見たまま、俺は息を吐く。

 

「生産拠点は破壊できないのか?」

「広大な廃虚の各地に散らばっているから見つけ出すのも困難な上、『無名の守護者』の数が多すぎるわ。それに生産が止まったところで、依然として『名もなき神々の王女AL-1S』はそのままよ。根本的にこの問題を解決するには、彼女をこの世界から消すしかない」

「そうか……」

「これは難題だね。爆弾を体に巻いた子供が突っ込んで来たとして、仮にそれが子供の意思ではないとしても、自分たちと仲間が生き残るためには撃つしかない。まぁ、この手の悲劇は存外ありふれたものだ」

 

 空中で寝そべるアルスハリヤが煙草片手に紫煙を吐く。

 

 難しいと言いながら、欠片も気にしていない雰囲気で、魔人(アルスハリヤ)はそう宣った。

 

「……それで、この話を聞いて……それでも貴方は私を……いえ、私に加担するというのかしら」

「俺は、ほんの僅かでもそこに百合を損なう可能性があるのなら、何でもやると決めている」

 

 ソファに座ったまま、下を向いた俺は己の手と床を見つめる。

 

「同時に、俺は……少なくとも自分では、俺一人で何でもかんでも救おうなんて言うつもりはない。自分の手の届く範囲ぐらい、分かってるさ」

 

 顔を上げて、調月と目を合わせる。

 

「俺には大の為に小を犠牲にすることを、間違いなんて言えないね。分岐点にトロッコが辿り着いてしまった時は、きっと俺だってそうする。

 直接話して、なおさら固まった。やっぱり、手を汚す役は俺によこせ。さっきも言ったけど、無駄に悪名を背負おうとするのは非合理的ってやつだ」

「……その言葉を持ち出されてみると、私にも意地があったようね。悪いけど、これは私のけじめだから、貴方にその役を渡すわけには行かない」

「けじめって、やっぱり、終わった後は姿を晦ます気だろ。俺が見た限りでは、調月は俺なんかが知らない危機に気付き、対策を練り、そして最善の為に自分の感情すら排せる強さを持っている……此処(ミレニアム)に必要なのは調月の方だろ」

「……」

 

 しかし、案外本人の意思が強い以上は、いかに彼女より俺が追い出されるべきか語ったところで、無駄に彼女に時間を使わせるだけで終わりそうだ。

 

 ソファから立ち上がって、俺は微笑む。

 

「まぁ、色々我儘言って付き合わせて悪かったな。今日聞いた『不可解な軍隊(Divi:Sion)』の話だけでも助かったよ。そのお礼ってわけでもないが、何時でも言ってもらえれば手伝うから。連絡先はどうせ知っているだろうし。

 取りあえず、俺は俺で足掻いてみるさ。まだ、トロッコは分岐点に辿り着いてない」

「……分岐点に辿り着く前に、対処できるうちに対処すべき場面もあるわ」

「時間があるなら、色々試すほうが合理的だったりするわけだろ? 何もしなきゃ0だからな。今すぐアリスを拘束しないのは、そういう意味だと思っていたけど」

「単に、まだ最悪のケースに備えるには、準備が足りていないだけよ」

「じゃあ、その準備がタイムリミットってことね。本当に実行するときは、俺を呼んでくれ。口約束だが、俺の目的の為に手伝うつもりだから」

 

 それだけ残して、俺は背を向けて部屋を出た。

 

 街と月の明かりに照らされる廊下を歩いていると、背後に現れる気配に立ち止まる。

 

 振り返った先には、プラチナブロンドに青い瞳。

 

 以前、この場所で剣と銃を交えた相手と目が合った。

 

「あっちは大丈夫なの?」

「夜も遅く、急を要するタスクは無いため、問題ありません。ところで、ヒイロは手伝うと言っていましたが、つまり私からの要請も可能でしょうか?」

「いや、調月が問題ないならいいけど。それこそ、ヒマリが言ってた『セーフハウス』の話とか、まだ信用不足で秘密な部分も残ってるっぽいし。流石にそこらへん飛鳥馬から教えて貰ったら問題じゃない?」

「いえ、信用なら恐らく大丈夫だと思います。先ほど一人で『彼は、私を否定しないのね……』とか零してましたし。ただ、それでもリオ様から頼ることはあまり考え辛いので」

「ナチュラルにそこら辺の独り言聞かされるの、ちょっと気まずいけど、俺からちょっかいかけまくるのも良くないだろうし……正味、飛鳥馬から言ってもらった方がいいのか……」

 

 しかし、この提案も主人を思っての行動なのだろう。これは主従百合、キマシタワー着工チャンス! やはり、俺の戦場は此処にある。何とか、さりげなくサポートイベントを発生させねば(使命感)

 

 勿論、俺は百合を無理に押し付けて作った、紛い物の百合で喜ぶ趣味は無いが……豊かな土壌を作る努力を惜しむつもりもない。ちょっと、肩を押してあげる程度のサポートでいいのだ……! 塵も積もれば百合となる……!

 

 最後は現在進行形の問題を片付けて、百合に挟まる糞男を退学にする。そして、学校を出て行く気満々の調月をこの学校に残して、百合の可能性を護ってフィナーレだ!

 

「俺は別に問題ないから、なにかあったら呼んでくれ」

「では早速、明日の午後連絡するので時間の確保をお願いします」

「オーケー。明日から俺の百合IQ180の頭脳による全力サポートを魅せてやるよ」

 

 飛鳥馬を見送った俺は、そのままシャーレに帰宅した。遅くまで作業していた先生を手伝った後、完全に生活に溶け込んだ狐坂と夜を過ごして。

 

 

 

 翌朝。

 

 俺は自称天才病弱美少女のご機嫌取りを試みていた。

 

「まさか、パートナーとしての実績のある私の誘いは断っておきながら、あの女には協力するとは、信じられませんね。ええ、とんでもない裏切りです」

「いや、やっぱり聞けるならそれぞれの話を聞かないと、な?」

「なにが、な?ですか。ミレニアムの全知たる清楚系美少女を頼らず直接あの下水女と接触したと知って、私がどれほどの衝撃を受けたとお思いですか」

 

 『世界を終焉に導く兵器』という災厄について、調月は手を汚してでもあの方法しか無いと覚悟を決めているほどだ。流石に、それほどの脅威であることは理解できる。

 

 対して、あくまでも『かわいい後輩』だとして、言ってしまえば楽観的に捉えているように見える明星の方は、一体なにを考えてるのかが当然気になる。何らかの解決策があるのなら、流石に調月に伝えない訳もなく……実際、あの密会までは協力していたのも事実。

 

 そこら辺を明らかにすべく連絡を取って、指定された場所に来てみれば、迎えてくれたのは不機嫌そうな彼女だった。

 

 自称天才ハッカーの名に劣らず、調月的には秘匿していた昨日のお話も把握していたらしい。

 

「……その、それで……ヒマリはどうするつもりなんだ」

「つーん、裏切り者と話すことはありません」

 

 子供っぽく顔をそむける彼女に思わず苦笑する。

 

「まぁ、あんな純粋な子を危険だから排除するのは間違っている、とかそういう感じだろうけど。なにか方法があるなら伝えない訳ないし。本人には直接会えてはないが、聞いた感じ世界を滅ぼすような危険な人物とは程遠い性格のようだしな」

「ええ、独りよがりの正義の為に彼女を犠牲にするだなんて、唾棄すべき行動です」

「ただ、廃虚で生産されるロボットの話を調月から聞いたが……事実、彼女が名もなき神々の王女、ロボットの指揮官であることはほぼ確かなんだろう? 廃虚にいた、AL-1Sと名乗る個体。そして、先生から聞いたが、AL-1Sか聞いてきたDivi:Sionシステムを名乗るAIがいたらしい。モモイって子のゲーム機にデータを消しながら移ったって話だったけど……不可解な軍隊そのものの名前だ」

「……あなたはあの女の肩を持つと?」

「勿論、百合の可能性を潰さずに済む可能性は常に探している。今日の午前中に、そのAIがいた所を調べようと思ってたところでさ。先生から位置情報も貰ったしな。先生のタブレットはかなり高性能らしくて、探索時の記録も残ってたらしい。それで、正直俺じゃ精々戦うまでが関の山だから、ミレニアム一の天才美少女ハッカーが協力してくれると心強いわけだ」

 

 黙ったままの明星を伺う。

 

 見つめ合っていると、気づいたように慌てて顔を逸らして、彼女は不満ですよアピールを再開する。

 

「そ、それこそ、あなたが昨日私に黙って逢引していたあの女にでも頼めばいいのではないでしょうか?」

「いや、ここはやっぱりミレニアム最高の頭脳を頼りたい。実際、ヒマリしか頼れる人がいないんだ」

 

 調月は流石に忙しそうだし、一応ユウカ達も俺よりは機械の扱いは上手いだろうが、多忙な事には変わりない。

 

「っ……そんな見え見えのお世辞には騙されませんよ! だいたい、私だけと言いながら、誰にでも言ってるんでしょう!」

「実際あの(すみれ)色の髪の少女にも言ってたからなぁ、ヒイロ君は」

 

 茶々を入れてきた魔人は、キレのある右フックで退場させた。

 

「調月は結局昨日会っただけだし、まだ頼めるほどの関係はないからさ」

「それは……確かに、その通りですね。一日や二日でどうこうなるわけありません。ええ、思えばぽっと出程度に引き裂かれるほど、やわな仲ではありませんからね。事実、ヒイロはあの女ではなく私を選んだということですから」

 

 ふと、気づいたように顎に手を当てて、明星は何かを考え始め、俺は戸惑いがちに答える。

 

「選ぶって……間違っては無いけど」

「私とヒイロの仲ですから。仕方ありません。ヒイロがあくまでも、この超天才清楚系美少女にどうしても手伝ってほしいという話であれば、引き受けて差し上げましょう」

「ああ、うん。手伝ってくれるなら助かるよ。一応、先生が言っていたDivi:Sionシステムを名乗るAIがいた場所を調べるのは、そっちにとっても無駄にはならないとは思うしな」

 

 取りあえず、色々知っていそうな協力者を引き入れられて安堵する。

 

「まあ、いけそうならロボットの生産拠点を破壊しちまうのも手だな。これでも、砂漠のデカい蛇倒してきた程度には腕には自信があるぜ」

「なるほど、先に私達で解決してしまう手もありますね。ふふっ、その方針のほうが個人的には好みです」

 

 そうして、明星が同行してくれることになり、俺達は人目を避けて郊外の廃墟へ向かった。

 

 本人曰く、こういった時はドローンを使う事が多いとか。しかし、今回は廃墟に行くいい機会だとかで、直接出向くことにしたらしい。

 

 相手がオーパーツの類なので、調べる際にドローンでは限界があるのも理由とのこと。

 

 そんなことを話しながら、辿り着いた廃墟の近く。

 

 ひび割れた舗装に、処々雑草が生えた地面の上。

 

「それで、なぜあの時のリオのメイドがここに居るのでしょうか?」

 

 若干圧を感じる声で明星が問いかけてくる。

 

 俺の隣には、昨日も顔を見ている無表情メイドがいた。

 

「午前中は廃虚探索しに行くって連絡したら、丁度いいから来るって話になって……まぁ、戦力が多い分には越したことはないだろ」

 

 俺がそう言って。

 

 武装の点検をしていた飛鳥馬が、明星へ向き直る。

 

「お久しぶりですヒマリ先輩。ヒイロに付き合わされて大変そうですね。私が身代わりになる所存なので、無理する必要はございません」

「……まあ? ヒイロと私は無敵のコンビですから? それに、あくまでも、ヒイロはミレニアムの大天才であるこの私を選んだのです。むしろ、貴方こそあの女の所に居なくて良いのですか?」

「廃墟のロボットの掃討はリオ様の指令に含まれております。それに、もともとヒイロと約束していたのは私なので」

「約束ですか……ついこの前戦った相手にも関わらず、なかなかヒイロは手が早いようで……」

 

 ジト目から逃れるように、俺は廃墟前の三角コーンと(コーンバー)の封鎖に向かって駆け出す。

 

「よーし、行くか! 先生が送ってくれた経路通りに行けば、Divi:SionシステムのAIがいた場所に行けるはずだ!」

「了解しました。コールサイン04、これより補佐します」

「ずいぶん気安そうな仲ですが、後でどんな関係か聞かせて貰いますからね!」

 

 賑やかに、俺達は人に捨てられた都市に足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

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