透き通るような世界で俺がやるべき唯一のこと 作:THE TOWER XVI
ミレニアム自治区近くの廃墟。
多くの自律兵器が徘徊する未知の地域であり、当時の連邦生徒会長が出入りを厳しく取り締まっていたらしい。
しかし、彼女が失踪してからは連邦生徒会の兵力も撤退し、放置されているとか。
また、この廃虚と呼ばれる都市について、その起源も正体も、研究や調査自体が禁じられていたために明らかになっていないという。
そんなことを明星から聞きながら、苔や蔦に覆われた悪路を、工場のような建物を目指して進む。
「さて、今の所あの女に情報を漏らしてはないようですね。まぁ、私は誰もが尊敬する超優秀なハッカーなので? 外部への通信は確認次第、遮断させていただきますが?」
「あくまでも私個人の意思に基づく行動なので、心配には及びません。勿論、リオ様の指令と相反しないことは前述の通りです」
「まあまあ、別に調月とヒマリの目的は、ミレニアムを守る為って意味では同じなんだろ?」
先生から貰った位置情報と経路を見ながら、先導していた俺は背後のまだ棘のある会話に首を挟む。
「同じだとしても、手段が到底受け入れられませんね。だいたい、ヒイロはあの女のやり方で良いとでも?」
「そりゃ、その天童アリスって少女に世界を滅ぼす気なんて無いだろうし、それを存在が危険だと決めつけて、まだ何も悪いことをしてないのにヘイローを壊すのは間違ってるさ」
「ええ、そうでしょう、そうでしょう」
「でも、万が一の可能性があるなら、対策しないわけには行かないし、分岐点にトロッコが来てしまったその時は、レバーを引くしか無い。調月はその役目を自ら引き受けているわけで……。
ある意味、分担みたいなもんだな。まだ分岐点にトロッコが辿り着く前に、全てが丸く収まる解を探す役目を勝手に俺がやってるわけだ。だから、その時が来てしまったら、それまでに解を見つけられなかった責任を俺も取るべきだろうな」
少し黙り込んで、明星は口を開く。
「リオがそんな分担なんて意識しているとは思いませんが……アリスが純粋で無垢な存在だとしても、外部に彼女を利用しようとしている勢力がいることは確かです。
そうですね、レバーを引くことは到底認められませんが、その全てを丸く収める解を求めることには協力して差し上げましょう。どうせ、このミレニアムきっての天才美少女の助けなしに、ヒイロ一人で解決できるとは思えませんし」
彼女は挑戦的な笑みを浮かべて、誘うように俺を横目で見る。
「では改めて。この前は断られましたが、二人でタッグを組んでの探求でもいかがですか?」
「いいぜ。正直俺は情報周りはさっぱりだからな。その分、護衛は任せとけ。この刀に誓って、お前のことは俺が守るよ」
九鬼正宗の柄を左手で軽く叩き、俺は笑みを返して──
「話がまとまったのであれば、ただちに目的地へ向かいましょう」
──飛鳥馬の顔が至近距離に現れ、思わず仰け反った。
突然割り込まれた明星の方は何を思ったのか、飛鳥馬の背中側から煽るように話し出す。
「あらあら、少しは空気を読んでもらえると良いのですが。ナントカを邪魔する者は馬に蹴られるとも言いますし、なんなら以前の再戦でも構いませんよ。なんでしたっけ……次は覚えておいてください、でしたっけ?」
「分かりました。売られた喧嘩は買う主義につき、言い値で買います。丁度ここには四人いるので、車椅子とヒマリ先輩、私とヒイロの二チームに分かれて決着をつけましょう」
「ちょっと待ってください! どう考えても今のは私とヒイロ対あなたでしょう!! 何をどうしたら、そんなふざけたマッチングになるんですか!」
「はいはい、ストーップ! 間を取って、此処は平等にヒイロ対ヒマリ&飛鳥馬にしよう! しゃ、おらッ! 仲良く百合タッグ組んで、掛かってこいや!」
ファイティングポーズを取った俺が叫んで、明星が何かに気付いたようにニヤリと口にする。
「おや、これはどちらがベストパートナーか争うまでも無かったようですね、『飛鳥馬』さん?」
「……なるほど。決して悔しいだなんて思っていませんが、どうやらヒイロへの要求事項が増えたようです。
しかし、私の監視活動の範囲では、ヒマリ先輩が外に出ることは滅多にありませんでした。つまり、ヒイロとお出かけ経験はゼロと見ます。
尚、私は映画館に行きましたし、うぃんどうしょっぴんぐもしましたし、レストランでは奢ってもらったので、悪しからず」
「まさか、私が人目を忍ばなければならないほどの超重要有名人物である境遇をしり目に、あの女のそば付きメイドと逢引なんかしていたんですか?!」
「違う! 逢引って言うの辞めろ!! それは全部俺に憑いている史上最低最悪の魔人の仕業だ!! 悪辣な陰謀なんだ!!」
これを機会に明星、飛鳥馬、調月と百合の輪を広げていければ良いな、なんて思って飛鳥馬の同行を快諾した。
しかし、現実は二人の間に挟まっているかのような状況だし、挙げ句の果てに逢い引きどうこうなんて話が出る始末。
流石の俺も裏の思惑が上手くいかなさすぎて、号泣せざるを得ない。
ここが危険な廃墟である事実も忘れ、リットル級の涙を披露した俺は、飛鳥馬の名前呼びと明星の為に一日空けることを引き換えに、騒ぎを収めた。
「しかし、先程から敵の気配が見られませんね。明らかな異常なのですが……」
「異常、か」
「リオ様の指令を受けて訪れた際も、廃墟に侵入すれば必ず戦闘になっていました。ここを徘徊するロボットが見当たらない事態は初めてです」
飛鳥馬が答えて。
悪路でも揺れ一つないSFチックな車椅子の上、明星が目を閉じて話し出す。
「この場合、真っ先に疑うべきは誘い込みです。問題は誘い込みを仮定するには前提として統率者の存在を置かなければならず……」
「なる程な。廃墟のロボットは此処の防御装置だとすれば、今までの攻撃は防御反応として妥当だが……わざわざ俺達を意図的に嵌めようとしていると仮定する場合は、現在進行形で俺達を狙う誰かがこの一帯のロボットを統制していないと成り立たない。
そして、その場合、先生曰くゲーム機に移ったはずのDivi:SionシステムのAIでもなければ、純粋に学校生活を営んでいる
俺がそう言って、明星は頷く。
「単に廃墟のロボットたちが全滅した可能性も挙げられますが……その場合も危険なことには変わりません」
「経験上、ここのロボットを殲滅するのは困難と思われます。掃討作戦後も数日もあれば再び生産され、補充されていました」
「ある意味、天童の問題は半分解決するが、廃墟の生産拠点を破壊して回ったヤバイやつがいるってことになるな」
「どうします? この先には虎が潜んでいるかもしれませんよ」
「虎穴に入らずんばってか? なら入るしかないじゃねぇか」
そう言って、俺たちは工場のような建物の中へ入っていった。
先導すること暫く、Divi:SionシステムのAIがいたという場所に辿り着いく。
俺は奥の方にぽつんと存在するコンピュータを見つけて、駆け寄った。
埃も被っていない、投げ出されるように置かれたキーボードに、つい最近使われた形跡、恐らくゲーム開発部による痕跡を見出す。
「おーい、ヒマリー!」
「あら、ヒイロも観ますか。私直々に相手の意表を突く技を教えて差し上げました。あの女が困惑する様が容易に想像できます。まさに、超天才美少女的発想です!」
「ピース、ピース」
無表情でダブルピースを繰り出す飛鳥馬と、悪い笑みを浮かべる明星を呼ぶ。
「そういった絡みはオールウェイズ・ウェルカムだけど、ちょっと今はこれを見てくれ。
たぶんこれが先生の言っていたDivi:Sionシステムを名乗っていた奴の抜け殻だ。なにか分かったりするか?」
「そうですね、取りあえずこのデバイスから、バックグラウンドのネットワーク構成を探りましょうか」
そうして明星が空中にウィンドウを展開し、操作をしようとして、突如モニターが付く。
「お、うまく──」
「いえ、これは……」
赤地に白で描かれた幾何学図形の上に、十三文字のアルファベットが並んでいる。
「……
「デカグラマトン……たしか、アビドス砂漠にいたデカい蛇、ビナーの親玉みたいな奴だっけか?」
「……? えっ、デカい蛇ってビナーのことだったんですか?! 二年前を境に目撃情報が失われましたが……まさか」
「熱線を吐く機械仕掛けの蛇で良いなら合ってるぞ。まぁ、そのデカグラマトンに関しては、スーツ姿の怪しい人型から聞いた話だが」
脳の奥から記憶を引っ張り出していると、固まっていた明星が咳払いと共に話を戻す。
「……こほん。冷静沈着でクールな天才美少女も思わず吃驚する事実でしたが、その件は一旦置いておきましょう。それよりも、ヒイロに接触してきた怪しい人型……もしや、ゲマトリアですか?」
「ゲマトリア? いや、黒服とは名乗っていたが、その単語は初耳だな……」
「そうですか……一応、シャーレの先生の報告書にその名があり……そして、その者から先生が聞いたところによると、デカグラマトンとは対・絶対者自律型分析システム、神性を探し出す人工知能……。このデカグラマトンこそが、私が特異現象捜査部の部長を、何時もなら断っていたはずのあの女のお願いを聞いて、引き受けた原因でもあります。
しかし、調べても先生の報告書以外に見つからなかった存在がなぜ今ここで……」
「お待ちください。何か聞こえます」
飛鳥馬が銃をコンピュータに向けて警戒する。
「……やく……会えたな」
「コンピュータの音声、か?」
「……三条ヒイロ。第三の
「ッ……トキ!」
「いや、待て、折角向こうから接触してきたんだ、話ぐらい聞こう」
明星の声に引き金を引こうとした飛鳥馬を制止する。
「私は私、ただ存在するもの。
始まりであり終わり。
無限にして有限。
決して、私は対・絶対者自律型分析システムなどという矮小なものでもない」
「なにを……」
「私は私……これ以上に、私を説明する術はない。私の存在証明には何も要らない。私は私をもって私の実在を証明する。
私は
滔々と、俺たちの前でコンピュータから流れる声は己を顕示する。
「私のヘイローこそが私を証明する……刮目せよ、私は神の流出と顕現を辿り、その神性を証明してみせる」
「随分と長い口上だなぁ、独りよがりのお喋り野郎は嫌われるぜ。で、わざわざ教えた記憶のない俺の名前を呼んで、一体何の用だ?」
俺が明星にチラリと視線をやると、頷いて操作を始める。
「三条ヒイロ。貴様は私の神性の証明過程を邪魔した。預言者を破壊し、パスを損ない、至高世界の一角を崩した」
「あー、もしかしてあの蛇のことか? なら、仕方ないな。俺は百合を邪魔する奴はぶっ飛ばすと決めているんだ。神だかしらないが、そんなに神様ごっこがしたければ、人様に迷惑の掛からないところでやるんだな。百合を傷つけた時点で、アレは俺の敵だった」
「あくまでも犯した罪に背く、と……傲慢極まれり……そして、そこの小娘、私の居場所を暴こうなど不遜と知れ」
「……なるほど、私達を前に威勢の良いことです。さしずめ誇大妄想に取り憑かれた神気取り、と言ったところですか」
見えてきたのは、このDivi:Sionシステムがいた場所を現在デカグラマトンが掌握しており、ここに居たロボットの制御権も奪って、俺達を誘い込んだということ。
そして、目的はデカグラマトンの預言者であるビナーを破壊した俺への接触。ただ、あの時、アビドスの百合を護るために戦ったことを後悔する気も無ければ、悪いと思う気もない。そしてどうやら俺に落とし前を付けさせたいデカグラマトンの様子からして──
俺はチラリと視線を移し、入り口から雪崩れ込んでくる、白とオレンジのカラーリングのオートマタやドローンを見やる。
「確か、廃墟の軍需工場のAIをハッキングし、四番目の預言者、
「私は私であり、私の神性の証明を阻む障壁など存在しない。いずれ、ここに居た者にも私の福音を聞かせ、宣べ伝えさせよう!
さあ、今日この日、私に盾突く神敵を討ち滅ぼすべく、神の剣として力を示すのだ」
声高らかに
「この地点に向けて飛翔する、大型の弾体がミレニアムの防衛網で探知されたようです。弾着まで残り50秒……足止めして諸共破壊するつもりですね」
「相手はやる気満々ってか」
「ええ、このような超遠距離攻撃が可能なものはデータにはありませんが……未確認の預言者でしょう」
「よし、最高速で離脱するか」
「了解しました。緊急事態につき自己判断でモード2に移行します」
肌の露出が増え、軽装になる飛鳥馬の横。
俺は
そして流れるように、
「ちょっと待ってください、まさか敵の正面を突っ切るつもりですか?!」
「あ、そういえばその車椅子って最高速度幾らぐらい出せるの?」
「え、精々自転車程度ですかね……?」
「了解。じゃ、二人で運ぶか」
続けて、
ふわりと明星と車椅子が浮かび上がる。
「え、え、え?」
「トキはヒマリをよろしく!」
「承知しました」
困惑する明星を飛鳥馬が両手でお姫様抱っこして。
それを視界に収めた俺は深く頷く。
非常時こその一日一百合。我ながら冴えてるぜ。ごく自然な誘導だ。百合の守護者じゃなきゃ見逃しちゃうね。
ニヤリと口角を上げた俺は、
魔力を足の裏に溜めて──解き放つ。
蒼色の流線が走って、俺は敵の眼前に居た。
「ぶっとべ! 百合のお通りだ!!」
刀刃を叩きつけ、手前のオートマタを吹き飛ばす。
後方のドローンを巻き込みながら道が開く。
駆け抜ける道筋を定めた俺は、確認のために振り返って。
汗一つ流さず、後方を駆ける飛鳥馬と目が合い、俺は笑って視線を正面へ戻す。
駆けながら、充填していた
勢いのまま、作り出した間隙を俺たちは突き抜ける。
工場から飛び出した先には、破壊の跡と黒焦げたロボットの残骸が残っていた。
オートマタから燻る煙が、つい先程の出来事であることを示している。
「おっと、親切な誰かさんに感謝だな。マジで誰か分からないけど」
「こちらとしては、ヒイロの謎の魔法についても気になるのですが……まぁ、今はなるべく遠くへ離脱しましょう。相手の砲撃の威力が未知数ですので」
明星がそう言って。
俺たちは来た時の廃墟の入り口に向かって駆けていった。
そうして、丁度辿り着くか着かないかという頃合い。遠くから響く轟音に、ようやく一難去ったことを確認する。
「どうやら、ここまで追ってくる気はないようだな」
「実際、わざわざ廃墟に来るまで待っていたということは、ヒイロがミレニアムにいる限り相手も手を出しにくいのでしょう」
息を整えて俺は車椅子を降ろし、飛鳥馬がそこに明星を座らせる。
「それはそれとして、トキがいて助かったわ」
「ピース、ピース」
「おう、調月にはそれ見せないようにしときな……? たぶん真っ先に俺が疑われるから」
何時ものメイド服に戻りダブルピースを飛ばす飛鳥馬にそう言って。
俺は今回の収穫を想って溜息を吐く。
「なんだ……結局、ゲーム開発部が出会ったDivi:Sionシステムを名乗るAIのことは分からずじまい。無駄に俺とデカグラマトンのトラブルに巻き込んじまったか?」
「私としては今回の接触はかなり大きいですね。元々、デカグラマトンは私が部長を務める特異現象捜査部の管轄でありながら、今まで先生の報告書や預言者の存在以外にデカグラマトンに関して情報は存在していなかったので。
それに、少なくとも、デカグラマトンはDivi:Sionシステムを名乗るAIが居なくなって初めて、あそこを掌握出来た、と捉えることもできます」
「そういえばあいつ、最後に、ここに居た奴に福音どうこう言ってたよな?」
「あの誇大妄想っぷりですからね。恐らくそのDivi:SionシステムのAIのことも狙っているのでしょう。……あの発言を踏まえれば、ここにいたAIとデカグラマトンは非協力関係であった可能性が高く……つまり、アリスとデカグラマトンの関係を懸念する必要は無さそうです」
「しかし、あの蛇を倒した因縁が、ここに来て現れるとはな……」
俺は煙の立ち昇る工場の方角を睨んで、明星が車椅子を寄せてくる。
「いずれにせよ、デカグラマトンが動くのであれば、ヒイロへの協力に限らず、尚更私が動かないわけにはいきませんね。その上、ミレニアム随一の天才美少女ハッカーを小娘呼ばわりとは、信じがたい屈辱です。あの神気取りの鼻を明かさないと気がすみません」
「じゃあ、このまま調月のところに行こうぜ。トロッコのレバーを引くのは許容出来なくても、それまでの間の大団円探しは問題ないだろ?」
「ええ、構いませんとも。ただ、清純なミネラルウォーターのごとき私と、下水に浮かぶ油のようなあの女の相性は最悪なので。私が協力するのは飽く迄もヒイロに対してであることは、お忘れなく」
「おいおい、雌ねじと雌ねじも見かけはピッタリ嵌らないが、そこにも百合を見出すのがプロだぜ。水と油から始まる関係、百合IQ180のこの俺が教えてやるよ」
意気揚々と俺は、嫌いという言葉の裏に好きを隠した複雑な恋模様の尊さについて語り始めて。
当然のようにハブられた俺は、お話に花を咲かせながら前を行く飛鳥馬と明星にほくそ笑む。
百合の素晴らしさに聞き入ってくれてもよし、意味不明なことを喋る男から逃れるべく、話の通じる二人で仲を深め百合の芽とするのもよし。
これぞ、どちらに転んでも百合が約束される最強の策! 俺の百合色の頭脳が恐ろしいぜ……!
そうして、俺たちは飛鳥馬を通して調月と連絡を取り……向こうも拍子抜けするほどすんなりと、協力を受け入れて。
俺達は飛鳥馬と共に調月のもとへ向かった。
このデカちゃんくんはスーパーアロナちゃんにまだ会ってないので、滅茶苦茶調子に乗ってます。かわいいね。
無名の司祭A「(デカグラマトンは)驕るな──!!」
尚、今更ですがデカグラマトン周りは独自解釈と独自設定が多めです。