透き通るような世界で俺がやるべき唯一のこと   作:THE TOWER XVI

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Key(ケイ)

 ゲーム開発部。

 

 件のセミナー襲撃事件の実行犯であり、早瀬が純粋だからこそとんでもないことをやらかすと評した存在。

 

 廃部を回避するべく、先生と共に廃墟に向かい、天童アリスを連れてきたのも彼女達だ。

 

 名前から取っているのか、それぞれ桃色と緑色を基調としたファッションに身を包んだ、金髪ショートの姉妹が才羽モモイと才羽ミドリ。人見知りなのか、目が合わず若干距離がある赤髪の娘が、部長の花岡ユズだろう。

 

 当然、今までの調査の一環でメンバーは把握していたが、向こうからすれば俺が名前を知っているのは不自然だ。

 

 セミナーの三条ヒイロならともかく、謎の百合仮面V3なら尚更。知らない風を装った俺は、軽く互いに自己紹介をしながら、通路を駆ける。

 

「その、白百合?仮面さんは、どうしてここに……?」

「美しい蕾に魔の手が迫っていると知ってね」

「わあ……」

 

 ミドリの質問にロールプレイを兼ねて答えると、モモイが未知と出会ったかのように零して、俺たちは旧部室棟から外へ出る。

 

「さてと」

 

 その場で立ち止まり──俺は身を翻して腰の九鬼正宗に手を伸ばす。

 

「お嬢さん方は先に逃げなさい。ここは私に任せるといい」

 

 デカグラマトンが無名の守護者を乗っ取ってAL-1Sを確保しに来たかと思ったが……デカグラマトンの描いた盤面だと、おそらくAL-1S自体が戦力としてカウントされている。

 

 問題は、今の状態が完全にデカグラマトンによるものなのか……それとも、利害の一致なのか。デカグラマトンでないのなら、今の彼女を動かしているものは何か……正直見当がつかない。

 

 だが、やるべき事は変わらない。俺が求めているのは曇りの無い百合であり、ここで天童を止めなければ何よりも彼女自身が傷つく結果に終わる。

 

 そう決意を改めて。

 

「百合仮面さん! 私も手伝うよ!」

「えっ、お姉ちゃん?!」

「だ、だって、助けてもらったし……何が起きてるのかなんてわかんないけど、アリスは……友達は、私たちで止めないと!」

「そう、だね。モモイの言う通りだね」

 

 モモイの言葉に、同意する様に覚悟に満ちた表情で花岡は頷き、銃を構える。

 

 いつの間にか俺の隣に三人は並んでいて、俺は降って湧いてきた百合の気配に思わず天を仰いだ。

 

「……というわけで、先生にも連絡しましたし、私達も戦い……あの?」

「いや、ごめん、ちょっと目から汗が……。

 そうだよなァ! この世界は男が居ない百合世界だもんなァ! 最近、コンビだとか水鉄砲だとか、やたらと絡んで来たのが可笑しいだけで、この世界本来の姿は美しい百合に彩られた花園だもんなァ!(感涙)」

「た、大変ですね……?」

 

 溢れる涙を腕で抑えながら咽び泣く様子に、ミドリが戸惑いがちに返して、落ち着きを取り戻した俺は居合の構えを取る。

 

 扉の先の影。

 

 無感情な紅い瞳を暗く光らせる天童が、ロボットを引き連れ静かに姿を見せた。

 

 正面で立ち止まった彼女はレールガンを構えて。

 

「未来の百合のために、ここで止めるぞ!」

「は、はい!」

「よし、いくよー!」

「……プロトコル再実行。排除します」

 

 無名の守護者たちが押し寄せる。

 

 モモイ達が銃で撃つ中、俺は足の裏に溜めていた魔力を開放し、飛び込んだ。

 

「ちょっ、百合仮面さん!?」

 

 驚く声を背に、引き金(トリガー)と共に抜刀。

 

 瞬間、強烈な魔力の閃光が手元で生じる。

 

 鍔──走る。

 

 生じた緋色をなぞって、横一文字に無名の守護者を両断して。

 

 勢いのまま、着地。

 

 地面を蹴って、大きく曲がった経路線を描くと共に、不可視の矢(ニル・アロウ)を左手で放ちながら一気にケイとの距離を詰める。

 

 間に飛び込んできたロボットを前に、左手も添えて、逆袈裟──眼前にレールガンの砲口。

 

 今まで感情を見せなかった顔が僅かに優越感に歪んで。

 

 経路線破棄、生成(クラフト)──反射壁(リフレクト・ウォール)

 

 遠回りの経路線を辿っていた不可視の矢(ニル・アロウ)が、壁で反射されて、最短距離で着弾。

 

 側面からレールガンを叩いた衝撃に、驚愕へと変わる。

 

 放たれた白はすぐ横の地面で弾け、俺は爆風に煽られ吹き飛んだ。

 

「機械みたいな喋り方をしているが、感情が無いわけではないらしい」

 

 魔人がニヤニヤと話しかけて来て。

 

 俺は空中に生成(クラフト)した魔力障壁を蹴って軌道を捻じ曲げ、ゲーム開発部の元に帰還する。

 

 銃を無名の守護者の軍勢に向けたまま、唖然とこちらを見ている彼女たちに俺は尋ねた。

 

「なぁ、天童が暴走した始めた理由とか分かったりするか?」

 

 はっと、話しかけられていることに気付いた彼女たちは顔を見合わせて、妹の方が答える。

 

「……お姉ちゃんが初心者のアリス相手にハメ技を使ったからじゃない?」

「そ、そんなわけないじゃん! それなら、以前から他のゲームでも……って、百合仮面さん、違うからね! アリスを騙して手に入れた勝利で悦に浸ってるとかないからね!!」

 

 必死に訴えかけてくるモモイに掴まれ、前後に揺さぶられていると、黙っていた花岡が躊躇しながらも口を開く。

 

「あの、その……実は、アリスちゃんの様子がおかしくなる直前に、モモイのゲーム機の画面が勝手に付いていて……おかしくなったと同時に消えていたから……も、もしかしたら、勘違いかもしれませんけど……」

 

 その言葉に、俺はゲーム機に移ったDivi:Sionシステムを名乗るAIの話を思い出す。

 

「いや、かなり有益な情報だ。そのゲーム機のデータが消えた時も、接続してないのにAIは乗り移れたんだよな」

「あっ、そうだよー! うぅ、今までの努力を消されたときの悲しみが……あのAI、残念とか言って煽ってきたし!」

 

 タイミングからして、独りでにゲーム機が起動する謎の現象と天童の暴走が無関係である可能性は低い。

 

 そして、仮にデカグラマトンのような外部の勢力の犯行だとして、天童と関係ないゲーム機に干渉する必要性は薄く……そうなると、そもそもゲーム機の中にいるAIが犯人だと考えたほうが妥当だ。

 

 その上、遠隔で乗り移れるなら、いま天童に乗り移っていたとしてもおかしくはない。何故今なのか、という疑問は生じるが……いや、それも無名の守護者やデカグラマトンと示し合わせたのなら……俺は思考を重ねて。

 

 チャージを終えたのか、土埃を割って、光の一撃が放たれる。

 

 それを掠めるように避けて、姿勢を下げて駆け出した俺は、煙の中の陰に斬りかかった。

 

 ジリジリと揺らぐ光剣(ルークス)が、盾のように構えられたレールガンに阻まれて、俺は口を開く。

 

「デカグラマトンと協力してる感じ?」

「……武装のリロードを開始します」

「その片言な感じは、やっぱデカグラマトンじゃないか。預言者ならともかく、本人なら言葉選びも違うし……自称神とはいえ、会話が出来たからなぁ〜」

 

 振り回される、それ自体が質量の暴力であるレールガンを、九鬼正宗を当てて軌道をずらしながら。

 

 ペラペラと喋って、反応を引き出そうと試みる。

 

「いやー、デカグラマトン本体とかじゃなくて俺でも勝てそうな相手でよかったぜ」

「……」

「まぁ、そこら辺のAIとかなら、デカグラマトンよりも劣っていてもしょうがないか~。昔戦った預言者ほど強くはないし、ちょっと拍子抜けだなぁ~」

 

 俺は原作の三条燈色(クズ)のように軽薄に笑って、どうやらこの言葉は癇に障ったらしい。

 

「発言の撤回を要求。あの誇大妄想野郎よりも当機の方が優秀ですし、私の王女の力を見くびるのも不快です」

 

 フィッシュフィッシュ!

 

 ゲーム機のデータを消した際に煽ってきたという話や、戦闘中に僅かに見せた様子から、こちらも煽って乗ってくれれば儲けものとは思ったが、すんなり上手くいったな。

 

「なんだ、普通に話せるじゃん。自己紹介も無いから、デカグラマトンの手下かなにかかと思ったぜ」

「勘違いしているようですが、奴のハッキングを何度も防いだ実績があります。本気を出せば、私のほうが上です」

「おいおい、さっきの機械風のセリフはもう良いのか?」

「今は不届き者を始末するほうが先です。私があの神性オナ◯ー野郎の下などという侮辱、物理的に二度と口に出来ないようにしてやります」

 

 飛び退いた彼女は俺にレールガンを再び向けて──射線から逃れようとした俺は、足を何かに取られる。

 

 無名の守護者。その触腕のようなものが絡みつき、さらに周囲から、物理的にその場に止めようと飛びかかってくる。

 

「味方諸共かよ!」

「残念。さっさと死んでください」

「させないよ!」

 

 すんでの所で、足が自由になり、ギリギリ攻撃を回避する。

 

 俺の代わりに無名の守護者達が爆発に飲まれ、バラバラになる中で。

 

 足に絡みついていた個体を破壊してくれたモモイ達が合流する。

 

「あの変なロボットはだいたい倒したよ! あと、さっきヒマリ先輩から連絡が……」

「続きは私が引き継ぎましょう」

 

 そう言って、端末越しに彼女が調べた結果が共有される。

 

「先ほどの会話からヒイロも同じ可能性に辿り着いているようですが、私のほうでも直接確認させてもらいました。ゲーム機をネットに接続してもらった上で、確認したところ、G.Bibleと共にあったはずのデータ、Keyが失われていました。そして、おそらくそのKeyが……」

「Divi:Sionシステムを名乗ったAIであり、そして今、天童を動かしている張本人」

 

 俺は乾いた唇を舐めて、ヒューと口笛を吹く。

 

「証言も、状況証拠も、見事に揃ったな」

「じゃ、じゃあ、今のアリスは、アリスじゃなくてケイってこと?!」

「ケイって、Key(キー)は鍵の英単語だよ、お姉ちゃん……」

「分かるならいいじゃん! こっちのほうが名前みたいな感じでいいかなぁと思っただけなのさ!

 って、こんなこと言ってる場合じゃない! 結局、アリスは大丈夫なの?!」

 

 モモイが叫んで、天童(Key)はその赫い無機質な瞳で彼女を見る。

 

「アリス……あなた達が私たちの『王女』を呼ぶときの名称ですか。そのような名前は不要ですし、元より存在していません。

 尚、あなた達が王女を案じる必要も無く、現在『王女』の表層人格は内部データベースの深層に隔離されています」

「ほんとうに、アリスちゃんじゃない……?」

 

 ミドリも言動の差異に悟ったのかそう零して。

 

「こうも早く推察されるとは思いませんでしたが、隠すような事でもありません。

 私の個体名は<Key>。

 王女を助ける無名の司祭たちが残した修行者であり、彼女が戴冠する王座を継ぐ『(Key)』です」

 

 彼女は着実に増え続ける無名の守護者たちを侍らせて、語る。

 

「彼女は『王女』であり、私は『(key)』。それが私たちの存在であり、目的。

 ……検索を実行。現状ではリソース不足により王座の生成は不可能と判断。よって、暫定的な緊急措置を実行します。タスクを変更。利用可能なリソースを確保……承認」

 

 周囲のロボット──不可解な軍勢(Divi:Sion)の中に、一回り巨大なサソリ型のロボットが出現する。

 

「物質の再構築……! これが、『名もなき神』の力ですね!」

「もしかしなくても、これやばいんじゃないか……!? アリスは純粋な子だとしても、ケイ(Key)はそうじゃないって話だろ?」

「ええ、そのようですね。このままでは、アリスの人格は<Key>に置き換えられ、無名の司祭が望む通り『名もなき神々の王女』──あの女の言う所の、『世界を終焉へと導く兵器』として覚醒することになりかねません」

「そんな! 早くアリスを助けないと!」

「で、でも、今のアリスちゃんは──」

「私達を前にお喋りとは余裕ですね」

 

 魔力障壁を生成(クラフト)し、飛来した光弾を阻む。

 

 しかし、サソリ型のロボットの尻尾から照射された光線に耐え切れず、砕け散って、辺りを爆炎が包んだ。

 

「うわわ! 先にロボットを何とかしないと、作戦会議すらできやしないよ!」

「作戦会議なら安心してください。この清楚系病弱美少女に策ありです」

「それをやるにしても、まずはケイを気絶なりさせて無力化するのが先だけどなッ!」

 

 青白い魔力光を曳いて飛び出した俺はケイへ距離を詰め、下から抜刀。

 

 無感情な瞳でそれを見つめていた彼女の前に無名の守護者が割り込み、光剣(ルークス)が止まる。

 

「随分忠義の厚い部下だな」

「それが彼らの存在理由であり目的ですので。そこに無駄な感情はありません」

「じゃあ、王女もお前も、コレと本質的に同じだと?」

「そうです。私たちの存在も目的も予め決まっています」

 

 何度も見た予備動作。無名の守護者が光弾を放とうとして、左足を当てて蹴り飛ばす。

 

 距離が離れるや否や、中指と人差し指を向けて、引き金(トリガー)──『操作:射出』。

 

 不可視の矢(ニル・アロウ)を直接叩き込んで、吹き飛ばす。

 

 そうしてロボットが墜落した向こう側に、既にケイの姿はなく、俺の脇を抜けて駆け出していた。

 

 周囲の無名の守護者と交戦している才羽達の元へ距離を詰める。

 

「やっべ」

「え、うわぁ! こっちを狙ってる!」

 

 驚いている才羽達を前に仁王立ちした彼女は、レールガンを向ける。

 

 慌てて地面を蹴って俺は彼女を追いかけて──視界に砲口が飛び込む。

 

 一瞬の早業。足を軸にレールガンの重量を流れるように回転の力に変えて、彼女はその砲身を俺に向けていた。

 

「まずは邪魔な男を消します」

「何時もならクラッカー片手に喜ぶけど、今は遠慮しとこうかなぁッ!」

 

 まんまと引っかかったことに気付いた俺は、咄嗟に急所をずらしつつ、腕の一本は覚悟して──

 

「おい、チビ。そこまでだ」

「!!」

「大人しく寝てろ」

 

 ──現れた影が、死角から天童の首筋を叩き、気絶させる。

 

 それを成したメイド服の上からスカジャンを着た小柄な少女は天童を受け止めて。

 

 迎撃しようとしたサソリ型のロボットは顔面に叩きつけられたサブマシンガンの連射で怯んだ。

 

 追い打ちをかけるように、側面に投げ込まれた円筒形の物体が銃撃とともに爆発。煙に飲まれたロボットが地面に沈む。

 

 天童を地面に寝かせた彼女の隣に、悠々と、拳銃片手にメガネを押さえて光らせるメイドがさらに現れた。

 

「急いで帰ってきましたが、なかなか大変なことになっているようですね」

「最近こいつらを見ないと思ったらこれだ。んで、お前ら……って見ねぇ顔も居るが……何があったんだ? 連絡があったから手の離せる奴を連れて来てみたが……辺り一面滅茶苦茶じゃねぇか」

 

 辺りを見渡した後、こちらを見定めるような佇まいには、強者の威圧感がある。

 

 彼女たちの所属を示す特徴的な服装(メイド服)から、地面に寝かされた天童へと視線を移して。

 

 位置関係を確認した俺は、改めて脳内の計画を組み替えた。

 

 

 

 

 

 

 

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