透き通るような世界で俺がやるべき唯一のこと   作:THE TOWER XVI

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少女誘拐作戦

 Cleaning&Clearing(クリーニング・アンド・クリアリング)、通称C&Cはミレニアムの生徒会直属の戦闘集団であり、トップクラスの戦闘能力を誇る実行部隊である。

 

 表向きは存在を伏せられているが、ミレニアムの生徒に知らない者は居ない。

 

 生塩から借りた会議録にも度々登場し、ミレニアムで発生したドローンの暴走騒ぎといった問題が発生すると、C&Cに鎮圧の依頼を出したりしているらしい。

 

 実際、ゲーム開発部のセミナー襲撃時にもC&Cを調月が動かしていた。

 

 ミレニアムで破壊騒ぎが起きれば駆けつけてくるのも当然だが、立場からして今回の依頼も調月の手による可能性が高い。

 

 つまり、彼女たちはこちらの味方……いや、彼女たちの目的に、アリスの回収が含まれているなら、俺の計画とコンフリクトを引き起こす……! 競合(ライバル)の可能性が否定できない以上、ここは高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応せねば……!

 

 一瞬の鎮圧劇に静まる中、俺が気を引き締めていると、何時もの調子で明星が話しかけてきた。

 

「一応、ヒイロにも説明しておきますと、彼女たちはトキと同じC&C、部長の美甘(みかも)ネルと室笠(むろかさ)アカネですね。ちなみに、ちっちゃい方が部長です」

「助かるけど、俺はヒイロじゃなくて白百合仮面V3ね」

「あぁん?! ヒマリ、テメェ、今ちっせぇって言ったか?!」

「距離からして、この通信機の音声は聞こえない筈なのですが……流石C&Cのダブルオーですね。折角なので、私も参加させてもらいましょうか」

 

 そう言って、建物の方から飛んできたドローンが空中にディスプレイを投影する。

 

 エリドゥの一室から映像を繋げた明星は驚く面々の前で微笑んで、ニコニコと笑顔のままの室笠が口を開く。

 

「あらあら、リーダーが何を言うかと思えば、やはり関わっているのですね」

「まあ、全知ですから。現状に至る経緯はある程度把握済みです。ですので、先程の疑問、『ここで何があったか』については、この一顧傾城かつ天才無比の病弱美少女が答えて──」

「単純な話よ。アリスは終焉を齎す存在で、たった今、私がこの被害を許してしまったということよ」

 

 そして明星の台詞を遮るように、カメラの前に調月が現れた。

 

「んな! これは私がヒイロの為に用意した回線ですよ! ぐぬぬぬ、くっ、これがデスクワークで無駄に育った贅肉の暴力! 清楚にして可憐な病弱美少女とは真逆の、だらしないボディのフィジカルパワー……!」

「ただのドローンだし、俺は白百合仮面V3だからね?」

 

 抵抗むなしく物理的に脇に押しやられた明星が悪口とともに抗議を飛ばし、それを無視して調月は話を続ける。

 

 ただ、ハッキングしているドローンとの接続を解除してまで邪魔する気は無いらしい。

 

「ゲーム開発部とこうして直接話すのは初めてかしら。私がセミナーの生徒会長、調月リオよ」

「せ、生徒会長!?」

「ちょ、ちょっと待ってよ! アリスが終焉を齎す存在ってどういうこと?!」

「『真実』よ。私は貴女たちにそれを教えに来た」

「か、会長まで……な、なにが起きてるの……?」

 

 茫然とする花岡をよそに、調月は淡々と語る。

 

「今、貴女たちの友人が見せた異なる姿に、疑念を抱いたのではなくて? ロボットを従え、人を攻撃し、辺りを破壊する姿に……そう、今まで友人だと思っていたものは、本当は違う存在なのかもしれない、と」

「そ、それは……でも! そうだよ! あれはアリスじゃなくて、ケイに乗っ取られてただけで!」

「ケイ……Keyのことかしら。本人の意図ではないとしても、関係ないわ。

 その少女が……少女の外見をしたソレが──未知から侵略してくる『不可解な軍隊(Divi:Sion)』の指揮官であり、『名もなき神』を信仰する無名の司祭が崇拝した『オーパーツ』であり、古の民が残した遺産──『名もなき神々の王女AL-1S』であるという『真実』は変わらない」

「な、なに言ってるんですか?! 一方的に頭の中の独自設定を話さないでください! よく、お姉ちゃんがそうだったんだから分かるんです! 勝手にアリスに設定を付与しないで!」

「ミドリ……」

「え゛、私そんな妄想話ばっかりしてないよね?」

 

 当然反発するゲーム開発部に調月は数秒目を閉じて思考すると、表現を変える。

 

「ごめんなさい。私の配慮が足りなかったわ。そうね、貴女たちの好きなゲームに例えましょう。そこで眠っている彼女、アリスは──」

「まあまあまあ、それ以上煽って憎まれ役を買って出る意味もないだろ。理解しようがしまいが、話は単純(シンプル)なんだからさ。俺たちはアリスを危険と判断して、今から連れ去る。だから、止めたい奴は追いかけるなりヨロシク!」

「んなッ! テメェ、何処から現れやがった!!」

 

 調月が話していた間に、光学迷彩(ディストーション・フィールド)で姿を隠し、静かに接近していた俺は、解除と同時に重力制御(グラビティ・バランサー)を発動し、素早く美甘の足元で寝ている天童を抱き上げる。

 

 すかさず、美甘が鎖の繋がった銃を俺の足めがけて投げて、絡めとろうとするが、それを割って入った影が弾いた。

 

 美甘は鎖を引き、銃を手元に戻して、闖入者に向ける。

 

「ナイスタイミング!」

「ピース、ピース。今か今かと出番を伺っていた甲斐がありました」

「新手か!」

「……なるほど、あなたが五人目、私たちの後輩ですね」

「そうね。理解してもらわなくても構わないわ。ヒイロはそのままアリスを連れてきて頂戴。

 美甘ネル。元々C&Cはセミナー……正確には私直属のエージェントなのだから、そのリーダーである貴女が、どちらの味方をすべきかなんて、分かっているでしょう?」

「……」

「そ、そんな、ネル先輩まで……」

「え、え? 百合仮面さんもあっち側ってこと?! 裏切り?!」

 

 動揺するゲーム開発部の前で、美甘は黙り込んで。

 

「で、でも、アリスちゃんは世界を滅ぼそうなんて……」

「これはもう感情による判断が許されるなる問題じゃないの。現に被害が出てしまった以上、彼女の存在は許されない」

「あぅ……」

 

 取り付く島もなく言い切った調月に、花岡も続く言葉が見つけられない中。

 

 黙っていた彼女が勢いよく啖呵を切った。

 

「……ふっ」

「ふ?」

「くっそ、やってられっかよ! 今までだって依頼内容を気に入ったことはあまりなかったけどよぉ、同じ学園の生徒を……それもこんなに心配している友達がいる奴の誘拐の手伝いなんてやってられっか! リオ! テメェに付き合う義理もなけりゃ、気に入らねぇから止めてやるよ」

「……アカネはどうするつもり」

「部長がこう言っていますし、申し訳ありませんが、私もゲーム開発部の皆さんの側につこうかと」

「そう……ネル、貴女はいつもそう。気分次第で命令違反するその姿、厄介なところであり……予想の範囲内でもある。トキ、現時点をもって『アビ・エシュフ(Abi-Eshuh)』の使用を許可するわ」

「宜しいので?」

「戦力の集中は基礎中の基礎よ。出し惜しみする合理性が無いわ」

「……イエス・マム。パワードスーツシステム『アビ・エシュフ』に移行します」

 

 美甘と対峙していた飛鳥馬がそう言って。

 

 宙に光が煌めく。

 

 天から地に、轟音と共に何かが堕ち──巻き上がる土埃の只中、その正体が露わになる。

 

 特徴的な三連装ガトリング砲等の武装が折り畳まれた巨大な物体。 

 

 既にその外装に手を掛けていた飛鳥馬が、淀みなく乗り込んで──変形──俺が良く知る重武装の外骨格スーツが顕現する。

 

「パワードスーツシステム『アビ・エシュフ』起動完了」

「え、あれってエリドゥ外じゃ使えなかったんじゃ」

「水鉄砲の話から認識された問題点について直談判したところ、考慮していただけました」

「通信による遅延の都合上、エリドゥ内での運用に比べ性能が二割ほど低下するけれど……元より『名もなき神々の王女』との戦闘用。ネルたちを無力化するには十分よ」

 

 思わず疑問を零した俺に、調月が補足を入れる。

 

 その十分という言葉に美甘はニヤリと好戦的な笑みを浮かべて、片手のサブマシンガンを肩に乗せた。

 

「そりゃ随分と舐められたもんだな。アカネ、行くぞ」

「ええ、後方はお任せください」

「んじゃ、喋れなくなる前にてめぇの名前を聞いてやるよッ!」

「コールサイン04、飛鳥馬トキ、今から先輩を叩きのめして、最強の名を手にするメイドです」

「言うじゃねぇか!」

 

 早速始まった戦闘から、俺は視線を外して。

 

「それじゃ、そっちに天童を連れてくわ」

「そうね、こちらで準備をしておくわ」

「ちょ、ちょっとヒイロ! この下水女の言う事を聞くなんて、私のベストパートナーとしての自覚が──」

 

 ドローンによる映像が切れて、俺はその場で固まったままのゲーム開発部に目を向ける。

 

「それで、さっきは調月の台詞を遮ったが、要するに天童は見た目が少女でも、その実世界を滅ぼす魔王ってことだ。

 たとえアリスにその気がなくても、ケイはそうじゃないみたいだしな。まぁ、気づかなくても仕方がないさ。悪い夢でも見たと思って、帰ればいい」

 

 そう俺は言って、清澄から持たされたままになっていたワイヤー射出装置を取り出して状態のチェックをして。

 

「確かに、百合仮面さんは暴走したアリスから助けてくれた恩人だけど……アリスとの思い出を、悪い夢なんて言わせないし、アリスは魔王なんかじゃない!」

 

 モモイがそう言って。

 

「お姉ちゃんの言う通りだよ。アリスちゃんは勇者で……この光の剣が、その証である『スーパーノヴァ』だから!」

 

 地面に倒れていたレールガン。

 

 人が使うことは想定されていないそれを無理やり立てて、ミドリも続く。

 

「そ、それに! ヒマリ先輩が言いかけていた策を、まだ聞いていません! あ、あるんですよね? ケイを何とかして、アリスちゃんを助ける方法が……」

 

 最期に、明星の言葉から鋭く推測を立てた花岡が尋ねる。

 

 強い意志が籠もった目に黙って背を向けた俺は、陰で口角を上げる。

 

 やはり、彼女たちならきっと友達を誘拐する悪い男を成敗してくれるに違いない!

 

 俺の百合IQ180の頭脳が導き出した名案に沿って、作戦は実に上手く運んでいる。

 

 デカグラマトンの出方が予測し辛いが、明星が自信満々に策があると言っていたのであれば、恐らくKeyという原因が明らかになった時点で、何らかの解決策に辿り着いたのだろう。

 

 調月は破壊する方向に傾いているが、一人の少女犠牲にせずに済む方法があるなら、試さない理由もない。

 

 明星が調月を説得できていることを期待しつつ、実行犯として俺がエリドゥにアリスを運ぶ。そして、ついでに三条燈色という少女誘拐犯の魔の手から救い出したという筋書きを描く事が出来れば最高だ。

 

「悪いが、俺にも俺の目的があるしな。またエリドゥで会おうぜ! そろそろ先生も来るだろうし、場所はあのタブレットで分かるだろ」

「くぅ、やっぱり仮面系お助けキャラは、直接手を貸してくれないのか……!」

「お姉ちゃん……」

 

 妙に納得する様にそう言うモモイに対し、呆れた目でミドリがそう零して。

 

「では、百合の蕾たちよ、さらばだ!」

「って、アリスは置いていけ―!」

 

 重力制御(グラビティ・バランサー)の補助を受けた俺は、ワイヤーを巻きながら建物の屋上に向かって飛び上がった。

 

 

 

 

 

「無事、件の少女も確保して概ね君の計画は順調といったところか」

 

 片手でアリスを抱えて、エリドゥ内を中央のタワーへと駆ける俺に、紫煙の上で寝転がる魔人が話しかけてくる。

 

「ただ、今の君は白百合仮面V3だろう? 態々悪役を演じる必要があったのかは疑問だね」

「はぁ〜、アルスハリヤ大先生ともあろうものが、わかってねぇなぁ〜」

 

 百合IQ180の頂に手すら掛けられずにいる哀れな魔人に、肩を竦め、余裕を持って俺は道理を説くことにした。

 

「第一に、無関係が一番の理想だ。燈色が赤の他人でいれば、そこに好感度も生まれない。何故か好感度が上がった今までの傾向を踏まえれば、接触しないことが最上となる……ここまではよろしいかな、アルスハリヤ君?」

「わかったから、その自慢げなムカつく顔面を仕舞ってくれないか?」

 

 親切に教えてやっているのに生意気な口を利く生徒に、真剣を叩き込んで指導を行い、改めて続きに戻る。

 

「現状、彼女たちゲーム開発部にとって三条燈色は見ず知らずの他人で……これが理想の関係だ。しかし、百合の守護者ともなれば、最悪の事態を想定する。つまり身バレだ。

 現実が理想通りに上手くいかないことは、夢見がちな子供ですら知っている。そこで、万一俺と謎の百合仮面が繋がったとしても、百合仮面が悪い奴として認識されていればどうだ? 燈色の好感度が上がる可能性はゼロ。まさに、俺の百合色の脳細胞が編み出した、隙を生ぜぬ二段構えの深謀遠慮ってことさ」

「百合色の脳細胞……そうか、白色化したサンゴのように、ヒイロ君の脳細胞は死滅してしまっていたのか……」

「今の俺の話、ちゃんと聞いてた? もう一回胴体と頭を織姫と彦星のようにしてやろうか?」

 

 俺は再び九鬼正宗に手をかけて──破壊音──急制動を掛けた眼前を、硝子張りのビルを突き破って現れた白色の触手が通過する。

 

 蛸のような触腕に、頭部の中心には一つ目のように光り輝く金色。

 

 装甲の上を滑り落ちる瓦礫が作る土煙の中、巨大な機械が目の前に立ちふさがった。

 

「おいおい、エリドゥでの預言者の放し飼いは禁止じゃなかったか?」

 

 ホドは答える代わりに、その瞳のような部位を光らせて──来る!

 

 腰を落として屈んだ俺の頭上を凄まじい放電と共に光が通り過ぎる。

 

 空気が焼け焦げる匂いの中、地面を蹴り斜め前に飛び出した俺は、中指と人差し指で経路線(レール)を描いた。

 

 左腕に天童を抱えたまま、空いた右手で不可視の矢(ニル・アロウ)を放とうとして。

 

 円錐形の弾頭。

 

 強化された眼球が、ホドの頭側面に噴煙を曳いて突っ込む物体を視認する。

 

 猛スピードで激突したそれは着弾と同時に爆発し、揺らぐように傾くホドを爆炎が包んだ。

 

「うふふっ、あなた様のワカモ、ここに参上しました。あなた様の道を塞ぐものは全て、お望みのままに私が壊して見せましょう」

 

 ロケットランチャーを手品のように仕舞いながら、軽やかに狐面の少女が降りてきて。

 

 俺はそれが見知った相手だと気づいて笑った。

 

 初めて出会った時、本来連邦生徒会の極一部にしか知らされていないであろう情報を嗅ぎ付けていた時もそうだ。

 

 相変わらずどこで情報を集めてくるのかは知らないが……天童を抱えたままデカグラマトンの預言者を相手するのも難しく、ここで暫くホドの気を引いてくれるだけで大助かりだ。

 

「かなり助かるけど、任せても大丈夫か?」

「勿論ですとも……! 私を必要としてくださるあなた様のためであれば、この身も心も──」

「ヒイロ! あの女のロボットがホドに逃げられたようですが、そちらに来ていますか? 位置情報からして、動きが止まっていますし、この天才美少女の勘が騒いでいますからね!」

 

 そこに明星からの連絡が入って、狐坂の言葉が遮られる。

 

「ふふふ……」

「あ、うん。今目の前にホドがいるけど、丁度心強い助っ人が来たから」

「ええ、万事私にお任せください」

 

 狐坂はすっと体と顔を寄せて、耳元のデバイスに聞こえるように続ける。

 

「身を尽くして支えるのは私の務め。何処の誰とも知りませんが、ご安心を。それと、これももう不要でしょう」

「何処の誰とも知らない!? そちらこそ誰かは知りませんが、ミレニアムの名コンビの間に割って入ったと思えば、その発言、聞き捨てなりませんね! 私は──」

 

 そして、明星の自己紹介も聞かないまま、通信機を素早く掠め取ると、少しの間手元で眺めて。

 

 興味を失ったように視線を外すと、背後、混乱から復帰し再び頭を出したホドへ通信機を放り投げる。

 

「仮面の方も、あの白猫に私から返しておきます。では、あなた様、ご武運を」

 

 続けて流れるように狐坂はドミノマスクも回収すると、俺に背を向けた。

 

「ま、まあ、足止めは少しの間だけで十分だから、無理はしなくていいからな?」

「ああ……頼っていただけるだけではなく、この身も案じていただけるとは……私は幸せ者です♡」

 

 体を震わせ熱に浮かされるようにそう言うと、愛銃を手に取り、ホドの顔面に銃弾を浴びせて攪乱を開始する。

 

 触手のような腕で鬱陶しそうにそれを払いのけるホドの横、注意が彼女に向いている間に俺は中央タワーに向かって駆けて行った。

 

 

 

 

 

 

 

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