透き通るような世界で俺がやるべき唯一のこと 作:THE TOWER XVI
「三条ヒイロ、私だ」
「……」
無言で端末をポケットにしまう。
無視して作業を続けようとして。
「アッツゥゥゥウウウ!!!」
急速に発熱する端末に火傷しかけた俺は、端末を投げ出して叫ぶ。
「テメェ、何してくれとんじゃ、コラァ!」
「三条ヒイロ、私だ。神だ」
「オレオレ詐欺通り越して神を名乗れる自己肯定感、そこだけは本当にお前凄いと思うよ」
「図らずも私の神性の証明となったわけか」
「無敵か……?」
昼過ぎのシャーレのオフィス。
連邦生徒会に呼び出された先生の代わりに、俺は一人でも処理できる書類を捌いていた。
そんな中、電話口に登場したのはつい最近戦った自称神こと
「で、神が何用?」
「三条ヒイロ、私は貴様の不可解な術を知る必要がある」
「神だから?」
「ほう、神の意図を察するとは、褒めて遣わそう。貴様を私の使徒に──」
「いや、それはいいや」
「不敬な……。まあ良い。神は寛容にして慈悲深い。例え相対する者が如何に惨めな存在であろうと、神だけは愛そうではないか」
「……(キ○ガイを見る目)」
やけに馴れ馴れしい自称神は、そもそも人の心という概念を知らないのか、俺の胡乱なジト目も気に掛けず話を進める。
「あらゆる機械を意のままに動かせる私も、未だ福音の及ばぬ範囲が在る。生命然り、貴様が持つその『剣』然り」
そこで区切ったデカグラマトンは、囁く。
「三条ヒイロ、
「はい、お疲れ様です」
端末を放置したまま、俺は作業に戻った。
「ま、待て!! 確か貴様は『百合』が好きなのだろうッ?!」
自称神のくせに、慌てたようにデカグラマトンが叫ぶ。
「おいおい、百合を壊そうとしてたやつが今更なんだぁ? お前如きが軽々しく百合を──」
「三条ヒイロ。絶対的存在である私にとって、この世界の機械の掌握など児戯に等しい」
「……それで?」
「つまり、私の手に掛かれば、貴様が言う『尊い』瞬間なるものを記録することは容易い。情報の収集も同様だ。この情報化社会において、如何なる存在も
確信を持って宣言するデカグラマトンに、俺は疑りながら口を開く。
「じゃあ例えば……この場に居ない先生が今何をしているのか、お前なら分かるのか?」
「ああ、当然だ。シャーレの先生であれば……しばし待て……連邦生徒会に提出した報告書の不備について詰められた後、現在は公園でデモ活動を行う生徒の鎮圧に向っているようだな」
後半の真偽を確かめる術はないが、少なくとも前半の内容は、連邦生徒会に呼び出された事実と合致する。
「私を人の尺度で測らぬことだ。先のような情報収集程度、さらに
「……話を聞こうか、『神』よ」
「ふっ、どうやら貴様も私の神性を理解したようだな。対価さえ払えば、神が直々に貴様の目的に手を貸してやろう。そうだな……先ずは、貴様が恐れているビーチの対処だ」
それこそハッキングで盗み見たのか、俺の目下の課題を言い当てたデカグラマトンは語る。
「私の手に掛かれば、インターネットを制御し、風説の流布及び、企業の誘導、混乱の誘発によるビーチの閉鎖すらも可能。果ては、
デカグラマトンは自慢げに己の能力を誇示する。
「でも、トキが楽しみにしているし、ビーチを閉鎖したら悲しませることになるんだわ」
「三条ヒイロ、世の中はパレート解然り、白と黒ではなく視座と程度の問題だ。
例えば、ビーチでの催しは実行しつつ、貴様が物理的に参加できないと納得出来る状況を再現すれば、小娘も『来たがっていたが来られない以上は仕方がない。それはそれとして皆と遊べて楽しかった』となる筈だ」
デカグラマトンは、淡々と作戦について述べる。
「ここで、飽く迄も来られない事情があることが肝要だ。仕方がないとなれば精神的な負荷も軽い。その上で小娘と周囲との接触を確保し続ければ、自然と接触の薄い貴様の存在は消える。
所詮は特殊な環境下に於いて貴様しか相手が居なかっただけのこと。なれば、他者との思い出で上書きするだけだ」
「お、お前……」
驚愕に両目を見開いた俺は、呟く。
「……神か?」
「初めからそう言っている。私が『
神々しく輝いて見える端末を掲げながら、俺は感謝の信仰を捧げる。
そうして俺とデカグラマトンが盛り上がっていると、見かねたのか魔人が割って入ってきた。
「おいおい、ヒイロ君! 君には唯一無二の相棒である僕が居るだろう!? AIだか自称神だかよく解らない存在の甘言に惑わされるんじゃない!」
「悪いな、魔人」
満面の笑みで、俺はアルスハリヤに告げる。
「俺はこれからは神と組む。絶望する俺を助けるどころか、嘲笑した外道なんて、
俺が魔人に対して首を切るジェスチャーを繰り出していると、デカグラマトンが指摘する。
「ここ数日、貴様の行動履歴を分析していたが……計算の結果、貴様が幻覚の類の精神疾患を抱えている確率は低い。むしろ、不可解な術を踏まえた上で、貴様だけに見える何らかの存在が居ると私は推定している」
「ま、マジか……!」
何だかんだ奇行として処理されてきた俺の行動を、初めて正確に捉えたデカグラマトンに、俺とアルスハリヤは驚愕する。
「視線の具体性、統計的に想定される不可視存在の一貫した人格属性……何より、三条ヒイロ、貴様の端末に存在する活動履歴は貴様一人の存在では説明がつかない」
「それはそれとして、俺のプライバシーゼロだね。既に魔人に憑かれているし、お前に見られて困るものもないからいいけど。って、待て。もしかして、神ならアルスハリヤの悪行を白日の下に晒すことが出来る……?」
「ちなみにその存在の呼称が、『アルスハリヤ』、『魔人』、その他雑多な罵倒であることは把握済みだ」
さすがはミレニアムの技術を結集した
強力な助っ人に、俺は希望を見出して。
「さて、三条ヒイロ。答えを聞かせて貰おう」
「そりゃあ、お前……」
俺は、ニヤリと口端を曲げる。
「今なら百合の女神以外にも、感涙に咽ながら信仰を捧げられる気がするぜ!」
「これぞまさに私の神性の証明……! では、交渉成立だ。神は寛大故に、敬虔なる一般信者第一号である三条ヒイロには、先払いで願いを叶えて差し上げよう!!」
「うぉぉぉおおおお!!! 神、すげぇぇぇぇえええええ!!! 信仰しちゃぁぁぁううう!!」
「やはり信仰心に免じて、今回は対価も必要ない。存分に私の神性を目撃するが良い!」
「おい、こいつ、目的を見失っているぞ」
発言権のない役立たずの
当日。
さざめく波の音と、潮の匂い。
蒼穹の下に広がる、果てのない碧と白い砂のコントラスト。
「きゃっ! 何するの! そっちがその気なら、こうよ!」
「あはは、ちょっと、やめてって、あははは」
最高だ。
「おいおい、そこのお嬢さん方よ! てめーら、このビーチが誰のシマか……ぐぼぁ!」
「姉御ぉ!!」
「あれ、どうしたんだろう……?」
「私たちに話しかけてきたのかと思ったけど、違ったのかな?」
それは何人たりとも犯してはならない聖域であり、百合を邪魔する者は、不良も俺も、排除されてしかるべきだ。
待ち合わせの一時間ほど前に現着した俺は、キャッキャウフフの天然百合をウォッチングしながら目的地を目指していた。
本来の集合場所から離れた、監視しつつ潜伏可能な場所にたどり着き、魔人がスポーンする。
「ヒーロ君。今日は流石の僕もおふざけなしだ」
いつになく真剣な表情で、アルスハリヤは宣言する。
「どうやら、君はあの神気取りの異常者に僕が劣ると考えているようだが……そんなことは、あり得ない。断じてだ。
今日、僕が如何にあの神気取りより優秀か示し、僕の傑出した頭脳を証明しよう」
「悪いけど、お前の評価、プレート突き抜けてマントル到達してるから。まぁ、でも、本当に役に立った時は認めてやるよ」
「ああ、それでいい。真の実力者は、舌ではなく結果でもって語るものだからな……」
キメ顔の魔人が紫煙と共に消えて。
入れ替わるように小型のドローンが現れた。
「さあ、この日が来たな」
いつもの黄色と白の塗装ではなく、変哲のない白単色の機体。
人間のような目が一つ付いたそれは、瞳に該当する光学レンズを動かして俺を視る。
あの騒動で解析が進んだ『名もなき神』の技術も取り入れ、態々俺との連絡のために用意したらしい。
「三条ヒイロ、手筈通りカイザーPMCの指揮系統を掌握した。アビドス砂漠から輸送中の部隊も、予定の時刻には到着するだろう。計画を実行するためのリソース量としては十分だ。計算によると、第一段階の成功確率は
「流石は、神ィだぁ!」
「私の神性をもってすればこの程度造作もない。だが、第三段階からは貴様の動きも関わる」
「おいおい、神の手に余るってか」
「まさか。貴様の前に居るのは、無限の思考領域を持つ『絶対的存在』だ。貴様はただ私を崇め、手筈通りに動けば良い。既にあらゆる可能性が
デカグラマトンがそう言うと、大型のドローンがコンテナを運んでくる。
投下され開いた中の外骨格スーツ、
当然、これは俺が俺だとバレないための装備。全身フルアーマーかつ声も加工済み。バレる要素が無い。
俺とデカグラマトンの渾身の策を、魔人は散々『ミルフィーユ作戦』のパクリだの煽ってきたが……装備からしてこの質の高さ。魔人のアホな作戦とは、まさにレベチ……! 失敗する気がしないぜ……!
心の中で頷いていると、デカグラマトンが直接スーツに接続したのか、よりクリアな合成音声が耳元で響いた。
「問題ないな。神ゆえに当然であるが」
「なんだか、アレだな。所謂、人型ロボとサポートAIみたいな感じだな……。
まあでも、ロボというと百合からは離れているように見えて、その実、ロボと少女という組み合わせは定番だからな。当然そこに百合の要素が加わることだって──」
「今回の重要なタスクは二つだ」
百合談議に移行しようとした俺を遮って、デカグラマトンは作戦の確認を続行する。
「一つ、兵器の暴走に巻き込まれ、三条ヒイロがビーチに行けるような状態では無くなったという情報を掴ませること。
二つ、ビーチに襲来する部隊によって演出する危機を貴様が扮するオートマタ、黒百合騎士が救い、貴様の不在を吹き飛ばすような出会いを印象付けること」
「オーケー、了解した。手筈通り、参加者の情報統制は出来ているんだろうな?」
「私を誰と心得る。テレビやインターネットを含む、想定される全ての情報経路を確保した。既に撒いた情報、撒き餌も展開済みだ」
「じゃあ、後はあいつらが集合するのを待って、そこにタイミングよくカイザーPMCの部隊を突っ込ませるだけか」
「ゴリアテと呼称される大型の人型兵器も拝借した。狙い通りの窮地を演出するために丁度良いだろう。ケセドに生産させた装備も接続し、演出の
「流石は神……! あの魔人と比べるのもおこがましい程、安心感がパネェぜ!!」
「私が成し歩む全てが、私の神性の証明……その感覚は当然の帰結と言えるが、信仰を拒みはしない」
まんざらでもないデカグラマトンを、いつものように俺は褒め称える。
その後、九鬼正宗の代わりに用意してくれた電磁ブレード等の装備を確認して。
「……そういえば、勝手にカイザーPMCの戦力を拝借してるけど、大丈夫なのか?」
「現在進行形で騒ぎになり、信用の低下を招いているようだが……なにか不利益でもあるのか?」
気が利くデカグラマトンが、『カイザー暴走?! 事態未だ収拾ならず!!』と銘打たれた報道ライブを端に表示してくれる。
「まあいいか。あそこ、傭兵時代から知ってるけど基本屑だし」
「そもそも私からすれば有象無象に過ぎない。それよりも、空いた時間を用いて作戦の詳細を再確認するぞ」
余った時間を使って、デカグラマトンと俺は想定される事態ごとの対応策を復習する。
暫くして集合場所にゲーム開発部の四人が現れ、明星と初めて見るピンク髪の娘、恐らく連れてくると言っていた和泉元エイミも合流した。
最後に調月と飛鳥馬が到着して、舞台に役者が
「じゃあ、手筈通り頼んだぜ」
「ああ、今
俺とデカグラマトン、かつて互いに譲れぬものを抱いて対立した仲だが……今日この日は、共に輝かしい百合色の未来を掴むために、
カイザーグループ「謎のハッキングに手も足も出ない?! ふざけるな! 我々はキヴォトスに名だたるカイザーグループだぞ!!」
デカグラマトン「預言者一体にも及ばぬ蠅が囀るな。貴様の前に居るのは、ミレニアムの
この世界線で最も独自解釈と独自設定の犠牲になってるデカちゃん君。大部分を個人的なイメージで補完してます。でもスーパーアロナちゃんのくしゃみ喰らった時のあの無様な悲鳴からして、まあまあ愉快なキャラだと信じてます。独自解釈の枠を出ないですが。
デカグラマトン編追加来たら、なんかデカちゃん君のより詳細な目的(夢)とか明かされそうな気もする。矛盾した時は、ここのキヴォトスのデカちゃん君は本編とは別のデカちゃん君亜種ってことで許してください。